第653話 お好きでござる。・・・じゃない!

 揺れが収まってから浮島に着陸し、藍大達はエンシェントトレントの解体と回収を進め、魔石を取り出すと藍大はサクラに声をかける。


「魔石はサクラの物だな」


「うん。食べさせて」


「甘えん坊な奴め。あ~ん」


「あ~ん。んん~♪」


 魔石を飲み込むという行為はどこもエロくないはずなのだが、サクラがやるとその印象はがらりと変わる。


 サクラは魔石を飲み込んだことでその色気が増した。


『サクラのアビリティ:<道具箱アイテムボックス>がアビリティ:<秘密女庫シークレットスペース>に上書きされました』


 (ん? <保管庫ストレージ>はどこいった?)


 <道具箱アイテムボックス>が上書きされたら<保管庫ストレージ>になると思っていたため、聞いたことのないアビリティ名が聞こえて藍大は困惑した。


 パワーアップしたことで褒めてもらえると思ったら、藍大が困った顔になっているのでサクラは藍大に声をかける。


「主、どうしたの?」


「いや、サクラの新たに会得したアビリティが通常の流れから逸脱してると思って」


「だって私だもん。主のためなら普通じゃあり得ないことでも起こしてみせるよ」


「ゴルゴンあたりがそう言ったら愛い奴めと言いたくなるけど、サクラの場合はマジでできちゃうからなぁ」


 藍大はサクラの発言に苦笑した。


 ゴルゴンが同じセリフを言ったとしたら、背伸びしてそんなことを言ったんだろうなと頭を撫でたくなるだろう。


 しかし、そのセリフをサクラが言ったなら話が変わる。


 サクラが使用する<運命支配フェイトイズマイン>は運命を捻じ曲げられる。


 つまり、普通なら起こり得ないこともサクラによって起きてしまうことも十分あり得るのだ。


「藍大、サクラはどんなアビリティを会得したの?」


「折角だから実演する」


 そう言ってサクラは地面に落ちているエンシェントトレントの枝を拾い、胸の谷間に枝をしまい込む。


 その後にサクラが藍大の手を自分の胸の谷間に突っ込ませた。


「サクラさんや、一体何をしてるのかな?」


「主、エッチな従魔はお嫌い?」


「お好きでござる。・・・じゃない!」


「サクラ、外では駄目って言ったでしょ! 協定違反だよ!」


 藍大がサクラにノリツッコミをした直後には舞が藍大の腕を掴んで救出した。


 協定とは家の外で藍大への誘惑行為を禁止する内容のものだ。


 舞とサクラが言い合いを始めたのでリルがその隙に藍大に訊ねる。


『枝は消えちゃったの?』


「消えた。何処にしまってるのかわからないけど、確かにしまえるってアビリティらしい」


『そんなアビリティを会得できるのはサクラだけだよ。ところでご主人、エンシェントトレントの根っこに宝箱が絡まってるよ』


「マジか。そっちも回収しないと」


 リルに言われて藍大が宝箱を回収して戻るとサクラが宝箱に気づく。


「あっ、宝箱。まだまだ私のターンだね」


「舞、何か食べたい果物ある? 今回は果物の種を頼もうと思うんだけど」


 サクラに途中で逃げられて頬を膨らませている舞を気遣い、藍大は舞が食べたい果物の種を頼むと言った。


 それによって舞の顔が瞬く間に笑顔になる。


「ブルーベリー! ブルーベリーが食べたい!」


「という訳だサクラ。今日はブルーベリーの種をよろしく」


「は~い」


 サクラは実にあっさりと宝箱の中から種を取り出した。


『ご主人、神藍苺しんらんめいの種だよ。これで美味しいブルーベリージャムが作れるね♪』


「よしよし。愛い奴め」


 鑑定結果にちゃっかり自分のリクエストを加えるリルが愛らしかったので、藍大はリルの頭を撫でた。


 それから、回収を済ませた藍大達は5つ目、6つ目と浮島を渡ってゲーミングイールとアンフィスバエナを順調に狩って進んだ。


 7つ目の島が最後な訳だが、島を渡った先にはボス部屋の扉があった。


 扉の周りには透明な壁があり、先に進むには扉から行くしかないようだ。


 藍大達はフロアボスと戦う準備を整えてから扉を開いてボス部屋の部屋に乗り込む。


 ボス部屋の内装も今までと同じく浮島であり、藍大達を待ち構えていたのは上半身が美女で下半身が金色の蛇であるモンスターだった。


 武器も持たずにいることから遠距離攻撃を得意とするのだろうかと予想しながら、藍大はモンスター図鑑を視界に浮かべて敵に付いて調べ始めた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:エキドナ

性別:雌 Lv:100

-----------------------------------------

HP:4,000/4,000

MP:5,000/5,000

STR:3,000

VIT:2,500

DEX:3,000

AGI:2,500

INT:4,000

LUK:4,000

-----------------------------------------

称号:地下17階フロアボス

   到達者

   怪物の母

アビリティ:<眷属籤ファミリーガチャ><眷属指揮ファミリーコマンド><魔力吸収マナドレイン

      <魅了チャーム><隕石雨メテオレイン><破壊尾鞭デストロイウィップ

      <自動再生オートリジェネ><全半減ディバインオール

装備:なし

備考:興味

-----------------------------------------



 (エキドナが俺を見てる。興味の対象は俺?)


 藍大を見てエキドナが舌なめずりした瞬間、舞とサクラが藍大の前に立った。


「藍大、あの蛇女は危険だよ!」


「主、あいつは危険。捕まったら絞り尽くそうとするから近寄っちゃ駄目」


 2人は女の勘でそのように判断したらしい。


「退くのだ雌共。妾はそこの雄が欲しい」


 エキドナはそう言いながら<隕石雨メテオレイン>を発動する。


「絶対やらねえぞゴラァ!」


 舞は光の壁を三重に展開して隕石の雨から自分達を守った。


 それこそがエキドナの狙いだった。


 自分のこれからの行いを邪魔させまいと守りに徹するよう仕向けたのだ。


「おお゛えっ、おお゛えっ、おお゛えっ」


「エキドナ、もうちょっとマシなやり方で眷属を出せよ」


 藍大が顔を引き攣らせながらそう言ったのは、エキドナが苦しそうな表情を浮かべた状態で光の球を続けて3つ吐き出したからだ。


 その球はそれぞれケルベロスとネメアズライオン、キマイラへと変化し、いずれもLv70であることがわかった。


『見た目は汚いけど眷属を召喚するのは面倒だね』


「大丈夫。どんな眷属でも私が倒す」


 隕石の雨が止んだ瞬間、まずは舞がケルベロスに向かって雷光を纏ったミョルニルをぶん投げる。


「ぶっ飛べゴラァ!」


「「「キャイン!?」」」


 ハンマーは手に持って使う武器だと思い込んでいたのか、初動が遅れたケルベロスの体にミョルニルが命中してそのままケルベロスは後方に吹き飛んだ。


 そのすぐ後にサクラもリルもネメアズライオンとキマイラを仕留めており、眷属を失ってしまったエキドナは再び<眷属籤ファミリーガチャ>を発動しようとする。


「やらせるかよ」


「ぐぶっ!?」


 藍大がゲンの力を借りて<怠惰皇帝スロウスエンペラー>でエキドナにかかる重力を急激に増大させた。


 その結果、エキドナは<眷属籤ファミリーガチャ>の発動に失敗したまま地面に押し付けられた。


「お前は私を怒らせた。主を魅了しようとしたことと私達に汚い物を見せたことは万死に値する」


 サクラは大変お怒りの様子であり、深淵の剣を<深淵支配アビスイズマイン>で創り出してからエキドナの首と両手、上半身と下半身を次々に切断した。


 サクラのスペックでここまでバラバラに斬ってしまえば、エキドナに回復できるはずもなくそのまま力尽きた。


「みんなお疲れ様。地下17階もこのメンバーなら余裕だったな」


 藍大は舞達を労ってからバラバラになったエキドナを回収した。


 エキドナから魔石を取り出すと、藍大はそれをリルに差し出す。


「リル、魔石をおあがり」


『うん!』


 魔石を飲み込んだリルの毛並みが一段とモフり甲斐のあるものになった。


『リルのアビリティ:<風精霊砲シルフキャノン>がアビリティ:<風精霊祝ブレスオブシルフ>に上書きされました』


 (シルフが神に張り合ってる?)


 リルのアビリティの強化がシルフの存在を主張して来たものだから、シルフが神々に張り合ってリルに力を与えているのではと藍大が考えるのも無理もない。


 <風精霊祝ブレスオブシルフ>は風の砲撃に留まらず、風を自由に操れたり風を纏うことで怪我や状態異常を時間の経過と共に回復させる効果があった。


 神々の名前の入ったアビリティに負けないとても有用なアビリティと言えよう。


「リル、良かったな。攻撃にも回復にも使えるアビリティが手に入ったじゃん」


「クゥ~ン♪」


 リルは藍大に撫でられて嬉しそうに鳴いた。


 リルが満足したところでこの階でやるべきことは全て終わったため、藍大達は帰宅した。

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