第633話 ご主人、この人は天敵4号に決定だよ

 会議室に藍大達が戻って合宿は再開した。


「では、午後の部を始めます。突然ですが、皆さんは昼休みをどう過ごしましたか?」


 藍大の質問に対してルドラから順番に回答し始める。


『ルーデウスと一緒に売店で買った物を食べてました』


『ノッコを送還して近くのラーメン屋に行ってました』


『中庭で持参したお弁当をバロンと食べてました』


『ジュリアと同じで中庭に行ってアリシアと一緒にお弁当を食べてました』


『カイゼルを送還してカレー屋に行ってました』


「皆さん、回答ありがとうございました。前提として、従魔は亜空間に送還すれば空腹になることもなく、HPとMPが回復します。しかし、全ての従魔が亜空間に戻りたがるかは別です。主人のご飯を食べたがる従魔もいるでしょう」


 そのように藍大が言えば、呑気にラーメンやカレーを独りで食べに行っていたムハンマドとインゲルはしまったという表情になった。


 ルドラは2人を放置して手を挙げた。


『東洋の魔皇帝に質問です。従魔の料理は自分が作るべきでしょうか?』


「その質問については私ではなく、サクラ達に答えてもらいましょう」


 藍大がサクラ達の方を向くと、サクラ達は自分の意見を述べ始める。


「私は主の料理が好きだからいつも美味しく食べてる」


『僕はご主人と一緒の料理が食べたい。でも、ご主人の作ってくれた料理が一番美味しいからご主人が作ってくれるとすっごく嬉しいよ』


「拙者は殿の料理に惚れ込んでダンジョンから出て来たでござる。殿の料理が食べられなくなったら悲しいでござるよ」


 サクラ達は藍大の料理が好きだから食べているようだが、リルはそれに加えて藍大と同じ料理を食べたいという気持ちを述べた。


 リルは文字通り同じ釜の飯を食うことに重きを置いているらしい。


「・・・これからも毎日楽しみにしとけよ」


「「『は~い』」」


「わかったでござる!」


 しれっと舞が混ざっているけれど、いつものことなので気にしてはいけない。


「オホン、逢魔家はこんな感じで従魔達に期待されてる部分もあって自分で料理を作ってる。ルドラさんは料理に自信がないということでしょうか?」


『恥ずかしながらその通りです。作れない訳ではありませんが、レパートリーが少ないんです。普段は調理士のクランメンバーが食堂で料理を用意してくれてるんですが、僕が料理を作った方が良いですかね?』


「一緒に食べることだけを重視するならば、調理士のクランメンバーにルーデウスの食事も用意するだけで構いません。自分が料理するのはルーデウスにリクエストされた時に限定すれば良いと思います。ただし、自分で料理を作ってあげた方が従魔は懐くはずです」


 うんうんとサクラ達が頷くあたり、自分達が藍大に餌付けされている自覚を持っているらしい。


 もっとも、藍大の場合は神である伊邪那美達まで餌付けしているのでイレギュラーなのは間違いないのだが。


『わかりました。ルーデウスのためにやれることからやってみます』


『私からもよろしいでしょうか?』


「どうぞ」


 ルドラの次に挙手したのはマリッサだった。


 マリッサが何か変なことを言い出すのではないかと不安になり、リルは小さくなって藍大の膝に飛び乗って警戒態勢になった。


 藍大はそんなリルの頭を撫でて落ち着かせつつ、質問を述べるように促した。


「モフモフをテイムするには料理だけじゃなくて踊れた方が良いですか? 私の調べた限りでは向付後狼少佐は踊ってガルフをテイムしたはずです」


 マリッサの質問の内容を聞いて藍大達は真奈がガルムをテイムした時のことを思い出した。


『ご主人、この人は天敵4号に決定だよ』


「よしよし。怖くない。怖くないからな」


「クゥ~ン」


 膝の上でプルプルと震えるリルに対し、藍大は自分が一緒だから大丈夫だと優しくその頭を撫でた。


 リルが自分に怯えていることはショックなので、マリッサはどうにかその状態を解消できないか訊ねる。


『あの、リルさんに天敵認定を取り下げていただくことはできないんでしょうか?』


『・・・』


「無理でしょ」


「無理だね~」


「無理」


「無理でござるな」


 リルがマリッサと目線を合わせずにいる様子から藍大達は揃って無理であると答えた。


 マリッサがリルの天敵4号になったことはさておき、藍大はマリッサの質問にまだ答えていないことに気づいて答えることにした。


「まだ質問に答えられてなかったのでお答えしますが、踊りはテイムの必要条件ではありません。ただし、テイムのやり方は人それぞれだと考えてます。ライカロスさんにとって必要だと思うなら必要でしょうし、そうでもないなら必要ないという答えになります」


