第637話 ぜ~んぶちょうだい!
八王子ダンジョンを脱出した後、藍大達は懇親会の会場であるホテルに向かった。
「懇親会は大人のレディーらしく振舞うチャンスなのよっ」
『(。+・`ω・´)シャキィーン☆』
「その発言自体が既に大人のレディーからかけ離れてるですよ」
「がーん!?」
『( ゜Д゜;)なん・・・だと・・・!?』
そんな馬鹿なと落ち込む2人は確かに子供っぽかった。
体が大きくなって一児の母になったとしても、ゴルゴンとゼルにはまだまだ子供らしいところが残っているのだ。
仲良しトリオの中で最も大人っぽいのはメロだ。
それでもサクラには大人っぽさで負ける。
藍大の嫁5人で大人っぽさの高い順に並べると、サクラ>舞>メロ>ゴルゴン=ゼルである。
舞は戦闘中にヒャッハーしたり、食いしん坊で子供っぽい所もあるけれど、孤児院育ちであることもあってなんだかんだでしっかりしている。
仲良しトリオがわちゃわちゃしている一方で、リルは会場に料理が運び込まれたことに気づいて振り返っていた。
『ここのシェフも思い返してみれば腕を上げたよね』
「匂いだけでわかるのか?」
『うん。昨日もそうだったけど、調理士の
「言われてみれば今年は去年よりも美味しくなったと思う」
『でも、ご主人には遠く及ばないからまだまだだよ』
「愛い奴め。明日はちゃんと作ってあげるからな」
「クゥ~ン♪」
リルは藍大に顎の下を撫でられて嬉しそうに鳴いた。
藍大達がじゃれている間にルドラ達がやって来た。
今日の懇親会は従魔も一緒に食べられるようにとレイアウトが工夫されており、部屋の外に出ない条件でカイゼルも一緒に食事ができるようになっている。
ビュッフェ形式かつ立食であるからこそ、会場内にアールホースのカイゼルがいても狭さを感じさせずに済んでいる訳だ。
藍大はウェイターからグラスを貰ってから乾杯の挨拶を行う。
「皆さん、2日間の合宿お疲れ様でした。長い挨拶なんて不要です。乾杯!」
『『『・・・『『乾杯!』』・・・』』』
食事を気にしている従魔達の様子が見えたため、藍大は合宿参加者を軽く労ってから乾杯と告げた。
リル以外にも食いしん坊な従魔はいるようだ。
『ご主人ご主人、料理取って~』
「どれが食べたいんだ?」
『ぜ~んぶちょうだい!』
「しょうがないな」
藍大とリルのこのくだりはいつもの光景だった。
「ゴルゴン、ゼルもちゃんとバランスよく食べるですよ」
「わ、わかってるわっ。後でちゃんと野菜も食べるわよっ」
『ヾ(・ω・`;)ノチャントタベルヨ、ホントダヨ』
「大人のレディーなら栄養管理ができて当然です」
「しっかりやるわっ」
『(○´・ω・`)bマカセテ!』
(メロは2人の扱いが上手いなぁ)
ゴルゴンとゼルの食べたい料理ばかり取って偏った皿を見ると、メロがやれやれと首を横に振ってから2人を注意した。
強制的に食べさせるのではなく、ゴルゴンとゼルの大人のレディーへの憧れを利用した注意の仕方は上手いと言えよう。
リルが一通り食べたのを目で見て確認すると、ルドラ達が藍大の周囲に集まり始めた。
ルドラ達はリルの食事を邪魔してはいけないと5人の間で決めていたらしい。
藍大もリルの皿に取り分けてあげながら自分も食べていたため、それぐらいのタイミングで来てくれると都合が良かったのだ。
『師匠、お疲れ様です。2日間ありがとうございました』
「どういたしまして。皆さんの従魔はLv50に到達しました。Lv50と言えばまだまだ伸び代のある段階ですから、国に帰ってもしっかり鍛えて下さいね」
『『『『『はい!』』』』』
ルドラ達は元気に応じた。
実際のところ、Lv100に到達したからと言ってそれで成長限界ということはない。
その証拠が藍大の従魔達である。
強いモンスターの魔石を取り込んで強力なアビリティを会得したり、戦い方を工夫することで戦略の幅を広げたりと成長限界はないように思える。
「皆さんは2体目の従魔をどうするか考えてますか?」
『2体目はまだですね。ルーデウスをきっちり育てようと思ってましたから』
『ノッコを幼女から美少女に成長させることだけ考えてました』
『バロンをイケメンにして姉を悔しがらせることばかり考えてました』
