第573話 ハハハ! 見ろ、敵がゴミのようだ!

 1週間後の19日、司と健太、マージとモルガナが飛行機でIN国を訪れた。


 空港には多くの報道陣とガネーシャの加護を与えられた男性冒険者が待っていた。


『初めまして。貴方達が”楽園の守り人”の冒険者ですね? 僕の名前はルドラ=チャンダです。一応IN国では暴風槍士って呼ばれてます。よろしくお願いします』


「初めまして。”楽園の守り人”の広瀬司です。セタンタって呼ばれてる槍士です。よろしくお願いします」


「同じく”楽園の守り人”の青島健太! ”祭囃子”って呼ばれてる魔術士なんでよろしく!」


「マージだ。よろしく頼む」


「モルガナでござる。よろしく頼むでござるよ」


 司達もルドラも翻訳イヤホンがあるから意思疎通の点で問題はない。


 挨拶を済ませた司達はルドラに誘導されてヘリコプターに乗ってヒマラヤ山脈へと向かう。


 この場に報道陣が集まっているものの、IN国はヒマラヤ山脈を越えたモンスター対応と国内のダンジョンの間引きで手一杯だから時間を無駄に浪費する余裕はない。


 記者会見等することはなく、乗り継ぎの要領で司達はヒマラヤ山脈へと向かう訳だ。


 ヒマラヤ山脈が近づくにつれて眼下にモンスターの大群と戦うIN国の冒険者達の姿が見えた。


「結構多いね」


「そうだな。ちょっとだけ手助けするか?」


「マージ、モルガナ、頼んで良い?」


「構わない」


「しょうがないでござるな」


 ルドラは一体何をするつもりなのか気になったが、折角助けてくれると言っているのにその気分を害する訳にはいかないので黙って見守っている。


 マージは冒険者達のいないモンスターに向かって<緋炎柱クリムゾンピラー>を放つ。


 モルガナも<幾千雨槍サウザンズランス>でモンスターの数を減らしていく。


「ハハハ! 見ろ、敵がゴミのようだ!」


「言うと思った」


『これが東洋の魔皇帝の従魔達ですか・・・』


 ルドラは第1回国際会議にIN国の冒険者代表として参加していたが、あの時はサクラもリルも本気で戦っていなかったから強さの上限が見えなかった。


 今も決して上限は見えないけれど、あっさりと数百の敵が屠られたのだからマージとモルガナがいれば戦況はすぐに変わることだけは確信できた。


 ガネーシャから”楽園の守り人”の力を借りる交渉に成功したと聞いた時も喜んだが、これならば本当にIN国の追い詰められつつある現状を打破できるとルドラは期待せずにはいられない。


 地上の冒険者達はマージとモルガナに感謝し、これならいけると士気が高まった。


 ヘリコプターがダンジョン入口付近に到着し、司達が降りたらそのままヘリコプターは戻って行った。


 戦えない者が待機するにはこの場は相応しくないから当然である。


『では、早速ダンジョンの中を案内しますね』


「ルドラ、入る前に確認させてくれ。倒したモンスター素材や宝箱は倒したり見つけた人の物で良いよな?」


『健太さんのご認識の通りです。僕が倒してないモンスターの素材を頂くことはありませんし、皆様が見つけた宝箱は皆様のものです。今回の遠征もT島国遠征と同様に考えて下さい』


