第586話 ずっと僕のターン!
第二種目は身体能力を競うスポーツテストだ。
スクリーンに表示されたスポーツテストの文字を見れば、観客の大半が学生時代に行ったそれを思い出すに違いない。
「さあ、第二種目はスポーツテスト! 5つの競技でそれぞれ基準を設けてある! その基準によって点数が加算されるんでよろしくぅ! 最初は反復横跳びだ!」
反復横跳びのルールは単純で3本の線を左右に動いて跨いだ回数を競うものである。
20秒間でどれだけ跨げるかで得点が変わるが、50回以上で1点、100回以上で2点、150回以上で3点と決められている。
「第一種目の点数が低いペアから始めるぞ! まずはコスモフ&マロンペア! 用意は良いかぁ?」
「チュ!」
マロンはやる気満々である。
ここでカームを追い越したいと思っているようだ。
「よーい、スタート!」
モフリー武田が合図した瞬間、マロンは最初から全力で動き出した。
「ちっこいのがすばしっこくて可愛い」
「マロン、高速移動だ!」
観客席からはマロンの反復横跳びをする可愛さにしてやられた者の声が聞こえた。
20秒が経って計測する機械が示した回数は107回だった。
「マロンの記録は107回! 2点獲得だぁ!」
「チュ~」
「お疲れ、マロン。良いペースだった」
結衣は競技を終えて疲れたマロンを撫でて労った。
そんなやり取りに癒される観客がいたのは言うまでもない。
「次は白雪姫&カームペア! 準備は良いかぁ?」
「・・・ピヨ」
「OK! よーい、スタート!」
カームの返事を受けてモフリー武田が合図をすると、カームはのんびり歩きながら用意された線を跨いでいく。
「これぞカーム」
「カームさんマジパねえっす」
競争だというのにブレずに自分のペースでのんびり歩くカームはこのままだと0点で終わる。
それだけは避けなければと白雪がエールを送る。
「カーム、頑張って!」
「ピヨ!」
急にカームに気合が入り、カームが歩く速度から反復横跳びを全力で行った。
「そこまで! 怒涛の追い上げは見事だった! カームの記録は50回で1点獲得!」
「カーム、ありがと~」
「ピヨ」
最初はやる気のなかったカームだが、白雪のエールのおかげで急激にスピードを上げて0点を回避した。
マイペースでも白雪のためにやる時はやるのがカームだ。
最初からやる気ならばもっと結果は良かっただろうけど、それは今更言っても仕方のないことである。
「お次はプリンスモッフル&ニンジャ! 賢さでは後れを取ったがここがチャンスだぁ!」
「プゥ」
ニンジャは戦士の目で真ん中の線を挟むように立っている。
いつでも合図して良いと言わんばかりの堂々とした態度だ。
「いつでもバッチ来いって感じじゃねえか。よーい、スタート!」
ニンジャは無駄のない動きでキビキビと線を跨いで確実に数を稼いでいる。
「良いぞー! 頑張れー!」
「ニンジャ! ニンジャ! Oh, NINJA!」
タイムアップのブザーが鳴った直後、モフリー武田が機械に示された数を読み上げる。
「155回! おめでとう! ニンジャは3点ゲットだ!」
「Good girl, good girl. ニンジャ、よくやったね」
「プゥ♪」
ニンジャはリーアムに抱え上げられて嬉しそうに鳴いた。
「3点取る奴がいてびっくりだ! だが、まだこの競技は終わった訳じゃない! 向付後狼少佐&ガルフペアはこれ以上の記録を出せるか!?」
「アォン」
ガルフは静かに燃えていた。
ニンジャよりも少ない回数で終わることはできない。
もしもニンジャよりも少なかった場合、ニンジャに鼻で笑われるからである。
それは懐の広いガルフでも許せないようだ。
「ガルフ、本気を見せてやりなさい」
「アォン!」
「準備万端だな! よーい、スタート!」
ガルフはニンジャを上回る速度で次々に線を跨いでいく。
「目で追うのがやっとだ・・・」
「速過ぎるぜ」
モフラー冒険者の観客達はギリギリ目で追えてるが、少しでも目を離したら何回線を跨いだかわからなくなるところだった。
20秒経過の合図が体育館内に鳴り響くと、モフリー武田が機械に表示された回数を見て目を見開いた。
「すげえ! 174回! 文句なしの3点! 反復横跳びでこんなに感動するとは思わなかったぜ!」
「ガルフ、やればできる子だと信じてたよ!」
