第636話 幼女って言わないで!
従魔と仲良く昼食を取った後、藍大達はルドラ達を連れて八王子ダンジョンの4階に移動した。
昨日の午後の部の成果でルーデウス達従魔組はLv40に到達しており、レベルをあと10も上げれば進化できるモンスターもいるだろう。
最初に藍大達の前に立ちはだかったのは5体のトロールだった。
いずれもLv50であり、これにはルドラ達主人組も指示を出すだけでなく参戦しなければならなかった。
「トロールなんて全部燃やせば一瞬なんだからねっ」
「眉間を撃ち抜けば終わりです」
『(●′∀`)σ)'Д`●)チョーヨユー』
「まあまあ。そう言ってやるなって。ルドラさん達が積極的に倒したら従魔のためにならないだろ?」
「我が家なら早い者勝ちだわっ」
「マスターに誰が褒めてもらうか競争になるです」
『ヾ(・▽<)ノ 強い者が総取りだぁ!』
仲良しトリオは自分達のパーティーと比べてルドラ達の狩る速度が遅過ぎて退屈なようだ。
そこでリルが窘めるように口を開く。
『おとなしくしてなきゃ駄目だよ3人共。あの人達に帰国する時に少しでも強くなっててもらわないと、ご主人が出動する回数が増えちゃう。そうなったらご主人が家族で過ごす時間が減っちゃうよ?』
「それは駄目なのよっ」
「我慢するです」
『(σ゚∀゚)σそれな』
リルの話を聞いて仲良しトリオはとんでもないとおとなしくした。
リルが頼もしい先輩従魔に見えたので藍大はリルの頭を撫でる。
「よしよし。流石はリルだ。よくわかってるな」
「クゥ~ン♪」
リルが気持ち良さそうに鳴くのを見て仲良しトリオがその後ろに並ぶ。
藍大には3人を無視することなんてできないから、順番にその頭を撫でてあげた。
ゼルの頭を撫で終わった頃にルドラ達がトロールを倒し終えた。
この戦闘だけでもどの従魔もレベルが3つは上がっており、良い経験を積めたのは間違いなかった。
その後はトロールだけでなくオーガも現れ、2回目の戦闘が終わった時にはルーデウスとノッコがLv45で2回目の進化を迎えた。
コッコナイトだったルーデウスはコカナイトに進化した。
見た目は卵の殻の破片を鎧のように纏うコッコベビーから、硬化した卵の殻を鎧のように纏うコカトリスの姿へと変わった。
(残念。コカナイトは飛べないらしい)
藍大はモンスター図鑑でコカナイトについて、空を飛びたがっていたルーデウスが空を飛べるようになったのか調べた結果、心の中でお悔やみ申し上げた。
それはリルも同じらしく、ルーデウスを見つめるリルの目から哀愁が感じられた。
その一方、リカーマッシュだったノッコはリカーマイコニドに進化した。
進化前は二足歩行する椎茸で軸の部分に顔が付いていたのだが、進化して椎茸の帽子を深く被った幼女へと姿を変えていた。
(あっ、幼女だ)
従魔が進化して幼女になる現象が自分だけに該当する訳じゃないと知って藍大はホッとした。
それでもホッとした感情を口にしないだけの分別が藍大にはあった。
しかしながら、その分別がゴルゴンとゼルにはなかった。
「幼女なのよっ」
『(σ`・∀・)σ幼女見つけた!』
昔は幼女トリオと呼ばれていた自分達のことを忘れてしまったのだろうか。
「ちょっと黙っとくです。失礼したです」
メロはそれをしっかり覚えていたため、ゴルゴンとゼルの口を塞いでぺこりと頭を下げた。
幼女と言われたノッコは傘を赤く染めるが、ムハンマドはテンションが爆発的に上がっていた。
『幼女キタ! 幼女キタ! 幼女キタァァァ!』
「幼女って言わないで!」
『へぶっ!?』
恥ずかしがったノッコがムハンマドの腹に頭突きをかまし、そのせいでムハンマドの肺から空気が吐き出された。
(そりゃ喋るか。人型だもの)
ゼルのように顔文字の吹き出しで意思疎通を図るモンスターは極めて稀であり、人型のモンスターならば大抵は人語を話せる。
藍大の耳にはノッコの言葉が日本語に聞こえるが、これはノッコが日本のダンジョンで召喚されたからである。
