第645話 神じゃないから。魔皇帝だから

 翌日、藍大はリルとゲン、仲良しトリオ、モルガナを連れて旧C国のN12ダンジョンにやって来た。


 子供達の世話は交代で行うため、舞とサクラ、ブラドが仲良しトリオとモルガナの代わりに留守番している。


 N12ダンジョンは”大災厄”のレラジェが誕生したダンジョンであり、1階の内装は森だった。


「私も女帝になるんだからねっ」


「私だって女帝になるです!」


『( *¯ ꒳¯*)傲慢の女帝に私はなる!』


「拙者は女帝になれないでござるがどうすれば良いでござる?」


 仲良しトリオは七つの大罪の強化に燃えているけれど、七つの大罪のどれにも当てはまらないからモルガナは首を傾げていた。


 そんなモルガナにリルがアドバイスする。


『美味しそうな食材をいっぱい狩れば良いんだよ。ご主人がそれを料理してくれるから』


「その通りでござるな! いっぱい狩るでござる!」


 食いしん坊は素直でモチベーションの管理が容易いとわかる瞬間だった。


 リルはモルガナをやる気にさせた直後、自分の視界の中で敵の姿を見つけたらしい。


『あっちの木の上を見て。コボルドスナイパーの集団が隠れてるよ』


「・・・確かに。ちょっと距離があるけどどうしようか」


「アタシがやるのよっ」


 そう言ってゴルゴンが<緋炎支配クリムゾンイズマイン>を発動し、緋炎の蛇が木の陰に潜んでいるコボルドスナイパー達に向かって一直線に飛んで行く。


 隠密行動に自信があったようだが、リルの索敵能力をもってすればコボルドスナイパー達は丸見えなのだ。


 コボルドスナイパー達は慌てて木の枝から飛び降りるけれど、緋炎の蛇に飲み込まれてあっけなく力尽きた。


 それだけでなく、炎が木々に移ってダンジョン内で火事になっている。


 火事が起きたことに驚いたモンスター達がその場から逃げ出していく。


「ゴルゴンはお馬鹿です! 火事になるってわからなかったですか!?」


「そ、そのぐらいわかってたのよっ。今のは隠れてたモンスターを炙り出すためにやったんだからねっ」


「本当ですか~?」


「あ、当たり前なのよ」


 メロにジト目を向けられたゴルゴンの語尾は弱かった。


 完全に偶然である。


「火事になっても探索の邪魔だから火を消すぞ」


 藍大はゲンの力を借りて<液体支配リキッドイズマイン>を使い、火事になっている辺りの大気中の水分を集めて雨を降らせて消火した。


「殿が平然と気候を操ってるでござるなぁ」


『(*´꒳`*)マスターが神だった』


「神じゃないから。魔皇帝だから」


『きっと時間の問題だよ。僕だって神獣なんだもん。ご主人が神になれないはずないよ』


「今は魔皇帝でもいずれ魔神になるはずだわっ」


「私も魔神に1票です」


『(・ω・)ノワタシモー』


「拙者も同感でござる」


 従魔達の中では藍大が神認定されるのは時間の問題という共通見解があるようだ。


 藍大が呑気にリル達と喋っていた時、消火されたことに気づいた1階のモンスター達がよくもやってくれたなと藍大達に突撃して来た。


「動きを止めるのは任せるです」


 メロが<停怠円陣スタグサークル>を発動したことにより、モンスターの混成集団の突撃の勢いが一気に落ちた。


『(=゚ω゚)ノ ---===≡≡≡ 卍 シュッ!』


 ゼルが<創氷武装アイスアームズ>で無数の氷の手裏剣を創り出し、それらをそのまま集まったモンスター達に放てば一網打尽である。


「ちゃっかり”掃除屋”とフロアボスまで倒してるじゃん」


 藍大は倒したモンスター達の中に1階の”掃除屋”と”フロアボス”がいることに気づいた。


 ”掃除屋”はコボルドサージェントLv30でフロアボスはハンターイーグルLv35だった。


 いずれも藍大達にとっては雑魚というべき実力なのは低階層ゆえに仕方あるまい。


 戦利品回収を済ませた藍大達は、2階への階段をさっさと探して先に進んだ。


 2階も森の内装であることに変わりはなかった。


 ところが、1階にはなかったものがリルには見えていた。


『ご主人、この森はあちこちに細い糸が張り巡らされてるよ』


「マジか。俺には見えないけどリルにはわかるんだよな」


「アタシもわかるのよっ」


「そうなのか?」


 最近の推理力は目を見張るものがあるが、うっかりしているところが治らないゴルゴンの発言はリルに張り合って行っているだけなのか本当なのか判断しにくい。


 それゆえ、藍大はどっちだろうかと首を傾げた。


「マスター、その目は信じてないのねっ。酷いわっ」


「う~ん、信じてない訳じゃないんだけどゴルゴンはうっかりしてるからなぁ」


「わ、わかったのよっ。こうなったらアタシが罠を全部解除してみせるんだからねっ」


 ゴルゴンは拳をグッと握って<爆轟眼デトネアイ>で糸が張り巡らされていると判断した場所を次々に爆破し始めた。


 (ゴルゴンのトレンドは環境破壊らしい)


