第662話 ワイバーンの怒りを知るが良い

 視界に入っていた突然変異種の群れを倒したため、藍大は舞達を労おうと声をかけようとした瞬間にリルがピクッと反応した。


「リル?」


「ご主人、あっちの空から何か来るよ」


 リルに言われて北の空に視線を向けたところ、藍大達の耳に何かの声が聞こえた。


「「「「「ウィアァァァァァ!」」」」」


「こ、この鳴き声は」


「『ワイバーン!』」


 藍大が途中で言葉を止めれば、舞とリルが嬉しそうにその名前を呼ぶ。


 ところが、藍大達の目に刺々しい5つの首を持つ飛竜のシルエットがはっきりと見えてリルがしょんぼりした。


『食べられないワイバーンなんて酷いよ』


 リルがそのワイバーンを鑑定してしょんぼりした理由は藍大もモンスター図鑑で調べてすぐに理解した。



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名前:なし 種族:ニュークリアワイバーン

性別:雄 Lv:85

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HP:2,000/2,000

MP:2,000/2,000

STR:1,500

VIT:1,200

DEX:1,800

AGI:2,000

INT:2,000

LUK:1,000

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称号:災厄

   突然変異種

   鉄の胃袋

アビリティ:<多重思考マルチタスク><放射線砲ラジエーションキャノン><死毒尾突デススティング

      <衝撃咆哮インパクトロア><痛魔変換ペインイズマジック

      <自動再生オートリジェネ><全半減ディバインオール

装備:なし

備考:ワイバーンの怒りを知るが良い

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 (汚染されたワイバーンじゃ食べられないよな)


 藍大はしょんぼりするリルの頭を優しく撫でてから舞とサクラに敵戦力について伝える。


「敵はニュークリアワイバーンLv85。核ミサイルで汚染されてるから食べられない。MPを消費して自動的に回復するだけじゃなく、ダメージをMPに変換するから中途半端なダメージを与えただけじゃ時間経過で全快するぞ」


「「「「「ウィアァァァァァ!」」」」」


「藍大~、ニュークリアワイバーンが怒ってるみたいだよ~?」


「よくわからんけどあいつはワイバーンの怒りを知れみたいなことを思ってるっぽい。モンスター図鑑にそう記されてた」


『それなら僕の怒りも知ってもらわないとね。ワイバーンなのに食べられないなんて許せない』


「確かに。私もワイバーンのお肉って手頃なのに美味しいから楽しみにしてた。許すまじ」


「そんな食いしん坊達のために私が手を差し伸べてあげる」


「サクラ?」


 藍大はニュークリアワイバーンを食べられないモンスターだと思っていたため、サクラがそこで何をするつもりなのかと訊ねた。


「まあ見てて」


 そう言ってサクラは<幾千透腕サウザンズアームズ>でニュークリアワイバーンの体をがっちりと拘束し、<深淵支配アビスイズマイン>の深淵の刃でその首4本を落とす。


 普通に攻撃してはすぐに倒してしまうため、サクラはちゃんと手加減している。


 そして、ニュークリアワイバーンが<自動再生オートリジェネ>で回復するよりも先に<浄化クリーン>と<生命支配ライフイズマイン>を立て続けに発動した。


 それによってニュークリアワイバーンの体内から汚染の原因を全て取り除いた状態で全快させた。


「なんか見た目から刺々しい感じがなくなってないか?」


『すごいよサクラ! あいつがペンタゴンワイバーンになってる!』


「マジか」


 リルが鑑定した結果を聞いて自分もモンスター図鑑で確かめてみたところ、ニュークリアワイバーンの種族名がペンタゴンワイバーンに変化していた。


 変化はそれだけに留まらず、”突然変異種”の称号が外れて<放射線砲ラジエーションキャノン>と<死毒尾突デススティング>がそれぞれ<緋炎吐息クリムゾンブレス>と<紫雷尾突サンダースティング>に変わっていた。


 ステータスには現れないものの、モンスター図鑑に映る情報によれば食べられるワイバーンであると記されており、サクラが戦闘中にとんでもない手術を行ったことが明らかになった。


