第606話 今日のランチは君に決めた!
伊邪那美に神々の会合の話を朝食で共有された後、藍大はブラドに呼び掛けられた。
「主君、今日は道場ダンジョン12階に挑んでほしいのである」
「増築終わったのか」
「うむ。11階をクリアする冒険者もそこそこいるから12階は難しくしたのだ。それゆえ、テストプレイは主君達にお願いしてもらおうと思ってな」
「俺達が挑んで試してほしいぐらいには難しいのか」
「その通りである。それに、さっきの話では聖獣3体の強化が必要なのであろう? テストプレイは丁度良いはずである」
「了解。この後早速行って来るよ」
ブラドに頼まれたため、藍大はリルとゲン、三聖獣を連れて道場ダンジョン12階に移動した。
道場ダンジョンはどの階も変わらず道場の内装だが、進み出そうとした藍大にリルが待ったをかけた。
『ご主人、ちょっと待って。この先に落とし穴がいくつかあるよ』
「マジか」
落とし穴があると聞いてそのまま進めるはずがなく、藍大はピタリと足を止めた。
『ご主人とミオは僕の背中に乗って。ドライザーとフィアは飛んでいれば落とし穴は無視できるよね』
「了解」
「よろしく頼むニャ」
『承知した』
『わかった~』
藍大とミオはリルの背中に乗り、藍大達は落とし穴を避けて通路を進んだ。
落とし穴は道幅全体や半分、1/3のように大きさを変えて間隔もバラバラに仕掛けられており、無警戒のまま進んだら間違いなく落ちる難易度だった。
落とし穴の底は剣山になっており、そのまま落下したら串刺し待ったなしである。
12階は序盤から殺意が上がっていると言えよう。
落とし穴を避けて進んでいると、通路の奥からハーピーが群れで現れた。
「
他所のダンジョンなら”ダンジョンマスター”だったり後半のフロアボスとして登場するハーピーが
「ドライザーとフィアに任せる」
『OKボス』
『行ってきま~す』
藍大に任された2体は通路の奥から続々とやって来るハーピーをどんどん撃墜していく。
「ミーも活躍したいニャ」
「ミオには俺達が歩いて進める場所になってから働いてもらう。今は我慢だ」
「わかったニャ。我慢するニャ」
ミオも自分で自由に動けない状況を危険だと理解しているため、藍大にわがままを言うようなことはしなかった。
討伐したハーピー達を回収したところで藍大は落とし穴とハーピーの群れの組み合わせについて評価し始める。
(足場に不安があれば最高のパフォーマンスを発揮できない。ブラドめ、考えたな)
地面に足がついていることで踏ん張れる訳だが、踏み込んだ場所が落とし穴かもしれないとわかっていてしっかりと踏ん張ろうとするのは難しい。
そこに現れるのが陸を歩くモンスターであれば問題ないが、空を飛ぶモンスターに襲撃されると難易度が跳ね上がる。
加えて言えば空を飛ぶモンスターがLv90のハーピーである。
これは一般的な冒険者にとって苦戦するだろうエリアと言える。
ブラドは11階を踏破する者が増えて悔しかったようだ。
『ご主人、落とし穴エリアは終わったよ』
「OK。別の罠はわかるか?」
『よく見てみると両脇の壁の下の方に穴が開いてる。冒険者の存在を感知したら煙が出る仕組みみたい』
「視界を奪うつもりなのか。でも、俺達はリルがいるから余裕だな」
『ワッフン♪』
リルが胸を張ってドヤる姿は愛らしいから藍大はその頭を撫でた。
そうしている間にリルの説明通りに煙が発生し、通路の視界が時間を追うごとに悪くなっていく。
藍大はミオと一緒にリルの背中から降りて指示を出す。
「リル、煙を吹き飛ばしてくれ」
『わかった。ミオ、僕が煙を吹き飛ばしたら左側の壁の手前から三番目の穴を塞いで』
「リルが言うなら何かあるんだニャ。わかったニャ」
リルはミオに頼み事をしてすぐに<
「左の手前から三番目はあれニャ!」
ミオは煙が散らされた瞬間、<
10秒経過したところで塞いだ穴近くの部分がパカッと開いて隠し通路が現れた。
「こんな仕掛けまであったのか」
『ブラドは視界が悪い所をさっさと突破しようとするって思ったんだろうね。でも、僕にかかればパッと見ただけで隠し通路の開け方はまるわかりだよ』
「よしよし。流石はリルだ。ミオも協力ありがとな」
「クゥ~ン♪」
「ニャア♪」
藍大に顎の下を撫でられてリルもミオも嬉しそうに鳴いた。
リルとミオを満足させた後、藍大達は隠し通路を進んで隠し部屋に辿り着いた。
そこには4体のマネキンが宝箱を守るように配置されていた。
「ダマスカスマトンLv90。持ってる武器で使えるアビリティが違うから注意して」
ダマスカスマトンは剣を持つ者と槍を持つ者、弓を持つ者、杖を持つ者の4体いる。
正直なところを言えば、リル達にとってその情報は誤差レベルだがそれぞれが使えるアビリティに違いがあることだけ藍大は伝えた。
『武器の扱いで勝てると思うな』
ドライザーがラストリゾートを大太刀に変形させて横に薙ぐと、ダマスカスマトン達が真っ二つになった。
『またつまらぬ物を斬ってしまった』
「ドライザー、そのセリフ好きなの?」
『ボスはお約束がお嫌いか?』
「お好きでござる」
ドライザーがゼルの影響を受けていることに思うところはあるけれど、藍大はこの手のネタが嫌いではない。
むしろ好きな部類なので正直に答えた。
ダマスカスマトンとセットで宝箱を回収し、藍大達は隠し部屋から出て元の通路に移動した。
隠し部屋が発見されたことで仕掛けが解除されており、藍大達が戻って来ても煙はもう発生しなかった。
『ぐぬぬ。リルの観察眼が鋭いのだ』
ブラドの声が藍大の頭に響く。
今回もあっさりと隠し部屋を見つけられてブラドはなんとも悔しそうだった。
煙エリアを通過したところで藍大達はメタリックカラーのバジリスクの群れと遭遇した。
「メタルバジリスクLv90。バジリスクよりも硬い。以上」
『次はフィアがやるよ!』
フィアは自分の番だと宣言してメタルバジリスク達に向かって<
バジリスクより硬いメタルバジリスクだが、メタルコーティングされている分だけ体が重く熱に弱い。
そのせいでフィアの攻撃を避けられずに喰らったメタルバジリスク達が炎と熱にやられて続々と倒れた。
『パパ~、倒したから褒めて~』
「よしよし。愛い奴め」
フィアはきっちり敵を仕留めたのを確認してから藍大に甘えた。
藍大も今日はフィアをあまり褒めてやれていなかったと思ったので、ここでめいいっぱい甘やかした。
メタルバジリスク達の死体を回収して先に進んだ所には隠し部屋よりも大きな広間があった。
そこで自分達を待ち受けていた存在を見て藍大は目を見開いた。
「ワイバーン先輩、強くなってカムバックしたのか」
藍大達の視線の先には双頭のワイバーンが待機していた。
すかさず藍大がモンスター図鑑でそのステータスを調べ始めたが、リルは既に鑑定し終えていたようで嬉しそうに飛び出した。
『今日のランチは君に決めた!』
リルはそう言って<
攻撃どころか威嚇して吠えることすらできずに凍らされた双頭のワイバーンに対し、ミオがポツリと感想を漏らす。
「不憫ニャ」
「瞬殺された不憫なモンスターの名はツインヘッドワイバーン。Lv95の掃除屋だ」
「ワイバーンはどんなに強くなってもワイバーンニャ」
「それな。我が家じゃ牛肉より美味しい肉って扱いだもんな」
藍大がミオとしみじみした気分で話しているところにリルが無邪気に入り込む。
『ご主人、今日のランチはステーキが良い!』
「しょうがないな」
昼食もやる気を出す重要な要素であり、留守番組にとってはお土産が昼食になるのだからダンジョン探索で手に入れた食材を使わない手はない。
藍大はしょうがないと言いつつリルの頭を撫でてそのリクエストに応じると伝えた。
ミオもなんだかんだで気分を切り替えてツインヘッドワイバーンのステーキに興味を持っていたし、フィアは不憫だとか思わずに昼食を楽しみにしていた。
やはりワイバーンは何処までいっても手軽で美味しい肉のカテゴリーから抜け出せないらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます