第649話 ご主人、僕はこの時を待ってたよ

 4階はいきなりボス部屋の扉から始まった。


 リルに<仙術ウィザードリィ>で開けてもらって中に入れば、そこは遺跡の財宝置き場と思しき内装の部屋だった。


 その中にいるのは猪の牙を持つ人面の巨大な虎である。


「ヒャッハァァァァァッ! 餌が来たぞぉぉぉぉぉ!」


 嬉々として自分達に突撃して来る敵に対し、藍大は咄嗟にエルの力を借りて<氷河時代アイスエイジ>で凍り付かせる。


「いきなりだな」


 やれやれと首を振りつつ藍大はモンスター図鑑で敵の正体を探る。



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名前:なし 種族:トウコツ

性別:雄 Lv:100

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HP:2,500/3,500

MP:2,700/3,000

STR:3,000

VIT:3,000

DEX:2,500

AGI:2,500

INT:2,000

LUK:2,000

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称号:ダンジョンマスター(S6)

   戦闘狂

   馬耳東風

   到達者

アビリティ:<破壊圧潰デストロイプレス><火炎波フレイムウェーブ><破壊尾鞭デストロイウィップ

      <破壊踏デストロイスタンプ><炎上咆哮ブレイズロア><炎上鎧フレイムアーマー

      <分裂学習スプリットラーニング><全半減ディバインオール

装備:なし

備考:氷結(解凍中)

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 (1,000しか削れなかったか。しかも、解凍中だし)


 藍大はエルの力を借りた攻撃がトウコツのHPを1,000しか削れなかったことに加え、トウコツが氷の中で<火炎鎧フレイムアーマー>を発動していることに気づいた。


「トウコツLv100。”ダンジョンマスター”なだけでなく、戦闘が大好きで他者の話を聞かないらしい」


『マザコンじゃなくて暑苦しい須佐之男だよ』


「だいたいわかったのだ」


『(○´・ω・`)bOK!』


「それでわかるのかよ」


 リルの要約を聞いてブラドとゼルが腑に落ちたと知って藍大は苦笑した。


 藍大達が情報共有を行っている間にトウコツは<火炎鎧フレイムアーマー>で氷を融かした。


「ヒャッハァァァァァッ! 餌だ餌だ餌だぁぁぁ!」


「その掛け声を止めるのだ!」


 ブラドが<憤怒ラース>でトウコツを爆発させた。


 トウコツの掛け声が戦闘中の舞を思い出させるらしく、感じたストレスを燃料にトウコツにダメージを与えた。


 しかし、トウコツはダメージに怯むことなく立ち上がって再び藍大達に突撃を仕掛ける。


「ヒャッハァァァァァッ! 俺様に餌を食わせろぉぉぉぉぉ!」


『(=゚ω゚)ノ ---===≡≡≡ 卍 シュッ!』


 今度はゼルが<創氷武装アイスアームズ>を発動し、無数の氷の手裏剣を放ってトウコツを迎え撃った。


 確かにダメージを与えられているはずなのに、トウコツは怯まずに突進を続ける。


 (こいつ、精神が肉体を凌駕してやがる)


「餌は黙って喰われろぉぉぉ!」


『下品な敵は嫌いだよ』


 唾を飛ばしながら迫るトウコツに対してリルは<神裂狼爪ラグナロク>を放ち、トウコツの頭と体を永遠に離れ離れにした。


「掌握完了である」


 トウコツが力尽きた瞬間、ブラドがS6ダンジョンの支配権を奪った。


 その直後に藍大の耳に伊邪那美の声が届く。


『おめでとうございます。旧C国において特に危険な3つのダンジョンを支配下に置きました』


『報酬として天照大神の力が80%まで回復しました』


 (なるほど。伊邪那美様のお願いを叶えたから報酬が出たのか)


 想定外だったものの理由に気づけば納得できたため、藍大は天照大神の力が回復したことを素直に喜んだ。


 それはそれとして、褒めてほしそうな顔で待機しているリル達の頭を順番に撫でる。


「お疲れ様。みんなよくやってくれた」


『ワフン、敵がお馬鹿さんだったから楽勝だったよ♪』


「突撃馬鹿はちょろかったのだ」


『(*^□^)チョロスギワロタ!』


 トウコツのステータスはこの3日間で藍大達が戦った中では最も強かったけれど、突撃を繰り返すだけのバトルスタイルでは藍大達に敵うはずがない。


 だからこそリル達は楽勝だとコメントした訳だ。


 リル達が満足した後、トウコツの解体を済ませて収納リュックに戦利品をしまい、藍大は残った魔石をブラドに与えた。


「ブラド、おあがり」


「いただくのである」


 ブラドがトウコツの魔石を飲み込んだ途端、モフ度が増した上にぬいぐるみボディの毛並みが綺麗になった。


『ブラドのアビリティ:<憤怒ラース>とアビリティ:<緋炎刃クリムゾンエッジ>がアビリティ:<憤怒皇帝ラースエンペラー>に統合されました』


『ブラドがアビリティ:<再生リジェネ>を会得しました』


『ブラドの称号”憤怒の王”が称号”憤怒の皇帝”に上書きされました』


『初回特典として天照大神の力が90%まで回復しました』


『逢魔藍大の称号”魔皇帝”が称号”魔神”に上書きされました』


『おめでとうございます。逢魔藍大が人から神の位階に到達しました』


『報酬として天照大神が完全復活しました』


『地下神域がアップグレードされます』


 (アナウンスが長い!)


