第661話 お父さん怒らないから正直に話してみなさい

 掲示板が荒れている頃、藍大は自宅でサクラと伊邪那美と真剣な表情で話し合っていた。


「核ミサイルはバティンが発射したんだよな?」


「十中八九そうじゃろう。自分の正体がバレたら逃げるつもりだったバティンが世界の注意を逸らすためにやったんじゃと思う」


「主、安心して我が家とシャングリラリゾートの安全な未来は私が保証するから」


「ありがとう。サクラはそんなこともできちゃうんだからマジですごい」


「ドヤァ」


 藍大はドヤ顔のサクラの頭を撫でる。


 今は家族サービスタイムに突入している場合ではないので、伊邪那美が藍大に声をかけて意識を引き戻す。


「そのようなことをしとる場合じゃなかろう。バティンのせいで世界が大変なことになったのじゃ。どうするにせよ、妾達も方針を決めるべきじゃ。そうでなくてはあれこれ憶測されたり頼まれたり面倒じゃろうて」


「基本的には何もしない。俺達に降りかかる火の粉は振り払うが、俺達は日本の、いや、世界の便利屋じゃないんだ」


「まあ、そう言うと思っておったのじゃ。今回については何処の神からも救援要請はないから、妾から藍大に頼み事をするとかはないから安心してほしいのじゃ」


 伊邪那美からの依頼はないと聞いて藍大はホッとした。


「これで面倒事の話し合いは終りょ」


 その瞬間、藍大のスマホが鳴った。


 スマホの画面に表示された名前は茂である。


 (しまった。フラグを立てちゃってたわ)


 自分がフラグを立ててしまったと気づいて後悔しつつ、藍大は茂からの電話に応答した。


「出張サービスはしないぞ」


『そう警戒すんなっての。別に藍大達にA国のバティンを倒してくれって頼むつもりはない』


「俺はということは?」


『A国大使館から日本政府にそんな依頼はあったっぽいぞ。吉田さんが板垣総理に断れって突っ返したらしいが』


 スマホから漏れた音が聞こえたらしく、サクラがムッとした表情になった。


「あの男を軽く締めてやる。私達のことを舐め過ぎ」


 藍大が止める前にサクラは<運命支配フェイトイズマイン>で何かしたようだった。


 それに気づいた藍大はサクラが何かしたことに気づかない振りをした。


 ところが、電話越しの茂が何かを察したらしく藍大に声をかける。


『なあ、サクラさんが板垣総理に何かやってないか? 急に胃が痛くなったんだが』


「わからん。何かやった素振りはないぞ」


 (茂が胃痛で推理しよった)


 真実を言ったところで茂の胃を余計に攻撃することになるし、自分も板垣総理が最近おとなしくしてたと思ったら余計なことをしでかそうとしたことにムッとした。


 それゆえ、藍大はサクラの味方としてサクラは何もしていないと証言した。


『そうか。じゃあ、別に何か俺が胃を攻撃する案件があったってことか。いや、それがこれなのか』


「茂さんや、勝手に自己完結してるけどどんな話を俺にしようとしてるんだい?」


『藍大さんや、怒らずに話を聞くって約束してくれるかい?』


「お父さん怒らないから正直に話してみなさい」


『それ絶対聞いて怒るじゃん』


 茂がなかなか本題に入らないから藍大は面倒事が起きたと判断した。


 それもかなり不味い事態だろうことも察した。


 藍大と茂の付き合いが長いからこそわかることである。


「ほら、冗談はこの辺にしてキリキリ吐くんだ」


『言い方どうにかしろよ。いや、まあ今のは俺が悪いな。実はA国の発射した核ミサイルでR国のモンスターが突然変異した。それで、変異した空を飛ぶモンスターがM国をスルーして旧C国に向かってる。俺はその動きを衛星から確認してるところだ』


「GO〇ZILLAかよ」


『無駄に発音良いな。じゃなくて、どちらかと言えばデス〇ドラじゃね?』


 茂は藍大にツッコミを入れつつ、次になんと言えば良いか考えていた。


 その一方で藍大は冷静に自分の予想を告げる。


「突然変異したモンスターがシャングリラリゾートに向かってる? あるいはその近辺で環境破壊に取り掛かり始めたとか?」


『後者だ。突然変異種は単独じゃなくてな、シャングリラリゾートの結界を壊せないとわかってるからなのか周囲で暴れ回ってる』


 そこまで聞いて藍大は伊邪那美に訊ねた。


「伊邪那美様、シャングリラリゾートの周辺で突然変異種のモンスターが暴れ回ってるかわかる?」


「うむ。妾達の結界の周りで荒ぶっておるのじゃ」


「私の力で結界に攻撃しようと思わないようにさせたからね」


 (サクラと神々が手を組むと結界内だけ無敵な訳だ。ありがたい)


