第617話 妾こそが伊邪那美なのじゃ!

 大会議室では藍大達が会場入りした途端にテイマー系冒険者が我先にと藍大に話しかけようとして軽いトラブルになった。


 それでも、藍大が会議の開催時刻も迫っているので会議中に質問するように告げるとおとなしく各々の座席に戻っていった。


 ここで退かねば誰も何も質問に答えてもらえず、他国のテイマー系冒険者から非難の集中砲火を浴びることになる。


 そんな事態は避けたいのでテイマー系冒険者達の聞き分けが良かったのだ。


 参加予定者全員が着席したのを確認すると、定刻になったことを確認してから志保が開式の挨拶のために立ち上がる。


「皆様、新年早々からお集まりいただきありがとうございます。トラブルが起きて議論の時間が削られぬよう進行にご協力下さい。これより第4回冒険者国際会議を始めます」


 志保の挨拶を受け、日本を除いた9ヶ国のDMU本部長達は揃って他国のDMU本部長に余計なことをするなと視線で合図した。


 自分達を棚上げしているが、共に会議に出席している冒険者代表がやらかすとは考えていないのだろうか。


 いや、会議参加前に口酸っぱく余計なトラブルを起こすなと釘を刺したから、それが無駄になるとは思いたくないに違いない。


 毎度のことながら、1つ目のプログラムである各国の国内概況の発表は日本から始まる。


「日本ですが、最初にお伝えすべきことはテイマー系冒険者達によって国内全てのダンジョンが掌握されたことです。ダンジョンと管理する冒険者はご覧の通りです」


 既にニュースで報道されている内容ではあるが、それを日本のDMU本部長がスクリーンに根拠と共に発表したので各国の参加者達が騒がしくなった。


 日本なら達成してもおかしくないとは思っていても、日本でDMU本部長である志保の口から偉業について聞けば疑いようがない。


 ダンジョンを管理する冒険者のラインナップと地図がスクリーンに映し出されたため、そこに最も名前が記されている藍大に視線が集まるのは当然のことだった。


『ワフン、みんなご主人のすごさを知って驚いてるね』


「俺だけじゃないさ。ブラドやモルガナもちゃんと管理してくれてることもわかってると思うぞ」


「ふむ、わかってるならそれで良いのだ」


 ブラドはドヤ顔を披露するけれど、デフォルメのドラゴンのぬいぐるみの見た目でドヤ顔をされても可愛いだけである。


 志保は日本のダンジョン探索が国内産業の継続的発展を支えるために続けられていると伝えた後、国内の中小クランや無所属冒険者達が日本のDMUを経由して他国からの依頼に応じて遠征させていることも伝えた。


 その遠征の世話になっている国も会場内では少なくなく、もっと遠征してほしいと言いたそうにする各国のDMU本部長達の姿が印象的だ。


 続いて日本に現れた神々の話についてだが、これについては志保から話す内容ではないので藍大にバトンタッチすることになった。


「どうも皆さん、日本の逢魔藍大です。日本の神々についてですが、現在5柱の神様が私達のクランハウス内にある神域におります。伊邪那美様と伊邪那岐様は完全に復活しておりますが、天照大神と月読尊、須佐之男命の3柱は現在回復中です」


 藍大が話すのと同時にスクリーンには5柱の神が映し出され、それを見た各国の参加者達はさすまこと言うばかりだ。


 そろそろ藍大による発表が終わると言うタイミングになり、その瞬間に伊邪那美がポーズを決めて降臨した。


「妾こそが伊邪那美なのじゃ!」


 (そのジョ〇ョ立ちはゼルに仕込まれたな?)


 藍大は決めポーズで登場した伊邪那美を見てジト目になった。


 こんな登場を仕込むのは現在の逢魔家ではゼル以外に考えられない。


『アイエエエ! 神様!? 神様ナンデ!?』


『こんなにはっきり顕現するのか!?』


『日本は神様までクレイジーだ!』


 各国の参加者達が驚きの言葉を口にする中、伊邪那美がポーズを止めて両手を体の前に移動させる。


「静まるのじゃ。少しだけ助言をしようぞ。お主達の国の神と出会えたのなら、復活には何が必要か聞いてそれを実行するのじゃ。あまり長居するつもりもないので妾は帰るぞよ。藍大、夜には帰ってきてほしいのじゃ。作り置きよりも藍大の作り立てが食べたいのでな。ではさらばじゃ」


 言いたいことだけ言って伊邪那美はシャングリラの地下神域に帰った。


 (茂がこの場にいなくて良かった)


