第49章 大家さん、MOF-1グランプリに出場する

第579話 逢魔さん、MOF-1グランプリに出てもらえませんか?

 8月4日の土曜日の午後、シャングリラの102号室に遥が来ていた。


「逢魔さん、MOF-1グランプリに出てもらえませんか?」


「MOF-1グランプリ? なんですかそのそこはかとなく嫌な予感のするイベントは?」


『ご主人、天敵の臭いがする・・・』


「よしよし。俺がいるから怖くないぞ」


「クゥ~ン」


 藍大の膝の上に載っているリルは、MOF-1グランプリと聞いて天敵のことを思い浮かべてしまったのか震えている。


「以前、『週刊ダンジョン』でモフランドを取材した記事を載せた際、どうせならモフモフ従魔のNo.1を決めてほしいというコメントが多数寄せられました。記事で取り上げるのも良いですけど、料理大会のようにテレビ番組の方が面白いということになって今月19日に生放送でやることになったんです。出演していただけないでしょうか?」


「MOF-1グランプリって言いましたけど、何を競って従魔No.1を決めるんですか?」


「実力とルックス、知能等を総合的に評価して審査員に最も従魔にしたいと思わせた従魔がNo.1です。現在、参加を表明してるのは赤星真奈さん&ガルフペア、赤星リーアムさん&ニンジャペア、有馬白雪さん&カームペア、小森結衣さん&マロンペアです」


『出ようよご主人』


「リル?」


 遥の説明を聞いてリルが出たいと言い出したのは予想外だったから藍大は驚いた。


『ご主人は料理大会で優勝したし、「Let's eat モンスター!」では伝説になった。だったら僕も優勝してご主人が一番すごいテイマー系冒険者だって知らしめてみせるよ』


「真奈さんとリーアム君と共演しても大丈夫なのか?」


『ご主人が一緒なら大丈夫!』


 ここまで言われてしまえば藍大はリルの気持ちを酌まない訳にはいかない。


「よし、出るか」


『うん!』


 藍大がリルの頭を撫でながら出ようと言えば、リルはやる気満々な様子で頷く。


「ありがとうございます! もしも逢魔さんに出てもらえなかったらカレールーのないカレーライスみたいなものですから助かりました!」


「それはただのライスですね」


『ライスも美味しいけどカレールーが欲しいよね』


 いずれもトップクランのメンバーでありながら、モフランドのオーナーに今を時めく女優、有名コスプレイヤーということを考えれば藍大達が出なくても豪華なラインナップだ。


 しかし、藍大はテイマー系冒険者の祖であり、リルもモフモフ従魔としては最古参だ。


 藍大達が出ずに番組で優勝者が決まったとしても、それが果たして真の優勝と言えるかと問われれば10人中10人がNOと答えるぐらい藍大達はMOF-1グランプリの核なのだ。


「では、ひとまず上司に逢魔さんから参加を表明頂いた旨を報告させていただきますね。どんな勝負になるかは決まり次第連絡します」


 遥は102号室を出て自分の部屋へ戻って行った。


 遥が帰って仕事の話が終わったとわかると、優月達子供組がリビングに出て来た。


「おとうさん、なんのはなしだったの?」


「お父さんとリルにテレビに出ないかって話だったんだ」


「おとうさんとリルはテレビでるの?」


「「「テレビ!」」」


「私も出たかったのよっ」


『ズル──・゚・(。>д<。)・゚・──イ!!』


 子供達がキャッキャとはしゃぐところにゴルゴンとゼルが紛れていても違和感は全くなかった。


「ゴルゴンもゼルも落ち着くですよ。マスターが困っちゃうです」


 (メロも興味がない訳じゃないんですね、わかります)


