第648話 ブラドとモルガナは宝箱のプレゼント係でしょ?

 翌日の月曜日、藍大は旧C国のS6ダンジョンにやって来た。


 このダンジョンは吐血のバレンタインを惹き起こした”邪神代行者”ブエルが誕生した場所だ。


 今日のお供はリルとゲン、ブラド、ゼル、エルであり、藍大は戦う魔皇帝フォームの完全装備である。


 この探索目的はS6ダンジョンを踏破するのは勿論だが、ブラドとゼルの大罪アビリティを上書きすることだ。


 藍大は七つの大罪のメンバー全員の称号が皇帝、女帝になることで自分の称号にも何かしらの変化があると考えている。


 S6ダンジョンの周辺にはレッドゴブリンがうじゃうじゃいたけれど、リル達があっさり倒したので戦利品回収をそそくさと済ませて藍大達はダンジョン内に侵入した。


「遺跡だな。しかも外よりも気温が高い」


『ブエルがいたダンジョンだからじゃない?』


『(」゜ロ゜)」モットアツクナレヨ!!』


「ここの”ダンジョンマスター”も暑苦しい奴かもしれぬな」


 リル達の意見に藍大も同感だと頷いた。


 少し進んだ所に出て来たのはレッドキャップLv45の群れだ。


『ホィ(ノ゚∀゚)ノ ⌒ 由』


 ゼルが<暗黒支配ダークネスイズマイン>で暗黒の矢の雨を降らせてそれが次々にレッドキャップ達を仕留めていく。


 E9ダンジョンやN12ダンジョンと比べて1階に出現するモンスターのレベルは高いけれど、所詮はゴブリン派生種なので戦いとも言えぬ作業をするのみだ。


 その先でもレッドキャップ派生種ばかり現れ、”掃除屋”にはカーマインキャップLv50、フロアボスにはブラックキャップLv55が現れたがどちらも瞬殺だった。


『このダンジョンも食べられないモンスターだけとかないよね?』


「そんなダンジョンに価値はないのだ。掌握したらすぐに改修するのである」


 プリプリ怒っているリル達の頭を撫でて落ち着かせつつ、藍大達は2階へと進んだ。


 2階は1階よりも気温が高く、真夏日と表現して問題ない気温だった。


「上の階に行くにつれて暑くなる縛りがあったりして」


『暑いのは嫌いだよ』


『(;n;)泣きそう』


「ブエルが誕生したぐらいだから、その縛りはあってもおかしくなかろう」


 そんな雑談をしているところに肌が赤いオークの群れが押し寄せて来た。


「フレイムオークLv60だってさ」


焼豚チャーシューだね!』


焼豚チャーシューなのだ!」


 食いしん坊2体はフレイムオークを見てすっかりご機嫌になった。


 同じ人型でもゴブリンは食べられないがオークは食べられる。


 食べられるモンスターは大歓迎なリルとブラドである。


 どちらも可食部が減らないように慎重かつスマートに倒していた。


「ひとまず食べられるモンスターがいて良かったな」


『うん!』


「うむ!」


 2階の探索速度がやる気になった食いしん坊達のおかげで上がり、サクサクと”掃除屋”とフロアボスを倒してしまった。


 ”掃除屋”はフレイムオークエリートLv65であり、フロアボスはフレイムオークキングLv70だった。


 どちらもリルとブラドの食欲の前には太刀打ちできず、一方的に仕留められてしまった。


「今日のお昼はオーク料理かな。この先にもっと美味しいモンスターがいれば別だけど」


『どっちに転んでも僕はOKだよ』


「吾輩もである」


『( ´Д`)σ)Д`*)私にも構ってー』


「よしよし。愛い奴め」


 ご飯トークで盛り上がっているメンズに置いていかれたと思い、ゼルが藍大にもっと構ってくれとアピールする。


 藍大も悪かったと反省してゼルの頭を撫でた。


 ゼルが満足してから3階に上がると、藍大達は猛暑日というよりも風呂の温度に近い気温を感じる。


 気温にツッコミたい所だったけれど、それよりも先に藍大は自分達の正面に見える物に触れる。


「宝箱当てゲーム?」


『いっぱいあるね』


『【金】ヾ(¥∀¥;ヾ)ザックザク♪』


「規模が違うのだ」


 今までにも藍大達は宝箱が多く備え付けられていたダンジョンを見たことがある。


 それらはいずれも本物が1つであり、それ以外はミミックや偽物だった。


 ただし、偽物を含めて100を超える宝箱があるケースは初めてだろう。


「リル、分担しよう。俺は左の列からやる」


『わかった。僕は右から見るね』


 藍大とリルは手分けして宝箱の鑑定作業を始める。


 もっとも、リルは正確にそれが何か把握できるのに対して藍大はモンスターか違う何かしかわからない。


 そうだとしても、リルが全て鑑定するよりは効率的と言えよう。


 5分程かけて作業を行った結果、ミミックが90体とハズレ入り宝箱が9個、本物の宝箱が1個だった。


 ミミックはブラドとゼルがテキパキと倒したから、収納袋の素材としてミミックはDMUの職人班が喜んでその到着を待つに違いない。


