第655話 どうしたのガルフ? 悪い夢でも見た?

 4月3日、向付後狼少佐こと真奈は自宅でWeb会議アプリを使ってCN国のシンシアと話をしていた。


 これは真奈からシンシアに話がしたくてセッティングされたのではなく、シンシアが真奈に連絡があってのことだ。


「シンシア、今日はどうしたの? 新しいモフモフでもテイムできた?」


『私としては最初から最後までモフモフの話をしたかったんだけど、先に少しだけ真面目な話をするわ』


 真面目な話をするならば面倒事をさっさと片付けるような言い方は止めるべきだろう。


 もっとも、リルに天敵と恐れられるモフラー達の会合がシリアス50%以上になったことはないのだが。


「真面目な話? 何かCN国で問題が起きたの?」


『まだCN国に直接的な被害はない。話がしたいのはA国のことだ』


「A国? あぁ、R国への武力介入のことかしら?」


 真奈も大手クランのサブマスターである以上、情報収集も調べられる範囲で行っている。


 だからこそ、A国の不穏な動きについても当然概要を把握していた。


『そうなの。何を血迷ったのかわからないけど、A国のDMUはスタンピードが起きたのに冒険者を派遣する方針を選んだ。なんだか嫌な予感がするわ』


「嫌な予感? A国がまたCN国に”災厄”を押し付けようとしてるってこと?」


『その可能性も0じゃない。A国は旧C国やR国を棚に上げてフルカスをCN国に押し付けて来た前科があるから。パトリック=ディランの考えが読めないわ』


「発生したスタンピードは収まっても”災厄”は見つかってない。それを放置すると言うのかしら?」


 重要なのはそこである。


 誕生した”災厄”の対処をしていないというのは怪しい。


 ”災厄”を放置していれば”大災厄”になってしまうだろう。


 今のご時世でそんなリスクを放置する国はいないのだから、A国がそのリスクを放置するというのは異様としか言えない。


『”災厄”がA国で”大災厄”になった後、CN国に来ないと良いんだけど』


「シンシア的には”大災厄”誕生は確実に起きるって思ってる感じ?」


『起きるわ。だってA国は実力もないのにイキってるただのクソ国家だもの』


 シンシアのA国へのdisが熱い。


 フルカスを押し付けられたことの恨みは根深いらしい。


「そっか。だったらシンシアはちゃんと備えておくことね。それはそれとして、そろそろ本題に入らない?」


『そうね。本題モフモフに入りましょう』


 シリアスな時間はやっぱり長続きしなかった。


 これがモフラー同士の会話の常である。


「こっちはモフリパークを開園して無事にサ〇ァリパークの来園者数を上回る所まで来たわ」


『素晴らしい。動物モフモフも悪くないけどモンスターモフモフを知ったら後戻りはできないわね』


 真奈が開園したモフリパークは全国のモフラーが集まる観光地になった。


 モフラーの中には冒険者だけでなく一般人も当然いる。


 テイムされたモフモフならば自分達が襲われることはないため、モフランドよりも多くのモフモフと戯れたいモフラー達が次々にモフリパークへと集まっていく。


 テレビや雑誌でも注目されており、真奈も一時期は取材で忙しかったりもした。


 入場料は大人800円、子供500円と格安だ。


 モンスターにあげられる餌やお土産、グッズでもちょこちょこ稼いでいるが、園内にいる従魔の人気コンテストは投票に課金するシステムのため、これが一番の収入源である。


「シンシアには負けない。私だって日本をモフラー国家にしてみせるんだから」


「クゥ~ン・・・」


 真奈の傍で寝そべっていたガルフは主人の聞き捨てならない発言を受けて悲しげに鳴いた。


「どうしたのガルフ? 悪い夢でも見た?」


「アォン」


 真奈の理想が悪夢だと言わんばかりにガルフは鳴いた。


「よ~しよしよしよし。もう大丈夫だからね」


「クゥ~ン・・・」


 違う、そうじゃないんだとガルフは思っているけれど、その気持ちは残念ながら真奈に伝わっていない。


『やはりフェンリルも良いな。羨ましいぞ』


「シンシアだって従魔に”アークダンジョンマスター”がいるでしょ? クレセントウルフを召喚してもらえば良いじゃないの」


『それはそうなんだけど、どうしてもリルには敵わないと思ってしまうからテイムできないんだ』


 大前提としてシンシアもフェンリルという種族は好きだ。


 リルが近くにいるなら絶対にモフらせてほしいとお願いすることは欠かさない。


 しかし、真奈と違ってシンシアは自分だけのフェンリルを育て上げてもリルには敵わないと思ってしまって不義理になると考えたから、自分ではフェンリルを従魔にしないようにしている。


