第593話 飛べない龍はデカいだけの蜥蜴だ

 翌日23日の朝、藍大はシャングリラダンジョン地下16階にゲンとエルに憑依してもらうことで戦う魔皇帝の姿でやって来た。


 それ以外のお供はリルとミオだ。


 今日はブラドがシャングリラダンジョンの地下16階を増築したと発表したため、それに挑みに来たのである。


 昨日モルガナがリルに宝箱を賭けた知恵比べで負けたのを見て、先輩としてリベンジを果たそうと挑んだらしい。


 地下16階は森に飲まれた街と表現するのに相応しく、至る所で植物が視界に映った。


「今日のミーは神様に全力でアピールするニャ」


「露骨に媚び売るとむしろ無視されるんじゃないか?」


「それは困るニャ! 自然体でいくニャ!」


「それが良いと思うぞ。肩の力を抜いていこうぜ」


「わかったニャ」


 自分以外の聖獣が神の名を冠するアビリティを会得したので、ミオは自分も早く同じステージに立ちたいと焦っていた。


 それゆえ、藍大はミオの頭を撫でて落ち着くように促した。


 目標を追いかけるために頑張るのは良いことだが、急いては事を仕損じるとも言う。


 藍大から見てミオも次に魔石を与えれば十分目当てのアビリティを会得する可能性はあるため、ミオにはいつも通り振舞ってもらいたいのだ。


『ご主人、あそこ見て。モンスターがいるよ』


「あれが植物? ライフルの間違いじゃないか?」


 リルに言われて藍大が視線を向けたその先には、蔓が絡み合ってライフルの形になっている植物型モンスターの姿があった。


 モンスター図鑑で調べてみた結果、そのモンスターはスナイペッパーLv100だとわかった。


 パシュンという音が聞こえた直後、高速で射出された何かをリルが<仙術ウィザードリィ>で止めた。


 リルがそれを止めた時には既に藍大から30cmの距離まで迫っていた。


『物騒な敵だね。ご主人、大丈夫?』


「ありがとな、リル。大丈夫だ。それよりも、射出されたのって胡椒の実だぞ」


『そうだった! できるだけ回収しないとね!』


 リルも鑑定したので撃ち出された弾が胡椒の実であると理解していた。


 だからこそ、いっぱい回収して藍大の料理に使ってもらおうとやる気になった。


「リル、胡椒集めはミーには無理ニャ。お願いするニャ」


『任せて。ミオ、胡椒を駄目にしないようにね』


「わかったニャ」


 リルと話した後、ミオは<創水武装アクアアームズ>で水のレイピアを創り出してからスナイペッパーに接近する。


 スナイペッパーはミオに近づかれたくないので、標的を藍大からミオに変更して胡椒を連射し始める。


「当たらなければどうということないニャ!」


 ミオは柔軟性に自信があるらしく、最小限の動きでひらりひらりと胡椒の実を躱してながら距離を詰める。


 ミオが躱した胡椒の実は全てリルが回収するから、無駄にすることは決してない。


「ミーの剣を味わうが良いニャ!」


 そう言いながらミオが<怒涛乱突ガトリングスラスト>を放ち、スナイペッパーを原形が保てなくなるぐらい穴だらけにした。


 スナイペッパーが力尽きたのを確認し、ミオは藍大達の方を振り返ってVサインで勝利をアピールする。


「勝ったニャ!」


「ミオグッジョブ! リルも回収お疲れ!」


『全然へっちゃらだよ!』


 リルもミオも藍大に褒められて嬉しそうに尻尾を振る。


 その後も建物の壁や窓に張り付いたスナイペッパーが現れたが、リルとミオの連係プレーによって胡椒の実の採集作業は順調に行われた。


 かなりの胡椒の実が手に入ったところで、リルが9つの茄子を生やしたマンドラゴラが地面に埋められていたのを見つけた。


『ご主人、茄子がマンドラゴラから生えてるよ』


「ヒュマンドラLv100。リルとミオは近づかない方が良いと思うぞ。鳴き声がマンドラゴンの3倍煩くて、警戒すると相手の苦手とする臭いを放つらしい」


『僕達にとって面倒な敵だね』


「本当だニャ。遠くから狙撃するニャ?」


「まずは俺が戦ってみる。鳴かれると迷惑だから凍らせるか」


 藍大はエルの力を借りて<氷河時代アイスエイジ>を発動した。


 好感度バフの効果でアビリティの威力を底上げすれば、地面に埋まったままのヒュマンドラはそのまま凍えて動かなくなった。


『ご主人すごい! 一撃必殺だよ!』


「ミーよりも目立ってるニャ! 酷いニャ!」


「まあまあ」


 リルは喜んでテンションが上がっており、ミオは自分よりも目立たないでほしいと自分に詰め寄るものだから、藍大はそれぞれの手でリルとミオの頭を撫でておとなしくさせる。


 凍ったヒュマンドラを無事に回収し、モンスター図鑑で茄子以外の部分の用途を確認した藍大は苦笑した。


「奈美さんが喜びそうなモンスターだわ」


『三段笑いするかな?』


「これを見たら久し振りにするかもしれない」


