第561話 あの少年のハンバーグを久しく聞いてないなぁ

 帰宅した藍大達を仲良しトリオが出迎える。


「待ってたんだからねっ」


「お帰りなさいです」


『∩^Δ^∩オカエリ~』


「ただいま。早めに帰って来たつもりだけど待たせちゃったみたいだな」


 3人に手を引かれて藍大はリビングに向かう。


 リビングでは子供達と遊んでいる舞とサクラ、ブラドの姿があった。


「待ってたよ~」


「待ってたのである」


「早かったね」


 食いしん坊達は待っていたと言ってサクラは早かったと告げる。


 その訳は今日の昼がハンバーグパーティーだったからだ。


 食べるのが大好きな舞とブラドは早くハンバーグパーティーをしたいから藍大達の帰宅を待ち侘びており、サクラはパーティーを楽しみに思っていても冷静だったのでいつもと比べて早いねと声をかけた。


 ちなみに、仲良しトリオは楽しいことが大好きなので舞達とは違うベクトルで藍大達のことを待っていた。


「ただいま。まずはお土産からだ。サクラ、この宝箱から貴重な種を頼むよ」


「任せて」


 サクラは収納リュックから取り出された宝箱を受け取り、藍大のリクエストを聞いてから宝箱を開けた。


 リルが即座にそれを鑑定してその結果を発表する。


神蕎麦しんそばの種だって!』


「わんこそばした~い」


「舞のわんこそばってどれぐらい食べ続けるんだ?」


「1時間ぶっ通しで食べてそう」


 舞のリアクションに藍大とサクラが苦笑した。


 2人には舞が食べ終わるビジョンが思い浮かばなかったのである。


 それはそれとして、神蕎麦の種は植物の種なのでメロに託された。


「メロ、美味しい蕎麦を育ててくれ」


「任せるです。舞が食べきれないぐらい作ってやるです」


「えっ、本当? ありがとメロちゃん!」


「おっと、ストップですよ舞。それ以上は近寄らないでほしいです。なんで両腕を広げながら来るですか?」


「お礼の気持ちをハグで伝えたくて」


「ノーサンキューです! ブラドでもハグしとくです!」


「吾輩に振るのは止めるのだ!」


 メロからの唐突なフリにブラドは全力で逃げる。


 騒がしくなって来たけどそれを放置して藍大はモルガナに視線をやる。


 次は自分の番だと悟ってモルガナは手に持ってた魔石をユノに差し出す。


「ユノ、これは拙者からのお土産でござる」


「お土産?」


 ユノはまだモルガナが優月を取ろうとするのではないかと警戒しており、お土産といって差し出された魔石にも何か裏があるのではないかとすぐに受け取ろうとはしない。


 それではモルガナがかわいそうだと思って藍大は助け舟を出す。


「今日の探索でルナが7つレベルを上げてアビリティを何度か強化したから、モルガナはユノのために魔石を自分で使わずに残してくれたんだ」


「モルガナ、ありがとう!」


 ユノが何か言うよりも先に優月が笑顔でモルガナに感謝の言葉を告げた。


「ほら、ユノもありがとうしなきゃだめだよ?」


「・・・ありがと」


「どういたしましてでござる」


 優月に言われても受け取らないなんてことはなく、ユノは素直にモルガナからマグトータスの魔石を受け取った。


 今までは警戒して喋ることも数えるだけしかなかったけれど、ユノはプレゼントを貰って礼を言わないのは良くないことだと思ってしっかりお礼を言った。


 ほんの少しではあるものの、ユノとモルガナの心の距離は近づいたと言えよう。


 マグトータスの魔石を飲み込んだことで、ユノの<双光円刃ダブルサークルエッジ>が<衛星光刃サテライトエッジ>に上書きされた。


 今までは横回転する2つの光の円を操るだけのアビリティだったが、今度は光の刃が360度自由に回転しながらユノの周りをグルグル回る。


 それを自在に操れるだけでなく、数もコントロールできる限り増やせるのだからアビリティの自由度は一気に跳ね上がった。


 ユノのパワーアップが完了すると、藍大は食いしん坊ズからの熱烈な視線を感じてハンバーグパーティーの仕込みに移る。


 そうは言っても挽肉にするところから始める訳ではない。


 ミスリルミンサーは1つしかないから、パーティー当日の今日に至るまでにコツコツとシャングリラダンジョンに出現するモンスターの肉を挽肉に加工していたのだ。


 それゆえ、今日はハンバーグの種を作るステップからスタートする。


