第629話 天敵の大ファン? 僕に近寄っちゃ駄目だからね

 1週間後の1月26日の土曜日、藍大は舞とサクラ、リル、ゲン、モルガナを連れて朝からDMU本部に来ていた。


 神々の会合から1週間しか経っていないが、神託で日本に行けと言われればどの国の冒険者も最優先で日本に行く。


 それゆえ、I国とIN国、EG国、G国、N国の5ヶ国から転職する冒険者が1名ずつ来日してDMU本部に集まっている。


 リルとゲンが藍大と同行するのはいつものこととして、モルガナは八王子ダンジョンでやることがいくつかあるため、その管理者として同行している。


 一見関係ない舞とサクラが薫と咲夜を仲良しトリオに任せて藍大に同行した理由だが、5ヶ国のいずれかが色仕掛けを仕掛けて来る可能性を考慮してのことだ。


「今回の国々が色仕掛けをするかね? 俺には舞達がいるのに」


「わからないよ~。でも、私とサクラがいたら鉄壁の布陣だよね」


「主に色目を使う奴は許さない。主は私達のもの」


「これ以上嫁を増やしたいとは思ってないから安心してくれ」


「そうだよね。藍大には私達がいるもん」


「主が増やすのは嫁じゃなくて子供」


 (サクラさんや、それはストレート過ぎやしないかね?)


 そんなことを思いつつ、藍大は5ヶ国の冒険者が待つ会議室へと入った。


 部屋の中には男性が2人と女性が3人いた。


 男性の1人はIN国のルドラであり、女性の1人は面識こそないが見たことのある顔で藍大は全員知らないなんて展開にならずにホッとした。


『『『『『おはようございます!』』』』』


「おはようございます」


 自分達が入室するのを見てルドラ達が立ち上がって挨拶したため、藍大は内心驚いたがポーカーフェイスのまま挨拶を返した。


「みんな主がすごいことを理解してる。大変結構」


『ワッフン、ご主人のすごさが知れ渡ってるんだね』


 サクラとリルはルドラ達の姿勢に気分を良くした。


 自分の主が重役のような扱いを受けて嬉しくない従魔はいないのである。


「初めましての人もいますし、自己紹介から始めましょう。私は従魔士の逢魔藍大です。東洋の魔皇帝と呼ばれてます。今日と明日の合宿を実りのある日にしましょう」


「私は逢魔舞。藍大の第一夫人だよ~。職業技能ジョブスキルは騎士。よろしくね~」


「逢魔サクラ。主の第二夫人。主の筆頭従魔として従魔を統括してる。よろしく」


『僕はリルだよ。四神獣を束ねてるの。よろしくね』


 藍大達が先に自己紹介をするとルドラ達もそれに続く。


『僕の名前はルドラ=チャンダです。三次覚醒した槍士でIN国では暴風槍士って呼ばれてます。よろしくお願いします』


『ムハンマド=アジールです。三次覚醒した薬士で今年の国際会議に参加したベンヌの兄です。よろしくお願いします』


 (言われてみれば妹のベンヌさんと似てるかもしれない)


 パッと見た感じではわからなかったけれど、ムハンマドの自己紹介で藍大はベンヌとムハンマドの顔の輪郭が似ていることに気づいた。


 一卵性双生児でもなければそっくりとまではいかないだろうから、気づくのが遅れてもおかしくはない。


『I国から来ましたジュリア=ビアンキと申します。二次覚醒した剣士です。姉のソフィアがいつもお世話になっております』


 (そんなことじゃないかと思ってた)


 ジュリアの見た目は小さなソフィアだった。


 ソフィアを意識してるのか髪型や化粧の仕方も同じだが、身長はジュリアが一回り小さくて間違うことはないだろう。


『G国のマリッサ=ライカロスです! 三次覚醒した弓士です! 向付後狼少佐の大ファンで調教士に転職希望です!』


『天敵の大ファン? 僕に近寄っちゃ駄目だからね?』


『そんなぁ・・・』


 リルは真奈の大ファンを自称するマリッサの自己紹介を聞くと、警戒態勢に移行して藍大の陰に隠れた。


 真奈をリスペクトしているだけでなく、調教士になりたいと言っている時点でリルからすれば危険な臭いしか感じ取れない。


 藍大は怯えるリルの頭を優しく撫でて落ち着かせた。


 マリッサが喋るとリルが怖がることになりかねないから、藍大は最後の女性に視線を向けた。


 女性もどのタイミングで自己紹介すればよいか少々困っていたらしく、藍大と目が合って助かったと言う表情で口を開く。


『N国の騎士、インゲル=ハンセンです。まだ二次覚醒しかしておりませんが、転職して祖国の役に立ちたいです』


 ゲンは自己紹介をするつもりがないので、これで自己紹介の時間は終わりだ。


 テイマー系冒険者に転職してからが本番なので、藍大は早々にルドラ達に対して持っている転職の丸薬を提示する。


「今確保してる転職の丸薬ですが、調教士と蔦教士が2つ、鳥教士が1つです。希望が被った場合は話し合いで決めてもらいますが、ひとまず先に皆さんの希望を聞かせて下さい」


 藍大がルドラ達に希望を聞いたところ、以下の通りとなった。


 ルドラは自分が槍を持って戦うから、従魔には敵の死角から狙ってほしいので鳥教士。


 ムハンマドは従魔から薬の素材を分けてもらえる可能性を考慮して蔦教士。


 ジュリアは従魔から薬の素材だけでなく、食材も分けてもらえることを考えて蔦教士。


 マリッサが自己紹介で言った通りに調教士。


 インゲルは自分が盾役を担っている内に敵を攻撃する味方や騎獣が欲しいので調教士。


 幸いなことに話し合いで被りの解消をせずに済んだ。


 仮に話し合いをすることになったならば、話し合いと言いつつ肉体言語O・HA・NA・SHIになる可能性を否定できない。


 もっとも、そんなことをする前に藍大達が止めるのだが。


 とりあえず、被りがないので各々希望する職業技能ジョブスキルの転職の丸薬を飲んで転職した。


『身体能力が落ちた気はしませんね』


『これでもっと作れる薬の幅が増えます』


『姉よりも多くの人を救ってみせます』


『モフモフが欲しいです』


『頼れる従魔が欲しいです』


 (さっきからジュリアさんの発言が気になる)


 それは決して藍大がジュリアに一目惚れしたとかではなく、ジュリアがソフィアに対してコンプレックスを抱いている感じがするから気になっただけだ。


 できる兄弟姉妹がいた場合、もう片方は比較され続けて劣等感を抱くなんてことはよくある話だろう。


 藍大も流石に兄弟姉妹のコンプレックスについて積極的に関わろうとは思っていないから、予定していた通りに話を進めていく。


「では、1体目の従魔、つまりパートナーですね。特別にパートナーはプレゼントしますので、欲しいと思う従魔を各々教えて下さい。ただし、私の経験した限りではごく一部を除いて従魔は進化を重ねた方が強くなります。その点を考えて希望を述べることをお薦めします」


 シンキングタイムが始まり、ルドラ達は自分のパートナーを何にするか考えた。


 藍大達はルドラ達に相談されればそれに乗るけれど、あくまで決めるのはルドラ達なので何か特定の種族を薦めることはしなかった。


 途中でマリッサがリルをモフりたそうに見ていたが、リルはその視線に気づかない振りをして小さくなった状態で藍大の膝の上で甘えていた。


 正確には藍大に頭や顎の下、背中を撫でてもらうことで不安になりそうな気持ちを落ち着かせていたと言うべきだ。


 シンキングタイムが終了してルドラ達は自分の欲しいモンスターを発表し始めた。


『僕は東洋の魔皇帝のフィアさんみたいな従魔が欲しいので、エッグランナーが良いです』


『僕はドランクマッシュでお願いします。ゴッドハンドのレシピを独自で研究したところ、ドランクマッシュの胞子が色々な薬になるようでしたので』


『私はメロさんみたいな従魔が欲しいのでバロメッツを望みます』


『私はクレセントウルフ一択です。リル君とガルフ君に続くフェンリルに育て上げます』


『私は気高きノーブルホースを希望します』


 (ライカロスさんがブレない。絶対にリルに天敵認定されたぞ)


 クレセントウルフが欲しいと主張した時も藍大の顔ではなくリルを見ており、リルは藍大に抱っこしてもらっていたが体をプルプルと震わせていた。


 リルの頭を優しく撫でつつ、藍大はルドラ達の決定を尊重した。


「わかりました。では八王子ダンジョンに各々のパートナーをテイムしに行きましょう。モルガナ、ここからは頼むぞ」


「任せるでござる」


 モルガナがようやく自分の番だと言わんばかりに応じ、藍大達は会議室を出て八王子ダンジョンへと移動した。

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