第626話 蠱毒のグルメってヤバい物ばかり食べてそうだ

 時は少し戻って日本のDMU本部で国際会議の昼休憩がそろそろ終わる頃、掲示板を通してC半島国の遠征隊から応援要請があった。


 それによれば、”ゲットワイルド”と”リア充を目指し隊”、”ブラック企業戦士団”がグシオンと戦っているが、グシオンに効果的な攻撃が見当たらないとのことだった。


 下手をすれば、日本の三次覚醒者を喰らってグシオンがパワーアップしかねない状況であり、緊急事態であることは間違いないかった。


 昨日の時点で藍大はこうなることが予想できていたため、戦う魔皇帝の姿になってリルと共にC半島国に向かって飛び立った。


 今回はグシオンの所有権が全て藍大にあることも報酬に追加されたため、グシオンの魔石で従魔を強化できるのは条件として悪くなかった。


 視界に捉えていない以上、行ったことのないC半島国にリルの<転移無封クロノスムーブ>で行くのは不可能なので飛んで行く訳だ。


 藍大達がC半島国上空に到着した時、グシオンは”リア充を目指し隊”と”ブラック企業戦士団”を無力化しており、”ゲットワイルド”の3人も仕留められるまで秒読みの所だった。


 それゆえ、藍大はゲンの力を借りて<強制眼フォースアイ>を発動した。


 好感度バフの効果も使えば、グシオンを地面に叩きつけることなんて造作もない。


 ”ゲットワイルド”の3人を安心させるために藍大は声をかける。


「よくやった。その勇気ある行動が仲間の命を救ったぞ」


 グシオンが地面に叩きつけられたことにより、グシオンの<重力咆哮グラビティロア>が解除された。


 そのおかげでバーバリアン達はグシオンから距離を取って安全を確保してから藍大に頭を下げた。


「東洋の魔皇帝、感謝する」


「ありがとな」


「助かったねぇ」


「とりあえず、まだ動けるなら倒れてる連中を連れて撤退してくれ。折角来たんだ。できることなら被害はこれ以上出したくない」


「「「了解!」」」


 強敵と戦いたいという思いでC半島国まで来た”ゲットワイルド”だが、グシオンを相手にするのはまだ早かったと思い知った。


 この場は藍大に託すのが最適と判断し、3人は藍大の指示に従って倒れている冒険者達の回収作業を始めた。


 その間に藍大はグシオンのステータスを調べることにした。



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名前:なし 種族:グシオン

性別:雄 Lv:100

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HP:3,500/3,500

MP:2,200/3,000

STR:2,500

VIT:2,500

DEX:3,000

AGI:2,500(-500)

INT:2,500

LUK:2,000

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称号:大災厄

   外道

   蠱毒のグルメ

   到達者

アビリティ:<格闘術マーシャルアーツ><紫雷波サンダーウェーブ><隕石雨メテオレイン

      <大地鎧ガイアアーマー><重力咆哮グラビティロア

      <自動再生オートリジェネ><全半減ディバインオール

装備:紳士の枷服

備考:屈辱

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 (蠱毒のグルメってヤバい物ばかり食べてそうだ)


 藍大はグシオンの称号が特に気になった。


 蠱毒とは小さな容器の中に大量の生き物を閉じ込めて共食いさせ、最後に残った1匹を呪詛の媒体に用いる呪術として知られている。


 それを喰らったともなれば、碌でもない物を体内に取り込みまくったのではと藍大が不安がるのもおかしくない。


 ”蠱毒のグルメ”の効果はあらゆる毒が効かないだけでなく、一定水準を超えた存在を喰らうことで全能力値が向上するというものだった。


 Lv100になってもまだ能力値が上がるのならば、この称号を”大災厄”が保持していることは危険だと言えよう。


 (それはそれとして、タキシードを着たゴリラに需要はあるのか?)


 次に藍大が気になったのはグシオンが着ている紳士の枷服である。


 これを着ている間はAGIが本来の80%になってしまうが、脱いだ直後に着ていた時間だけAGIが120%まで上昇する効果があった。


「リル、グシオンの服を回収できるか?」


『回収するの? ゴリラ臭いよ?』


「使えそうな装備だからDMUに売ったら有効利用するだろ」


『わかった~』


 リルはグシオンの着ている紳士の枷服を持ち帰るのは嫌がったけれど、家族の誰かが使う訳ではないと知って頷いた。


 <仙術ウィザードリィ>を器用に操作してグシオンの紳士の枷服を脱がせると、それを収納リュックの中にしまった。


 しかし、グシオンが紳士の枷服を脱いだことによってAGIが上昇すると、グシオンが藍大の<強制眼フォースアイ>の力に抵抗し始める。


「ぐぎぎぎ・・・」


「動けるとは驚いた。無駄だけど」


 藍大はエルの力を借りて<氷河時代アイスエイジ>を発動する。


 行動制限がかかった現状でグシオンに<氷河時代アイスエイジ>を躱せるだけの力はない。


 グシオンは氷漬けにされてしまった。


 それでもグシオンのHPが尽きていない以上、きっちりととどめを刺す必要があるだろう。


「リル、とどめよろしく」


『任せて』


 リルは<神裂狼爪ラグナロク>で氷漬けになったグシオンの頭部と胴体を切断した。


 ここまですればグシオンのHPは0になり、MPを消費して再生することもなく勝敗は決した。


『逢魔藍大が日本の危機を未然に防いだことで天照大神の力が20%まで回復しました』


『報酬としてドライザーのアビリティ:<熾天鎧セラフアーマー>がアビリティ:<勝女神鎧アーマーオブヒルド>に上書きされました』


『ドライザーの称号”土聖獣”が称号”土神獣どしんじゅう”に上書きされました』


『初回特典として月読尊の力が10%まで回復しました』


『報酬としてミオのアビリティ:<起爆泡罠バブルトラップ>がアビリティ:<運命神罠トラップオブノルン>に上書きされました』


『ミオの称号”水聖獣”が称号”水神獣すいしんじゅう”に上書きされました』


『初回特典として須佐之男命の力が10%まで回復しました』


『報酬としてフィアのアビリティ:<讃美歌ヒム>がアビリティ:<医女神歌ソングオブエイル>に上書きされました』


『フィアの称号”火聖獣”が称号”火神獣かしんじゅう”に上書きされました』


『おめでとうございます。逢魔藍大は四神獣をコンプリートしました』


『初回特典としてシャングリラ地下神域での神の復活速度が2倍になります』


 (情報が多過ぎるわ!)


 グシオンを倒したことによる伊邪那美のメッセージが多過ぎて藍大が心の中でツッコんだ。


 そして、頭の中で状況を整理して顔を引き攣らせた。


 戦う魔皇帝の姿なので表情は目で見てわからないはずだが、リルは藍大の感情を雰囲気から読み取ったらしく藍大を心配して声をかける。


『ご主人、大丈夫?』


「ん? あぁ、大丈夫だ。グシオンを倒したら三貴子の復活率が上昇したりドライザー達も神獣になったりで通知が多くってな」


『めでたいことがいっぱいだね! 今日はお祝いだよね!?』


 リルに期待に満ちた笑顔でそのように言われれば、藍大にNOという選択肢はない。


「よしよし。今日はご馳走にしような」


『うん!』


 藍大に頭を撫でられてリルは嬉しそうに尻尾を振った。


 ゲンはそろそろ良いだろうと<絶対守鎧アブソリュートアーマー>を解除して藍大の前に現れた。


「主さん・・・魔石・・・」


「そうだな。今回はゲンにあげよう」


「感謝」


 ゲンに催促された藍大は凍ったグシオンの体から魔石を取り出し、それをゲンに与えた。


 ゲンが満足そうにそれを呑み込んだ直後、ゲンの大砲が輝きを放った。


『ゲンのアビリティ:<魔攻城砲マジックキャノン>がアビリティ:<魔開闢砲オリジンキャノン>に上書きされました』


「ゲンの火力も順調に上がってるなぁ」


「ドヤァ」


 ドヤ顔のゲンが満足するまで撫でると、ゲンは再び<絶対守鎧アブソリュートアーマー>を発動して藍大の姿が戦う魔皇帝に戻った。


 その時にはバーバリアン達が負傷者の撤退を済ませており、藍大とリルに向かって深々と頭を下げた。


「この度は本当にありがとうございました!」


「「ありがとうございました!」」


「どういたしまして。”大災厄”を狩れるように努力を続けて下さい。それでは」


『バイバイ』


 グシオンの回収も済ませて用事は済んだので、藍大とリルは日本に転移した。


 藍大とリルがいなくなった後、バーバリアンはポツリと漏らす。


「すげえな。あれが世界一か」


「格の違いを見せつけられたわね」


「格が足りないなら努力あるのみだよぉ」


「間違いない。俺達も慢心を捨てて鍛え直そう。今度は東洋の魔皇帝に助けてもらわなくても勝てるように」


「だな!」


「だねぇ」


 ”ゲットワイルド”の3人は目指すべき目標を見つけた。


 藍大の期待通りに彼等が”大災厄”に挑める日が来るかどうかは彼等次第である。

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