「私も手伝う」


『僕もやるよ』


「私もやるです」


 サクラとリル、メロが手伝うと言い出せば手を使えないメンバー以外の全員がやりたそうにしていたため、藍大は皆で種を作ることにした。


 大人組はなんとかなるので、子供組のサポートを中心に行うこと30分でたくさんの種類のハンバーグの種ができた。


 日曜日のシャングリラダンジョンに出現するモンスターだけでなく、地下5階より下のモンスターの肉等も使っているので20種類はある。


 これらを順番にフライパンで焼き上げていく。


 ファミレスの厨房もびっくりなぐらいハンバーグを焼き続ければ、種だったものがきちんとしたハンバーグとして仕上がった。


 食卓の上には数々のハンバーグが並んでおり、食いしん坊ズ達の目は言葉にするまでもなく早く食べたいと物語っている。


 いただきますと全員で号令をすれば、それぞれが最初に選んだハンバーグを口に運んでいく。


 好きなハンバーグを一口食べた後、食いしん坊ズと子供達は口を揃えて叫び出した。


「「「・・・『『ハンバーグ!』』・・・」」」


 (あの少年のハンバーグを久しく聞いてないなぁ)


 ハンバーグの大合唱に藍大は立石孤児院のハンバーグ大好き少年のことを思い出した。


 今でも定期的に孤児達とバーベキューやおにぎりパーティー、カレーパーティー等行うが、ハンバーグパーティーを開いていなかったのでそう思うのも当然だ。


「今日も主のハンバーグは美味しい」


「アタシの捏ねたものが一番美味しいのよっ」


「私のだって負けてないです」


『(´-∀-)=3ドヤッ』


 サクラは静かに味わっているが、仲良しトリオは自分の捏ねたハンバーグが美味しいのだと競っている。


 ここで人気のハンバーグTOP5を紹介すると以下の通りだ。


 1位はピュートーンとブネの合挽ハンバーグ。


 2位はペガサスとオニコーンの合挽ハンバーグ。


 3位はピュートーンとペガサスの合挽ハンバーグ。


 4位はクエレブレとラードーンの合挽ハンバーグ。


 5位はブネとクエレブレの合挽ハンバーグ。


 これらは各々が中にチーズを入れた物やかけるソースを変えたりアレンジしても順位が変わらなかった。


 マイナーな所で言えば、メロが気に入っている神豆ハンバーグやゲンのトロリサーモンの魚肉ハンバーグだが、これはこれで美味しいものだと藍大は思っている。


 がっつりしたハンバーグが人気なのは食いしん坊ズの数が多いからであり、変わり種のハンバーグも市販品とは比べ物にならない程美味しい。


 食べ終えてみれば誰もが幸せそうな表情をしている。


「ハンバーグパーティーは最高なのじゃ」


「ハンバーグがあれば食事に夢中で世界は平和になるね」


「『異議あり』」


 伊邪那美と伊邪那岐の待ったりとした会話に舞とリルが異議を唱えた。


「何に異議があるのじゃ?」


「伊邪那岐様はわかってない。藍大の料理は『Let's eat モンスター!』ですっごい有名なんだよ?」


『そんなご主人の料理が世に少しでも出回れば。それを奪い合って国内で戦争が起きちゃうよ』


「ひ、否定できないのじゃ」


「確かに」


 (納得しちゃったよ)


 黙って聞いていた藍大だったが、舞とリルの言い分によって伊邪那美達が納得したことに苦笑した。


 食べればなんでも1つだけ願いが叶う訳でもないのだから、自分のハンバーグのせいで争いが起きるとは思っていないらしい。


「主、その認識は改めた方が良いよ」


「サクラさんや、俺の心を読まないでおくれ」


「私は主のことならなんでもわかるの」


「俺のプライバシーは何処いった?」


「私が<運命支配フェイトイズマイン>を会得した時点でなくなったよ?」


「なん・・・だと・・・」


 正確には運命を操作して藍大の思考や物事の結果を誘導しているのだが、サクラは悪戯っぽい笑みを浮かべている。


 衝撃を受けた藍大の心を癒すべく、リルとルナがすぐに駆け付ける。


『ご主人、僕のことを撫でて元気出して』


『私も撫でて良いよ』


「ありがとう」


 この後、藍大はリルとルナをしばらく撫で続けた。


 それを羨ましがってゲンやミオ、フィア、ブラド、モルガナがいつの間にか後ろに並んでいたのは言うまでもない。

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