 ゴルゴンとゼルを注意しつつ、チラチラと藍大の方を見るのでメロもテレビ番組に出てみたいと思っているのだろう。


 そこにリュカとルナも話に加わる。


「リル、頑張ってね。応援してるわ」


『お父さんい~な~。ルナも出たかった~』


 リュカは落ち着いているけれど、ルナの反応は子供達と仲良しトリオに近かった。


『きっと天敵達がきっちり仕上げて来る。僕も負けてられないよ』


「従魔として総合的に競うって言ってたよな。何で競うんだろう。運動会的なこともするんだろうか?」


『運動会? それなら地下神域で運動しようよ!』


「そうだな。外よりも神域の方が涼しいしそうしようか」


 藍大はリルの発案に賛成して地下神域に行くことにした。


 優月達も一緒に行くと言い出したため、気分はすっかり家族全員で行くピクニックである。


 地下神域に藍大が家族を連れて行くと伊邪那美と伊邪那岐、楠葉が出迎えた。


「話は聞かせてもらってたのじゃ」


「伊邪那美様、盗み聞きは良くないぞ」


「盗み聞きじゃないのじゃ。藍大が妾の神子だから藍大の見聞きしたことが妾に共有されるのじゃ」


「そうだった。俺にプライバシーはなかった」


「安心するのじゃ。夜は用事がない限り覗かないようにしておるからな」


「その配慮を日中にもお願いしたい」


「それはできぬ相談なのじゃ。そんなことをすれば、作り立ての食事にありつけなくなってしまうからのう」


 伊邪那美は食いしん坊ズの一員としてそれは許容できないと首を横に振る。


「藍大の料理は作り立てが一番だもんね~」


『作り立てに間に合わないのは食いしん坊ズ失格だもんね』


 舞とリルが伊邪那美の言い分を聞いてうんうんと頷いている。


 食いしん坊ズならば作り立ての料理を食べるために持てる力を使うべきという考え方なのだろう。


 藍大はこれ以上ツッコんでも仕方ないと諦め、レジャーシートを敷いた。


「ダイブなのよっ」


『\(★^∀^★)/ワタシモダイブスルー!!』


「なのよっ」


「ダイブー」


 敷かれたシートにゴルゴンとゼルがダイブすると、日向と零もそれを真似する。

 

 舞とサクラ、優月、蘭、ユノ、ブラドはダイブせずにゆっくりとシートに腰を下ろした。


 ゲンとモルガナに至ってはいつの間にかシートの上で寝息を立てている。


「マスター、ちょっと畑を見て来るです」


「です」


「ミーも行くニャ」


『フィアも行きたい』


 メロは地下神域に来たついでに大地とミオ、フィアを連れて畑の様子を見に行く。


 残った藍大はリル一家とは地下神域を走り回ることにした。


 藍大がリルの背中に乗り、リュカが狼形態になったら準備は万端だ。


「リル、走って良いぞ!」


『うん! リュカとルナもしっかりついて来てね!』


「わかった!」


『ついてく!』


 そうは言ってもリルとリュカ、ルナでは本気で走った時のスピードが違うから、リルはリュカとルナが追い付けるスピードで走り出す。


『ご主人乗せて走るのも久し振りだね!』


「そうだな。ここは際限なく走れるからいっぱい走って良いぞ」


『うん! いっぱい走っていっぱい食べる!』


「妾も運動するのじゃ!」


 藍大がリルと喋っていると、それと並んで伊邪那美が空を飛んでいた。


「伊邪那美様、いきなりどうしたんだ?」


「藍大の料理が美味し過ぎて食べ過ぎてしまうから、こういう時に妾も運動することにしたのじゃ。それに、ピクニックに来たということは当然おやつも持って来たんじゃろ? それを心置きなく食べれるようにお腹を空かせなければなるまい」


「良い読みしてるじゃん」


 藍大のおやつを太る心配をせずに食べようとするあたり、伊邪那美は今日のおやつに期待しているのだろう。


『伊邪那美様には負けないよ!』


「ルナよ、妾と勝負するつもりかの?」


『うん!』


 ルナが自分より少し速く飛ぶ伊邪那美に追いつこうとスピードを上げ、伊邪那美がその誘いに乗ってルナと伊邪那美の競争が始まった。


「あんまり遠くに行くなよ~」


『は~い!』


「わかったのじゃ!」


 ルナと伊邪那美から聞こえる返事は徐々に遠くなっていく。


 藍大はリルとリュカとしばらく走った後、舞達のいる場所へと戻った。


 その時には畑組もルナと伊邪那美も合流しており、おやつタイムが始まる。


「今日のおやつはフルーツたっぷりロールケーキだ。ジュースやお茶もあるから飲みたいものをリクエストしてくれ」


「ロールケーキさんだ~!」


『ロールケーキさんはケーキの革命だよ!』


「これは堪らんな!」


「ミーの鼻が食べる前から美味いと教えてくれてるニャ!」


『早く切り分けて~!』


「運動して正解だったのじゃ!」


「運動しとけば良かったでござる!」


 食いしん坊ズはロールケーキの登場にテンションが急上昇している。


 高カロリーなおやつを予想して運動した伊邪那美はドヤ顔であり、ダラダラと寝そべっていたモルガナはしまったという表情である。


 それでも食べないという選択肢はないのだが。


 MOF-1グランプリ出場が決まった午後、藍大達は特に焦ることもなく楽しい時間を過ごしていた。

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