第575話 サンドウィッチは好きかい?

 3階に移動して洞窟の色が茶色から青緑に変わるとルドラが驚いた。


『そんな!?』


「どうしたんです?」


『ここは僕の知ってる3階じゃありません。以前の3階なら内装は変わってませんでした』


「ふむ。少し気になるな。変身させてもらおう」


 ルドラがどうしたものかと頭を抱えていると、マージが<梟狼切替オウルフチェンジ>で梟頭の翼人から尻尾が蛇の狼の姿に変身した。


 マージは変身してすぐに壁際に寄り、自分が気になった部分に<紫雷光線サンダーレーザー>をぶつける。


 その部分が崩れて隠し通路が露わになった。


「マージ、お手柄だね隠し通路だよ」


「この程度は私にかかれば造作もない。と言いたいところだが、リルから隠し部屋探しのコツを聞いていてね。上手くいって良かったよ」


 司に声をかけられたマージは再び梟頭の翼人の姿に戻って得意気に応じた。


「これは宝箱GETのチャンス!? 行くしかねえっしょ、隠し部屋に!」


「そうだね。折角のチャンスだし行ってみよう」


 健太がウキウキして今にも駆け出しそうであるのに対し、司も隠し部屋に期待しているが冷静さを失っていない。


 隠し通路を進んでみるとそこには開けた部屋があり、部屋の中心には宝箱とそれを守るように剣を地面に突き刺して待機するリビングアーマーの姿があった。


 司達の気配を察知したのか、リビングアーマーが剣を引き抜いて構える。


「僕に戦わせて。人型のモンスター相手に二槍流の練習をしたいから」


「俺は構わないぜ。好きにやってくれ」


「ありがとう」


 健太から手出ししないと言質をもらって司が一歩前に進む。


 リビングアーマーが司を敵と認識するが、司達にとって想定外の事態が起きる。


 リビングアーマーの体が光に包まれ、剣を持つ全身鎧から槍を持つビキニアーマーにシルエットが変わる。


 光が収まってみれば、司にそっくりな霊体がビキニアーマーを着ていた。


 これには司も怒りでプルプルと震える。


「君は僕に恨みでもあるのかな?」


「あのリビングアーマーは”希少種”か。普通のリビングアーマーがあんなアビリティを持つ訳がねえもんな」


『あ、あの、呑気に分析してる場合ですか? 司さんから今までに感じたことのない怒りのオーラを感じるんですが』


 ルドラがそれで良いのかと健太に声をかけるが、健太は問題ないと首を振る。


「良いの良いの。これはもう司の戦いなんだから」


「その通り。この不愉快な敵は僕がる」


「ほらな? る気スイッチが入ってるし俺達はおとなしく観戦してようぜ」


『あっ、はい』


 普段怒らなそうな司がキレているのを見てルドラは健太の言う通りにすることにした。


 司がヴォルカニックスピアを投擲すると、リビングアーマーが槍で弾こうとする。


 しかし、司が槍をギリギリのタイミングで手元に戻してリビングアーマーが空振り、そのタイミングで大きな隙が生じる。


 再びヴォルカニックスピアを投擲すれば、初動が遅れた霊体の頭部にそれが突き刺さる。


 それによって霊体が消し飛んだ時には既に司が距離を詰めており、反対の手に握るフリージングスピアで鎧を薙ぎ払う。


 リビングアーマーが仰向けに倒れたところで、それを踏みつけて両手の槍の石突で荒々しく何度も突けば、リビングアーマーのHPが力尽きて微塵も動かなくなった。


 リビングアーマーは倒されてもビキニアーマーと槍のまま残ってしまい、それを見た健太が余計なことを言い出す。


「これが本物のビキニアーマーか。肌の露出が多い分、VITに補正が付くのか調べる貴重な材料だ。持ち帰ってリルやパンドラに調べてもらおう」


「リルもパンドラもそんなくだらないことに付き合うとは思えないな」


「じゃあ茂に頼むか」


 マージのもっともな言い分を聞き、健太はリルとパンドラに頼まず茂に鑑定してもらうことに決めた。


 茂だって渋い顔をするとは考えないのだろうか。


 いや、考えていても健太は自分の興味を優先するに違いない。


「ふぅ。スッキリした」


「お疲れ様でござる。宝箱を収めてほしいでござる」


「ありがとうモルガナ」


「どういたしましてでござる」


 モルガナは無言でビキニアーマーを突き刺し続けた司を恐れ、司を怒らせないように気を付けようと心の中で思った。


 怒られないようにするには余計なことを言わず、司に自分は役に立つんだとアピールすれば良いと考えたので宝箱の回収を率先して手伝った訳だ。


 これも平穏に過ごすための世渡りと言えよう。


 戦利品全てを回収した後、司達が元の通路に戻ろうとしたところで全身鎧のリビングアーマーの軍隊が隠し通路に雪崩れ込んで来た。


「馬鹿でござるな。狭い通路じゃ一列になるでござるよ」


 モルガナは<氷結吐息フリーズブレス>で縦一列に並んだリビングアーマーの軍隊をまとめて氷漬けにした。


 広い場所で取り囲めばもう少し善戦できたかもしれないが、縦に並んでしまえばモルガナにとって都合の良い的でしかない。


 それらの回収も済ませてから、司達は元の通路へと戻った。


 隠し部屋に追い込んで挟み撃ちする作戦自体は悪くなかったけれど、戦力差があり過ぎて突破されてしまっては意味がない。


 司達はしばらく敵に遭遇することなく通路を進んだ。


 結局、開けた空間までモンスターが現れなかったけれど、そこで司達を待っていた敵はリビングアーマーとは一味違ったモンスターだった。


「デモニックブレードだっけ? 多摩センターダンジョンにいる奴だよね」


「おいおい、いきなり<剣召喚ソードサモン>と<剣集合ソードギャザリング>だぜ? すっかり臨戦態勢じゃんか」


 デモニックブレードはいくつもの剣を集めてオルトロスの姿を形成した。


「よし。今度は俺のターンだな」


 健太はデモニックブレードを核とするソードオルトロスとも呼ぶべき存在と対峙し、エネルギー弾を連射する。


 エネルギー弾が命中する度に召喚された剣が剥がれ落ちていき、中心部にあるデモニックブレードの姿が少しずつ見えて来る。


 デモニックブレードはこのままだとやられっ放しになると思い、相打ちを覚悟して<螺旋突撃スパイラルブリッツ>で特攻を仕掛ける。


「力は使いようってね」


 健太はエネルギー壁を斜めに展開して回転するソードオルトロスの軌道をずらした。


 たくさんの剣が密集したことで重量が増えていたことから、急ブレーキをかけてもそう簡単には停止できない。


 それゆえ、ソードオルトロスは壁に突き刺さってしまう。


「サンドウィッチは好きかい?」


 健太はダンジョンの壁にソードオルトロスを押し付けるようにエネルギー壁を展開し、じわじわとデモニックブレードのHPを削っていく。


 その間にもぼろぼろと剣が地面に落ちていき、デモニックブレードが完全に露出したのを確認して氷の槍でデモニックブレードを貫いた。


 それがとどめになったらしく、ソードオルトロスは完全に形を保てなくなって地面に落ちて散らばった。


 デモニックブレードが動かなくなったのを確認した後、健太はそれを握って掲げる。


「勝ったどぉぉぉ!」


『あんな戦い方もあるんですね』


「健太は普段アレな感じだけどやる時はやるよ」


『そうですね。戦ってる時は頼れる感じがしました』


 言外に普段は頼れなさそうとルドラが言っている訳だが、事実なので司は否定しなかった。


 デモニックブレードの魔石はマージに与えられ、<吹雪ブリザード>と<竜巻鞭トルネードウィップ>が<吹雪鞭ブリザードウィップ>に統合された。


 空いたアビリティ枠には<岩棘ロックソーン>が追加されてマージの戦術が広がった。


 その後、戦利品テキパキと回収してからボス部屋へと移動すると、中にいたのはリビングジェネラルだった。


「鎧はもう飽きたでござるよ」


 そう言ってモルガナが<氷結吐息フリーズブレス>を発動すれば、司達に斬りかかろうとするポーズのまま凍えて力尽きたリビングジェネラルの標本が完成した。


 ルドラは3階に入ってからガイドの仕事もできずに落ち込んでいたが、自分がただ司達の戦闘を見届ける証人にしかなれないのだと悟った。


 デモニックブレードとリビングジェネラルの連戦をまともに戦えば、IN国の冒険者では大きな被害を出してしまうだろう。


 無事にヒマラヤダンジョンを脱出できたなら、間違っても日本と敵対してはいけないのだとルドラは仲間やIN国のDMUのトップに伝えなければと思った。


 その一方、ルドラが何を考えているかなんて気に留めていない司達は戦利品回収とマージの強化を済ませるのだった。

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