第594話 弱肉強食! 勝った方が倒した相手を食べるのが自然の摂理だよ!

 ミオとリルを労った後、藍大はガイアドラゴンを解体して収納リュックに収納した。


 その魔石は期待する視線を向けて来るミオに渡す。


「ミオ、お待ちかねの魔石だぞ」


「やったニャ~!」


 ミオは藍大から魔石を貰って飲み込んだ。


 その直後にミオの毛並みが魔石を飲み込む前よりもモフみが増した。


『ミオのアビリティ:<霧満邪路ミストダンジョン>とアビリティ:<敵意押付ヘイトフォース>がアビリティ:<猫神悪戯トリックオブバステト>に統合されました』


『ミオがアビリティ:<衛星泡罠サテライトバブル>を会得しました』


『おめでとうございます。四聖獣全てが神に興味を持たれました』


『初回特典として伊邪那岐の力が90%まで回復しました』


『報酬として逢魔藍大の収納リュックに神柿しんしの種が贈られました』


 (ちゃっかり伊邪那岐様まで回復してるじゃん)


 昨日全盛期の80%まで回復したばかりだったけれど、今日ミオが<猫神悪戯トリックオブバステト>を会得しただけで90%まで力を取り戻した。


 これは嬉しい誤算と言えよう。


「ミオ、我慢した甲斐があったな」


「良かったニャ! 仲間外れになるんじゃないかと心配だったニャ!」


「よしよし、もう大丈夫だからな」


「ニャ~♪」


 藍大に頭を撫でられてミオは嬉しそうに鳴いた。


 <猫神悪戯トリックオブバステト>はトリッキーなアビリティであり、霧を操って様々な物を作れるようになるだけでなく、自分の稼いだヘイトを霧で作った何かに押し付けられる。


 つまり、このアビリティを使って霧で形成したミオを囮にするなんてこともできる。


 ミオの戦い方が今まで以上にトリッキーなものになるだろう。


 ミオが藍大に甘えている間、リルはガイアドラゴンが暴れて積み上がった瓦礫の中に宝箱を見つけていた。


『ご主人、宝箱見つけた!』


「瓦礫に埋まってた?」


『うん。多分だけど、ガイアドラゴンが<震撼地波ティタノマキア>を発動した時に隠してたスペースが壊れたんだよ』


『こんなのってないのだ。やり直しを要求するのだ・・・』


 藍大の頭の中にしょんぼりするブラドの声が響いた。


 宝箱がこんな形でリルに見つかるのはブラドにとって想定外だったらしい。


 いくら工夫して隠したとしても、自分が配置したモンスターによっておじゃんになったのはショックだろう。


 ブラドをかわいそうに思う気持ちはあるが、リルが宝箱を見つけたのも事実なので藍大はリルを褒める。


「運も実力の内だ。流石はリルだな」


「クゥ~ン♪」


 リルが満足するまで労った後、宝箱を回収して藍大達はフロアボスの探索を始めた。


 道中でスナイペッパーやヒュマンドラが現れても、リルもミオも勝ちパターンを覚えてしまったようでホイホイと倒してしまう。


 そして、藍大達は蔓に覆われたスタジアムに到着した。


 スタジアムの通路にボス部屋の扉があり、その中に入るとフィールドを埋め尽くすサイズの蛇が待ち受けていた。


「過去一にデカいな」


『これだけ大きな蛇ならいっぱい食べられるね!』


「蒲焼にしたら美味しそうニャ!」


「誰が儂を喰らうって?」


 フロアボスは自分を食べようとするリルとミオを睨む。


 その間に藍大はモンスター図鑑でフロアボスの正体を確かめた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:ミドガルズオルム

性別:雄 Lv:100

-----------------------------------------

HP:4,500/4,500

MP:4,500/4,500

STR:4,000

VIT:4,000

DEX:2,500

AGI:1,500

INT:4,000

LUK:3,000

-----------------------------------------

称号:地下16階フロアボス

   到達者

アビリティ:<死毒噛デスバイト><深淵吐息アビスブレス><衰弱霧ウィークミスト

      <破壊突撃デストロイブリッツ><破壊圧潰デストロイプレス><震撼地波ティタノマキア

      <自動再生オートリジェネ><全半減ディバインオール

装備:なし

備考:苛立ち

-----------------------------------------



 (このサイズに納得した。そりゃデカいわ)


 モンスター図鑑に表示されたフロアボスの種族名を見て藍大は納得した。


 ミドガルズオルムとは、ヨルムンガンドの別名を持つ巨大蛇だ。


 一説では体を伸ばせば世界を締め上げられる程であり、海の底で体を何周にも巻いて横たわっているらしい。


 そんな話よりも実物は小さいのだろうが、それでもスタジアムのフィールドいっぱいに広がる巨体を見れば大きいと表現するしかなかろう。


『僕達が君を食べるんだよ』


「儂が逆に貴様を喰らってくれるわ」


 (よくよく考えれば神話じゃ兄弟だったよな?)


