第587話 敗因はリルに目を付けられたことだ!

 4つ目の競技は全員対戦型押し相撲だった。


 1対1で行うのではなく、1対1対1対1対1のバトルロイヤルである。


 決められたフィールドから自分以外の者を押し出すか、その中にいても転ばせたら勝ちだ。


 アビリティは使用しても構わないが、自分から攻撃するアビリティの使用は禁止されている。


 これはマロンのような回復や補助担当の従魔が一方的に不利にならないようにするための措置である。


「さあさあ、ここからは押すか転ばすかで自分以外を倒せ! 最後まで残ってたら3点! 残り2体まで残れば2点! 残り3体まで残れば1点だ!」


「リル、油断禁物だぞ」


「ガルフ~! 頑張って~!」


「ニンジャ、カッコ良いとこ見せてね!」


「カーム、自分のペースで戦って!」


「マロン、無理しないで」


 主人からの声援が届けられた後、モフリー武田は開始の合図を口にする。


「よーい、スタート!」


「プゥ!」


 合図の直後、ニンジャが自分の足場だけ残してフィールド全体に<闇沼ダークスワンプ>を発動し、他の従魔の足場をなくそうとする。


「チュ!」


「ピヨ」


 マロンは<魔力半球マジックドーム>で足場を守り、カームは<竜巻鎧トルネードアーマー>で沼に沈まずに済んだ。


『なかなかやるね』


「アォン」


 リルとガルフはマロンが展開したドームの上に移動しており、ニンジャの先手では誰も脱落しなかった。


「プゥ」


 ニンジャは今の作戦で誰も脱落させられなかったことを悔しがり、足ダンしてその苛立ちを訴える。


『面倒だから君から倒しちゃうね』


 リルがそう言った瞬間、ニンジャは自分の体が思うように動かなくなったことに気づいた。


 そして、リルの<仙術ウィザードリィ>によって優しく場外に出されてしまった。


「リル半端ないって!」


「敗因はリルに目を付けられたことだ!」


 観客席から聞こえて来たコメントに藍大はそうだそうだと心の中で頷いた。


 リルは足場がなくても戦えるけれど、他の従魔達がそうとは限らない。


 ニンジャのアビリティ構成から考慮しても、好き勝手させると面倒になりそうと思ってリルが最初に対処したのは当然だった。


「ニンジャが脱落しても勝負は続くぜ!」


 ニンジャが脱落してすぐに<闇沼ダークスワンプ>を解除したので、黒く覆われたフィールドが元通りになった。


 リルとガルフはドームから着地するが、カームとマロンはそのまま防御系アビリティを解除しない。


 攻撃系アビリティを使わずとも、リルには敵の防御をどうにかする手段がある。


「「アォォォォォン!」」


 リルは<神狼魂フェンリルソウル>を発動することで、自分の周囲にいる従魔達を音で吹き飛ばそうとした。


 ガルフはそれに気づいて<守護領域ガードフィールド>をほぼ同時に展開した。


 それのおかげでガルフはフィールド上から吹き飛ばされずに済んだが、カームとマロンは武装解除と同時にフィールドの外へ吹き飛ばされてしまった。


「同時に場外か!? スロー再生カモン!」


 モフリー武田のリクエストに応じ、スクリーン上にカームとマロンの映像が映る。


 カームとマロンはゆっくりとフィールドの外に弾き出されたが、カームは羽ばたくことで僅かにマロンよりも着地が遅かった。


 それにより、カームに1点が加わることになった。


「スロー再生の結果、カームが3位だ! マロン、残念!」


「カーム、ナイス!」


「マロン、どんまい」


 それぞれの従魔が戻って来ると、白雪は褒めて結衣は慰めた。


 ほんの少しの差だとしても、足掻くかどうかで結果が変わることを証明した瞬間である。


 それはさておき、スクリーンはフィールドの中にいるリルとガルフの一騎打ちを映し出した。


『ガルフ、勝負だよ』


「アォン」


 ガルフはリルの胸を借りるつもりで戦うつもりらしく、リルによろしく頼むと頭を下げた。


 それから<短距離転移ショートワープ>を連続で使ってリルの隙を作り出そうとするが、リルはガルフの移動先をばっちり目で追えている。


 それでもガルフが<短距離転移ショートワープ>を続けるので、リルは<転移無封クロノスムーブ>でガルフが移動した先でその背後に回る。


 ガルフが自分を見失った瞬間、リルは<仙術ウィザードリィ>でガルフの体を拘束してフィールドの外に移動させた。


「クゥ~ン・・・」


『ワッフン、僕に速さで勝てると思っちゃ駄目だよ♪』


 ガルフは場外に出されて参りましたと言ったようだ。


 リルはそれを受けて得意気に応じた。


「すげえ、今の目で全然追えなかった!」


「一体何が起こってたんだ!?」


「フェンリル同士の戦いがアツい!」


「終了! 2位はガルフ! そして、1位はやっぱりこの従魔! リィィィルゥゥゥゥ!」


 観客達がはしゃいでいる中、モフリー武田も同じくテンションが上がっていたらしい。


 決着を告げるアナウンスのノリが先程までとは違ったのだから間違いないだろう。


 4つの競技が終わり、1位が12点のリル、2位が9点のガルフ、3位が6点のニンジャ、4位が4点のカーム、5位が3点のマロンという結果になった。


「スポーツテスト最終競技は的当てだぁ! 戦場では疲れて集中できませんでしたじゃ済まされない! 敢えて最後に的当てを行うぜ!」


 モフリー武田がそう言っている間にスタッフが総動員で的当ての的を用意する。


 ルールは500m走で使ったレーンを利用し、10m先の的に攻撃あるいは物体を当てるというもので、1周する度に的が10m遠くなるシステムだ。


 外した者から脱落し、残り3人で1点、残り2人で2点、最後まで残れば3点をゲットできる。


 リルは攻撃アビリティを使うと体育館が壊れかねないため、<仙術ウィザードリィ>でカラーボールを操る。


 ガルフは<影支配シャドウイズマイン>で影の腕を創り出し、カラーボールを操ることにした。


 ニンジャは<創闇武器ダークウエポン>で闇で形成した手裏剣を投げる。


 カームは<尖氷弾アイシクルバレット>を手加減して使う。


 マロンは遠距離に攻撃するアビリティがなかったけれど、種を飛ばすのが得意なのでそれを攻撃の代わりとすることが決まった。


「最初は10m! まさかここで外さないよな?」


 モフリー武田が煽るように言ったけれど、リル達は誰もその煽りで慌てることなく的当てを成功させた。


 20mも同じく全員が成功させたが、30mで動きがあった。


「おぉっと残念! マロンの種が僅かに届かなかったぁ! マロンが脱落!」


「チュ・・・」


 (冷静に考えて30m弱の距離で種を飛ばせる方が驚きだろ)


 藍大は落ち込むマロンを見てそんな感想を抱いた。


 仕掛けは一切なく、ただ口に含んだ種を吹矢の要領で飛ばしているだけなのだ。


 それにもかかわらず、小さな体のマロンが30m弱も種を飛ばせるというのは十分すごいと言えよう。


「偉いよ。マロンはよく頑張った」


「チュ~」


 マロンは結衣に抱き締められて思う存分甘え、その様子が観客席のモフラー達の羨望の眼差しを集めた。


 40mでは脱落者が出ず、50mでも同様に脱落者はいなかった。


 60mまで距離が延びると、ニンジャが力み過ぎて威力も高さも申し分ないが的から外れて脱落した。


「ここでニンジャが脱落ぅ! 焦りがコントロールを狂わせたかぁ!」


 ニンジャは悔しそうに足ダンする。


「ニンジャ、お疲れ様。まだ最終種目が残ってるから切り替えよう」


「プゥ」


 リーアムに抱っこされたニンジャはリーアムに甘え始めた。


 この様子もまた観客席のモフラー達が羨ましそうに眺めている。


 ニンジャが脱落してからは70m、80mと脱落する者はいなかった。


 会場の広さの問題により、ここからは最長距離90mのサドンデスだ。


 これ以上距離は伸びないが、外したら脱落という勝負である。


 1周目2周目と外す者はいなかったが、3周目になって感じるプレッシャーによって狙いが狂ったのかガルフのカラーボールが外れてしまった。


「ここでガルフが外したぁ! プレッシャーには勝てなかったかガルフゥ!」


「クゥ~ン・・・」


「良いのよガルフ。貴方はよくやったわ」


 真奈が優しくガルフの頭を撫でると、ガルフは嫌がることなくそれを受け入れた。


 その後に続くカームだが、こちらは的の前で<尖氷弾アイシクルバレット>が解除されてしまって届かなかった。


「カームも脱落だぁ! 気が抜けてしまったのか!?」


「ピヨ」


「カーム、よく頑張ったわね」


 やっちまったと冷静に言うカームに対し、白雪は大健闘だとカームを褒めた。


 リルは成功していたため、この競技では同率2位でガルフとカームに2点入った。


「スポーツテストの結果発表だ! 1位は15点でリル! 2位は11点でガルフ! 同率3位は6点でニンジャとカーム! 5位は3点でマロン! リルがまたしても満点を叩き出したぜ!」


「リル、良い調子だぞ!」


「クゥ~ン♪」


 結果発表を聞いて藍大に頭を撫でられると、リルは満足そうに鳴いて甘えた。


 残るはあと1種目である。

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