第664話 それは困る! あっ!?

 藍大が自宅で家族とMOF-1グランプリについて話していた頃、真奈はガルフ達従魔を連れて町田ダンジョンの最上階にあるチュチュの部屋に来ていた。


「いよいよ来週はMOF-1グランプリね。ガルフ、最後まで油断せず仕上げていくわよ」


「アォン」


 短く吠えて応じるガルフはやる気に満ちた表情をしている。


 前回のMOF-1グランプリは準優勝で終わってしまったため、第2回MOF-1グランプリではなんとしても優勝を狙いたいと表情が物語っていた。


 そんなガルフを見てメルメやロック、チュチュ、ニャンシーは緩い感じで応援する。


 何故緩いかと言えば、折角真奈からモフモフされる割合の大半を占めてくれているガルフがいるのだから、下手に気合を入れて応援して真奈にそれを見られるのは避けたいようだ。


 真奈が気合を入れて応援する自分を見て、実は自分もMOF-1グランプリに出たかったと勘違いされてモフられるのは嫌なのである。


 ガルフにはこれからもモフばしらになってもらわねば困る。


 これがガルフ以外のモフモフ従魔達の共通見解だった。


 それはさておき、真奈は前回のMOF-1グランプリの内容の復習と今回のMOF-1グランプリの対策を進める。


「ガルフ、まずはクイズから始めよう。問題ね。”大災厄”バティンに殺されたA国のDMU本部長のフルネームは何?」


 ガルフは真奈が言い終えた直後にはペンを咥えてホワイトボードにパトリック=ディランと書いていた。


 それを見て真奈がにっこりと笑いながら頷く。


「正解! 続けるよ。物理学の問題ね。浮力の公式を教えて」


 この問題も真奈が言い終えた時、ガルフは前問の答えを消してからすいすいとペンを動かして回答した。


 ホワイトボードにはF=ρVgと書かれており、真奈はその答えを見てサムズアップする。


「良い調子! 連続正解! 次の問題は今まででリル君が逢魔さんのベッドに潜り込んだ回数!」


「アォン?」


 問題の難易度が急に上がっただけでなく、それは真奈が知りたいだけではないかと思ってガルフが首を傾げた。


「ガルフ、どうして首を傾げてるの? もしかしてガルフにはわからない?」


「アォン」


 ガルフは知らないので頷いた。


 なんでそんな回数を問題に出すと思っているのかと真奈にジト目を向けてすらいる。


「寂しくなって週1で入ってるのかなぁ? それとも案外毎日こっそり入ってるとか? リル君がベッドに潜り込んで来たら幸せな夢が見れそう・・・」


 どんどん妄想を膨らませて他人にはお見せできない表情になっていく真奈を見て、ガルフは尻尾ビンタで真奈の顔を叩いた。


 叩かれた真奈は目をパチパチとする。


「あれ、リル君がおはようって起こしてくれたのは夢?」


「ワフゥ・・・」


 駄目だこの主人とガルフが困ったように首を横に振った。


 夢でもない限り、リルがおはようと言いながら真奈を起こすことはない。


 いや、もしかしたら夢でもそれはないかもしれない。


「ガルフ~、私を慰めて~」


「アォン!?」


 メルメ達はハグされるガルフを見て揃って心の中で合掌した。


 真奈の相棒であるガルフにしかできないことだから、自分達にはその役目を追わせないでくれと念じているとも言える。


 真奈から解放されたガルフは疲れているかと思いきや、ハグとマッサージは1セットだったから疲れは残っていなかった。


 無駄に洗練された無駄のない無駄なモフモフである。


 気持ちを切り替えるため、真奈はガルフに戦闘させることにした。


 頭を使った後でもあるから、戦ってリフレッシュさせるつもりなのだろう。


「チュチュ、良い感じに強いモンスター呼び出して。ガルフが伸び伸びと戦える相手が良いわ」


「チュ~」


 町田ダンジョンの主であり、”アークダンジョンマスター”でもあるチュチュはクイズの跡片付けとメルメ達が壁際に移動したのを確認してから真奈のリクエストに応じる。


 チュチュはガルフが思いっきり動けるようにとタラスクLv75をこの部屋に召喚した。


「ドラァァァッ!」


 甲羅を背負った地龍の見た目をしたタラスクはシャングリラダンジョンならば地下6階のフロアボスとして現れる。


 チュチュのDP運用の手腕はまずまずといったところだが、チュチュが管理するダンジョンの近くにはモフランドやモフリパークがある。


 そこを訪れたモフラー冒険者達のおかげでDPの収入が安定しているからこそ、チュチュはここでタラスクを召喚できた。


 ワイバーンを召喚することも考えたのだが、ガルフがめいいっぱい暴れるならワイバーンでは物足りないであろうとチュチュは気を遣ったようだ。