 お互いがお互いを食べてやると言い合っているが、北欧神話じゃどちらもロキの息子として知られている。


 それを藍大は思い出したが、特に兄弟であるという意識はなさそうなので黙っておくことにした。


『弱肉強食! 勝った方が倒した相手を食べるのが自然の摂理だよ!』


「よかろう。力尽きるまで抗うが良い」


「蒲焼は黙ってかかってくるニャ」


「黙れ小娘! ぐぁぁぁぁぁ!?」


 ミオに挑発されたミドガルズオルムがミオに<破壊突撃デストロイブリッツ>を使おうとした瞬間、その足場が一斉に爆発した。


 ミドガルズオルムがリルと言い争っている間、ミオがコソコソと<起爆泡罠バブルトラップ>を設置していたらしい。


「ニャーッハッハッハァ! 引っかかったニャ! 大物ぶっても単純ニャ!」


「儂を馬鹿にするとは万死に値する!」


 キレたミドガルズオルムが<震撼地波ティタノマキア>を発動するが、その時には藍大もリルとミオのコンビも空中に逃げていた。


「蛇って寒さに弱いよな」


 藍大はゲンの<液体支配リキッドイズマイン>で空気中の水分を利用し、ミドガルズオルムの体にゲリラ豪雨を浴びせる。


『任せてご主人!』


 リルは藍大の意図を察して<天墜碧風ダウンバースト>を放った。


 その結果、びしょ濡れのミドガルズオルムの体が普通に<天墜碧風ダウンバースト>を使う時よりも凍えた。


「キンッキンに冷やしてやるよ」


 追い打ちをかけるように藍大がエルの<氷河時代アイスエイジ>でミドガルズオルムを凍らせる。


 しかし、ミドガルズオルムのHPが多くて<自動再生オートリジェネ>と<全半減ディバインオール>も保有しているから、徐々に体を動かせるようになっていた。


 仕上げに<震撼地波ティタノマキア>で体を揺らせば、ミドガルズオルムは氷の中から生還してみせた。


「儂がこの程度でやられる訳なかろう!」


 今度は自分の番だとミドガルズオルムが<死毒噛デスバイト>でリルとミオに噛みつく。


 ところが、ミドガルズオルムはリル達を噛んだはずなのにまるでその手応えを感じなかった。


 それも当然であり、ミドガルズオルムが噛んだのはミオの<猫神悪戯トリックオブバステト>で用意した霧の囮だったのだ。


 隙だらけになったミドガルズオルムに対し、藍大が次の攻撃に移る。


「平伏せ!」


「ぬぁぁぁぁぁ!」


 全力の<強制眼フォースアイ>である。


 好感度バフを用いたゲンの<強制眼フォースアイ>を受ければ、ミドガルズオルムは地面に押し付けられた。


『僕達の勝ちだよ!』


 リルの<神裂狼爪ラグナロク>も好感度バフの効果で威力が跳ね上がっており、首を刎ねられたミドガルズオルムはHPが尽きて復活することなく倒れた。


「アォォォォォン!」


「勝ったニャ!」


 フロアボス討伐をアピールしてリルが遠吠えすると、ミオもその流れに乗って喜んだ。


「お疲れ様。リルもミオもよく頑張ったな」


「クゥ~ン♪」


「ニャ~♪」


 藍大が地上に降りてリルとミオの頭を撫でれば、2体とももっと撫でてと甘えた。


 それから、ミドガルズオルムを解体して手に入れた魔石をエルに与えることにした。


 <超級鎧化エクストラアーマーアウト>を解除したエルに魔石を与えたところ、エルのボディに磨きがかかった。


『エルのアビリティ:<衝撃咆哮インパクトロア>がアビリティ:<破裂咆哮バーストロア>に上書きされました』


「咆哮を浴びせた対象が破裂するってヤバくね?」


『ボスの敵はボンします』


「お茶目な言い方してるけどスプラッター待ったなしだからな? やる時は注意しろよ?」


『承知しました』


 エルの強化とミドガルズオルムの回収が済めば、やり残したことはないので藍大達は帰宅した。


 家に帰った藍大達は落ち込んでるブラドを元気づけた後、サクラに宝箱からミスリルフライ返しを引き当ててもらった。


「ブラド、元気出せよ。昼は地下16階のモンスターの合挽肉と胡椒を使ったハンバーグにするからさ」


「それは期待できるのである! 主君、吾輩はお腹が空いたのだ!」


 昼食のメニューを聞いてブラドが元気になったので藍大はホッとした。

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