 藍大はサクラと伊邪那美達に心の中で感謝してから茂との電話に戻る。


「それだけなら茂の胃は痛くならないだろ。現状を伝えた上で何か頼み事があるんだな?」


『おう。頼みってのは突然変異種を討伐してその死体を俺に送ってほしいってことだ。放射能で汚染されたモンスターを良い保存状態で倒せるのが藍大しか思い当たらない』


「突然変異種の調査をするのか?」


『その通りだ。今までは藍大の協力のおかげでモンスターの進化やパワーアップについてじっくり調べられた。今回の突然変異種も調べておけば、他国がやらかした時にどんなモンスター被害が起きるか想定できるかもしれん。だから俺は調べたいんだ』


 茂はビジネスコーディネーション部長としてDMUでは”楽園の守り人”担当の立ち位置にいる。


 しかし、そもそも茂がDMUに就職したのは様々なものを鑑定したいと思ったからだ。


 未知を調べてそれが世のため人のためになる鑑定班の仕事は茂にとって天職だったのだ。


 今でも藍大達から珍しいモンスターの死体を送ってもらい、時間のある時に鑑定している茂には今回の突然変異種を鑑定したいという欲があった。


 趣味と実益を兼ねた茂の頼みを聞いて藍大は頷いた。


「別に良いぞ。茂にはいつも色々面倒をかけてるし」


『マジか! 助かるよ! 死体は少しだけ色を付けて買い取るからよろしく頼む!』


「了解。早速行って来るわ」


 藍大はそれだけ言って電話を切った。


 その時には既にサクラだけでなく舞とリル、ゲンも出発の準備を終わらせて待っていた。


「主、いつでも行けるよ」


「一狩り行こ~」


『ご主人、待ってたよ』


「任せる」


 ゲンは移動とか全部任せるけど行く準備はできたと伝えている。


「ありがとうみんな。3分で準備するから待っててくれ」


 40秒で支度するのは無理だと判断し、ボケることなく現実的な時間を伝えて藍大は急いでしたくを済ませた。


 それから3分後、藍大が準備を終えるとゲンが<絶対守鎧アブソリュートアーマー>で藍大の装備に憑依すれば準備は完璧だ。


 リルに<転移無封クロノスムーブ>を使ってもらい、藍大達はシャングリラリゾートへと移動した。


 シャングリラリゾートの結界の中から外の様子を見たところ、藍大達は微妙に見覚えはあるけど異形度が増したモンスターの集団が暴れ狂っているのを視界に捉えた。


「あのリザードマンに翼が生えてる~」


「触手でできた鳥がいる」


「舞が言ってるのはフェザーリザードマンで、サクラが行ってるのはローパーバード。どっちも元々は空が飛べないモンスターだったけど、核ミサイルの影響で変異したらしい」


『食べられない変異なんてがっかりだよ。核ミサイルは駄目だね』


 リルはその他の突然変異種も全部チェックしてそれらが食べられないと知り、戦う前からがっかりしている。


 食べられるモンスターが相手ならやる気満々なのだが、食べられそうな外見のモンスターも放射能汚染のせいで食用には向かない変化を生じている。


「よしよし。そう落ち込むなよリル。夕食はデザートに苺パフェを用意してあげるからさ」


『苺パフェさん!? こうしちゃいられないよ! 僕、頑張る!』


「苺パフェさんだ~! いっぱい狩るよ~!」


 リルだけでなく舞までやる気になったようだ。


 藍大がリルだけ特別扱いして苺パフェをあげるなんてことはあり得ないからこそ、舞もやる気満々になったのである。


「浄化完了。いつでも良いよ」


「ヒャッハァァァァァッ!」


『待ってて苺パフェさん!』


 サクラが<浄化クリーン>で周囲から放射能汚染を除去した後、結界の外に出た舞は光を纏わせたミョルニルを投擲してフェザーリザードマンを撃墜した。


 リルも続いてローパーバードをその後ろにいるモンスター達と一緒に<神裂狼爪ラグナロク>でバッサリと切断している。


 食欲によって突き動かされた食いしん坊達の活躍により、R国からやって来た空を飛ぶ突然変異種は5分もかからずに掃討されたのだった。

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