『わかりました。ありがとうございました』


 藍大から好きにしろと丁寧に言われたため、マリッサは真奈のように次の従魔候補のモンスターを試しに踊ってテイムしてみようと心の中で決めた。


 それが顔に出ていたけれど、藍大達は気づかない振りをした。


 これ以上ツッコむと疲れると思ったからなのは言うまでもない。


 ジュリアがマリッサの質問は終わったと判断して手を挙げたため、藍大はジュリアを指名する。


「ジュリアさん、次の質問をどうぞ」


『はい。食事以外で従魔に懐いてもらうために意識してることはありますか?』


「ご存じの通り、スキンシップは多めですね。従魔と心を通わせるのには必須でしょう」


「間違いない。主と触れ合える機会は多ければ多い程嬉しい」


『ご主人に撫でてもらうのは最高だよ』


「甘えたい時に甘やかしてくれるのは嬉しいでござるな」


 サクラ達は藍大の行っていることは正しいと頷きつつ、自分達は藍大にハグしてもらったり頭を撫でてもらえる機会が多いと嬉しいと補足した。


 それを聞いたジュリアは藍大に追加質問を行う。


『東洋の魔皇帝は従魔を望み通りに進化させるために何かしてますか?』


「特に何もしてません。サクラ達が進化したいように進化させてます。従魔は私の道具じゃありませんから」


 そう言った途端、藍大にサクラとモルガナが抱き着いた。


 リルも藍大に顔を押し付けて甘えている。


「私も~」


 従魔ではなくともサクラ達が甘えているのが羨ましくなり、舞も藍大に抱き着いた。


『これが東洋の魔皇帝クオリティですか』


『リア充力が高過ぎますね』


『人にも従魔にも愛されるなんて羨ましいです』


『私もリルさんに甘えてもらいたいです』


『こんなリーダーだからこそ、周りが付いて来るんでしょうね』


 ルドラ達は藍大達を見て感心していた。


 一部己の欲望全開な者がいたけれど、そこを気にしてはいけない。


 舞達が自分から離れた後、いつの間にか始まっていた質問コーナーを終わらせて藍大達は八王子ダンジョンに向かった。


 従魔についての注意を頭に叩き込むのも大事だけれど、やはり従魔達と共に過ごす時間も大事だからだ。


 ルドラ達が各々の従魔を召喚してから、藍大達は八王子ダンジョン3階の探索を始めた。


 出現したストーンゴーレムLv35に対してルドラ達の従魔は格下である。


 それゆえ、この階からはローテーションではなく協力してモンスターを倒さなければならない。


『ルーデウス、<挑発突撃タウントブリッツ>でヘイトを稼いだら逃げるんだ!』


『ノッコ、<着火胞子イグナイテッドスポア>だ』


 午前に進化したルーデウスとノッコが率先して戦闘に参加すれば、バロンとアリシア、カイゼルも黙って見ていられない。


 各々にできることを行い、ストーンゴーレムのHPを少しずつではあるけれど確実に減らしていった。


 バロンがデバフ系アビリティも使うようになり、格下のルーデウス達でもストーンゴーレムにダメージを与えられたのはラッキーなことだった。


 それから30分間、主人であるルドラ達が直接攻撃すればあっという間に倒せたストーンゴーレムに対して従魔オンリーで戦いを継続した結果、どうにかストーンゴーレムを倒すことに成功した。


『ルーデウス、よく頑張ったな』


『偉いぞノッコ!』


『バロンもお疲れ様でした』


『アリシアも相性が悪いのに大したものだよ』


『カイゼルの最後の蹴りが良かったぞ』


 藍大との質疑応答の時間で学んだことを早速生かし、ルドラ達はそれぞれの従魔を労った。


 ストーンゴーレムは雑魚モブモンスターだけれど、今のルーデウス達でも工夫によっては倒せることがわかった。


 (打てば響くのって嬉しいな)


 藍大は折角アドバイスしたのだから、それを活かしてもらえないとアドバイスした意味がなくなる。


 それゆえ、自分のアドバイスが上手く効いたことに藍大はホッとした。


 午後の部のダンジョン探索はまだまだ始まったばかりだ。


 今日だけでどれだけルドラ達が強くなれるか藍大は楽しみだった。

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