 真奈の場合、モフモフは平等に好きだからリルも好きだけどガルフに注ぐ愛情の量は変わらない。


 リルから同じく天敵認定されていたとしても、このような差はあるようだ。


「ふ~ん。まあ、シンシアがそうしたいなら私には何も言えないわね。私の取り組みの話はこの辺にするとして、シンシアの方はどんな感じ?」


『私は順調にモフランドを増やしてるぞ。5号店と6号店も開店したから、年内には2人に1人がモフラーになってるかもしれない』


「クゥ~ン・・・」


 リル先輩、事件ですとでも言いたげな表情でガルフが鳴いた。


 1月の国際会議から3ヶ月でモフランドが2店舗追加されたことも驚きだが、CN国のモフラー増殖率は異常だとガルフは感じたのである。


「私達がスタンダードな国って住み易いだろうなぁ」


「ワフ?」


 悪夢の間違いではと訴えるガルフの思いは真奈に届いていない。


『そうだ。ちょっとお披露目が遅くなってしまったけれど、真奈に見せたい従魔がいるの』


「そうなの? 見せて見せて」


 シンシアが自分に見せたい従魔と聞いて真奈の期待は高まるばかりだ。


 画面外からシンシアは真奈に見せたい従魔を連れて戻って来た。


 そこには2本の枝のような角を生やした白兎の姿があった。


 その白兎はシンシアに抱き抱えられているのが不服なようでそっぽを向いている。


「可愛い! 調べさせて!」


『この子はジャッカロープのキャロだ。存分に調べてくれ』


 真奈はシンシアに許可を得てからビースト図鑑でキャロに付いて調べ始める。



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名前:キャロ 種族:ジャッカロープ

性別:雌 Lv:15

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HP:200/200

MP:200/200

STR:150

VIT:150

DEX:150

AGI:200

INT:50

LUK:100

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称号:シンシアの従魔

アビリティ:<沈黙突撃サイレントブリッツ><酒霧リカーミスト

装備:なし

備考:私はモフラーには屈しない

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「くっ殺兎?」


『わかってくれるか! キャロはテイムされてからモフモフしても私を挑発するような顔つきで我慢し続けるんだ!』


「アォン」


 ガルフはキャロが強情にもシンシアの拷問モフモフに耐えていると知って頑張れとエールを送った。


 その声に反応してキャロは画面越しにガルフの方を見た。


「あら、やっと正面を向いてくれたわね。ムッとしてるよりもニコニコしてた方が可愛いのに勿体ない」


『プゥ』


「ワフワフ」


『プゥ!?』


「アォン」


『プゥ!』


 ガルフとキャロの間で話をしているのを真奈とシンシアが微笑ましいとそれを見守る。


『一体どんな話をしてるのかしら?』


「ビースト図鑑でそれぞれのステータスの備考欄を見れば言いたいことがわかる時もあるわ。今のはお互いに名乗った後、強くなればモフモフから逃げられるアビリティが手に入るって聞いてキャロが気合を入れたみたい。ガルフ、私のモフモフから逃げられるアビリティって<短距離転移ショートワープ>のこと?」


「アォン?」


 ガルフは真奈の質問に対してなんだろうねと首を傾げた。


 距離を稼ぐという点では<短距離転移ショートワープ>が使えるが、モフラーからは逃げられないことをガルフはよく理解している。


 実のところ、<人従一体アズワン>こそ自分がモフられない本命だということをガルフは黙っておくらしい。


 この後もモフラー2人の話はしばらく続き、2人にとって楽しい時間となった。

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