『モフモフは1体じゃ足りませんから勿論考えてます』
『騎乗戦闘が楽しくて忘れてました』
(こいつ等テイマー系冒険者の強みをわかってないじゃん)
今育てている従魔に注意が向き過ぎており、2体目以降について考えているのがモフラーのマリッサだけだったと知って藍大は心の中で溜息をついた。
それだけ1体目の従魔を大事にしているのだと思いたいところだけれど、ムハンマドからは業が深いコメントが返って来たし、ジュリアも歪んだ感情が露呈している。
テイマー系冒険者は近接戦闘職から転職した者以外、1人では戦えないのが一般的だ。
藍大だってサクラを育てている途中でリルをテイムしたし、それでも足りないから舞が護衛をしていた。
そう考えれば2体目の従魔に何をテイムするのかルドラ達が考えていても良い頃合いなのだ。
やれやれと思った藍大も気持ちを切り替えてルドラ達に2体目以降の必要性を説き始める。
「確かに今育ててる従魔が大切なのはわかります。ただし、その従魔が苦手とするモンスターは一体誰が倒すんでしょうか? 主人である皆さんですか? 倒せる人も中に入るでしょうが、それはごく少数なはずです。いくつものモンスターをテイムしておくことで苦手に備えるのは重要ですよ」
藍大の言い分は至極もっともだ。
従魔士でもない限り、○○型モンスターのテイムに縛られることになる。
そこにリルも加勢する。
『サクラが苦手なものは僕がどうにかするし、僕にはどうにもできないのはサクラ達がフォローしてくれる。僕達は1体だけで完璧にはなれないんだ』
『わかりました。僕は後衛を担当する鳥型モンスターを探します』
『幼女になる植物型モンスターを探します』
『引き続き薬や食事の事情を改善できるモンスターを探すつもりです』
『後衛のモフモフを見つけて愛でます』
『支援が得意な獣型モンスターを見つけます』
藍大とリルの言葉を受け、ルドラ達は真面目に2体目の従魔について考えたようだ。
3人ぐらい欲望に塗れたことを言っているけれど、それはもう気にするだけ無駄だと藍大は判断した。
「帰国してからになると思いますが、今いる従魔の負担の軽減のためにも2体目のテイムは急いであげて下さい。それと食事にも気を遣いましょう」
『師匠、質問よろしいでしょうか?』
「どうぞ」
質問するべく挙手したのはジュリアだった。
『従魔と喧嘩したことはありますか?』
「ないと思います。みんなはどう思う?」
自分の認識では喧嘩したつもりはないため、藍大はリル達に喧嘩したことがあると思うか訊ねてみた。
その結果、リル達は全員首を横に振った。
『ご主人と喧嘩なんてしないよ』
「いつも仲良しなのよっ」
「私達は仲良し家族です」
『ィャィャ(〃≧∀≦)ゞソレホドデモアルヨネ』
これにはルドラ達が驚いた。
『今までに一度もないんですか?』
「私の従魔はみんな私の話をよく聞いてくれますし、私も従魔達の話をよく聞くようにしてますから」
『従魔同士で喧嘩することはないんですか?』
『しないよ。喧嘩したらご飯が美味しくなくなるもん』
インゲルが別の切り口で質問してみたが、リルは独自の理論で喧嘩することはないと告げた。
『これが師匠メシの力なんですね、わかります』
ムハンマドはうんうんと頷いた。
次はマリッサが手を挙げた。
「師匠、モフモフを誘惑する料理はないですか?」
『ご主人、天敵4号の質問に答えちゃ駄目だよ』
「よしよし。大丈夫だから落ち着こうな」
マリッサが恐ろしいことを訊ねるものだからリルはプルプルと震えたけれど、藍大がすぐにリルの頭を撫でて落ち着かせた。
真奈のファンであるマリッサは踊りで誘惑するのではなく、料理で誘惑して近づいてきたところをテイムするつもりのようだ。
リルは恐ろしいと言っているが、よくよく考えてみたら藍大もブラドやモルガナを餌付けしているので似たようなものだったりする。
この後も懇親会終了時刻まで藍大はルドラ達の質問を受けまくった。
今回の合宿で自分の負担が減ることを願って質問に応じ続けたが、藍大はしばらく合宿を開催するのも参加するのも断ろうと決めた。
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