モンスターが喋れるようになった場合、そのモンスターの出身国によって喋る言語が異なると言うのは最新の発表で明らかにされていた。
蹲るムハンマドは完全に自業自得なので、ノッコを悪く言う者はいない。
ジュリアとマリッサ、インゲルはムハンマドにゴミを見る目を向けているし、ルドラはやれやれと苦笑していた。
ムハンマドが立ち上がれるぐらいに回復すると、藍大達は通路の先へと進んだ。
途中でトロールとオーガの混成集団を倒した後、藍大達は”掃除屋”のミノタウロスLv55と遭遇した。
「ブモォォォォォ!」
大勢の敵を前にしたミノタウロスが自分を鼓舞するように吠える。
それを見てリルはしょんぼりした。
『今回はあのお肉が僕達の物にならないんだね』
「そう落ち込むなよ。今日は懇親会だから厳しいけど、明日はミノタウロスよりも美味しい肉を食べさせてあげるから」
『本当? やった~!』
藍大に元気づけられたリルの尻尾はブンブンと振られており、しょんぼりしていた気分はあっという間にどこかへ行ってしまった。
それはさておき、ルドラ達はミノタウロスを前にして手短に打ち合わせを済ませる。
『ルーデウスがヘイトを集めます』
『ノッコがミノタウロスを酔わせて弱体化させます』
『アリシアも弱体化に協力しますね』
『バロンががっつり拘束するんで攻撃を畳みかけて下さい』
『カイゼルはガンガン行きます』
打ち合わせ通りにルドラ達は各々の従魔に指示を出して戦う。
ミノタウロスはヘイトを集めたルーデウスにばかり意識を向けているが、その隙にノッコとアリシアに弱体化させられてしまう。
それどころか木の根が酩酊して千鳥足になったミノタウロスを転ばせ、その後に両手両足を拘束する。
木の根を振り解けないミノタウロスの上にカイゼルが飛び乗ると、容赦なくミノタウロスを何度も踏みつけてから離脱した。
「ブモォ・・・」
無防備な姿で踏みつけられればミノタウロスにもかなりのダメージが通っており、そこに残り4体の従魔による攻撃が雪崩れ込めばミノタウロスのHPはあっという間に尽きてしまった。
「おめでとうございます。ミノタウロスを苦労せずに倒せましたね」
「「「「「師匠、ありがとうございます!」」」」」
「従魔達が待ってますよ。その喜びを従魔と分かち合って下さい」
「「「「「はい!」」」」」
ルドラ達は待ってましたと言わんばかりに甘える従魔と勝利の喜びを分かち合った。
『褒められてる時って幸せだよね』
「わかるのよっ」
「至福の時です」
『ヽ(≧▽≦)ノ"最高』
『わかる』
(やっぱりゲンも褒められると嬉しいんだ)
ゲンが自分にしか聞こえない声で褒められると嬉しいと告げたので、藍大は帰ったらゲンのこともしっかりと労わなければと心に決めた。
自分に憑依している分、どうしても他の従魔よりもゲンに直接触れて褒める回数は少なくなってしまう。
だからこそ、家に帰って<
ミノタウロス戦ではギリギリLv50に到達した従魔がいなかったけれど、フロアボスのワーウルフLv60を倒した時にはバロンとカイゼルが進化した。
バロンはバロメッツからドリアードに進化し、メロン模様のベレー帽を被ったショタという見た目になった。
カイゼルはノーブルホースからアールホースへと進化し、体表が黒っぽい紫へと濃くなった。
体つきがより一層逞しくなり、コクオーにも引けを取らないサイズである。
『逢魔藍大が外国人テイマー系冒険者の指導して従魔の進化に大きく貢献しました』
『初回特典として須佐之男命の力が20%まで回復しました』
(今回の合宿でまさかここまで進むとはね。ラッキーだわ)
天照大神と月読尊、須佐之男命はそれぞれ復活率が30%、20%、20%である。
今回の合宿のおかげで天照大神達がそれぞれ10%ずつ力を回復させたのだから、藍大にとってもちゃんと成果はあったと言えよう。
最後は打ち上げとして懇親会が控えているので、藍大達は八王子ダンジョンを脱出した。
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