第572話 は、恥ずかしがり屋で申し訳ないんだな

 翌日12日の火曜日の未明、藍大はリルと共に真っ白な空間にいた。


『ご主人と一緒だね』


「そうだな。3回目だからもう慣れたわ。リュカとルナと一緒に布団に潜り込んだのか?」


『うん。家族全員でお邪魔してるんだよ』


「愛い奴等め」


「クゥ~ン♪」


 藍大がリルの頭をわしゃわしゃと撫でていると、伊邪那美が呆れた表情で姿を現す。


「藍大もリルも全然驚いてくれないから張り合いがないのじゃ」


「そんなこと言われても慣れちゃったものは仕方ないだろ」


『気づいたら巨大ハンバーグが目の前にあったぐらいのインパクトじゃなきゃ驚けないよ』


「ふむ。今度はそれができるか試してみるかのう」


「伊邪那美様、幻影だとリルが見抜いてしょんぼりするから駄目だぞ? 本当に食べられるやつでよろしく」


『味付けはご主人が作ってくれた奴にしてね』


「夢の中で無茶言わないでほしいのじゃ!」


 伊邪那美のツッコミはもっともである。


 夢の中でどうやって本物の巨大ハンバーグを食べさせればいいのかなんて伊邪那美にもわからないだろう。


「冗談はこの辺にしとくか。今回は何が起きたんだ? いや、これから起きるのか? 夢の中に現れる時は大抵何か頼み事がある時だからな」


「良い読みをしとるのじゃ。実は、古い馴染みが妾を頼って来てな。妾は絶対に助けるとは約束できないが、藍大を紹介するだけでも良いからと土下座されて紹介だけすることになったんじゃ。すまぬが会うだけあってくれぬか?」


「伊邪那美様の古い馴染みって神様だよな?」


 藍大の問いに伊邪那美は頷く。


「うむ。IN国から霊体でやって来たのじゃよ。リルならもうどこにいるのかわかるのではないか?」


『勿論わかってるよ。伊邪那美様の後ろに象の着ぐるみが見える』


「象の着ぐるみ? まさかガネーシャ様?」


「あ、当たりなんだな」


 伊邪那美の背後からデフォルメされた二足歩行の象の着ぐるみが現れた。


「伊邪那岐様と違って夢に出て来れるぐらいにはガネーシャ様が回復してるのか?」


「違うのじゃ。この着ぐるみは妾が作ったものでな、ガネーシャはこの着ぐるみを依り代にしておるのじゃ」


「なんで着ぐるみにしたの?」


「ガネーシャはシャイなのじゃ。本物そっくりな義体を用意しても恥ずかしくて依り代にしないのじゃよ。だからいっそのこと可愛い着ぐるみにしてみたのじゃ」


「は、恥ずかしがり屋で申し訳ないんだな」


 ふざけていると思いきやちゃんとした理由があって着ぐるみで登場したため、藍大はこれ以上ガネーシャの着ぐるみについてツッコまないことにした。


「理由はわかった。それで、ガネーシャ様はどんな用件があって俺の夢に現れたんだ?」


「そ、率直に言って伊邪那美の神子にIN国を助けてほしいんだな。C国から山脈を超えてモンスターが雪崩れ込んできたせいで、IN国の冒険者がその対応に追われてるんだな。このままでは国内のダンジョンの間引きができなくなって国内でもスタンピードが発生するんだな」


「ヒマラヤ山脈を越えるモンスターがいたのか。C国がグシオンの手に落ちてIN国もとばっちりを受けてる訳か」


「ほ、本当にその通りなんだな。我が子達を守ってあげたいけど、オラは学問と商売の神だし人前に出るのが恥ずかしくて戦闘の力にならないんだな。だから、せめて援軍を呼べたらと伊邪那美に頼み込んだんだな。藍大、リル、助けてほしいんだな。お礼はオラにできることをなんだってするんだな」


『ご主人、ガネーシャ様は良い神様だと思う』


「それな」


 国際会議では楽して力を手に入れようと日本の参加者に擦り寄ろうとする者の多さに嫌気がさしたけれど、ガネーシャの頼む姿に藍大もリルもそのような感情を抱くことはなかった。