「ガルフ、やっておしまい!」


「アォォォォォン!」


 ガルフは真奈に応じるように大きな声で吠えた後、<短距離転移ショートワープ>でタラスクを攪乱する。


「ドラァ!?」


 タラスクは<火炎吐息フレイムブレス>を放つがどれも外してしまう。


 その内にどこを狙って攻撃すれば良いかわからなくなり、<自動操縦オートパイロット>と<滑走衝撃グライドインパクト>を併用してガルフを自動追尾する。


 しかし、AGIの差が開いていたせいでタラスクはガルフに追いつけず、これ以上無駄なMPを消費しては不味いと判断して<自動操縦オートパイロット>と<滑走衝撃グライドインパクト>を解除した。


 タラスクの足が止まった瞬間、ガルフはタラスクの懐に潜り込んでいた。


 それをしっかりと目で追っていた真奈が指示を出す。


「今よ! ひっくり返して!」


「アォン!」


 ガルフは真奈の指示に頷いてから<翠嵐砲テンペストキャノン>を連射してタラスクを後ろにひっくり返した。


 亀の甲羅のせいで自力では起き上がれずにじたばたするだけのタラスクに対し、ガルフは<影支配シャドウイズマイン>でタラスクの首を絞めてとどめを刺した。


 タラスクに<燃糞投擲バーンドスロー>を使わせずに勝利したため、ガルフはそれが嬉しくて遠吠えを上げる。


「アォォォォォォン!」


 勝利の余韻に浸っていたガルフだが、その時間はあっという間だった。


 言うまでもなく真奈がガルフに駆け寄ってモフり始めたからである。


「ガルフ、カッコ良かったよ!」


 その様子を見てメルメ達が再び心の中で合掌した。


 第三者から見れば、ガルフを生贄モフ柱にしてモフ神のモフ欲を鎮める図かもしれない。


 真奈が満足してからタラスクの解体を始め、その魔石は勿論ガルフに与えられた。


 ガルフが新しいスキルを会得しただろうことを悟り、真奈はガルフのステータスををビースト図鑑で調べ始める。



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名前:ガルフ 種族:フェンリル

性別:雄 Lv:100

-----------------------------------------

HP:2,500/2,500

MP:2,700/3,500

STR:3,000

VIT:2,500

DEX:3,500(+875)

AGI:3,500(+875)

INT:3,000

LUK:2,500

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称号:真奈の従魔

   ダンジョンの天敵

   暗殺者

   到達者

二つ名:向付後狼少佐の相棒

アビリティ:<翠嵐砲テンペストキャノン><守護領域ガードフィールド><不可視爪インビジブルネイル

      <影支配シャドウイズマイン><賢者ワイズマン><短距離転移ショートワープ

      <人従一体アズワン><全耐性レジストオール

装備:なし

備考:ステータスを勝手に見ないで

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 ガルフが備考欄で自分の気持ちを伝えるのはいつものことだが、真奈はその備考欄に書かれている文字を見てガルフが何か隠そうとしていることに気づいた。


「ガルフ、何を隠そうとしてるのかな?」


「・・・」


 ガルフは真奈から目を逸らしたまま黙り込んだ。


 うっかり気を抜いてしまえばバレてしまうと思い、真奈の質問に答えないことにしたのだ。


 ところが、そんなガルフの細やかな抵抗も真奈の前では無意味だった。


「そっか。喋ってくれないなら今日はずっとガルフをモフり続けるしかないよね」


『それは困る! あっ!?』


「おめでとうガルフ。テレパシーが使えるようになったね」


『しまったぁぁぁぁぁ!』


 ガルフは<隠者ハーミット>から上書きされた<賢者ワイズマン>により、テレパシーを使って喋れるようになった。


 それを真奈の仕掛けた心理的な罠に引っかかってばらしてしまい、ガルフをしょんぼりした。


「よ~しよしよしよしよし」


「クゥ~ン・・・」


 モフられながら落ち込むガルフだが、MOF-1グランプリ前に喋れるようになったのは大きい。


 喋れることは優勝に向けた大きなアピールポイントになると判断し、ガルフはどうにか気持ちを切り替えることにした。

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