第618話 即レスはありがたいけど暇なの?

 日本の次はCN国の発表だ。


 いつもディオン姉弟に振り回されているCN国のDMU本部長は苦労人であり、藍大は気に入っている訳ではないが少しだけ同情している。


『CN国の発表を始めます。CN国は昨年の国際会議で調教士が1人増えたことにより、ダンジョン探索と掌握が大幅に捗るようになりました。前回の発表では掌握もしくは踏破の進捗率が20%程度でしたが、1年で40%まで伸ばせました。これも東洋の魔皇帝が転職の丸薬(調教士)を譲ってくれたおかげです。この場を借りてお礼申し上げます』


 CN国のDMU本部長が藍大に頭を下げたので、藍大も会釈で応じた。


 いきなり感謝されて困惑していたけれど、それで無反応なのは不味いと思ったからである。


『また、この1年でCN国は一度もスタンピードの発生が起きておりません。これは調教士2名が東洋の魔皇帝のように従魔をクランメンバーに貸し出し、ダンジョンの間引きが進んでいない場所のテコ入れができたからです。国内の冒険者一丸となってダンジョン探索に取り組むことで、CN国はただ”大災厄”や”災厄”を恐れる国ではなくなりました』


 スクリーンに投影された資料や写真からも、CN国は日本に次いで順調にダンジョン探索を進めていることがわかった。


 シンシアともう片方の調教士の両方が”アークダンジョンマスター”の従魔を有しており、”アークダンジョンマスター”の存在は日本の専売特許ではなくなったことも明らかになった。


 それからCN国のダンジョン探索で得られた宝箱の話とダンジョンに現れたイレギュラーなモンスターの紹介を終え、CN国のDMU本部長はシンシアにバトンタッチした。


『私からはCN国の冒険者のケアについて発表する。前提として、私はモフモフが好きだ。私はもう1人の調教士と協力してモフランドをCN国の4ヶ所に開店した。ダンジョン探索で疲れても、モフランドの従魔達が癒してくれる。これがCN国の冒険者の活力になったのだ。今ではCN国の冒険者の3人に1人はモフラーだ。ゆくゆくはこれを100%モフラーにしたい』


『大変だよご主人。CN国が天敵の巣窟になっちゃうよ』


「よしよし。俺がリルも他のモフモフな家族も守ってやるからな」


「クゥ~ン♪」


 シンシアの発表はリルにとって恐ろしい内容であるため、藍大の膝の上でリルはプルプルと震えた。


 それゆえ、藍大はリルを安心させるために背中を撫でて落ち着かせた。


 もしもここに真奈がいたならば、シンシアの発表にスタンディングオベーションをしたのは間違いないだろう。


 そう考えると藍大もリルも真奈が今回の国際会議に参加していなくてホッとした。


 ブラドは純粋なモフモフではないから、真奈よりも可愛いもの好きな舞の方が天敵なのでそれほど危機感を抱いていない。


 それでもシンシアにジト目を向けるぐらいにはその発表に呆れているのだが。


 質疑応答の時間になると、T島国の黄美鈴が挙手したところを指名された。


『発表にはありませんでしたが、CN国では神の存在かそのヒントがまだ見つかってないのでしょうか?』


『現在、神様については捜索中です。イヌイット神話の神を目撃したという情報もありましたが、発見者の言葉に証拠エビデンスがなかったので虚言なのかどうかも含めて捜索を続けています』


 (イヌイット神話なんてものがあるのか。伊邪那美様には知り合いがいるんだろうか?)


 そんなことを考えていたところ、伊邪那美のテレパシーが藍大に届いた。


『残念ながら妾にはイヌイット神話の知り合いがおらぬのじゃ。あそこは閉鎖的なんじゃよ』


 (即レスはありがたいけど暇なの?)


