第625話 よくやった。その勇気ある行動が仲間の命を救ったぞ

 グシオンは急降下のエネルギーを利用してパンチを繰り出す。


「やらせねえ!」


 アマゾネスが気功波を放ってグシオンの拳に命中させた。


 しかし、グシオンの拳が気功波とぶつかっても吹き飛ばずに徐々に押し返し始める。


「面白い技を使うじゃないか。だが、それだけだ」


 グシオンがニヤリと笑って拳を開いて手刀に切り替えると、気功波が左右に切り分けられていく。


「チッ」


「もう終わりか?」


「いいや、まだだ」


 アマゾネスに手刀が当たる前にバーバリアンがその正面に割り込み、THYバール2本を構えて横に回転してグシオンの攻撃を受け流した。


「すまねえ!」


「問題ない」


「私のことも忘れないでほしいねぇ」


「フン」


 シャーマンがグシオンの背後から奇襲を仕掛けるが、グシオンはそれに気づいてその場から上空に離脱した。


 グシオンの後頭部に目はないけれど、まるで見えているかのような動きだった。


「悪くないな。この半島に逃げ込んだ奴等は簡単に殲滅できたのに貴様等は違う。本当に俺様を楽しませてくれそうだ」


 グシオンがさらっとC半島国民を皆殺しにしたことを口にしたが、バーバリアン達にそれを掲示板に書き込む余裕がない。


 目を逸らせば殺されてしまうぐらいにはグシオンが強いモンスターだからである。


「俺達にお前を楽しませるつもりはない。お前が俺達を楽しませるんだ」


「減らず口を言う。ならばこれを受け止めてみろ」


 グシオンはその場で回転しながらキックの構えで急降下し始める。


「これでも喰らっときなぁ」


 シャーマンがポーチから取り出した球を投げ付け、それがグシオンに触れた瞬間に破裂する。


 煙を浴びたグシオンは激しく咳き込む。


「ウォッホン、ウォッホン!」


「シャーマンでかした。キェェェェェ!」


 バーバリアンは猿のような叫び声を上げながらグシオンの側面に回り、そのままTHYバールを連続でグシオンに叩きつけた。


 咳き込んだグシオンの攻撃がブレたため、今の攻撃はグシオンに当たって後ろに仰け反った。


「オラオラオラァ!」


 追撃戦とアマゾネスが接近して拳を繰り出すが、その時にはグシオンも体勢を立て直していたのでひらりひらりとアマゾネスのラッシュを躱し、最後のストレートを蹴り上げてアマゾネスを弾き飛ばした。


「小癪な真似をするその女が邪魔だな」


「「「・・・「「ちょぉっと待ったぁぁぁぁぁ!」」・・・」」」


 グシオンがシャーマンに攻撃を仕掛けようとした時、三代目ジェラーリ率いる”リア充を目指し隊”が到着した。


「なんだ貴様等は?」


「なんだ貴様らはってか? 訊かれたなら答えよう」


「リア充を妬み、リア充にならんとあらゆるダンジョンで戦いを繰り広げる!」


「そんな俺達の名はぁぁぁぁぁ・・・」


「「「・・・「「”リア充を目指し隊”!!」」・・・」」」


 決めポーズまでしながら名乗る”リア充を目指し隊”の連中に対し、グシオンは無言で<隕石雨メテオレイン>を放った。


 三代目ジェラーリ達はポーズを止めて降り注ぐ隕石の対処に追われた。


 グシオンはバーバリアン達の方を向き直って訊ねる。


「なんなのだあの馬鹿共は? 貴様等の知り合いか?」


「知り合いだが無視して構わん」


「あんな決めポーズ考える暇があったらもっと別のことしろっての」


「馬鹿だねぇ」


「おいそこぉ! 同郷の仲間になんてこと言うんだ!?」


 三代目ジェラーリはひな壇芸人のようにバーバリアン達に抗議した。


 それでもバーバリアン達は三代目ジェラーリを無視してグシオンを攻撃し始める。


 グシオンも三代目ジェラーリを無視してバーバリアン達に応戦する。


 降り注ぐ隕石の対処を済ませると、”リア充を目指し隊”はグシオンに向かって一斉に攻撃を開始した。


「俺達を無視すんじゃねえ!」


「いない者扱いするんじゃねえ!」


「お前に偶数なのに二人組を作って下さいと言われて余った奴の気持ちがわかるのかぁぁぁぁぁ!?」


 最後の1人についてはトラウマを抱えているようなのでそっとしてあげるべきなのだろう。


「ええい、煩い! 鬱陶しいわ!」


 苛立ったグシオンは”リア充を目指し隊”に対して<紫雷波サンダーウェーブ>を放った。


「「「・・・「「ぐぁぁぁぁぁ!」」・・・」」」


 発生が早く広範囲に向けて放てる<紫雷波サンダーウェーブ>を受け、”リア充を目指し隊”は三代目ジェラーリを除いて気絶してしまった。


 三代目ジェラーリも全てを躱し切れなかったため、少なからずダメージを受けてしまっている。


「フン、煩わしい連中の中にも辛うじて腕の立つ奴がいたか」


「あの程度の攻撃で倒れてたら彼女ができねえんだよ」


 そんなことはないだろう。


 グシオンに倒されたC半島国民にはカップルも当然いたから、三代目ジェラーリの言い分は正しくない。


 そこに”ブラック企業戦士団”が到着した。


「クラマス、あそこにグシオンがいます!」


「諸君、あいつを倒せば大金持ちだ! 豪遊だ! 御大尽様だ!」


「Yes、薔薇色!」


「・・・おい。貴様等の国には変な奴が多くないか?」


 グシオンは”ブラック企業戦士団”を見てからバーバリアン達に訊ねる。


 その質問には”リア充を目指し隊”を初めて見た時よりも苛立ち成分が増していた。


「俺達に言うな」


「一緒にすんじゃねえ」


「知らない人達だねぇ」


「なんてことを言うんだ!」


 ”ブラック企業戦士団”のクランマスターが抗議するけれど、バーバリアン達はこれを当然のようにスルーした。


 シャーマンがグシオンの不意を突いて吹矢で攻撃する。


 ところが、グシオンは矢を2本の指で掴んで三代目ジェラーリに投げ返す。


「危なっ」


 三代目ジェラーリはびっくりしつつも盾で矢を弾き落した。


 曲がりなりにもクランマスターになるだけの実力はあるらしい。


「チッ、面倒だな。今のでくたばっとけば良かったのに」


「口悪いなこいつ」


「御大尽様に俺はなる!」


「俺もなる!」


「私もなる!」


「あぁ、もう鬱陶しい! キェェェェェ!」


 三代目ジェラーリに悪態をついていたタイミングを狙い、”ブラック企業戦士団”のメンバーが次々にグシオンに攻撃を仕掛ける。


 イライラがMAXに到達したらしく、グシオンは先程のバーバリアンのように叫ぶと1人ずつ”ブラック企業戦士団”のメンバーにパンチを決めていった。


 時々人間ピンボールのようになり、1人殴り飛ばしたらその先に人がいてまとめて倒れることもあった。


 クランマスターは殴り飛ばされたメンバーを受け止め切れずに巻き込まれ、後ろに倒れた際に頭を打って気絶した。


「フン、逃げ込んだ奴等なら体に風穴が空いたが、そうはならないだけ貴様等の方が強いらしい。褒めて遣わす」


「随分と上から目線だな!」


「当然だろう? 俺様が上で貴様等が下。これが世界の常識だ」


 バーバリアンが力強く踏み込んで殴りかかるが、グシオンは空を飛んで躱す。


 冒険者達を見下ろすグシオンはこの場にぞろぞろと冒険者達が集まって来るのを見つけた。


「わらわらと増えやがって本当に煩わしい。俺様の力を知って絶望せよ! キェェェェェェェェェェ!」


 グシオンの叫び声は先程殴りかかった時のそれよりも大きかった。


 勿論、声のボリュームが大きくなっただけではない。


 グシオンと戦っている場所に駆け付けた冒険者達が地面に強制的に押さえつけられ、三代目ジェラーリも同じく地面に叩きつけられた。


 バーバリアンとアマゾネス、シャーマンは地面に倒れることはなかったが、立っているのがやっとでとてもではないが動くことができない状況に追い込まれてしまった。


 これはグシオンの<重力咆哮グラビティロア>の効果である。


「ほう、地面に這いつくばらずに立っていられるとは大したものだ」


「鍛え方が違うんでね」


「こんな攻撃じゃやられねえよ」


「まだまだ戦えるねぇ」


「フン、減らず口を。まずは小賢しい貴様からだ」


 そう言ってグシオンが最初に標的にしたのはシャーマンだった。


 グシオンはシャーマンの飛び道具や煙玉を警戒して最初に倒すことにしたようだ。


「止めろ! 殺すなら俺からにしろ!」


「いいや、こいつからだ」


 バーバリアンが叫んで自分から殺せと言うが、グシオンの中では真っ先にシャーマンを殺すべきという考えは変わらない。


 ただ殴るのではなく、アビリティで確実にシャーマンを殺そうとした時、グシオンの体が地面に叩きつけられた。


「よくやった。その勇気ある行動が仲間の命を救ったぞ」


 その声は空から聞こえた。


 バーバリアンが見上げると、そこにいたのは戦う魔皇帝の姿をした藍大とリルだった。

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