第665話 あと10時間ぐらいリーアムを独占したい

 ガルフが<賢者ワイズマン>を会得した翌日、リーアムとニンジャは多摩センターダンジョン7階に来ていた。


 前回のMOF-1グランプリで集中力や耐久力といった課題を見つけ、鍛え直す意味でここ最近はずっとブラドが管理する多摩センターダンジョンに来ているのだ。


 自分の従魔が管理するダンジョンで鍛えれば自由に調整ができるけれど、それは追い込むには不向きでもある。


 自分達のコントロールできない環境下で余裕に戦えるようになれば、集中力や耐久力は伸びているに違いない。


 そのような考えで敢えて多摩センターダンジョンに挑んでいる。


 藍大もブラドも多摩センターダンジョンに強者が来ることを拒んでいない。


 むしろ、強者の方がまとまったDPを落としてくれるからもっと来てほしいとすら思っている。


「ニンジャ、MOF-1グランプリまで1週間を切った。昨日はガルフが喋れるようになってライバルのアピールポイントが増えたけど、僕達は僕達の準備を続けよう」


「プゥ」


 リーアムがそう言うならわかったとニンジャは頷く。


 そして、決められた通りに雑魚モブモンスターのジェネラルホースとドルイドホースをどんどん倒していく。


 フロア内の雑魚モブモンスターが見当たらなくなると、今度は”掃除屋”のアリオンが現れる。


「プゥ」


 短く鳴いた次の瞬間には<創闇武装ダークアームズ>で創り上げた闇の忍者刀でアリオンの首を背後から斬り落とした。


「お見事」


「プゥ」


 アリオンを倒したニンジャは周囲に敵がいないことを確認し、リーアムにル〇ンダイブ並みの勢いで飛びついた。


 リーアムに自分を受けてもらうや否や、ニンジャは顎の下をリーアムに擦り付けてマーキングする。


「よしよし。ここまで余裕で狩れるなんてやるじゃないか」


「プゥ♪」


 もっと褒めてくれても良いんだからねと言わんばかりにニンジャがリーアムに甘えた。


 リーアムはニンジャを落ち着かせて彼女にアリオンの魔石を与える。


 MOF-1グランプリの準備期間に入ってからというもの、リーアムが自分の成長にリソースを割いてくれることが嬉しく、ニンジャはずっとMOF-1グランプリの準備期間だったら良いのにと思っていたりする。


 それでも、覚めない夢がないように夢のような時間には終わりが来ることを知っているから、ニンジャは甘えられる時に甘えられるだけ甘えている。


 その後、リーアムとニンジャはフロアボスのディオメデホースに遭遇した。


「何度見てもデカいなぁ」


「プゥ・・・」


 ニンジャは馬肉の分際で自分とリーアムを見下しやがってとガンを飛ばしている。


「ビビィィィィィン!」


 ニンジャの視線が気に入らなかったようで、ディオメデホースは大地を揺らすように叫びながらその場で暴れた。


 それだけで7階で地震が起きてしまう。


「おっと」


「プゥ!?」


 リーアムがバランスを崩してしゃがんだことに気づき、ニンジャはのんびりしていたらリーアムが攻撃されてしまうと判断して攻撃を仕掛け始める。


 <創闇武装ダークアームズ>で闇の忍者刀を2本創り出し、<無音移動サイレントムーブ>と<霧支配ミストイズマイン>をうまく組み合わせて霧の中でガンガンダメージを与えていく。


 ディオメデホースは自分の周囲をちょこまかと動くニンジャを攻撃しようとしては失敗し、逆にニンジャは一方的に攻撃して私TUEEE状態を楽しんでいた。


「プゥ!」


 仕上げだと言わんばかりにディオメデホースの首を斬り落とせば、7階に生存する敵モンスターは1体もいなくなった。


 全てのアビリティを解除した後、ニンジャはリーアムに飛びついて甘えるのを忘れない。


「ナイスファイト! 流石はニンジャ!」


「プゥ♪」


 もっと褒めても良いのよと言わんばかりのドヤ顔を披露し、ニンジャはリーアムに満足するまでモフモフしてもらった。


 それから解体を済ませ、リーアムは魔石をニンジャに渡してからステータスを調べるべくビースト図鑑を開いた。



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名前:ニンジャ 種族:バニンジャ

性別:雌 Lv:100

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HP:1,800/1,800

MP:1,200/2,400

STR:1,800

VIT:1,800

DEX:2,400(+600)

