第646話 茂が羨ましがりそうな称号持ってる

 3階は最初からボス部屋の扉があった。


「これはどっちだ? 中ボス? ”ダンジョンマスター”?」


「中ボスに決まってるわっ。次が”ダンジョンマスター”だったらこのダンジョンはショボ過ぎなのよっ」


「私もそう思うです。次でラストじゃ簡単すぎるです」


『(*´艸`)チョーヨユウ』


「拙者も同感でござる」


 藍大に訊かれて仲良しトリオとモルガナが自分達の考えを言っている中、リルだけがじっとボス部屋の扉を見ているので藍大は声をかける。


「リルはどう思う?」


『食べられるお肉だったら良いな』


「ブレないなぁ」


『ワフン、僕にかかれば中ボスでも”ダンジョンマスター”でも変わらないからね』


 藍大がドヤ顔のリルの頭を撫でれば、リルは嬉しそうに目を細めた。


 それからボス部屋の扉の中に入ってみると、部屋の中央にいたのはシャングリラダンジョンで見たことのある形のモンスターが待ち構えていた。


 老人の顔にライオンの胴体、背中には蝙蝠の翼、それに加えて蠍の尻尾を持つそれは色違いのマンティコアであり、仲良しトリオを見て下卑た笑みを浮かべる。


「べっぴんな雌が3体もおるのう。儂の遺伝子を残さぬか?」


「拙者だって雌でござる!」


 モルガナが怒りの<冷獄吐息コキュートスブレス>でマンティコアLv70を凍らせた。


 自分だけが雌扱いされなかったことに怒ったようだが、<熔解吐息メルトブレス>を使わないだけの理性は残っていたらしい。


 もしも全力で<熔解吐息メルトブレス>を放っていたら、マンティコアは魔石を除いてドロドロに熔けてしまっていたに違いない。


「まあまあ。マンティコアにエロい目で見られなくて済んだんだから、そこは良しとしようぜ?」


「・・・それもそうでござるな。あんなエロ爺の下卑た視線を向けられなかったことを前向きに受け止めるでござる」


「見られ損だわっ」


「マスター、慰めてほしいです」


『(´;ω;`)癒して』


 モルガナは落ち着きを取り戻した一方、仲良しトリオはマンティコアに向けられた視線が不愉快だったようで藍大に抱き着いた。


「大丈夫だ。モルガナが倒してくれたから安心してくれ」


「ニヤケ顔のまま凍ってキモイのよっ」


「ゴルゴン、あの顔爆破させるです」


『( °∀ °c彡))Д´) ヤッチャエ』


「落ち着け。すぐに解体するから」


 ニヤケ顔のマンティコアを放置していると仲良しトリオが嫌がるから、藍大はリルに頼んでマンティコアを解体してもらった。


『ご主人、終わったよ。魔石はどうする? 中ボスでも”希少種”だったよね』


「そうだなぁ。この魔石ならゴルゴン達もアビリティを強化できそうだけど欲しがらないんじゃないか?」


 リルはマンティコアを鑑定しており、それがただの中ボスではなく”希少種”だったことを告げた。


 藍大もモンスター図鑑でその事実を確認していたけれど、仲良しトリオの誰もエロいマンティコアの魔石なんて欲しがらないのではないかと3人に視線をやる。


「ま、魔石に罪はないんだからねっ」


「ゴルゴンが嫌なら私が貰うです」


『ワタシガモラッテモイイヨ(๑╹ω╹๑ )ウン・・・』


 仲良しトリオは現金な3人組だった。


 ツッコミたい気持ちはあったが、それをグッと堪えて藍大は順番だからゴルゴンに魔石を差し出した。


「ほら、魔石だぞゴルゴン」


「いただくのよっ」


 魔石を飲み込んだゴルゴンの蛇髪がツヤツヤになった。


『ゴルゴンのアビリティ:<嫉妬エンヴィー>とアビリティ:<幻影陽炎ファントムヘイズ>がアビリティ:<嫉妬女帝エンヴィーエンプレス>に統合されました』


『ゴルゴンがアビリティ:<舞踊ダンス>を会得しました』


『ゴルゴンの称号”嫉妬の女王”が称号”嫉妬の女帝”に上書きされました』


『初回特典として天照大神の力が50%まで回復しました』


 (天姉の回復速度が他よりも上がってる?)


 ゲンが”怠惰の帝王”になった時に天照大神の力が回復したにもかかわらず、またしても天照大神の力が回復したら藍大がそのように考えるのも当然である。


 三貴子の残り2柱よりも早く天照大神が復活した方が、まんべんなく回復するよりも良いと伊邪那美が考えたのかもしれない。


 それはそれとして、<嫉妬女帝エンヴィーエンプレス>は以前よりも強化されていた。


 ゴルゴンの嫉妬する思いの強さに応じて変身するだけでなく、分身を創り出したりその分身の姿を変えることまでできるようになったのだ。


 藍大は先程から褒めてほしそうな視線を向けて来るゴルゴンを褒める。


「”嫉妬の女帝”になれて良かったな。髪もツヤツヤになったし」


「私が女帝なのよっ」


「よしよし。愛い奴め」


 ドヤ顔している姿は威厳よりも可愛さが目立つので、藍大は微笑みながらゴルゴンの頭を撫でた。


 ゴルゴンが満足した後、戦利品回収を済ませて藍大達は4階へと移動する。


 そして、またしても上ってすぐにボス部屋の扉があった。


「今度こそ”ダンジョンマスター”の部屋だと良いんだが」


『僕もそう思うよ。今度こそ食べられるモンスターが良いな』


「どうだろうな。このダンジョンってまともに食べられるモンスターいなかったし」


『美味しいモンスター出て来い!』


 (リルの物欲センサーが働きませんように)


 リルが<仙術ウィザードリィ>でボス部屋の扉を開くと、木々が生い茂る部屋の中に緑色の羽毛と真っ赤な嘴を持つ大きな鳥がいた。


「クェェェェェ!」


『ご主人、この鳥が自分を食べろって言ったよ!』


「落ち着けリル。あいつは猛毒持ちだしさっきのはただの鳴き声だ」


「クゥ~ン・・・」


 リルは藍大の言葉にしょんぼりした。


 藍大はリルの頭を撫でて慰めつつ、敵の正体を改めてモンスター図鑑で確認した。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:チン

性別:雌 Lv:85

-----------------------------------------

HP:1,700/1,700

MP:1,800/1,800

STR:1,200

VIT:1,200

DEX:1,800

AGI:2,000

INT:2,000

LUK:1,300

-----------------------------------------

称号:ダンジョンマスター(N12)

   毒を食らわば皿まで

   鉄の胃袋

アビリティ:<猛毒雨ヴェノムレイン><猛毒砲ヴェノムキャノン><猛毒爪ヴェノムネイル

      <猛毒霧ヴェノムミスト><猛毒吸収ヴェノムドレイン

      <猛毒鎧ヴェノムアーマー><全半減ディバインオール

装備:なし

備考:毒が足りない

-----------------------------------------



 (茂が羨ましがりそうな称号持ってる)


 チンとは鴆のことであり毒塗れなことは置いておくとして、藍大はその称号欄に茂が欲しがりそうな称号を見つけた。


 毒に特化したその体は食用に向かず、調理の段階で毒を取り除くこともできない。


 これにはリルが落ち込んでしまうのも頷ける。


 しかし、チンの素材は薬士である奈美にとっては是非とも回収してもらいたいものだろう。


 そう考えた藍大はリルを元気づけるべく魔法の言葉を口にする。


「今日のランチはミドガルズオルムのハンバーグだぞ」


『ハンバーグ!』


 リルはハンバーグと聞いた瞬間に<雪女神罰パニッシュオブスカジ>でチンをカチコチに凍らせた。


 N12ダンジョンで食べられるモンスターがほとんどいなかったことなんてどうでも良くなるぐらい、ハンバーグという言葉には力があった。


 藍大に指示を貰うよりも早く魔石だけをチンから取り出し、リルは<仙術ウィザードリィ>でそれを藍大に渡した。


『ご主人、チンの魔石だよ! 美味しいハンバーグが待ってるから早く帰ろう!』


「ありがとう。これぞ食いしん坊だな。少しだけ待っててくれ。メロ、魔石だぞ」


「いただくです」


 リルが早く帰ろうと目で訴えるので、メロはそれに急かされてチンの魔石を飲み込んだ。


 それによってメロの肌が赤ちゃん肌になった。


『メロのアビリティ:<強欲グリード>とアビリティ:<魔力接続マナコネクト>がアビリティ:<強欲女帝グリードエンプレス>に統合されました』


『メロがアビリティ:<妖精粉ピクシーパウダー>を会得しました』


『メロの称号”強欲の女王”が称号”強欲の女帝”に上書きされました』


『初回特典として天照大神の力が60%まで回復しました』


 (天姉優先路線で確定だけど、そんなことよりメロがすごいことになってる)


 藍大はメロが新たに会得した2つのアビリティの効果をモンスター図鑑で調べて驚いていた。


 <強欲女帝グリードエンプレス>は自身の欲望が強ければ強いかMPを注ぐ程、自分が生産に関わった物の質が向上する効果があるだけでなく、食材の生産に限定して欲望の強さに比例してバフ効果が付与される。


 <妖精粉ピクシーパウダー>は浴びた者が制限時間はあるものの空を飛べるようになる。


 どちらもとんでもないアビリティと言えよう。


「メロ、良いアビリティがゲットできたな」


「エヘヘです♪」


『次は私だからねっo(´>ω<`)o』


「真似されたのよっ」


 藍大に甘えるメロを見てゼルが次は自分が女帝になる番だと主張し、その顔文字が自分の喋り方に似ているとゴルゴンは驚いた。


 リルがお腹を空かせて待っていたため、藍大はモルガナがN12ダンジョンを掌握したことを確認して戦利品も回収してから帰宅した。

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