第562話 私、お父さんとお母さんみたいに強くなれてる?

 翌日、藍大達は昨日と同じメンバーで箱根ダンジョンの3階に来た。


 このフロアは溶岩溜まりが2階よりも多いせいで、暑さに耐性がない者が足を踏み入れれば即座に倒れてしまうだろう。


『『「暑い~」』』


「融けるでござる~」


 リル一家とモルガナの反応が2階の時よりもだれているように感じる。


「リル、俺のバフ使ってできるだけ広い範囲を冷やしちゃえ。暑くて辛いだろ?」


『そうする~』


 リルはバフ込みの全力の<天墜碧風ダウンバースト>でこのフロアを氷山に変えた。


『ルナがLv58になりました』


『ルナがLv59になりました』


『ルナがLv60になりました』


『ルナが進化条件を満たしました』


『ルナがLv61になりました』


      ・

      ・

      ・


『ルナがLv65になりました』


『モルガナがLv97になりました』


『モルガナがLv98になりました』


 (そりゃそうなるよな)


 リルの本気と藍大の好感度バフが合わされば、溶岩溜まりだらけのフロアをモンスターごと凍らせてしまってもおかしくない。


 これだけ広範囲のモンスターを倒したのだから、ルナがハティからフェンリルに進化するLv60に到達するのも当然である。


「涼しくなったでござる」


 氷山を涼しいと表現できるモルガナは伊達に龍ではないのだろう。


 リル一家はモフモフだから寒さに強いから問題ないし、藍大もゲンも寒さに耐性があるので耐えられる。


 それゆえ、現状の寒さに困るのは3階に生息していたモンスターだけということだ。


 藍大は戦利品回収の前に先程から期待した目を向けて来るルナに声をかける。


「ルナ、進化したいんだよな?」


『うん!』


「よろしい」


 藍大がルナを進化させることでルナの体が光に包まれ、その中でルナの<収縮シュリンク>が解除されて軽自動車サイズまで大きくなる。


 光が収まってみれば、ルナは進化前の青白い毛並みから美しい白銀の毛並みへと変化していた。


 ”風聖獣”の称号を得る前のリルと一緒でルナの目は蒼く輝いており、額にあった白い三日月マークはそのまま残っている。


『ルナがハティからフェンリルに進化しました』


『ルナがアビリティ:<氷結咆哮フリーズハウル>を会得しました』


『ルナのデータが更新されました』


 進化が終わってルナはリルとリュカに駆け寄る。


『お父さん、お母さん、ルナもフェンリルになったよ!』


『子供が育つのはあっという間だね~』


「ご主人の従魔だから環境が良くてすくすく成長したんだよ」


『ドヤァ』


 ルナは進化した姿のお披露目ができてご機嫌である。


 両親に褒めてもらった後には藍大に褒めてもらおうと近付く。


「よしよし。ルナも無事にフェンリルになれて良かった。これからもよろしくな」


『ワッフン♪』


 藍大に撫でられて益々ルナはご機嫌になった。


 モンスター図鑑で進化したルナのステータスを確認する前に、藍大達は戦利品回収を済ませてルナに3階の”掃除屋”とフロアボスの魔石を与えることにした。


 ちなみに、3階は雑魚モブモンスターがマグマトンLv70、”掃除屋”がマグローパーLv75、フロアボスがマグマゴーレムLv80だったが、いずれもカチコチに凍っていてマグマらしいドロッとした感じは皆無である。


『ルナのアビリティ:<三日月爪クレセントネイル>がアビリティ:<十字月牙クロスクレセント>に上書きされました』


『ルナのアビリティ:<暗黒竜巻ダークネストルネード>がアビリティ:<暗黒嵐ダークネスストーム>に上書きされました』


 藍大は早速パワーアップを果たしたルナのステータスを確認する。


-----------------------------------------

名前:ルナ 種族:フェンリル

性別:雌 Lv:65

-----------------------------------------

HP:1,280/1,280

MP:1,440/1,440

STR:1,300

VIT:1,180

DEX:1,220

AGI:1,360

INT:1,360

LUK:920

-----------------------------------------

称号:藍大の従魔

   風聖獣の子

   掃除屋殺し

二つ名:魔王様の子狼

アビリティ:<十字月牙クロスクレセント><暗黒嵐ダークネスストーム><賢者ワイズマン

      <収縮シュリンク><竜巻槍トルネードランス><氷結咆哮フリーズハウル

装備:なし

備考:ご機嫌

-----------------------------------------



 (まだまだ発展途上だけど着実に成長してるな)


 ステータスを確認して藍大はルナの成長を感じた。


『私、お父さんとお母さんみたいに強くなれてる?』


「勿論だ」


「クゥ~ン♪」


 ルナがもっと褒めてと期待を込めた眼差しのまま首を傾げるので、藍大がその頭を撫でる。


 ルナが撫でられる姿を見て羨ましくなったらしく、リルとリュカ、モルガナがその後ろにおとなしく並んでいたので家族サービスの時間に突入した。


 全員が満足するまで撫で終えた後、残りの戦利品を回収して藍大達は4階へと進んだ。


 4階は火山の火口であり、そこには1体のモンスターが待ち構えていた。


「なんかドロッとしてるな」


 藍大がそう言うのも無理もない。


 火口の中にいるモンスターは擬人化した溶岩の檻と呼ぶべき姿をしており、その檻は今にも崩れそうな様子だからだ。


 しかし、藍大とゲン以外は敵の姿なんてどうだって良いと思うぐらいだれていた。


『暑~い』


「融ける・・・」


『暑いよ~』


「おうち帰りたいでござる~」


 (早々に勝負を決めないと不味いな)


 のんびりやっていると暑さにやられてしまうため、藍大は素早く敵のステータスチェックを済ます。


「敵は”ダンジョンマスター”のラヴァジェイルLv85。AGIは低いし寒さに弱いらしいぞ」


 それを聞いた瞬間、モルガナがピクッと反応して動き出す。


「それなら話が早いでござる!」


 モルガナは<凍結吐息フリーズブレス>でラヴァジェイルに向かって放った。


 この暑くて不快な状況をなんとかしようと全力である。


 ラヴァジェイルが溶岩の壁を作り上げてそれに対抗しようとするが、モルガナの実力の方が上だったために壁はあっさり壊されてしまう。


 壁が壊れればモルガナの攻撃をその身に受けるしかなく、ラヴァジェイルは体を急速に冷え固められて力尽きた。


『ルナがLv66になりました』


『ルナがLv67になりました』


『ルナがLv68になりました』


 (モルガナはレベルアップできなかったか)


 藍大は残念に思っているが、実際はレベルアップできなくても仕方ないと言える。


 何故なら、”ダンジョンマスター”にもかかわらずLv100に至っていないモルガナに一撃で倒される程度であるだけでなく、得られた経験値はルナと二分されているからだ。


 ラヴァジェイルと一緒に火口も冷え固まらせたモルガナは得意気な顔である。


「拙者がここの新しい”ダンジョンマスター”でござる」


「モルガナ、掌握したのか」


「その通りでござる。あと3つでござる」


「この調子で放置され気味のダンジョンを狙っていくか」


「賛成でござる」


 ”アークダンジョンマスター”になることを目指しているので、モルガナは藍大の方針に首を縦に振った。


 モルガナのブレスのおかげで涼しくなったことにより、リル一家も暑さにうだることなく戦利品回収を手伝い始めた。


 黒くカチコチに固まったラヴァジェイルから魔石を取り出し、藍大はモルガナにそれを与える。


「これはモルガナの物だ」


「かたじけのうござる」


 藍大から受け取った魔石を飲み込むと、モルガナから放たれるオーラが強まった。


『モルガナのアビリティ:<蒸気吐息スチームブレス>がアビリティ:<熔解吐息メルトブレス>に上書きされました』


「拙者のブレスが強化されたでござる」


「確かに蒸気よりも強そうだよな」


「今までは当たったら火傷で済む者もいたでござるが、これからはその上熔かすでござるよ。まず無傷ではいられないでござる」


 そのモルガナの発言に反応する者が2体いた。


 リルとゲンである。


『当たらなければ問題ないよね』


『無敵』


 リルには<転移無封クロノスムーブ>があるからモルガナの攻撃は当たらないだろう。


 ゲンの場合は<液体支配リキッドイズマイン>と<自動氷楯オートイージス>、<強制眼フォースアイ>を突破しなければ当たらない。


 それだけでなく、仮に突破できても<全激減デシメーションオール>があるから威力の減衰した攻撃なんて効かない。


 リルとゲンにモルガナの<熔解吐息メルトブレス>を当てて融かすのは至難の業だろう。


 モルガナもそれを理解しているからこそ、下手に反論せずにおとなしくなった。


 負け戦をするつもりはないようだ。


 とりあえず、藍大達はやること全てを終えたので帰宅した。

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