「よし! 宝箱探すぞー!」


「健太、目的は宝箱じゃないでしょ?」


「冒険者なら欲張ってなんぼっしょ。外のダンジョンなら藍大達に先を越されることもないし」


「やれやれ」


 健太の言い分を聞いて司もわからなくはなかったから肩を竦めるに留めた。


 ヒマラヤダンジョンの中は洞窟であり、入口からキョンシーの大群が待ち構えていた。


「団体さんがお待ちのようだ」


 マージの言葉を聞いた時には司達が素早く戦闘を始めていた。


「二槍流の実験台になってくれる?」


 司はヴォルカニックスピアとフリージングスピアをそれぞれの手に持ち、次々にキョンシー達を斬り捨てていく。


 このフリージングスピアはパイモンが使っていた槍であり、藍大が八王子ダンジョンで手に入れた後に司に譲った。


 パイモンがどんなモンスターだったのかはぼやかしつつ、使えそうな武器があると司に渡したのである。


 司がフリージングスピアを握ってみると、妙に手に馴染むからどんなモンスターの物だったのか深追いしないで使っている。


 シャングリラダンジョンでは二槍流の練習をしている余裕はないので、3本の槍を状況に応じて使い分けて来た。


 しかし、シャングリラダンジョンに比べてずっと弱いモンスターしか現れないこの場でなら二槍流の練習ができる。


 スタンピードが起きるぐらいモンスターが溢れていれば、実験台が足りなくなることはないので丁度良いだろう。


「俺も負けてらんないね!」


 健太は岩の刃を創り出し、それを射出して何体ものキョンシーを倒していく。


 健太のコッファーは先日、地下11階で倒したヒュドラフレームの素材を使ってHFコッファーに変わっている。


 魔術士の職業技能ジョブスキルを活かせるようにDMUの職人班が本気を出したことにより、健太はMP効率の良い攻撃ができるようになった。


「喰らい給え」


 マージは<竜巻鞭トルネードウィップ>でキョンシー達を次々に叩き飛ばす。


 司と健太、マージが戦えば自分の出番はないなとモルガナはぼんやりその様子を眺めている。


『モルガナさんは戦わなくて良いんですか?』


「拙者はバトルジャンキーではないでござる。わざわざ戦う必要がなければ手を出さないでござるよ」


『なるほど』


 サボっているモルガナが気になってルドラは声をかけてみたものの、モルガナの言い分に納得したのでそれ以上何も言わなかった。


 自分だってこの状況で手を出そうとは思えないのだから、他人様の従魔に戦ってくれとは言えまい。


 キョンシーの大群を倒した後、司達は戦利品回収を済ませてから一息ついた。


「ふぅ、二槍流も実用可能なレベルになったね」


「あれすごかったな。俺もコッファー2つ持ちとかやってみようかな」


「止めておけ。腕力が足りないだろう?」


「マージ、男子の夢をすぐに正論で潰すのは良くないぜ」


「パンドラから健太のことをよく見張ってくれと頼まれてるのでな。馬鹿なことを言い出したら軽めの攻撃まで許可されてるぞ」


「パンドラ仕事出来過ぎぃぃぃ!」


 健太がそれだけ信用されていないとも考えられるが、司はわざわざそれを口にしたりしなかった。


 その一方でルドラは司の使う槍に興味を持っており、我慢できなくなって訊ねた。


『司さん、今使ってる2本の槍は何処で手に入れたんですか?』


「ヴォルカニックスピアはシャングリラダンジョンのボスモンスターが使ってた槍で、フリージングランスは八王子ダンジョンのフロアボスの槍だね」


『IN国ではそれほどの槍を使うモンスターが現れないんですよね。羨ましいです』


「ルドラさんの槍はどんな槍なんですか?」


『僕の槍はパスパタ16号です。クランの鍛冶士が作ってくれた槍なんですが、まだまだ神話に出て来るパスパタには届きません』


 パスパタとはインド神話に登場するシヴァの放つ炎や投げやりとして知られるものであり、ルドラはいつか本物を手に持ってみたいと思っている。


 舞がレプリカではないミョルニルを手にしているのだから、いずれ本物のパスパタをルドラが手に入れる可能性は否定できない。


「諦めたらそこで試合終了だ。ルドラならきっとゲットできるさ。もっと夢見ようぜ」


「なんでだろう。励ましてるのはわかるんだけど、健太が言ってるせいでふざけてるようにしか聞こえない」


「それは酷くね?」


「日頃の言動を省みると良いぞ」


「マージさんや、そこで追い打ちするのは止めてくれ。俺のライフはもう0だ」


「ふむ。これしきの戦闘でへばったということだな? 帰ったらパンドラに伝えておこう」


「はい、元気! 俺ってば滅茶苦茶元気!」


 パンドラのお仕置きが怖いらしく、健太は自分が元気であるとアピールする。


『賑やかですね。いつもこうなんですか?』


「大体こんな感じです。さて、休憩は終わりにしましょう。先はまだ長いんですから」


「え~、もっと休みたいでござる」


「モルガナ、ぐーたらが過ぎると藍大と優月君にモルガナがどうしようもなかったって報告しなきゃいけないんだけど」


「さあ、張り切っていくでござるよ! ほら、早く出発するでござる!」


 司の報告次第で今後の自分の快適な生活が終わってしまうかもしれないと察し、モルガナがやる気を出すので司は苦笑する。


 ルドラの案内によって司達は通路の奥へと進み始めた。

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