「バイバイ」


「「「「「ウィアァァァァァ!」」」」」


 今度はサクラに手加減なしの深淵のレーザーを撃ち込まれ、ペンタゴンワイバーンから断末魔の声が聞こえた。


 折角核ミサイルによる呪縛から解放されたにもかかわらず、解放されたらされたであっさり仕留められるのはワイバーンという種族の宿命なのだろう。


 サクラは墜落するペンタゴンワイバーンの死体を<幾千透腕サウザンズアームズ>で回収し、素早く解体すると魔石以外の部分を藍大の収納リュックにしまった。


 その直後に舞がサクラを抱き締めた。


「サクラ、ありがと~!」


「うぐっ、これが舞のハグ。苦しい・・・」


『サクラ、ありがとう!』


 リルも舞にハグをされて身動きの取れないサクラに頬擦りした。


 ニュークリアワイバーンをペンタゴンワイバーンに変えてくれたことがよっぽど嬉しかったらしい。


 そうしている間に藍大の耳には伊邪那美のアナウンスが届いていた。


『おめでとうございます。サクラの治療の熟練度が限界に到達しました』


『サクラの称号”運命の紡ぎ手”が称号”死生有命の反逆者”に上書きされました』


『報酬として月読の力が40%まで回復しました』


 (なんかすごい称号来たぞ?)


 サクラの称号が変化したため、藍大はモンスター図鑑でその詳細を調べた。


 その結果、”死生有命の反逆者”には運命や生命に関連するアビリティに補正がかかることがわかった。


 本来ならばどうにもできない運命や生物の生死に抗う力の到達点とも呼べる称号であり、間違いなくサクラはこの称号を手に入れて強くなった。


「主、助けて」


「しまった。ほらほら、舞もリルもサクラが苦しそうだからその辺にしような」


「『は~い』」


 サクラが助けを求めて来たので藍大は舞とリルを落ち着かせた。


 食いしん坊達から解放されたサクラは藍大に抱き着く。


 抱き着かれている間も藍大に甘えたかったのだからそうなるのも無理もない。


「よしよし。サクラの強さは天井知らずだな」


「ドヤァ」


 渾身のドヤ顔を披露するサクラは藍大に褒められてとても喜んでいる。


 サクラが満足して藍大から離れると、待ってましたと言わんばかりにゲンが<絶対守鎧アブソリュートアーマー>を解除して藍大の前に姿を現した。


「主さん」


「わかってるとも。魔石をあげよう」


「感謝」


 ゲンは藍大の手から嬉しそうに魔石を飲み込むと、ゲンの甲羅と砲身にさらに磨きがかかった。


『ゲンのアビリティ:<睡眠強化スリープライズ>がアビリティ:<睡仙術グレートスリープ>に上書きされました』


「ゲン、睡眠欲主張し過ぎじゃね?」


「完璧」


 ゲンは<睡仙術グレートスリープ>を会得したことでご機嫌だった。


 このアビリティは寝ていた時間だけ強化される点では<睡眠強化スリープライズ>と変わらないが、効果時間を任意で調整して効果時間を短くすればする程強化率を上げられる。


 寝れば寝るだけそれが強化に繋がるならば惰眠を貪っていても許してもらえる。


 そう考えたゲンは<睡仙術グレートスリープ>を完璧なアビリティだとコメントした訳だ。


 藍大からのジト目を華麗にスルーしてゲンは<絶対守鎧アブソリュートアーマー>を発動した。


 こうなってしまっては仕方がないので、藍大達は周囲に残っている核ミサイルで変異したモンスターの死体の回収作業に移った。


 ペンタゴンワイバーンは食肉用と装備用素材として藍大達が使うが、ニュークリアワイバーンの4本の首は他のモンスターの死体とセットで茂に提出する予定だ。


 回収作業を終えて周囲の様子を伺うが、今度こそ後続の敵はいなかったから藍大達はサクラの<浄化クリーン>で体を綺麗にしてから帰宅した。


 帰宅した藍大達を出迎えたのは伊邪那美だった。


「お疲れ様なのじゃ。ふむ、サクラの力がまた強くなってるのじゃ。一体どこまで強くなる気かのう」


「無論、主のためならどこまでも強くなる」


「私だって藍大のためなら無限大に強くなるよ」


『僕だってそうだよ』


 サクラに張り合うように舞とリルも伊邪那美に反応した。


 伊邪那美は藍大の守りが手厚くなるならそれに越したことはないと頷く。


「それは良いことじゃな。さて、妾が藍大達を独占してると他の家族に悪いので妾のターンはこれで終わりじゃ」


 伊邪那美がそう言った直後には仲良しトリオや子供達が藍大に突撃し、藍大の家族サービスタイムに突入した。


 みんな完成したシャングリラリゾートを無事に防衛できたことを喜んでおり、夕食がお祝いメニューになったのは言うまでもない。

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