第595話 茂の胃は未来予知までできるのか

 昼食のハンバーグは大盛況であり、食いしん坊ズもそうじゃないメンバーもお腹いっぱいで動けなくなった。


 食休みを終えた後、藍大は伊邪那美に呼ばれて四聖獣を連れて地下神域に移動した。


「よく来たのじゃ」


「藍大、今日のハンバーグも絶品だったよ」


 伊邪那岐が昼食のハンバーグの話題に触れた途端、食いしん坊ズの目が光った。


『そうだよね! 僕も美味しくていっぱい食べちゃったよ!』


「ミーもさっきまでお腹はち切れそうだったニャ」


『フィアも~』


「伊邪那美もさっきまでカロリーを消費するためにメロの育ててる植物に美味しくなるよう祈祷してたよ」


「い、伊邪那岐、余計なことは良いのじゃ!」


 伊邪那美は伊邪那岐に自分のカロリー消費法を暴露されて慌てた。


 太らないように力を使っているのは良いけれど、美味しい植物が育てばそれをまたいっぱい食べるから結果として食べる量は変わらないだろう。


『伊邪那美様も僕達並みに食いしん坊だよね』


「リルよ、その温かい目を止めるのじゃ」


 リルに美味しい物をいっぱい食べたい気持ちがわかるよと言わんばかりの目を向けられてしまい、伊邪那美は顔を真っ赤にした。


 食いしん坊ズの一員である以上、既に藍大から伊邪那美はいっぱい食べる神だと認識されている。


 それゆえ、ここで自分は食いしん坊ではないとアピールしても無駄なのだ。


「伊邪那美様、正直な気持ちを言って楽になるニャ」


『美味しい物は正義だよ』


「うぅ、伊邪那岐め。後で覚えておるのじゃ」


「僕は悪くないよね!?」


 伊邪那岐が自分は悪くないと主張するが、伊邪那美は最初に伊邪那岐が余計なことを言うのが悪いんだと睨んだ。


 この場で神々による夫婦喧嘩をされても困るから藍大は本題に入ることにした。


「それで、わざわざ地下に呼び出した理由はなんなんだ?」


「そうだったのじゃ。伊邪那岐、まずは其方から話すのじゃ」


「そうだね。藍大、それに四聖獣のみんなもありがとう。君達のおかげでこの2日間で一気に力が回復したよ。あともう少しで完全復活できるからこの調子で頼むね」


「とは言われても、リル達の全員が外国の神々の名を冠するアビリティを会得したんだぞ? 他に何をすれば良いんだ? 今まで通り料理を作れば良いのか?」


 伊邪那岐に頼むと言われた藍大だが、一気に伊邪那岐の力を取り戻せそうなイベントに心当たりがなかったのでいつも通りにすれば良いのか訊ねた。


「いくつか方法はあるけど、実現性が高いのは日本の全ダンジョンの掌握だね。君達テイマー系冒険者のおかげで国内に現存する約9割のダンジョンが支配下に入ったか潰されたよ」


