第647話 天姉、OUT
帰宅した藍大達を子供達が迎える。
「「「「「おかえり~!」」」」」
「おかえり! 藍大、お腹空いた!」
子供達の後ろから笑顔で空腹を告げる舞がいるのを気にしてはいけない。
その後にサクラが遅れてやって来る。
「主達おかえり。今日も宝箱あった?」
「すぐに作るよ。宝箱もあったぞ。開けてもらえる?」
「わかった。今日は何にする? サラダスピナー? オメガヴィスペン?」
「オメガヴィスペンも興味あるけど、サラダスピナーかな。家族全員に提供するサラダの水切りって地味に大変だし」
サラダスピナーは蓋に付いたハンドルを手動で回すハンドルタイプであり、回転スピードや回数を調節でき、好みの水切り具合に調節しやすい。
オメガヴィスペンとは見た目は独特の形をしているが、これだけで炒める、混ぜる、潰す、掬う、捏ねる等、様々な調理方法ができる万能調理器具だ。
今回は藍大がサラダスピナーを希望した。
「任せて。あっ、珍しい。ボウル素材が樹脂でできてるよこれ」
『ご主人、ユグドラシルサラダスピナーだよ。樹脂もユグドラシルから分泌されたものだって』
「総ユグドラシル製か。良いね。サクラもリルもありがとな」
藍大はサクラとリルに感謝してからユグドラシルサラダスピナーを受け取った。
それはそれとして、お腹を空かせた食いしん坊ズが集まって来たので藍大はサクラとメロに手伝ってもらいながら急いで昼食の準備をした。
早速、ユグドラシルサラダスピナーも使ってサラダも用意することになるのだが、メロが特にこれを気に入ったらしい。
優月達子供組がユグドラシルサラダスピナーに触りたがっていたが、その視線に気づくことなく夢中でハンドルを回していた程だ。
ミドガルズオルムのハンバーグとサラダ、主食は炊き立ての神米だから食いしん坊ズを筆頭にモリモリと食べる。
昼食が終わったら家族みんな大満足な様子だった。
食休みに寛いでいたところで伊邪那美がポンと手を打つ。
「そういえば、天照大神が藍大を呼んでおったのじゃ」
「伊邪那美様、今思い出したの?」
「仕方なかろう。藍大のハンバーグは最優先事項なんじゃから」
「『わかる』」
舞とリルがうんうんと伊邪那美の言い分に頷いた。
神託が安い間柄とはいえ、天照大神はまだ地下神域でしか実体化できないから待っている可能性が高い。
藍大が地下神域に向かおうとすると、昼食を食べた分運動しようとぞろぞろみんな付いて行く。
地下神域に移動した藍大達は天照大神が黄金の林檎の樹の枝からぶら下げたブランコを漕ぐ姿を見つけた。
独りぼっちでブランコを漕ぐその姿にはどこどなく哀愁を感じる。
天照大神は藍大達を見つけるとブランコから降りて姿勢正しく歩き、藍大達の前で止まる。
人前では威厳を保ちたいようだけれど、ブランコを漕いでいる時の姿が威厳を台無しにしている。
今日も今日とて残念な女神である。
「やっと来ましたね藍大」
「ごめんな天姉。天姉が呼んでるって今聞いたんだ」
「・・・お母様?」
天照大神は藍大達と一緒に来た伊邪那美にジト目を向ける。
供え物の食事を早々に食べ終えてしまったため、暇を持て余していた天照大神としては伊邪那美がハンバーグに気を取られて自分の伝言を忘れていたことに物申したいようだ。
伊邪那美は天照大神のジト目に耐えられずに口を開く。
「だって藍大のハンバーグで頭がいっぱいになってしまったんじゃもん」
「お母様、じゃもんではありません。かわい子ぶる前に歳を考えて下さい」
「なっ、妾はまだピチピチなのじゃ!」
「のじゃとか言ってる時点で若くありません!」
(なんか母娘喧嘩が始まりそうなんだが)
藍大が止めなくてはと思っていた横でゼルが一歩前に出る。
『ヤレヤレ━━━(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)ケンカダケンカダ━━━━!!』
「煽るなっての」
こういった時のゼルに期待してはいけない。
藍大はゼルの脳天にゆっくりと手刀を落としてツッコむ。
『↓↓↓ショボ─(o´・ェ・`o)─ン↓↓↓』
「そう落ち込むなよ」
ゼルの顔文字が思っていたよりも落ち込んでいたので藍大は慌ててゼルの頭を撫でる。
『しゅき…..φ(〃∇〃 )))』
(立ち直り早くね!?)
ゼルがすぐに自分に甘えて抱き着くものだから、藍大はしてやられたと気づいた。
ツッコミを入れられてもゼルは全然へっちゃらだったのである。
その一方、伊邪那美と天照の母娘喧嘩を止めるにはどうすれば良いかとゴルゴンが案を出した。
「わかったわっ。須佐之男を連れて来ればいいのよっ」
「止めるです! 話が拗れるです!」
須佐之男命は藍大の舎弟になったことにより、今では逢魔家のメンバーから須佐之男と呼び捨てで呼ばれている。
これは須佐之男命自身の希望なのだ。
舎弟である自分が敬称で呼ばれるのはおかしいと訴え、もしも自分を須佐之男命と呼ぶのなら自分も藍大を神兄貴と呼ぶと言った。
神兄貴と呼ばれたくない藍大は須佐之男命を須佐之男と呼び捨てることに決め、それ以外の家族もそれに倣うことになったのだ。
ゴルゴンが須佐之男命を呼ぼうとした理由だが、彼を連れて来ることで場が乱れて結果的に伊邪那美と天照大神が協力して場を収めるだろうと思ってのことである。
考えていないようで考えているゴルゴンの案だけれど、メロは単純に話が拗れるから別の方法でどうにかするべきと訴えた。
藍大は年齢の話で言い争う2柱に対し、争いを止める魔法の言葉を口にする。
「仲良くしないと夕食抜きだぞ」
「妾達とっても仲良しじゃぞ!」
「そうです。私はお母様と仲良しです」
夕食抜きだけは避けたい伊邪那美と天照大神が仲直りするまで一瞬の出来事だった。
2柱が笑顔で肩を組んでそう言うあたり、藍大に完全に餌付けされていると言えよう。
「うんうん。藍大のご飯が食べられないなんて嫌だよね」
『ご主人の作るご飯は最高だよね』
「吾輩も全面的に同意なのだ」
食いしん坊ズが伊邪那美と天照大神の態度が急変したことに納得した。
餌付けされた者達の思考回路はみんな同じらしい。
「よろしい。ところで、天姉が俺をここに呼んだ理由は何? みんなが午後の運動について来たのもそうだけど、俺としては天姉の用事を聞きに来たんだよね」
「そうでした。藍大達のおかげで私の力も順調に戻って来て、この神域にいるおかげで藍大に加護を授けられるだけの力を取り戻せました。ということで差し上げますね」
そう言った次の瞬間には天照大神が藍大に正面から抱き着いた。
『逢魔藍大は称号”天照大神の神子”を獲得しました』
『おめでとうございます。逢魔藍大は世界で初めて3柱の神子の称号を獲得しました』
『初回特典として逢魔藍大の収納リュックに
藍大が伊邪那美の声による知らせを受け取った後、舞とサクラが天照大神を藍大から引き剝がす。
「「天姉、OUT~」」
『デデ~ン!!(゚Д゚ノ)ノ』
「ゼルならそう言うと思ったです」
舞とサクラの言葉に釣られてゼルがここぞとばかりにボケたため、メロはやれやれと首を横に振った。
ゴルゴンは伊邪那美と伊邪那岐が藍大に加護を与えた時のことを思い出し、自分の興味を優先して訊ねる。
「そんなことより天姉はマスターにテレパシーの他にどんな力を与えたのかしらっ?」
「私が藍大に授けたのは天候における能力値向上です。晴れで1.5倍、曇りで1.2倍、雨や雪、雷、台風ならば変更なしです」
「ダンジョンの中はどうなのよっ?」
「ダンジョン内は基本的に晴れと判断されます。暗い所は曇り扱いであり、雨や雪、雷、台風はそういう仕様としてあるでしょうからそのまま適用されます」
『つまり、ご主人が安全である確率が上がったんだね!』
「リルに美味しいとこを取られたのよっ」
ゴルゴンが結論を述べようとしたところ、リルにそれを先に言われてしまってゴルゴンは膝から崩れ落ちた。
藍大はそんなゴルゴンの肩を優しく叩く。
「まあまあ。ゴルゴンのおかげで疑問が解決できたじゃないか。ありがとな」
「マスター!」
ゴルゴンは藍大に抱き着いた。
自分のことをしっかりと見てくれて嬉しかったようだ。
その後、藍大がメロに神蜜柑の種を預けたところ、とても嬉しそうに植え始めたのは言うまでもない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます