第53章 大家さん、外国人冒険者を育てる

第627話 食いしん坊の親戚みたいな感じだよ

 国際会議から2週間が経過した1月19日の未明、藍大とリルは気が付いたら神域にいた。


 伊邪那美と象、猫、狼、隻眼のゴリラの着ぐるみが待っていたらしく、藍大とリルは一番遅くやって来たらしい。


「伊邪那美様、こんなに神様を集めて今日は何事? その象ってガネーシャ様だよな?」


『じゃあ猫がバステト様で狼がロキ様でゴリラはヘパイストス様かな?』


「この子達賢いニャ。アタシがバステトニャ」


「それに神が集まっても動じないタフな精神もあるねぇ。俺がロキだよ」


「儂等に威厳がなさ過ぎるだけだろう。その通り、儂がヘパイストスだ」


「自己紹介が終わったってちょっと待つのじゃヘパイストス! 妾は完全体で威厳もばっちりなのじゃ!」


 伊邪那美は自分を着ぐるみ状態の神々と一緒にするなと抗議したが、藍大達は伊邪那美から威厳が感じられないのでジト目を向けた。


「なんじゃ? 妾にそんな目を向けるなんて何事じゃ?」


「リル、伊邪那美様に威厳を感じるか?」


『食いしん坊の親戚みたいな感じだよ』


「俺もそー思う」


「なん・・・じゃと・・・」


 藍大とリルの会話を聞いて伊邪那美が膝から崩れ落ちた。


「すごいニャ~。威厳ばっちりだニャ~」


「流石は伊邪那美! 俺達には真似できないよぉ!」


「だから言っておろうに」


 バステトとロキはプークスクスと伊邪那美を嘲笑い、ヘパイストスはやれやれと首を横に振った。


 ガネーシャはどうしたものかとおろおろしている。


 藍大は伊邪那美が用もなくこの場に自分とリルを呼び出したりしないだろうと思って伊邪那美に声をかける。


「伊邪那美様、改めて訊くけど今日はどんな用事?」


「うむ、そうじゃったな。今日は顔見せと今後の方針の相談のために呼んだのじゃ」


 立ち直った伊邪那美がそう言った途端、ガネーシャ達が藍大に頭を下げた。


「ら、藍大のおかげでIN国民に気合が入ったんだな。か、感謝するんだな」


「アタシのところも助かったニャ。もうちょっと遅かったら結構ヤバかったニャ」


「俺ん所もそうだよぉ。ありがとねぇ」


「感謝するぞい」


「どういたしまして。俺の方こそリル達に力を貸してくれてありがとう。神々に与えられた力は大事に使ってるよ」


『ありがとね』


 お互いにお礼を言い合うと、バステトが藍大の腕に抱き着く。


「ニャ~、よく見たら良い男ニャ~。EG国に遊びに来てほしいニャ~」


「泥棒猫に慈悲はないのじゃ。今すぐ離れねば強制的に追い出してやるのじゃ」


「そんな殺生ニャ~。藍大、伊邪那美がアタシのことを虐めるのニャ~」


「そういうの良いんで一旦離れて下さい」


「ブフォ!?」


 ウルウルした目で自分を庇ってほしいと言うバステトに対し、藍大があっさりと切り捨てるものだからロキはそれが面白くて吹き出した。


「ニャニャ!? アタシが着ぐるみだからかニャ!? アタシが脱いだらすごいのニャ!」


「妻帯者捕まえて何言ってるんですか? とりあえず離れましょうね?」


「さっきから敬語で心の壁を感じるのニャ! ショックなのニャ!」


 バステトは藍大から離れて両手を頬に当てて押し付けた。


 いくら今が着ぐるみを着ているからとは言え、女神が色仕掛けをして靡かないということにバステトはショックを受けていた。


 それを見た伊邪那美は満足そうに笑みを浮かべている。


「藍大に色仕掛けをするとは愚かなのじゃ。もしもそれがサクラにバレてみるのじゃ。EG国は不幸な事故に見舞われること間違いなしじゃよ」


「それは困るニャ! 本当に困るニャ! さっきのは冗談だから勘弁してほしいニャ!」


 伊邪那美の発言を受けてバステトの顔色が悪くなり、藍大の足に縋りついてさっきのやり取りはなかったことにしてほしいと頼んだ。


「じゃあ貸し1ってことで」


「わかったニャ。何かあったら力を貸すからEG国にだけは不幸をばら撒かないでほしいニャ」


「すごい! すごいねぇ! 人間が神様を脅しちゃってるよぉ! こいつはたまげたなぁ!」


 ロキは笑いを堪えるどころかすっかり興奮している。


「貴方も神話じゃリルの父親なんだから、父親として恥ずかしくないように振舞ってくれ」


「あっ、はい」


「全く何をやっておるんだか」


 マジトーンの藍大に怒られてロキがおとなしくなるのを見てヘパイストスが溜息をついた。


『ご主人は神様よりもすごいんだね。僕は嬉しいよ』


「よしよし」


「クゥ~ン♪」


 リルは藍大に頭を撫でてもらってすっかりご機嫌である。


 リルが満足した頃合いを見計らって伊邪那美が本題に戻る。


「さて、そろそろ今後の方針について話し合うのじゃ」


「今後の方針? 何かやらなきゃいけないことでもあるのか?」


 藍大はドライザーとミオ、フィアが神獣になったことにより、藍大達がやるべきことはマイペースに三貴子を復活させるだけのはずだった。


 ところが、今の伊邪那美の口振りからしてそれだけでは終わりそうにない。


 だからこそ、藍大はまだ何かやるべきことがあるのかと訊ねたのである。


「藍大が直接やるかどうかはさておき、妾達が決めた方針を藍大が知っておくべきだと思うのじゃ。例えば、C半島国と旧C国の扱いとかじゃな」


 2週間前、藍大達がグシオンを倒した後に捜索した結果、C半島国には生存者が3人しか残っていなかった。


 しかも、いずれも幼い子供であり、グシオンによって家族も家も失ったショックから記憶喪失になっていた。


 加えて言うならば、3人が見つけられたのは地下の研究施設のカプセルの中だった。


 非合法的な研究が行われていたようで、発見報告を受けた日本政府は施設の破壊を決定した。


 それはそれとして、いくら日本に幾度となく迷惑をかけて来た旧C国あるいはC半島国出身とはいえ、子供に罪はないだろう。


 それゆえ、子供達は日本の3つの孤児院で別々に新しい名前を与えて育てられることになった。


 悲しい過去を無理やり思い出させないようにするだけでなく、C半島国で密かに行われていた人体実験とは無縁の生活を送らせるためである。


 生存者3人への対処は以上のもので良いとして、問題は残された土地である。


 今もまだダンジョンが放置されてモンスターが毎日溢れ出しており、放っておけば世界各国にモンスターが流出しかねない。


 スタンピードを抑えられる国が増えて来たというのに、その努力を無に帰すような外敵要因を放置するのは好ましくない。


 日本のDMUはグシオン討伐遠征参加者に対し、旧C国とC半島国を人の手に取り戻す目的の遠征を案内した。


 グシオンに手も足も出なかったメンバー、戦いに参加できなかったメンバーは食い気味に参加を表明し、”ゲットワイルド”の3人も日本よりも過酷な環境で自分達を追い込むと参加を表明した。


 今はC半島国に遠征隊の基地が設営され、そこで補充等の支援を受けながら彼等は遠征を行っている。


「俺達が遠征に関わる必要ってある? 任せておけば良いんじゃないの? ”大災厄”以上のモンスターも見つかってないんだし」


「ら、藍大、東側はそれで良いかもしれないんだな。で、でも、西側はそういう訳にはいかないんだな」


「なるほど。旧C国にいるモンスター達がIN国に雪崩れ込む可能性は排除で来てなかったな」


「それだけじゃないのじゃ。旧C国とC半島国の水棲型モンスターが海や川を泳いで他国に進出してるのじゃ」


「マジか」


 伊邪那美の言葉を聞いて他人事では済ませられないかもと藍大はすぐに思い直した。


「でもさぁ、日本は伊邪那美と伊邪那岐が結界を展開し直したんだろぉ?」


「ロキの言う通りニャ。敵意のあるモンスターを侵入させない結界なんて今のアタシ達には展開できないニャ。日本だけ安全なんて狡いニャ」


「この結界だってこの集まりの前にようやく完成したのじゃ。日本はテイマー系冒険者が多いから、条件設定に時間がかかって大変だったんじゃぞ?」


「そうだったのか。お疲れ、伊邪那美様」


「うむ。大変だったからご馳走を用意してくれると嬉しいのじゃ」


「わかった。頑張ってくれたんだし作ってあげよう」


『やったね伊邪那美様!』


「やったのじゃ!」


 大仕事を終えた伊邪那美が藍大にご馳走を強請ってみると、藍大は頑張ってくれたお礼に作ると言った。


 これにはリルも大喜びで伊邪那美と一緒に喜んでいた。


「一体儂等は何を見させられてるんだ?」


 静かに会話の成り行きを見守っていたヘパイストスが呟き、伊邪那美はまた脱線してしまったと気持ちを引き締めた。


「オホン、妾が今後の方針として提案したいのは・・・」


 伊邪那美が提案したのは藍大達が目を丸くするような内容だった。

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