 葉や茎、根のように捨てる所のない素材だったので、ヒュマンドラを奈美が目にしたらハイテンション待ったなしだろう。


 とりあえず、藍大はヒュマンドラを回収して先に進む。


 次に出て来たヒュマンドラは2体だが、今度は擬態せずに目が合ってしまったのでリルとミオが遠距離から一瞬で倒した。


『危ないところだったね』


「ミーが倒した奴はあとちょっとで鳴きそうだったニャ」


「リルとミオのおかげで鳴き声を聞かずに済んだ。助かったよ」


「クゥ~ン♪」


「ニャア♪」


 藍大がリルとミオの喜ぶ所を撫でると、2体はとても嬉しそうに鳴いた。


 もっと撫でてほしいと言わんばかりに甘えている。


 モフモフ成分を補充した後、藍大はリルとミオのおかげでヒュマンドラが鳴く前に狩りを進めた。


 ところが、順調だった藍大達の前に大きな障害物が立ちはだかる。


「翼はないが龍なのか?」


『食べ応えありそうだね!』


「こいつなら立派な魔石が手に入るニャ!」


「貴様等、偉大なる我を前に不敬であるぞ!」


 藍大達の前に現れたのは偉そうな巨体の地龍だった。


 まずは戦力分析を優先するべきだと判断し、藍大は敵の正体をモンスター図鑑で調べ始めた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:ガイアドラゴン

性別:雄 Lv:100

-----------------------------------------

HP:4,000/4,000

MP:4,000/4,000

STR:3,500

VIT:4,000

DEX:3,000

AGI:2,000

INT:4,000

LUK:3,500

-----------------------------------------

称号:掃除屋

   到達者

アビリティ:<大地吐息ガイアブレス><隕石雨メテオレイン><睡眠霧スリープミスト

      <破壊突撃デストロイブリッツ><隆起咆哮ライズロア><震撼地波ティタノマキア

      <自動再生オートリジェネ><全半減ディバインオール

装備:なし

備考:不快

-----------------------------------------



 (硬いな。それに地面に足を着けてたらやられる)


 藍大はガイアドラゴンの硬さだけでなく、アビリティから地上戦は分が悪いと判断した。


「リル、ミオを乗せて戦ってくれ。空からガイアドラゴンに攻撃しよう」


『わかった!』


「リル、よろしく頼むニャ!」


 ミオはリルに飛び乗り、リルは<転移無封クロノスムーブ>を駆使してガイアドラゴンの目に移らぬ速さで移動し始めた。


 そうなれば、ガイアドラゴンは藍大を標的にせざるを得ない。


「墜ちろ羽虫!」


「黙れ蜥蜴」


 ガイアドラゴンの<大地吐息ガイアブレス>に対して藍大はゲンの<魔攻城砲マジックキャノン>で迎え撃つ。


 好感度バフの効果もあり、藍大はガイアドラゴンのブレスを押し返してみせた。


「羽虫の分際でなんと言った!?」


「飛べない龍はデカいだけの蜥蜴だ」


「おのれぇぇぇぇぇ!」


 ガイアドラゴンは激昂して<隆起咆哮ライズロア>を発動するが、空を飛んでいる藍大に隆起する岩の棘は届かない。


 その隙にミオが<起爆泡罠バブルトラップ>を仕掛けたらしく、藍大にその合図を出す。


 藍大はそれをガイアドラゴンに悟らせぬように挑発する。


「おい、蜥蜴。そのデカい図体じゃ突進しても当たらないだろ」


「きぃぃぃさぁぁぁまぁぁぁ! 何ぃぃぃぃぃ!?」


 一歩踏み出した瞬間、ガイアドラゴンはミオの仕掛けたトラップにがっつり引っかかった。


 足元に意識が向いた瞬間を狙い、藍大は<液体支配リキッドイズマイン>でガイアドラゴンの頭部を中心に水の檻を創り出す。


 急に息ができなくなれば、ガイアドラゴンは暴れてどうにか脱出しようとする。


 しかし、<震撼地波ティタノマキア>を使おうとも揺れが地面に足を着けていない藍大達に届かないから効果はない。


『お肉置いてけ!』


 リルが<雷神審判ジャッジオブトール>を水の檻に当てれば、その中にあるガイアドラゴンの頭部が感電して大ダメージを受ける。


「リル、もう一度だ! 今度は全体に頼む!」


『任せて!』


 藍大が今度はガイアドラゴンの体全体を水の檻に閉じ込めると、リルが再び<雷神審判ジャッジオブトール>でガンガンHPを削る。


「とどめはいただくニャ!」


 ミオの<螺旋水線スパイラルジェット>がガイアドラゴンの側頭部を撃ち抜き、力尽きたガイアドラゴンの体が大きな音と土埃を立てて地面に倒れた。


「やったニャ! ミーがとどめを刺したのニャ!」


 無邪気に喜ぶミオの声が聞こえて藍大は愛い奴だと微笑んだ。

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