第610話 これが私のドラゴンブレス!

 武器を強化した後、司達はパンドラ達レンタル従魔組と合流してシャングリラダンジョン地下12階にやって来た。


 キャロピノやバナホーンタロスを相手に各々の武器を試しつつ、スフィンクスを倒すのが本日の目的だ。


「今宵のマルチコッファーは血に飢えておるぞ」


「まだ昼だよ健太。お説教が足りないようだね健太」


「パンドラさん違うんです。これは様式美なんです。だから尻尾ビンタの構えは止めて下さい」


 今は九尾白猫の姿になっているパンドラの尻尾ビンタは痛い。


 一瞬だけモフッとした感触を楽しめたと思った瞬間にはそれが痛みに変わっている。


 健太は何発も喰らっているのでその痛みを良く知っており、喰らわなくて良いのであれば喰らいたくない制裁だからシャキッとした姿勢で謝った。


 パンドラは次はないぞと言ってから説教モードを解除する。


 説教するよりも先に正面に現れた雑魚モブモンスターを倒さなければならないからだ。


 地下12階の雑魚モブモンスターはキャロピノとバナホーンタロスの2種類である。


 スフィンクスを倒せなかった司達はこの2種類を簡単に倒せるぐらいに強くなっており、強化された武器の試しに丁度良かった。


「トリニティトライデントも良いね。これならゲイボルグ=レプリカに釣り合うよ」


「クエレブレヘッズも良い調子だわ」


「クエレブレブレスも名前はあれやけどええ使い心地やで」


「マルチコッファーも良いぞ。実に良い」


 司達は敵集団を掃討して強化した武器の使い心地を述べた。


 全員満足のいく仕上がりのようだ。


 何度か戦闘を行って連係の微調整を行った後、司達はスフィンクスと対峙した。


「全員」


「筋肉だぁぁぁぁぁいすきぃぃぃぃぃ!」


 スフィンクスが先手を取ろうと<絶対注目アテンションプリーズ>を仕掛け始めた時、アスタがそれを遮るように<絶対注目アテンションプリーズ>と同時にバックダブルバイセップスを披露する。