 藍大は糸どころか木々が次々に爆破されて行く様子を見てそのような感想を抱いた。


『た~まや~(,,・e・)pー━**※*⌒*』


「絶対にゴルゴンには地下神域で火を使わせないです」


 ゼルはぼんやりと眺めているだけだが、メロは今の調子で火を使わせると地下神域で自分が育てている作物に被害が出ると判断したようだ。


『僕もゴルゴンが調子に乗ってやらかさないように注意するね』


「拙者も注意を払うでござるよ」


「ありがとです」


 食いしん坊ズはいつだって生産者の味方である。


 そうとは知らずにゴルゴンは糸と一緒に森も破壊して視界がクリアになったことでスッキリした表情を見せる。


「ミッションコンプリートだわっ」


「よくやった。でも、糸だけじゃなくて森全体を破壊してね? モンスターもあちこちで倒れてるし」


「・・・勝てば良かろうなのよっ」


 ゴルゴンは一瞬やってしまったと言う表情を見せたけれど、誤魔化すようにドヤ顔で言ってのけた。


 その考え方は間違えではないので藍大はやれやれと思いつつゴルゴンの頭を撫でた。


「よしよし。次からは気を付けような」


「わかったわっ」


 今度は素直に応じるゴルゴンを愛い奴めと藍大がその頭を撫でている一方、リルはゴルゴンによって爆破された木の根元を掘っていた。


「リル先輩、宝箱がそこにあるでござるか?」


『そうだよ。僕の直感がここを掘れって告げてるの。ほら、あった』


「拙者にリル先輩を欺ける日は来るのでござろうか」


『来ないよ。どこに隠しても僕が必ず探し出すから』


「夢も希望もないでござる!」


 宝箱絶対探すマンであるリルを欺いて宝箱を隠し通すのは極めて難しい。


 何故なら、”アークダンジョンマスター”のモルガナどころか”ダンジョンロード”のブラドですら毎回リルとの勝負に負けているからだ。


 モルガナがしょんぼりしているのはスルーし、リルは<仙術ウィザードリィ>で宝箱を地面の上に置いてから藍大に声をかける。


『ご主人、宝箱見つけたよ』


「流石はリル! リルに探せない宝箱はないな!」


「クゥ~ン♪」


 リルは藍大に頭を撫でられてご機嫌な様子で鳴いた。


 藍大は宝箱を回収した後、モルガナを励ましてからゴルゴンの爆破で力尽きたモンスター達を回収していく。


 その結果、またしても”掃除屋”を気付かぬ内に倒してしまったことがわかった。


 2階は虫型モンスターの巣窟と呼ぶべきフロアであり、”掃除屋”はスネアスパイダーという罠に嵌めたところを他の虫型モンスターに追撃させる特性を持つモンスターだった。


 そんなスネアスパイダーもろともこのフロアの虫型モンスターの大半がゴルゴンの爆発で倒れている。


 後はフロアボスを倒すだけで3階に進めるのだから、N12ダンジョンの探索はかなり簡単だと言えよう。


 藍大達が戦利品回収を済ませてフロアボスを探していくと、辛うじて木々が残っているエリアに寝息を立てている巨大な蟷螂の姿があった。


「スリープマンティスLv50。寝てても近づいた敵がいれば反射的に斬りかかるフロアボスだ」


「だったら遠くから狙い撃つです」


 藍大からフロアボスの戦力分析を聞いた直後、メロが<植物支配プラントイズマイン>で種を弾丸のように射出した。


 撃ち出された種がスリープマンティスの反射速度よりも速くその頭部を貫通し、スリープマンティスは種族特性を活かすことなく倒れた。


「お見事。メロは狙撃のプロだな」


「エヘヘです。もっと褒めても良いですよ?」


「愛い奴め」


 甘えて抱き着いて来るメロが可愛くて藍大はそのまま甘やかした。


 その後、2階もあっさりクリアした藍大達は戦利品を回収してから3階へと進んだ。

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