第580話 ガルフ、備考欄でお話できるようになったの!?

 藍大が遥からMOF-1グランプリの説明を受けていた頃、横浜では真奈がMOF-1グランプリに備えて準備をしていた。


 真奈はリーアムが来日して以来、兄の誠也が住む家の隣の土地を買って建てた家に移り住んでおり、今はリーアムと従魔達が住むモフモフハウスを満喫している。


 週刊ダンジョンが主催するMOF-1グランプリでは、招待されたテイマー系冒険者が予めモフモフ従魔を1体選んでエントリーする。


 それゆえ、真奈とリーアムはそれぞれ自身のモフモフの中で最も信を置くガルフとニンジャをパートナーに選んだ。


 真奈もリーアムもモフランドのオーナーの仕事に加え、関東のダンジョンの間引きを指揮したり自ら探索している。


 今の彼等はおはようからお休みまでずっとモフモフのことを考えており、モフラーの意地としてMOF-1優勝を目指す訳だ。


 真奈は自室でガルフをモフモフした後、ガルフを労わってマッサージしている。


「ガルフ、気持ち良い?」


「アォン」


 ガルフはいつも通りだと言わんばかりに短く鳴いた。


 自分の主人は一体どうして自分が疲れるまでモフってから、マッサージするのだろうと疑問に思わない日はない。


 ガルフだって真奈の従魔になってそこそこ長いから、多少モフられたところで動じることはなくなった。


 しかし、真奈がその限度を超えてモフって来るからマッサージが必要なぐらい草臥れてしまう。


 真奈に我慢を覚えてほしいところだけれど、多分無理だろうなとガルフは小さく溜息をついた。


「どうしたの? 何か気になるの?」


「・・・ワフゥ」


 気になるのは自分の主人が過剰にモフることだと言いたいけれど、言っても変わらないと思ってガルフは再び溜息をつく。


「あぁ、また溜息ついた。溜め込むのは良くないんだからね?」


「アォン」


 だったら主人は少し我慢してくれと言いたげにガルフは鳴いた。


 真奈はガルフの溜息の理由が気になり、マッサージを終えてビースト図鑑を開いた。



-----------------------------------------

名前:ガルフ 種族:フェンリル

性別:雄 Lv:100

-----------------------------------------

HP:2,500/2,500

MP:3,500/3,500

STR:3,000

VIT:2,500

DEX:3,500(+875)

AGI:3,500(+875)

INT:3,000

LUK:2,500

-----------------------------------------

称号:真奈の従魔

   ダンジョンの天敵

   暗殺者

   到達者

二つ名:向付後狼少佐の相棒

アビリティ:<翠嵐砲テンペストキャノン><守護領域ガードフィールド><竜巻爪トルネードネイル

      <影支配シャドウイズマイン><隠者ハーミット><短距離転移ショートワープ

      <人従一体アズワン><全耐性レジストオール

装備:なし

備考:もうちょっとモフモフ抑えてくれないかなぁ

-----------------------------------------



「ガルフ、備考欄でお話できるようになったの!?」


「アォン?」


 ガルフは一体何を言っているんだこの主人はと言いたげに首を傾げる。


「<賢者ワイズマン>がなくても話せるなんて賢いわね! 流石ガルフ!」


「アォン」


 よくわからないけど真奈が嬉しそうだから良かったねとガルフは鳴いた。


「こうやって意思の疎通が図れるのも悪くないけど、そろそろ<隠者ハーミット>を<賢者ワイズマン>にしたいところね」


「アォン」


 真奈の言葉にガルフもそれは言えてると頷く。


「MOF-1グランプリまでダンジョンで強いモンスターを倒しまくりましょうか。リル君に成長した姿を見せたくない?」


「アォン!」


 リルと聞いてガルフは力強く頷いた。


 従魔の先輩であるリルに自分の成長した姿を見せたいらしい。


 いつもモフられ疲れているところばかり見せているので、偶には自分もビシッと決めてみせたいと思うのは当然だろう。


「そうと決まれば即行動よ。どこのダンジョンに行くか決めましょう」


 そう言って真奈はガルフが画面を見られるようにタブレット端末で関東の地図を出し、そこにお手頃なダンジョンの場所にピンをどんどん立てていく。


 ガルフは立てられたピンの中で興味のあるダンジョンを前脚で指した。


「アォン」


「ガルフはいろは坂ダンジョンに行きたいの?」


「ワフワフ」


「良いわ。早速行きましょうか」


「アォン!」


 真奈がガルフと一緒に部屋を出て玄関に向かうと、同じタイミングでリーアムとニンジャに出くわした。


「あら、リーアムとニンジャもお出かけ?」


「そうだよ。MOF-1グランプリに備えてニンジャを強化したいからね。真奈もガルフとお出かけかい?」


「そうよ。私もガルフを優勝させたいからできることはしたいと思ってね」


 リーアムが真奈と喋っていると、リーアムの隣でニンジャが足ダンし始める。


「あらら、ご機嫌斜めかしら?」


「さっきまでご機嫌だったからそんなことないと思うけど」


「それならちょっと調べてみようかな」


 真奈はニンジャが先程のガルフのように備考欄で何か訴えているのではと思ってビースト図鑑を開いてみた。



-----------------------------------------

名前:ニンジャ 種族:バニンジャ

性別:雌 Lv:100

-----------------------------------------

HP:1,800/1,800

MP:2,400/2,400

STR:1,800

VIT:1,800

DEX:2,400(+600)

AGI:2,400(+600)

INT:2,100

LUK:1,800

-----------------------------------------

称号:リーアムの従魔

   暗殺者

   英雄

二つ名:プリンスモッフルの懐刀

アビリティ:<霧支配ミストイズマイン><創闇武器ダークウエポン><剣術ソードアーツ

      <剛力斬撃メガトンスラッシュ><闇沼ダークスワンプ><敵意押付ヘイトフォース

      <無音移動サイレントムーブ><二重跳躍ダブルジャンプ

装備:なし

備考:私のリーアムを取らないでくれる?

-----------------------------------------



 冗談半分でビースト図鑑を見てみたけれど、本当にニンジャの備考欄に今のニンジャの気持ちが記されていた。


「ニンジャが私に嫉妬してるみたい」


「ニンジャは寂しがり屋だからね。ニンジャ、寂しくさせてごめんな」


「プゥ」


 リーアムに謝られたニンジャは鳴いてから顎の下をリーアムに擦り付ける。


 リーアムを真奈に奪われてなるものかとマーキングしているようだ。


「それじゃあ、これ以上ニンジャが嫉妬しないよう先に行くね」


「うん。行ってらっしゃい」


 真奈とリーアムが軽く口づけを躱すと、ニンジャが見せつけるなとプウプウ鳴く。


 真奈はリーアムとニンジャを見送ってからおとなしくしていたガルフに話しかける。


「ガルフはリーアムに嫉妬してくれないの?」


「アォン?」


「そんな不思議そうに首を傾げなくても良いじゃないの。もうちょっと私に対して独占欲を持ってほしいな」


「・・・フン」


「鼻で笑った!?」


 ガルフが真奈に独占欲を抱く訳ないだろうと鼻で笑ったため、真奈はもうちょっとデレてくれても良いのにと頬を膨らませた。


 それでも真奈はすぐに気持ちを切り替え、家の外に出てからガルフに跨る。


「ガルフ、目指すはいろは坂よ。他人に迷惑をかけない範囲で好きに走って良いわ」


「アォン!」


 マジでかとガルフは喜んで走り出した。


 ガルフもリルと一緒で走るのが好きなので、伸び伸びと走れて気持ち良さそうにしている。


 混んでいる道は使わず、時には空き家の屋根を道にして<短距離転移ショートワープ>を使い、いろは坂ダンジョンに着いたのは家を出てから30分後だった。


 ガルフに乗って走る真奈の姿が目撃され、掲示板では速くて一瞬で見えなくなったと書き込まれたり、実写版も〇のけ姫等と書かれていた。


 静まり給えや黙れ〇僧なんてコメントする者までいて、真奈の気分はすっかりも〇のけ姫である。


 流石に現地で真奈達を一目見ようとする野次馬はおらず、真奈たちはいろは坂ダンジョンに足を踏み入れる。


 このダンジョンではガルフの強化ができる強さのモンスターが出る階が4階からだったため、そこまで一気にスキップして移動して効率良くモンスターを倒していく。


 MOF-1グランプリでぐーんとパワーアップした姿を見られる可能性は高いと言えよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る