第652話 テンションアゲアゲ?
4月2日、藍大は舞とサクラ、リル、ゲンを連れてシャングリラダンジョン地下17階層にやって来た。
藍大が”魔神”の称号を得た後、家族の総意で藍大の防具を更新すべきという結論が手て、舞の防具とセットで更新することになった。
使ったのは藍大と舞が現在使用しているラドンローブとラドンスケイルをベースとして、偶々二度目の戦闘で出現した”希少種”のミドガルズオルムの素材だ。
ドライザーが<
ミドガルズローブとミドガルズスケイルのどちらも”希少種”のミドガルズオルムと同じ翡翠色だ。
着用者の疲労半減機能に加え、アビリティで言うところの<
そんなとんでもない防具ができたならば、それを試すに相応しい階層が必要だろうとブラドが昨晩増築し終えたのがシャングリラダンジョン地下17階層である。
この階層の内装だが、夜空に小さな浮島が北斗七星の配置で並んでいる幻想的なものだ。
「綺麗な景色だな」
「良い景色を見せてもらったお礼にブラドにハグしないとね」
『気持ちだけで充分なのだ! 本当に要らないのである!』
ブラドは舞に感謝は不要だと言いたくて藍大にテレパシーを送るけれど、藍大からしてみればブラドの発言はフリにしか聞こえなかった。
それでも一応はブラドの代わりに彼の言葉を舞に伝える。
「ブラドが気持ちだけで十分だってさ」
「フリだよね。ブラドってばツンデレ」
「しょうがないな~」
『おのれ桜色の奥方め! なんてことをしてくれたのだ!』
サクラがとても良い笑顔で言えば、舞もまんざらでもなさそうに頷く。
帰ったらブラドがハグされる運命はこの時決まった。
そんな中、リルが空を見て気づいたことを告げる。
『みんな空を見て! 敵が来るよ!』
リルに言われて空を見上げると、藍大達は上空にゲーミングカラーを発しながら移動する紐状の存在を視界に捉えた。
「なんだろう? 泳いでるように見えるけど」
「正解。あれはゲーミングイールLv100。空飛ぶ鰻だ」
サクラが率直な感想を述べた後で藍大がモンスター図鑑の鑑定結果を告げた。
「待ってろうな重!」
舞が雷光を付与したミョルニルを投擲し、ゲーミングイールの胴体に命中して藍大達から遠くない場所に墜落した。
食べ物のことになるとバフがかかるのか、舞が一撃でゲーミングイールを仕留めた。
「まだ後ろから来るぞ」
『ひつまぶし!』
リルは<
食いしん坊達のおかげで危なげなく最初の戦闘が終わった。
「藍大、うな重作って!」
『ご主人、ひつまぶしもお願い!』
「はいはい。慌てなくともちゃんと順番に作ってあげるから落ち着いて」
「やったねリル君!」
『やったね舞!』
舞とリルは後程作ってもらえる料理にワクワクが止まらないとはしゃぐ。
戦利品回収を済ませて1つ目の浮島の端に移動するまでに何度か戦闘が行われた。
そのおかげで3日は困らない程度にゲーミングイールを確保できた。
浮島同士は吊り橋で繋がっているらしく、普通に考えれば次の浮島へ移動するにはそれを渡るに違いない。
しかし、リルがピタッと吊り橋の前で止まった。
「どうしたんだリル? 吊り橋に何かあるのか?」
『ご主人、吊り橋にはギミックが仕掛けられてるよ。足場が落下したり急上昇したりするみたい』
「ふ~ん。じゃあ、橋の上を飛んで行けば良いんじゃないか?」
『そうだね。念のためにみんな僕の背中に乗って。一瞬で駆け抜けるから』
「わかった」
リルが警戒していることから藍大達は素直にリルの背中に乗せてもらった。
逢魔家で最も索敵上手なリルが警戒するならば、きっと何か起きると思ってのことだ。
藍大達を背中に乗せたリルは助走をつけて浮島から浮島に飛び移った。
リルが通り過ぎた直後に島の下から菫色の何かが吊り橋を壊しながら急上昇した。
それはU字型のまま上空に留まっているが無機質な物体ではない。
何故なら、両端に花びらの襟巻をした龍の頭があるだけでなく、体は鋭い鱗に覆われているからだ。
「アンフィスバエナLv100。氷と毒を使う龍擬きだ」
