第630話 何事も節度って大事だと思わないか?

 藍大達は八王子ダンジョンの7階に来ていた。


 以前はモルガナがこの階層で”ダンジョンマスター”として君臨していたが、今のモルガナの本体は8階に移っている。


 それゆえ、7階にはフロアボスとして以前富士山ダンジョンで目撃されたヤマタノオロチLv100を配置されている。


 八王子ダンジョンを主に探索するのはDMUの探索班であり、このダンジョンは道場ダンジョンのように訓練に利用されるのだが、そのボスモンスターとしてヤマタノオロチが存在する訳だ。


「邪魔」


 サクラが<運命支配フェイトイズマイン>でLUK依存のレーザーを放てば、ヤマタノオロチには耐える術がなく力尽きた。


『これが世界最強の従魔ですか』


『ヤマタノオロチLv100が一撃とはヤバいですね』


『姉が勝てないと断言した理由がわかりました』


『未来のマイモフモフもこんなことができるようになるでしょうか?』


『圧倒的じゃないですか』


 ルドラ達はサクラの一撃を見て顔を引き攣らせた。


 (格の違いを見せつけてやるってことですね、わかります)


 サクラが<運命支配フェイトイズマイン>でLUK依存のレーザーを放った理由を察して藍大は苦笑した。


 それでもサクラがニッコリ笑って褒めてほしそうにやって来たのでその頭を撫でるのを忘れない。


「サクラ、掃除してくれてありがとな」


「うん。主のために頑張った」


「拙者、本当に殿に降伏して良かったでござる。あんな攻撃受けたら絶対死ぬでござる」


「私も戦いたかったな~」


『僕も戦いたかった』


「早い者勝ちだよ」


 モルガナがサクラの強さにブルッと体を震わせている横で舞とリルは呑気に感想を言い合っていた。


 それを見てサクラは胸を張って勝ち誇った。


 舞と従魔達の話を聞いてルドラ達は絶対に藍大達に逆らわないことを心に決めた。


 逆らえば決して安らかに死ねないと思ったのだろう。


 ルドラ達が委縮したままではスケジュール通りに進まないので、藍大はヤマタノオロチの解体と回収を済ませてから彼等に話しかける。


「さて、これから皆さんのリクエストしたモンスターを召喚します。モルガナ、準備は良いか?」


「勿論でござる。先程のサクラ殿の攻撃でDPは潤沢でござるゆえ、リクエストされたモンスターぐらい余裕でござる」


「フフン、私はそれも計算して大技で仕留めた」


「よしよし。愛い奴め」


 サクラはかけていないのに眼鏡をクイクイする仕草をするものだから、それが可愛くて藍大はサクラの頭を撫でた。


 それからすぐに本題に戻り、モルガナにエッグランナーLv5を召喚してもらった。


「ルドラさん、バード図鑑でテイムして下さい。召喚したエッグランナーは暴れたりしませんから近づいても大丈夫です」


『わかりました』


 藍大の指示に従い、ルドラはエッグランナーにバード図鑑を被せてテイムした。


 エッグランナーがバード図鑑に吸い込まれた後、ルドラはすぐに召喚する。


「【召喚サモン:ルーデウス】」


 ルドラはエッグランナーが雄だとわかってルーデウスと名付けたようだ。


『逢魔藍大がテイマー系の職業技能ジョブスキルに転職した外国人冒険者の指導して日本の力を示しました』


『初回特典として天照大神の力が30%まで回復しました』


 (そっか。リーアム君は元々調教士だったわ)


 伊邪那美の声が聞こえた時、藍大はリーアムの指導をした時には聞いたことがなかったのでリーアムは転職していないことを思い出した。


 元々テイマー系冒険者だったのは藍大とマルオ、リーアムぐらいである。


 それ以外は今のところ全員転職組であり、今日になって初めて外国人の転職組を直接指導した。


 CN国のシンシアはリーアムに教わっており、藍大に直接指導を受けたことはないのだ。


 ルドラの番が終われば次はムハンマドの番である。


「モルガナ、次はドランクマッシュを頼む」


「心得たでござる」


 この後、モルガナはルドラの時と同じようにムハンマドとジュリア、マリッサ、インゲルのリクエスト通りのLv5のモンスターをそれぞれ召喚した。


 ムハンマドのドランクマッシュは雌であるとわかってノッコと名付けられた。


 ジュリアのバロメッツはメロとは異なって雄だったため、バロンと名付けられた。


 マリッサのクレセントウルフはリルやガルフと違って雌であり、彼女はその個体にアリシアと名付けた。


 インゲルのノーブルホースは雄で雄々しくあってほしいという願いからカイゼルと命名された。


「全員テイムが完了しましたね。初めての従魔はあらゆる観点で基準になります。決して蔑ろにしないようにして下さい」


「異性の従魔の場合、主と私みたいに結婚して子供ができることもあり得る」


『ノッコが美人に進化するんでしょうか?』


「可能性がないとは言えない。メロも最初はバロメッツだった」


『私のバロンがイケメンエルフになって結婚・・・。良いですね』


「サクラの言う通り、従魔が人化する可能性はあります。しかし、人化するかしないかに関わらず従魔を大切にしてあげて下さい」


 ムハンマドとジュリアは従魔の人化に期待しているようだ。


 下手に期待し過ぎてその期待が裏切られた場合、人化できなかった従魔が急に突き放される可能性は否定できない。


 そんな事態になることは望ましくないので、藍大はムハンマドとジュリアに注意した。


『気を付けます』


『失礼しました』


 自分に都合の良い未来を想像していた2人は藍大に謝り、各々の従魔の頭を謝罪の気持ちを込めて撫でた。


 丁度良いタイミングなので、藍大は今から10分間休憩も兼ねて各々の従魔と触れ合う時間を設けた。


 休憩時間に入ってすぐにサクラが藍大に話しかける。


「主、ヤマタノオロチの魔石が欲しい」


「そうだったな。ちょっと待っててくれ」


「は~い」


 藍大はヤマタノオロチを倒した後、サクラに魔石を与えることなくルドラ達のテイムを始めたことを思い出して収納リュックから魔石を取り出した。


「お待たせ。魔石をおあがり」


「いただきま~す」


 サクラは藍大から魔石を食べさせてもらうと、サクラの色気が更に跳ね上がった。


『サクラのアビリティ:<色欲ラスト>とアビリティ:<催眠眼ヒュプノシスアイ>がアビリティ:<色欲女帝ラストエンプレス>に統合されました』


『サクラがアビリティ:<道具箱アイテムボックス>を会得しました』


『サクラの称号”色欲の女王”が称号”色欲の女帝”に上書きされました』


『初回特典として月読尊の力が20%まで回復しました』


 (やっぱり七つの大罪も変わるか)


 伊邪那美の声が知らせた内容は藍大にとって想定内だった。


 リル達が聖獣から神獣になったことから、サクラ達七つの大罪も何かしらの変化があるだろうと思っていたのだ。


 モンスター図鑑によれば、<色欲女帝ラストエンプレス>の効果は3つあった。


 1つ目は能力値が自身の7割以下の相手に性別を問わずに耐性を無視して魅了状態に陥らせられるというもの。


 2つ目は魅了した相手を手足のように動かせるというもの。


 3つ目はこのアビリティ保有者が房中術を使用可能にするというもの。


 藍大は3つ目の効果を知って戦慄した。


 リルもサクラを鑑定してその効果を見てしまったため、藍大に同情するように頬擦りする。


『ご主人、頑張ってね。負けちゃ駄目だよ』


「頑張れるかなぁ・・・」


「主、どうしたの?」


 サクラは自分の強化された力を理解した上で敢えてとぼけて笑みを浮かべる。


 笑顔ではあるけれど、その目は完全に捕食者のそれである。


「何事も節度って大事だと思わないか?」


「大丈夫。主が長生きできるように私が頑張るね」


「なんの話~? 私だけ除け者にしないでよ~」


 舞はサクラがどのようにパワーアップしたのか正確にわかっておらず、自分だけ除け者にしないで教えてほしいと頼んだ。


 サクラはルドラ達がいる前で自分のアビリティの効果を大っぴらに言うつもりはないので、舞の耳元でこっそりとそれを説明した。


 舞はサクラの説明を聞いてにっこりと笑った。


 その笑みはサクラと同様に目だけが獲物を狩るものになっている。


「藍大、今夜のが楽しみだね」


「ソダネー」


 お祝いという言葉に含まれた意味を悟って藍大の反応が片言になってしまったのは仕方ないだろう。


 サクラが”色欲の女帝”の称号を得たお祝いで料理に期待する意味もあれば、サクラが得た力の実践にちゃっかり自分も混ざるつもりらしい。


 どっちの意味でも舞が捕食者になるのは間違いなかった。


 このまま話を続けていては不味いと思い、10分が経過したので藍大達は休憩を終えて八王子ダンジョンの1階に移動した。

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