 もしも茂がこの場にいたのなら、もっと伊邪那美の話を聞かせてくれと詰め寄られて胃が痛くなっていたことだろう。


 藍大はそう言われたとしてもこれ以上騒ぎを起こしたくないので、伊邪那美をこの場に呼ぶつもりはない。


『東洋の魔皇帝は本当に神様に料理を作ってるのか』


『神々の料理人と呼ぶべきだろうか』


『まさか、神々もテイムしたのか?』


『その発言は不敬だろう』


 会場が再び騒がしくなって来ると、藍大が着席して志保が再び立ち上がって口を開く。


「静かにして下さい。進行の邪魔をすれば議論の時間が減ると最初に申し上げたはずです。これより質疑応答の時間ですが、皆様はその時間を不要と考えているようですね」


 志保の言葉にしまったと思ったらしく、会場が一気に静かになった。


 日本に質問できる貴重な時間を無駄にしたくないのは各国共通の認識だから当然だ。


「静かになりましたね。それでは、質問がある方は挙手して下さい」


 その瞬間、日本以外の参加者全員の手が挙がった。


 志保は誰よりも早く手を挙げたCN国のシンシアを指名した。


 シンシアが自分達をロックオンして立ち上がるのを見て藍大は嫌な予感がした。


『日本ではMOF-1グランプリなる最高のお祭りをテレビで放映したとリーアムから聞きました! 国際大会の予定はありますか!?』


 (真っ先に訊くのがそれかよ・・・)


 日本の神や冒険者の遠征、ダンジョンの管理といった今までの概況報告と無関係な質問が飛び出て藍大の顔が引き攣った。


 他の国の参加者達も同様であり、CN国のDMU本部長に至っては今にも卒倒しそうだった。


 微妙な空気の中、シンシアの質問に志保が応じる。


「日本側は開催できる状況にありますが、他の国が厳しいように思います。私個人としては世界一のモフモフを決める大会も面白そうだと考えますが、参加できる国が少ないと大会として盛り上がりに欠けるのではないでしょうか」


 (この人もモフラーの領域に足を踏み入れてたわ)


 志保がシンシアの質問に対して真面目に応じるものだから、藍大は志保にジト目を向けた。


 それと同時に今この場にいない茂に俺は悪くないと心の中で言い訳もした。


 実際、やらかしているのは伊邪那美とシンシア、志保なのだからその通りだと言えよう。


 その一方でリルはやる気になっていた。


『僕がご主人を世界一にする』


「愛い奴め。リルはとっくに俺の中で世界一のモフモフだからな」


「クゥ~ン♪」


 リルは藍大に顎の下を撫でられて嬉しそうに鳴いた。


 ブラドも会議中であることを考慮して静かにしていたが、藍大との距離が近くて自分のことも平等に撫でるべきだと目で訴えた。


 藍大は当然ブラドのことも撫でてやった。


 そんなことをしている内に志保はI国のソフィアを指名した。


『ランタに質問です。私はオルクス様より多くの人を救えばオルクス様の力を取り戻せると言われましたが、ランタは5柱の神様からどのようにすれば復活できるとお言葉をいただきましたか?』


 ソフィアの質問は参加者の多くが訊きたかった質問だった。


 自分の欲求を優先したモフラーとは異なり、ソフィアは自分のためにも周りのためにもなる質問をした。


 治療だけでなくそのような気遣いができるからこそ、”西洋の聖女”と呼ばれて他国にもファンがいるだけのことはあるのだろう。


「自由にやって良いと言われました」


『自由にですか?』


「その通りです。伊邪那美様があれこれ指示を出すよりも私が好き勝手に動いた方が結果的に早く復活できるからとのことです。神様によって多少の違いはありますが、伊邪那美様と伊邪那岐様を復活させた実績もあるので残り3柱の神様も私のやり方を認めて下さいました」


『それで料理を作ったんですか?』


「そうですね。勿論、シャングリラダンジョンのモンスター食材でお供え物を作るだけでなく、ダンジョンを踏破して掌握することでも神様の力は回復しましたが」


 流石に伊邪那美が準備して今も時々聞こえるシステムメッセージのことは黙っていたが、藍大の話は諸外国の参加者にとって参考になる話だった。


 神と対話して自分の得意なことで神の復活に貢献すればいいとわかれば、今までどうすれば良いかわからなかった状態を抜け出せたので藍大に感謝したのである。


 日本の持ち時間が無くなったため、これにて日本の報告は終了した。

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