「藍大、アンフィスバエナは食べられる?」
「毒袋を傷つけなければ食べられる。傷つけると毒が回って体が真っ黒になるらしい」
『毒袋の位置は僕にもわかる。僕が動きを止めるから』
リルが喋っているのをサクラが手を前に出して止める。
「待って。ここは私がやる。私の出番が少なくて退屈してたの」
「確かに舞とリルがゲーミングイールをガンガン狩ってたから、サクラが戦った回数は少ない。ここは俺がナビするからサクラに戦ってもらおう」
「『は~い』」
「ありがとう」
舞とリルは藍大の言うことをおとなしく聞き、サクラは自分に加勢してくれた藍大に感謝した。
「どういたしまして。あのアンフィスバエナの毒袋は体の中心の位置だ」
「了解。後は任せて」
サクラはそれだけ言うと<
「「フィバァァァ!」」
「フィーバー?」
『テンションアゲアゲ?』
「違う、そうじゃない」
舞とリルがその鳴き声からアンフィスバエナが楽しい気分なのではないかと首を傾げるので藍大は思わずツッコんでしまった。
その一方、無数の目に見えない腕に捕まって身動きの取れないアンフィスバエナは拘束を振りほどこうとするがそれは叶わなかった。
動きを止めてしまえば後は簡単な作業であり、<
「主、終わったよ」
「お疲れ様。毒袋が傷つかずに倒せてる。流石はサクラだ」
「フフン」
サクラは藍大に褒められてドヤ顔を披露した。
藍大はサクラの頭を撫でてからアンフィスバエナを回収し、そのまま2つ目の浮島の探索に移った。
それから先、藍大達は浮島ではゲーミングイールの襲撃を返り討ちにして吊り橋を渡ってはアンフィスバエナを返り討ちにするのを繰り返した。
そんなリズムが変わったのは4つ目の浮島に到着した時だ。
3体目のアンフィスバエナを倒して浮島を探索しようとした訳だが、この島には巨大な樹が生えている以外何もなかった。
この浮島だけ大樹が生えているのはいかにも怪しいので、藍大はモンスター図鑑で大樹がモンスターではないか調べた。
-----------------------------------------
名前:なし 種族:エンシェントトレント
性別:雌 Lv:100
-----------------------------------------
HP:5,000/5,000
MP:4,500/4,500
STR:4,000
VIT:4,000
DEX:3,000
AGI:1,000
INT:3,500
LUK:3,000
-----------------------------------------
称号:掃除屋
到達者
アビリティ:<
<
<
装備:なし
備考:擬態
-----------------------------------------
(このスペックで不意打ちされたらヤバい)
藍大はエンシェントトレントのステータスを確認して先手を譲ってはならないと判断した。
そして、予め決めておいたサインを舞達に見えるように出した。
「倒れろやぁぁぁぁぁ!」
「一撃必殺」
『一刀両断!』
舞の全力の投擲に加え、サクラの<
(どう考えてもオーバーキルです。ありがとうございます)
藍大は舞達の攻撃のどれかしらが防がれても残りの攻撃で仕留められれば良いと考えてサインを出した。
ところが、このエンシェントトレントは余程自分の擬態に自信があったのか、攻撃されるまで何も対処せずにいた。
そのおかげで舞達全員の攻撃が命中してしまい、自分のVITと<
エンシェントトレントが倒れる音はとてつもなく大きく、倒れた衝撃は浮島が崩壊して落ちるのではないかと思う程だった。
藍大達はサクラとリルによって空に逃げていたおかげで無事だったが、もしも逃げなかったらエンシェントレントを倒した余波で自分達も少なくないダメージを負っていただろう。
次からはこのサインを使うタイミングに気を付けようと藍大は反省した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます