第584話 モフモフの中のモフモフ、出て来いや!

 観客席が満員の体育館に用意されたステージの上には、ペット好きで有名な男性芸能人のモフリー武田が暗闇の中スポットライトを浴びている。


 モフリー武田が今日のMOF-1グランプリのMCを務めるのだ。


 番組の開始時刻が訪れ、スタッフから合図が出るとモフリー武田が口を開く。


「モフモフの中のモフモフ、出て来いや!」


 その掛け声の直後、BGMが流れて体育館内にアナウンスが流れ始める。


『エントリーナンバァァァ、ワァァァン! コスプレさせれば日本一! 従魔は貴重な回復系アビリティの持ち主! 小森結衣&マロン!』


「結衣たーん!」


「マローン!」


 歓声を浴びながらマロンを肩に載せた結衣が体育館に入場する。


 結衣のコスプレはいつものポ〇モントレーナーである。


 楽のアドバイス通りに結衣とマロンは自然体で挑むことに決めたようだ。


『エントリーナンバァァァ、トゥゥゥ! 今最も勢いのある女優冒険者! 従魔はモフランドの元売れっ子が進化してやって来た! 有馬白雪&カーム!』


「白雪姫~!」


「カーム、こっち向いて~!」


 歓声の中、白雪とカームは堂々と体育館に入場する。


 白雪はダンジョン探索に使う装備だが、女優ということもあってかなり見た目にも気を使ったレザージャケットを着ている。


 カームはモフランドで働いていた頃よりもモフ度が増しているが、マイペースな雰囲気はちっとも変わらない。


『エントリーナンバァァァ、スリィィィ! 愛のためにCN国からやって来た男! 従魔は主人が大好きな忍者兎! 赤星リーアム&ニンジャ!』


「プリンスモッフルモッフモフ~!」


「ニンジャ! ニンジャ! オォォォォォ、ニンジャ!」


 アレンジの効いた歓声を受けつつ、リーアムとニンジャが体育館に笑顔で入場する。


 どういうつもりなのかリーアムは白タキシードを着ており、ニンジャはそんなリーアムにチラチラ視線を向けている。


 リーアムのおめかしした姿がかなり気になるらしい。


『エントリーナンバァァァ、フォォォォォ! 国際会議で演説をかまして少佐と呼ばれたカリスマ経営者! 従魔は少佐にモフられ振り回される苦労狼! 赤星真奈&ガルフ!』


「「「・・・「「少佐殿! 少佐! 代行! 代行殿! 大隊指揮官殿!」」・・・」」」


「ガルフ~、がんばえ~」


 息の合ったモフラー達の掛け声が聞こえた後、観客席から幼児の可愛い声援が飛んで和む。


 真奈はキリッとした表情で歩き、ガルフは応援してくれた子供にペコリと頭を下げてから真奈の後を歩いた。


『エントリーナンバァァァ、ファァァイブ! テイマーの祖にして魔皇帝! 従魔は疾風迅雷、最強無敵の神狼! 逢魔藍大&リル!』


「「「・・・「「ありがたや~! ありがたや~!」」・・・」」」


「リルくぅぅぅぅぅん!」


 今までの出場者とは異なり、藍大が拝まれたのは一体どういうことだろうか。


 答えは単純である。


 観客の大半がモフラーだからだ。


 モフラーにとって藍大はモフモフ従魔をテイムした先達であり、建前はさておき転職の丸薬(調教士)をモフランドやCN国にプレゼントした張本人である。


 調教士になりたい冒険者達は藍大を拝むことにより、少しでも調教士に転職できる可能性を上げたい訳だ。


 ちなみに、リルの名前を叫んだのは真奈だったりする。


 真奈がモフモフに関してフリーダム過ぎるせいで、隣のガルフはウチの主人が申し訳ないと藍大とリルに向かって頭を下げている。


 藍大達が席に着いて出場者が揃うとBGMが止んだ。


「さあ、始まりました! 第1回MOF-1グランプリ! 司会はこの俺! モフリー武田だよ! 3! 2! 1! モッフルモッフル!」


 会場のモフラー達はカウントダウンとモッフルモッフルの流れに乗っており、逢魔家でも仲良しトリオがしっかりその波に乗っていた。 


 (メロがめっちゃ恥ずかしがってる。付き合わされたんだろうなぁ)


 両隣のゴルゴンとゼルに付き合わされたのだろうが、メロだけがやった後に恥ずかしそうに顔を赤らめていたので藍大はメロに同情した。


 モフリー武田が自己紹介をした後、今度は審査員の紹介が始まった。


「次は審査員を紹介するぜ! まずは”ブルースカイ”からこの男!」


「こんにちは。アクアリウムこと青空理人です。よろしくお願いします」


 1人目の審査員は釣教士の理人である。


 MOF-1グランプリの審査員は有名且つ従魔に詳しい存在でなければならない。


 そうなると、出場者の誰にも露骨に肩入れしないテイマー系冒険者が審査員として選出されるのは当然だろう。


 魔王軍のテイマー系冒険者は知名度の観点で言えば申し分ないが、藍大を贔屓することを考慮して審査員の選択肢から除かれている。


「爽やかな挨拶をありがとよ! 2人目は”ブラックリバー”からこの男!」


「どうも。黒川重治です。よろしくお願いします」


 重治は腹黒王子という二つ名を好んでいないから名前だけ口にした。


 蔦教士に転職してからそこそこ経ったけれど、まだまだ腹黒王子の印象が強くて二つ名が更新されないのは仕方のないことだ。


 それもあって重治は腹黒の印象を変えるべく、ダンジョン探索を自ら進んで引き受けていたりするのは別の話である。


「クールな挨拶サンキュー! 最後はDMUからこの人!」


「こんにちは。DMU本部長の吉田志保です。本日は審査員長を務めます。よろしくお願いします」


「よし! これで自己紹介は終わりだ! ここからはMOF-1グランプリのルールを説明するぜ!」


 モフリー武田がこの大会の大まかなルールについてカメラ目線で説明し始める。



 ・審査員1人あたりの持ち点は5点の合計15点満点

 ・勝負する種目は賢さと身体能力、モフモフアピールの3つ

 ・出場する従魔は事前に茂(鑑定士)にドーピング検査される

 ・出場する主人は不用意に他の参加者の従魔を脅すような真似を禁止する



 以上4つのルールに則ってMOF-1グランプリは運営される。


「ルールの説明は終わった! じゃあ、今度は出場者達のコメントを貰うぜ! エントリーナンバー順によろしくぅ!」


 モフリー武田に言われて結衣が口を開く。


「今日はマロンの可愛さを伝える絶好の機会。どうかみんなにもわかってもらいたい」


「チュ!」


 結衣の喋った後にマロンが前脚を上げてアピールすると、会場内でちらほらと可愛いコールが聞こえた。


「次のペア、よろしくぅ!」


「今日の主役は私じゃなくてカームです。みなさんには是非カームの魅力を知ってもらいたいです」


「・・・ピヨ」


 カームはぼーっとしていたせいで白雪の話を聞いていなかった。


 そのマイペースな感じこそがカームの真骨頂であり、カームもありかもという声がポツポツと聞こえた。


「このマイペースっぷりが憎いな。次のペア、よろしくぅ!」


「今日は誰が相手でも負けるつもりはないからよろしくぅ!」


「プゥ♡」


 リーアムはモフリー武田の口振りを真似て応じる。


 ニンジャはそれを見てリーアムは今日も素敵だと言わんばかりに顎の下をリーアムに擦り付ける。


 アピールタイムにそれで良いのかと思うかもしれないが、ニンジャがリーアム大好きオーラを全開にしながら触れ合っているのを見て観客の一部が目をハートにしていた。


「完全に雌の顔だがそれもまた良し! 次のペア、よろしくぅ!」


「私達は今日、モフ神様を倒して真のモフ神になります! モフモフよ、我に力を!」


「・・・ワフゥ」


 真奈のコメントを聞いて何言ってんだこの人はとガルフが呆れた表情になった。


 どんな時でも通常運転である。


 観客達も真奈はやっぱり真奈だと特に驚くことなく受け入れている。


「モフラーの並々ならぬ熱意を感じるぜ! 最後のペア、よろしくぅ!」


「リルが、リルこそがNO.1のモフモフです。それを皆さんに証明しましょう」


『僕、ご主人のために頑張るよ!』


 藍大も他の出場者達のコメントを聞いて火が付いたらしい。


 藍大は自身の従魔に親バカな傾向があり、他の出場者達の従魔にリルが負けるはずがないと宣言した。


 リルもそんな藍大の言葉を受けて健気な姿勢を見せる。


 会場からは尊いとかあれが極上のモフモフ等羨望の眼差しがリルに向けられた。


 全ての出場者からのコメントが出揃うと、モフリー武田がニヤリと笑う。


「面白くなって来たぜぇ。それじゃいってみよう! 賢さを決めるのはこの勝負!」


 モフリー武田が向けた手の先でスクリーンに第一種目が表示された。

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