 本物の宝箱を収納リュックにしまい、残るはリルがハズレ入りと鑑定した9個の宝箱だ。


『開けてみるね』


「頼んだ」


 リルは<仙術ウィザードリィ>で順番にハズレ入りの宝箱を開けてみた。


 石ころとたわし入りの宝箱が3つずつというのはハズレとしてわかりやすい。


 ところが、一見ハズレとはわかりにくいものが残る3つから発見された。


 1つ目は見るからに強そうな両手剣。


 2つ目はパッと見る限りでは加工済みのルビー。


 3つ目は金貨らしきものが入った革袋。


 この3つは鑑定士やリルのような鑑定系アビリティを持つ従魔でなければハズレとわからずに大喜びする可能性が高い。


「リル、この3つについて解説頼んで良い?」


『任せて。まずは両手剣だけど、これの名前はキログラム。神話で有名なグラムの偽物だよ。重量が1kgになるように調整されてるの』


「1kgの剣じゃ両手剣としては軽いな。片手剣なら丁度良いかもしれないけど」


 キログラムはなんちゃって武器だった。


 これを片手で扱えば両手剣を片手で軽々と扱うなんてと尊敬の眼差しを向けてもらえるかもしれないが、鑑定すればタネがわかるという点で残念な代物だ。


『次のルビーに移るね。これはただの偽物じゃないよ。三次覚醒以上の鑑定士かDEXとINTが2,000以上の鑑定系アビリティを持つ従魔以外見抜けない細工が施されてる』


「騙す気満々じゃん」


『そうだよね。でも、僕やパンドラ、茂は看破できるから安心してね』


「さすリル」


「クゥ~ン♪」


 藍大にわしゃわしゃと撫でてもらってリルが嬉しそうに鳴いた。


『最後の金貨は金メッキの偽物だよ。知識のある人なら重さが違うからすぐにわかるはず』


「金貨が金貨じゃなかったと知ったら凹むよな」


『僕とサクラ、それからブラドとモルガナがいればご主人が宝箱で損することはないよ』


「ちょっと待つのだリル。なんで吾輩とモルガナもそこに含まれておるのだ?」


『ブラドとモルガナは宝箱のプレゼント係でしょ?』


「プレゼント係ではないのだ! 今まで全て見つけられてるだけでプレゼントしてるつもりは微塵もないのである!」


『m9(^Д^)9mプギャー!!』


 (ゼルさんや、それは容赦がないのでは?)


 リルの純粋な発言に対して抗議するブラドを見てゼルは嘲笑する。


 これにはブラドも涙不可避だろうから、藍大は何も言わずにゼルの吹き出しを隠した。


 従魔達の気持ちを切り替えて藍大達は大量の宝箱があった空間の奥にあったボス部屋の扉に手をかける。


 3階は大半の者が宝箱で落ち込んでメンタルがやられた後にボス部屋に挑ませる仕様らしい。


 ボス部屋の中には両手斧を担いだ真っ赤なボディのミノタウロスがいた。


「バーストミノタウロスLv85。攻撃後に爆破の追加効果があるアビリティを使うぞ」


『牛肉だ~!』


 リルは藍大の簡単な解説が終わった時には既に<雪女神罰パニッシュオブスカジ>でバーストミノタウロスを冷凍保存していた。


「解体は任せるのだ」


 それに続いてブラドが<解体デモリッション>を行い、可食部を少しでも多く確保した。


 食いしん坊2体による食欲が生んだ無駄のない連係プレーだった。


 リルとブラドを労った後、藍大は戦利品回収を済ませて魔石をゼルに与える。


 ブラドは”ダンジョンマスター”の魔石を欲しがっており、ゼルは早く女帝になりたいのでこれで良いのだ。


「ゼル、おあがり」


『(人ω・*)ありがとう』


 ゼルが藍大から魔石を貰って飲み込んだことにより、色白な肌が潤って美しさが増した。


『ゼルのアビリティ:<傲慢プライド>とアビリティ:<敵意押付ヘイトフォース>がアビリティ:<傲慢女帝プライドエンプレス>に統合されました』


『ゼルがアビリティ:<知識強化ナレッジライズ>を会得しました』


『ゼルの称号”傲慢の女王”が称号”傲慢の女帝”に上書きされました』


『初回特典として天照大神の力が70%まで回復しました』


 (どっちもゼルにぴったりなアビリティだ)


 藍大は新たにゼルが会得したアビリティに付いて確認してそう思った。


 <傲慢女帝プライドエンプレス>は自分が望む姿になれるだけではなく、自分が嫌な存在を強制的に遠ざけられる効果がある。


 変身能力以外に防御にも使えるのだからお得なアビリティと言える。


 <知識強化ナレッジライズ>は身に着けた知識の量だけ能力値が上がるアビリティであり、しょっちゅうネットサーフィンしているゼルにはうってつけだった。


「ゼル、相性の良いアビリティがゲットで来て良かったじゃん」


『(σ゚∀゚)σSO・RE・NA』


 藍大は顔芸とセットで顔文字を出すゼルの頭を撫でてやった。


 ゼルが満足するまで甘やかした後、藍大達は4階へと移動した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る