 藍大が魔王軍に協力してもらい、その流れが伝播して国内のテイマー冒険者達が今日に至るまでに約9割のダンジョンをテイマー冒険者によって管理下に置いた。


「よくもまあ、これだけ集まったものじゃよ。リルは2柱から、ドライザーとミオ、フィアが1柱からじゃな。本当に大したものじゃよ」


「以前から気になってたんだけど、ガネーシャ様のIN国みたいに俺達はそれらの神々から依頼を受けるんだろうか?」


 感心する伊邪那美に対して藍大はずっと気にしていた疑問をぶつけてみた。


 ガネーシャの時はIN国を助けたからこそ、藍大達は”ガネーシャの感謝”を貰えたのだ。


 神々の名が入ったアビリティを貰ったが、後になってそのお礼に助けてくれと言われるのは堪ったものではない。


 今の内に対処できるものからさっさと終わらせたいのが藍大の正直なところだろう。


 そんな藍大の不安に対して伊邪那美は首を横に振る。


「まだ奴等は称号に影響を及ぼす範囲で力を取り戻しておらんのじゃ。それなら妾に考えがあるぞよ」


「と言うと?」


「覚醒の丸薬Ⅱ型を用意し、神話の影響する国々に神1柱に対して10個ずつ仕送りしてあげれば良かろう。そうすれば文句はないはずなのじゃ」


「覚醒の丸薬Ⅱ型かぁ。奈美さんが作ってくれたストックを送れば良いかな」


 奈美は過去の教訓で外部から自分の作った薬品を求められる可能性を考慮し、いつ求められても良いようにストックを用意していた。


 作りたい薬品を作っている最中に邪魔されるのが嫌なので、奈美の用意した覚醒の丸薬Ⅱ型は藍大の収納リュックに収納されている。


「そうじゃな。ストック分だけでもまだ余裕がある」


「それならそっちは大丈夫そうだな。流石にあちこち飛行機で移動するのも面倒だから良かった。俺から直送すると面倒そうだし茂に発送を依頼しよう」


 その言葉を口にした瞬間、茂が八王子のDMU本部でくしゃみをしたらしいがそれは茂の勘が良いだけだろう。


 藍大と伊邪那美の相談が落ち着いたため、伊邪那岐は話を国内のダンジョン探索に戻した。


「話を戻すよ。国内のダンジョンの探索だけど、掌握で来てないのは北海道と四国のダンジョンだけだ。この2つのエリアのダンジョンさえどうにかすれば、僕達よりも上位の神が強制的にスタンピードを起こそうとしてもそれが不発に終わる」


「北海道と四国とはどちらもダンジョンの数に対して現地の冒険者数が少ない地域じゃな」


「協力してもらってるトップクランを二分して一気に掌握するか」


「それが良いんじゃないかな。ダンジョンの掌握は先延ばしにしてもスタンピードのリスクが残るだけだし」


「わかった。地上に戻ったら北海道と四国の探索の手配をしとくよ」


「よろしくね」


 藍大達が地上に戻ろうとした時、仲良しトリオが神柿の種を植えるために地下に降りるところだった。


「メロ、何か手伝うか?」


「ありがとです。ゴルゴンとゼルがいるから人手は足りてるですよ」


「そうか。柿も楽しみにしてるよ」


「はいです!」


 藍大達は地上に戻り、ドライザーは持ち場に戻ってミオとフィアは子供達と中庭に遊びに行った。


 リルだけが藍大の膝の上に座っているが、それは今から藍大が茂と電話するからだ。


 いつでも自分のことを撫でて藍大が落ち着けるように待機している。


 藍大が電話をすると茂がすぐに応答した。


『やっぱり連絡して来たか』


「俺が電話するとわかってたのか?」


『さっき唐突に胃が痛くなる予感がしてな。何か藍大がやらかしたかもって予想してた』


「茂の胃は未来予知までできるのか」


『おいおい、マジで何かやらかしたのかよ。・・・よし、OKだ』


 藍大は茂が電話越しに胃薬を飲んだことに気づいた。


「俺と電話する時は近くに胃薬置いてんのかよ」


『そうでもしねえと胃がもたねえんだよ』


「悪気はないんだ。許してくれ」


『悪気があるとは思ってないが、もう少し加減を知ってほしいと思ってる。それで、今日は何事だ?』


 茂も藍大がわざと自分の胃を攻撃するために色々やらかしているのではないと理解している。


 もっとも、もう少し加減してくれたらと思うことは少なくないのだが。


「実は、G国とEG国、北欧の国々に覚醒の丸薬Ⅱ型を10個ずつ送ってほしい」


『なるほど。神話の神関連か』


「理解が早くて助かる。リル達四聖獣がそれらの神々の名を冠するアビリティを会得した。だから、早めにその恩を返しておきたい」


『後回しにして恨まれても面倒だしすぐに送る段取りは準備しよう。物は用意できてるんだよな?』


「勿論だ」


『了解。この後DMU運輸をシャングリラに向かわせるから、その時に渡してくれ』


「わかった」


 茂の頭は冴え渡っており、藍大が事細かに説明せずともその意図を理解した。


 藍大との付き合いの長さがなせる業と言えよう。


『他に用件はあるか?』


「そうだな。頼み事じゃなくて今後の国内のダンジョン探索の方針を共有しておくか」


『聞かせてくれ』


「伊邪那岐様曰く、現在国内で掌握できてないダンジョンは北海道と四国だけらしい。だから、この2つのエリアに日本のトップクランを一斉に派遣して国内のダンジョン全てを掌握しようと思う」


『遂にその段階まで来たか』


 茂は感慨深そうに言った。


 ダンジョンを掌握してしまえば上位の神が何かしでかしてもスタンピードを防げるので、どうにか間に合いそうだと安堵したのだろう。


「北海道は俺達と”レッドスター”、”ブラックリバー”、”迷宮の狩り人”が担う。四国は”ブルースカイ”と”グリーンバレー”、”ホワイトスノウ”、”近衛兵団”に担当してもらう」


『担当エリアを考えれば妥当な選択だな』


「だろ? なんにせよ日本平定まであと少しだ。これが終われば伊邪那岐様も完全復活するぞ」


『・・・最後に特大のネタ持って来るの止めろよ』


 茂は先に胃薬を飲んでおいて良かったと数分前の自分を心の中で褒めた。

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