 敢えて背中を向けることで油断しているように思わせ、スフィンクスの攻撃を誘っているのだ。


「筋肉ぅぅぅぅぅ!」


 スフィンクスがアスタの筋肉に夢中になり、そのまま<体力吸収エナジードレイン>を発動しようと接近する。


「まずは僕から」


 司はグングニル=レプリカを投擲してスフィンクスのVITを30秒限定で削った。


 投げた槍を司が手元に戻す間に未亜と健太が攻撃する。


「撃ち抜けや!」


「そぉい!」


 未亜は魔力矢で健太はエネルギー弾を放ったが、どちらも出力が強化前よりも大きく上昇している。


「ぬあぁぁぁぁ!?」


「マージ、足止め!」


「任せたまえ」


 スフィンクスが痛みに怯んだと判断し、司の指示によってマージが<暗黒沼ダークネススワンプ>を発動する。


 これでスフィンクスの移動を封じることができた。


「パンドラ!」


「わかってる」


 パンドラは司の意図を理解してスフィンクスに反撃の隙を与えぬように<負呪破裂ネガティブバースト>を発動した。


「最後は私! オラオラオラァ!」


 アビリティが切れた直後を狙って麗奈が接近してラッシュを喰らわせる。


 怒涛の攻撃を受けて弱っていたスフィンクスは麗奈が最後に放った右ストレートで力尽きた。


「「「よっしゃあ!」」」


「ふぅ。これでクイズ地獄は終わりだね」


 麗奈と未亜、健太が万歳と喜ぶのに対して司は小さく息を吐いて静かに喜んだ。


 テンションに差こそあれど、司も麗奈達と同じで達成感を味わっているのは間違いない。


 スフィンクスの魔石はアスタに与えられ、<剛力突撃メガトンブリッツ>が<破壊突撃デストロイブリッツ>に上書きされた。


 その結果を報告してからパンドラは司に訊ねる。


「司、この後はどうする? 進む? 引き返す?」


「僕はまだみんなに余裕があるように見えるから進んでも良いと思うよ。パンドラはどう思う?」


「疲労の状態はスフィンクスと戦ったとは思えないぐらい軽度だし、このままでも無理なく進めると考えてる」


「それなら行こうか」


「そうだね」


「「「賛成!」」」


 パーティーの頭脳担当ブレーンが探索続行の判断を下すと、麗奈達もそう来なくてはと喜んだ。


 そうと決まれば司達の探索はスムーズに進み、あっという間にボス部屋まで辿り着いた。


 ボス部屋の中で司達を待ち受けていたのは三つ首のモスグリーンのドラゴンである。


「ん? この部屋を守る奴等はどうした?」


「ここまで来たなら殺されたんだ。俺達でっちゃおう」


「良いと思うよ」


 首同士で話している内にパンドラが鑑定してその特徴を司達に共有する。


「ブネLv100。ブレス以外に幽霊や茨を使った攻撃をする。当然の如く再生と半減持ちだから気を抜かないで」


「「「「了解!」」」」


 アスタは自分の役割を果たすべく、モストマスキュラーを決めながら<絶対注目アテンションプリーズ>を発動する。


「What does the muscle say?」


「わっだず・・・なんて?」


「訳がわからない」


「良いと思うよ」


 ブネの全ての首はアスタの無駄に良い発音に混乱しつつ、すっかりアスタに注意を向けてしまった。


「削るよ」


 パンドラが<負呪破裂ネガティブバースト>をブネの胴体に命中させると、アスタが集めたヘイトを上回る。


 しかし、パンドラはそのヘイトを擦り付けるべく<敵意反射ヘイトリフレクション>で右側の首にヘイトを集中するよう反射した。


「てめえこの野郎!」


「ごぱぁ!?」


 中央の首が右側の首に振り下ろすように<暗黒吐息ダークネスブレス>を放った。


 訳もわからず被弾した右側の首は<自動再生オートリジェネ>で傷が治ると抗議する。


「何しやがる!」


 その時には中央の首もなんで右側の首を攻撃したのかわからなくて返答に困り、迷った結果がこれである。


「誤チェストにごわす」


「良いと思うよ」


「それなら仕方ないか」


「仕方なくないやろ。知らんけど」


 右側の首の良くわからない基準にツッコミながら、未亜が魔力矢で中央の首を貫く。


 隙だらけの状態を見逃すなんてことはあり得ないので、健太もコッファーでエネルギー弾を連射して追撃する。


 HPが削れても<自動再生オートリジェネ>があるせいで回復してしまうため、司達はブネのMPがなくなるか再生が追い付かなくなるまで攻撃しなければならない。


「これが私のドラゴンブレス!」


 麗奈はクエレブレヘッズから気功波を放つ際、戦闘時のテンションでまたしても迷言を口にしてしまった。


 司とパンドラ、マージが麗奈にジト目を向けるのも無理もない。


 それでも気持ちを切り替え、司も投擲からの接近戦でブネのHPを削り始める。


 マージも広範囲を攻撃できる<緋炎柱クリムゾンピラー>や<岩棘ロックソーン>でダメージを与えていく。


「四の五の考えるのは止めだ! 続きは周りの敵を皆殺しにしてからにする!」


「そうだ! 俺達の敵は奴等だ!」


「良いと思うよ」


 司達のことを自身を脅かす敵と認定し、良い争いは止めてそれぞれの首が<幽霊召喚ゴーストサモン>と<幽霊爆弾ゴーストボム>の無差別攻撃を始めた。


「幽霊に対応しよう」


「俺も加勢する!」


 そう言ってマージと健太が召喚された爆発する幽霊の対処に動く。


 幽霊の数が見る見るうちに減っていくので、残ったメンバーは安心してブネを攻撃できる。


 勿論、ブネもただやられることはなく<暗黒吐息ダークネスブレス>で反撃してくるが、今度は未亜とパンドラがそれに対処する。


「ここはウチ等に任せて攻撃に集中せい!」


「問題ない」


 未亜とパンドラは有言実行でブネのブレスを全て相殺するものだから、ブネが攻撃を決めるには相殺されないようにブレスを数撃たねばならない。


 それによってMPがどんどん消費され、司と麗奈、アスタの攻撃によって与えられたブネの傷が治らなくなり始めた。


「そろそろブレスが鬱陶しい」


 パンドラは<倍々地獄レイズヘル>を使って真っ暗な空間にブネを閉じ込める。


「来るな! 近づくんじゃない! ぐぁぁぁぁぁ!」


「消えろ! 失せろ! なんで何度も蘇るんだ!」


「良くないね!」


 真っ暗な空間の中でブネは自身が心の底で恐れる状態を投影され続けて叫んでいる。


 その声は時間が経過すればする程恐怖の度合いが強まっていき、真っ暗な空間から出て来たブネはげっそりして身も心もズタズタだった。


「とどめだよ」


 司が二槍流で乱舞を放てばブネのHPが0になった。


「武器を変えるだけでこんな威力になるなんてね。ありがとう、僕達はまだまだ強くなれるよ」


 倒れたブネの屍に感謝の気持ちを伝え、勝利の喜びを分かち合う麗奈達の輪に加わった。


 その後、ブネを解体して魔石はマージに与えられ、マージの<岩棘ロックソーン>が<大地棘ガイアソーン>に強化された。


 余談だが、帰還して今日の探索の報告を”楽園の守り人”の掲示板でしたところ、麗奈のこれが私のドラゴンブレス発言に注目が集まった。

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