 ガネーシャの喋り方は田舎臭い感じがするが、その中身はとても礼儀正しいと言えよう。


 自身が神であるにもかかわらず、藍大とリルに自分の国を助けてほしいと頭を下げられるガネーシャの姿に誠意を感じるのは当然だろう。


「た、助けに来てくれると考えて良いんだな?」


「それって俺じゃなくてクランのメンバーでも良いか? 強さは日本でもトップクラスだって保証する。俺が日本を出ると色々面倒なことになるからさ」


 藍大はT島国にパンドラ達を派遣した時のことを思い出し、自分以外を派遣しても良いか訊ねる。


「か、構わないんだな。無理を言ってるのはオラだから、助けてくれるだけ感謝なんだな」


「そうか。じゃあ、具体的にどんな風に助けを求めてるのか教えてほしい。戦闘要員を派遣するにしても、相手を定めてくれないとクランのメンバーに説明ができない」


「わ、わかったんだな。戦ってもらいたいのはヒマラヤダンジョンでなんだな。元を断たなければ終わりが見えないから、藍大の仲間には直接ダンジョンを叩いてほしいんだな」


 ガネーシャはその場しのぎの対策ではなく、根本的な問題を解決するつもりのようだ。


 どうせ力を借りるならば、しっかりと問題を解決しようとするガネーシャの姿勢は正しい。


「なるほど。確かにそこを潰さなきゃ駄目だよな。現地への移動手段とガイドは頼めるのか?」


「ま、任せるんだな。オラの加護を与えた冒険者がいるから、その子をガイドにするんだな。移動手段も飛行機を手配するから安心してほしいんだな」


「了解。俺達からいきなりIN国に行くと言い出すと変に勘繰られる恐れがあるから、その加護を与えた冒険者から日本のDMUに救援を要請してもらえないか? こっちのDMUには話を通しとくから」


「た、助かるんだな。お礼は期待しててほしいんだな。今回の一件が済んだら、協力してくれた藍大の仲間にもお礼するんだな。まずは前金代わりに藍大とリルにあげるんだな」


『逢魔藍大とリルが称号”ガネーシャの感謝”を獲得しました』


 リルが自分と藍大を鑑定してその結果に驚く。


『すごいよご主人! 僕とご主人のINTとLUKが強化されてる!』


「マジ!? すごいやガネーシャ様! ありがとう!」


『い、良いんだな。”ガネーシャの感謝”はINTとLUKが本来の125%になる効果があるんだな。ヒマラヤダンジョンをなんとかしてくれたら、そのお仲間にもあげるんだな』


「それなら皆行きたいって言うはずだ。制限はあるか?」


 ガネーシャの提示した報酬を聞き、藍大はヒマラヤ山脈への派遣にクランのメンバーで手を上げないのは奈美ぐらいだろうと思い、派遣する数に制限があるか訊ねた。


「せ、制限は”ガネーシャの感謝”なら枠はあと4つなんだな。それよりも効力が落ちて良いならその倍までOKなんだな」


「わかった。多分4枠になると思う。でも、安心してくれ。その4枠でも過剰戦力だろうから」


「き、期待してるんだな。それじゃあよろしくなんだな」


 そう言ってガネーシャの体が消えていった。


 ガネーシャの姿が見えなくなると、黙って話の流れを見守っていた伊邪那美が口を開く。


「藍大よ、今回は誰を派遣するつもりなのじゃ?」


「司と健太、マージ、モルガナだな」


『前回遠征しなかったメンバーとダンジョン管理のためにモルガナを選んだんだね?』


「正解。流石はリルだ」


『ワッフン、ご主人と仲良しだからわかるんだよ♪』


 リルが可愛いので藍大はリルの顎の下を撫でた。


「そのチョイスで良いと思うのじゃ。司とマージがしっかりしておるから、健太がやらかしたりモルガナがだらけてもなんとかなるはずじゃ」


「だろ? 起きたら司達と茂に状況を説明しないとな」


「そうじゃな。それはそうと藍大もリルも急な呼び出しにもかかわらず、ガネーシャの頼みを聞いてくれて感謝するのじゃ」


「良いってことよ。前払いで報酬も貰ったもんな、リル?」


『うん。気にしないで』


「そう言ってくれると助かるのじゃ。さて、そろそろ目覚める時間じゃぞ」


 伊邪那美のその言葉を最後に藍大とリルの意識が精神世界から現実世界へと浮上した。


 目が覚めた藍大は同じ布団にリル一家が潜り込んでいたのを見つける。


 起きて身支度を整えた後、司達にヒマラヤダンジョンに行ってみないかと連絡をした。


 特に国外デビューに憧れていた健太は食い気味に反応し、藍大が選抜したメンバーの派遣が決定した。


 その一方、茂は朝から胃の痛みと戦う羽目になったのだが仕方のないことだろう。

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