「ワフゥ」
この時ばかりはガルフも達成感に満ちていたため、真奈にモフられても嫌な顔をせずに満足そうにしている。
「リル、いよいよだな」
『任せてご主人。僕が格の違いを見せつけて来るから』
藍大に自信満々な様子でそう言ったリルはスタート位置に移動する。
「さて、東洋の魔皇帝&リルペアがお待ちかねだから先に進むぜ! Are you ready?」
『Ready!』
「OK! よーい、スタート!」
開始の合図の直後、会場にいる全ての者が自分の目を疑った。
「残像・・・だと・・・」
「リアルに残像が見える!」
「これが疾さというものか」
残像が見えるスピードでリルが動いたせいで会場が騒然とした。
タイムアップのブザーが鳴り、モフリー武田が恐る恐る機械の表示を見ると声が震えてしまった。
「さ、さんびゃくろくじゅう!? オホン! 失礼! 360回! リルの記録は360回だ! 同じ3点でもここまで差が開くのかぁぁぁ!」
「お疲れ様。リルは俺の自慢の従魔だ」
「クゥ~ン♪」
藍大に頭を撫でられてリルは嬉しそうに鳴いた。
こんなに愛らしい様子だが、記録は文句なしでトップである。
MOF-1グランプリの運営スタッフ達もリルとガルフ、ニンジャを同じ点数として扱って良いのか唸るレベルだろう。
しかし、既にルールは発表してしまっているだけでなく、変更しようとしているのが得点に関わるものならば慎重に考えなければならない。
それゆえ、リルの得点もガルフやニンジャと同じく3点に留まった。
「次の競技は500m走! 50mの直線コースを5往復してもらう! 1位に3点、2位に2点、3位に1点が与えられるぞ!」
500m走も反復横跳びと同じ結果に終わり、リル、ガルフ、ニンジャの順番だった。
これは観客達も予想していたので予想外だと騒ぎ立てる者はいなかった。
強いて言うならば、またしてもリルが2位と差をつけてゴールをしてしまった時に会場が少しざわついたぐらいだ。
「3つ目の競技は玉入れだ! アビリティは自由に使って良いが、他の従魔の邪魔だけは禁止だぜ! 3分以内に入れた玉の数が33個以上で1点! 66個以上で2点! 100個で3点だ! 早速自分のフィールドに移動してくれ!」
リル達は移動すべき場所に目印があったため、それに従って移動した。
「それじゃあ始めるぜ! よーい、スタート!」
『ずっと僕のターン!』
開始の合図の直後、リルは<
籠が倒れることなくぴったりと止まっていることから、リルの弾入れは開始10秒で終わってしまった。
「なんとういうことだぁぁぁ! 規格外! 実に規格外だ! 一体誰が10秒で満点を叩き出すと予想できただろうか!」
モフリー武田はリルの実力に驚きを隠せなかったが、MCとしての仕事だけは忘れずにいた。
他の従魔達の多くはリルがあっさり終わらせてしまったことに焦り、籠に投げ入れる玉のコントロールがブレてしまっている。
そんな中、一定のペースで球を籠の中に投げ入れる者がいた。
マイペースでお馴染みのカームである。
リルがどんなにすごくとも、カームは自分のペースを常に維持できる精神力の持ち主だ。
ガルフやニンジャ、マロンの球が籠の中に上手く入らない状況に陥っていたけれど、カームは着々と籠の中に玉を投げ入れていく。
「大した奴だ! カームの精神力は並じゃない! マイペースであることがここまで頼もしく思えることがあっただろうか!?」
タイムアップのブザーが鳴って球入れが終わった。
リルは数えるまでもなく100個で3点であり、カウントするのはそれ以外の従魔達だ。
4人のスタッフが籠に近づき、その中から玉を1個ずつ外に投げていく。
最初に玉が籠からなくなったのはニンジャだった。
31個で惜しくも1点のボーダーラインを超えられなかった。
次がマロンの35個でガルフは49個で球がなくなった。
気になるカームが入れた玉の数は66個でギリギリ2点ゲットした。
「カームがここで追い上げた! 3つの競技の結果、1位は9点でリル! 2位は7点でガルフ! 3位は6点でニンジャ! 同率4位は3点でカームとマロン!」
リルがトップを独走しており、藍大はリルによくやったとその頭を撫でた。
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