AGI:2,400(+600)

INT:2,100

LUK:1,800

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称号:リーアムの従魔

   暗殺者

   英雄

二つ名:プリンスモッフルの懐刀

アビリティ:<霧支配ミストイズマイン><創闇武装ダークアームズ><武器精通ウエポンマスタリー

      <剛力斬撃メガトンスラッシュ><暗黒沼ダークネススワンプ><敵意押付ヘイトフォース

      <無音移動サイレントムーブ><三重跳躍トリプルジャンプ

装備:なし

備考:あと10時間ぐらいリーアムを独占したい

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 10分ではなく10時間独占したいと思っているあたり、やはりニンジャのリーアムに対する独占欲は強い。


 そんなニンジャでも”嫉妬の女帝”を得られずにいるのだから世の中わからないものである。


 それはさておき、これで今日の特訓が終わったと思ったら大間違いだ。


「よし、ニンジャが疲れてる今だからこそ追い込もうか。まずは反復横跳びからだ」


「プゥ」


 ニンジャは前回のMOF-1グランプリで行われたスポーツテストで疲れた後の集中力の低下が著しかった。


 それを克服するべく、リーアムは疲れた状態のニンジャにスポーツテストの5種目を順番にやらせるメニューをここ2週間ずっと続けている。


 反復横跳びはニンジャの得意種目だから、疲れていても20秒間に160回とMOF-1グランプリでの公式記録を5回も上回る結果を残せた。


「OK、良い子だ。次は500m走だね。少し休憩したら始めるよ」


「プゥ♪」


 休憩と聞いてニンジャはリーアムに飛びついてから甘える。


 ニンジャにとってリーアムにモフモフしてもらえることはご褒美であり、リーアムと触れ合っているだけで疲れが吹き飛ぶような気がするのだ。


 それゆえ、リーアムはニンジャがリフレッシュして500m走に挑めるように甘やかした。


 リルがいない以上、敵はガルフだけだとリーアムもニンジャも思っているから、500m走ではガルフの素早さを超えられるように切り返しを工夫して前回の公式記録よりも3秒短くできた。


「ここまでは順調だね。次は玉入れだ。疲れた時に集中力を切らさないように頑張れ」


「プゥ」


 ニンジャはわかったと頷いた。


 玉入れはニンジャが集中力を切らしてしまい、前回は31個で惜しくも1点のボーダーラインを超えられずに終わった。


 だが、今のニンジャは違う。


 特訓によって集中力が強化されたニンジャは平均60個まで籠に玉を入れられるようになっていた。


 66個以上で2点になることを考えれば、後もう少しで安定して2点獲得できるところまで仕上げて来た訳だ。


 これはかなりの努力が必要だったに違いない。


 ちなみに、今日の練習では67個の玉が籠に入っており、この調子で本番を迎えられれば2点ゲットである。


「良いね! すごく良い!」


「プゥ♪」


 苦手種目で好成績を残せた高揚感からリーアムとニンジャはハイタッチした。


 少し休憩した後、ニンジャはソードやタンクと押し相撲の模擬戦をして勝利を収め、いよいよ最終種目の的当ての練習に移る。


 ニンジャは投げるのに慣れている闇の手裏剣を使い、10m~80mまで確実に手裏剣を的に当てていった。


 この時点で前回のMOF-1グランプリの記録を超えており、より一層集中しなければならない90mのサドンデスに挑む。


 リーアムやソード達従魔組が様々な手法でニンジャの集中を乱そうとするが、ニンジャはどうにか6回まで外さずに的に当て続けることができた。


「ニンジャ、おめでとう! 新記録じゃないか!」


「プゥ♡」


 ニンジャはリーアムが抱き締めてくれたのでとても嬉しそうに鳴いた。


 自分から抱き着くのも良いけれど、リーアムに抱き締めてもらえる方が愛されてる感じがして幸せな気分になるらしい。


 スポーツテストの一通りの特訓を終えてニンジャをたっぷりと労った後、リーアム達は帰宅した。


 各種馬肉のお土産で赤星家の馬肉のストックはどんどん増えていく一方だが、従魔達が美味しく食べるので全く問題なかった。

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