『ひ、暇してる訳じゃないのじゃ! 妾はさっきそっちに行った時にやらかしたかもしれぬと思って藍大の様子を探っておったのじゃ!』


 (なるほど。飯抜きって言われると思ってビクビクしてたのか)


 伊邪那美は地下神域に戻って自分が国際会議ではっちゃけてしまったと思い、それを理由に夕食抜きと言われるのではと不安になったらしい。


 それで藍大の思考が自分に向けられたのを察知した瞬間、すぐに反応したという訳だ。


『藍大よ、お主は夕食抜きなんて酷いことは言わぬよな?』


 (どうしようかな)


『許してほしいのじゃ! ちょっとゼルに教わった登場の仕方をやれるかもなんて魔が差しただけなのじゃ! 帰って来て急に恥ずかしくなって反省しておる!』


 伊邪那美もメロと同じように決めポーズを披露するのが恥ずかしいらしい。


 (仕方ないな。今回は良いけど次はやるなよ)


『わかったのじゃ! 夕食を楽しみにしておるのじゃ!』


 伊邪那美は夕食抜きの危機を脱してホッとしたようでテレパシーを止めた。


 藍大が伊邪那美とテレパシーによる会話をしている間にCN国の質疑応答は終わっていた。


 CN国の次はI国が発表する番になった。


 ローマ神話のオルクスの存在が公になり、I国は自分達に神様と聖女様がいると活気づいてダンジョン探索の勢いが活性化した。


 その勢いのおかげで気づけばCN国に次いでダンジョン探索が進んだ国になった。


 そんなI国のDMU本部長が発表を始める。


『我がI国は聖女のおかげで活気に満ちています。テイマー系冒険者になれる転職の丸薬は見つかっておりませんが、それでも”ダンジョンマスター”になる冒険者はいませんし、ダンジョン踏破率は30%に到達しました』


 I国はテイマー系冒険者を抱えていない国にとってはモデルケースの国だ。


 テイマー系冒険者ではなく、神の力を借りているという点で何も特別なものがない訳ではないけれど、神の加護を得たソフィアの力はあくまで回復特化である。


 それを考えれば三次覚醒者も少ない中よくやっている国と言えよう。


 もっとも、I国のDMU本部長はやや見栄っ張りであり、日本から派遣された冒険者達がI国のダンジョン探索で活躍したことを発表していない。


 その日本人冒険者達というのは”リア充を目指し隊”であり、日本でモテないならば海外に行けば良いじゃないのと考えて遠征した。


 ソフィアに褒められたくてI国まで行った彼等は、イスキア島ダンジョンを踏破して現地の女性にチヤホヤされてすっかり気分を良くしてそのまま帰国した。


 高嶺の花よりも自分をチヤホヤしてくれる女性に流れてしまうのはある意味で真理なのかもしれない。


 その後、I国のダンジョン探索で得られた宝箱の話とダンジョンに現れたレアモンスターについて発表を済ませ、I国のDMU本部長はソフィアにバトンタッチした。


『オルクス様の巫女、ソフィア=ビアンキです。現在、オルクス様の力は60%程度まで回復しました。私は治療以外できませんので、オルクス様の復活に時間がかかっております。しかし、ランタの話でオルクス様の復活を早めるヒントは得られましたので、来年の会議ではオルクス様が復活したと報告できるようにいたします』


 ソフィアの発表の後半はほとんど宣言だった。


 それは国際会議で初めて自分が神の存在を明らかにしたにもかかわらず、藍大に神の復活という点でも先を越されるどころか圧倒的大差を痛感させられたことが影響している。


 聖女と魔皇帝ならば聖女の方が神に愛されているなんてことはなかった。


 藍大は従魔にも神にも愛されていた。


 自分では自身を貴重な回復職だと思っていたが、藍大の家族には回復系アビリティを使える者がそこそこ存在する。


 ソフィアは藍大にこれ以上差を付けられないように国際会議で宣言し、自分を追い込んだ訳である。


 質疑応答の時間になると、藍大は初めて国際会議で自ら手を挙げた。


 藍大がどんな質問をするのか注目が集まり、当然のようにそのまま指名された。


「ソフィアさん、ローマ神話の神々はオルクス様以外に見つけられそうですか?」


『もう少しオルクス様の力が回復すれば、他の神様についても探せるようになると仰せです。現状ではまだ見つけられておりません』


「そうですか。今回参加のIN国とEG国には複数の神様の存在が感じ取れたのですが、I国はまだなんですね」


『『『なんですって!?』』』


 藍大の爆弾発言で大会議室が急激に騒がしくなった。


 (あっ、これやっちゃったかも)


 伊邪那美にI国の神について質問してほしいと頼まれていたので質問したが、その後の発言は余計だったかもしれないと藍大は悟った。


 やはり藍大は世界の最先端を行く存在なのだと改めて認知された瞬間だった。

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