 ブラドが”憤怒の皇帝”になったことで条件を満たして藍大の称号も変化した。


 そこまでは想像通りだったけれど、そこから先が藍大にとって予想外だった。


 それでもまずはブラドを祝うのが先と判断して藍大はブラドに声をかける。


「ブラド、無事に”憤怒の皇帝”になれたな。おめでとう」


「感謝するのだ。これで優月とユノに吾輩は皇帝になったと胸を張って言えるのである」


「よしよし。いつも優月とユノの面倒を見てくれてありがとな」


「気にしなくて良いのだ。吾輩が好きでやってるのでな」


 ブラドは嬉しそうに藍大に頭を撫でられていた。


 なんだかんだでブラドも藍大に甘えたいのだろう。


 ブラドが満足するのを待ってから、リルがニコニコと嬉しそうに藍大に声をかける。


『ご主人、僕はこの時を待ってたよ』


「リルにはお見通しか」


『勿論♪』


「何かあったのであるか?」


『(`・ω・´)何事?』


 リルがニコニコしている理由がわからないため、ブラドとゼルは首を傾げていた。


 そんなブラドとゼルに対して藍大は躊躇わずに答えを述べる。


「俺の称号が”魔皇帝”から”魔神”になった」


「ようやく主君が神になったのだ!」


『キタ━━━━≡゚∀゚)カ≡゚∀゚)ミ≡゚∀゚)サ≡゚∀゚)マ━━━!!!!』


 ブラドとゼルが喜んでいると、ゲンとエルがそれぞれアビリティを解除して藍大の前に姿を現した。


「おめ」


『ボス、おめでとうございます』


「みんなありがとう。まあ、神になったからと言って態度を変えるつもりはないから安心してくれ」


『そうだよね! ご主人は神様になっても僕達のご飯を作ってくれるって信じてたよ!』


 リルは左右に尻尾を振りながら藍大が今まで通り料理を作ってくれると聞いて喜んだ。


 食いしん坊は決してブレない。


 そこに天照大神から藍大にテレパシーが届く。


『藍大達のおかげで完全復活できました。ありがとうございます。直接会ってお礼を言いたいので早く帰って来て下さいね』


 藍大は了解と念じてリル達と共に帰宅した。


 帰宅した藍大は早速舞達に抱き着かれた。


「藍大~、神様になっちゃったんだね~」


「流石は主。私はとっても誇らしい」


「マスターが神なのよっ」


「神様です!」


「お、おう。神様になっちゃった」


 舞達の勢いが強くて押され気味な藍大は神様らしくない神様かもしれない。


 その後ろには地下神域から出て来た天照大神がいた。


「藍大、改めて感謝します。私を復活させてくれてありがとうございました」


 そう言って天照大神も藍大を抱き締める輪に加わる。


 それを見ていたゼルはニヤリと笑みを浮かべる。


『ヾ(・▽<)ノ 私も混ぜろ~!』


 ゼルがダイブするように抱きつくものだから、藍大達はバランスを崩して倒れた。


 ゲンが憑依していない以上、伊邪那岐の加護で生命力が強化されていても藍大は貧弱だ。


 藍大のピンチにリルが大急ぎで<仙術ウィザードリィ>を使って藍大を救助した。


「すまん、助かったよリル」


 重いとは決して口が裂けても言えないから、リルが素早く助けてくれたことは藍大にとって本当にありがたいことだった。


『やっぱりご主人には僕が付いてないと駄目だね』


「愛い奴め」


「リル君ばっかり狡い」


「モフモフで篭絡は反則」


「私達がいるんだからねっ」


「まだちょっとしか抱き着いてないです」


『(*´∨`*)モットモット』


「私もまだ感謝が伝え切れてません」


 (この状況を切り抜ける魔法の言葉の出番だな)


「昼食作るぞ」


 この言葉が出た瞬間、食いしん坊ズが藍大の味方になって玄関先の攻防は終結した。


 余談だが、サクラが宝箱からユグドラシルオメガヴィスペンを取り出したため、藍大はいつもよりもご機嫌な様子でキッチンに立ったのだった。

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