第547話 僕とかくれんぼに挑むなんて100年早いよ

 5階に移動した時から、藍大達は数秒毎に揺れを感じた。


「モンスターの歩いた振動なのかギミックなのか」


『僕の目にはギミックは見えないよ』


「リルがそう言うならモンスターだな」


『ご主人、丁度来たみたいだよ』


 リルが示す方角から棘付き棍棒を持った一つ目の巨人が現れる。


「サイクロプスLv65。まさかの雑魚モブ


 サイクロプスは他所のダンジョンならば”掃除屋”やフロアボスとして現れるモンスターだ。


 それがこうして雑魚モブ扱いで出現するのだから、八王子ダンジョンもシャングリラダンジョンと同様にイレギュラーなダンジョンの枠に入るのだろう。


 ちなみに、このイレギュラー枠はテイマー系冒険者の従魔が”ダンジョンマスター”を務めるダンジョンが多い。


「的が大きいと楽」


 サクラは深淵のレーザーでサイクロプスを瞬殺した。


 サクラの言う通り、サイクロプスに攻撃を当てるのは容易い。


 AGIは大したことないから攻撃を外すこともない。


 ただし、高いHPとSTR、VITには要注意である。


「サクラ、お疲れ様」


「やろうと思えば目を閉じても当てられるよ」


「やらなくて良いから。アビリティの無駄遣いだし」


 目を閉じても当てられるとは、<運命支配フェイトイズマイン>を使って強引に攻撃を当てることを指している。


 藍大がそんなことに<運命支配フェイトイズマイン>を使わないでほしいと思うのも当然だろう。


 サイクロプスを回収して先に進むと、今度はサイクロプスが集団になってやって来る。


「リル、行くぜ!」


『うん!』


 戦闘モードに切り替わった舞がリルに声をかけ、リルは舞を乗せてサイクロプスに接近する。


 サイクロプスにリルを捉えられるはずがなく、舞のSTRならしぶといサイクロプスでもあっさり倒してしまう。


 舞とリルの食いしん坊ペアはサイクロプスにとって天敵と呼ぶに相応しい。


「終わったよ~」


『いっぱい倒したよ』


「お疲れ様」


 無邪気に報告する舞とリルだが、一般冒険者だったらサイクロプスの集団なんてかなりの被害を覚悟して戦わなければならないだろう。


 それらの回収を済ませて進んで行けば、今度は金属鎧を着込んで大剣を握るサイクロプスが現れた。


「サイクロプスウォーリアーLv65。こいつも雑魚モブ


『僕がやる!』


 リルは<蒼雷審判ジャッジメント>でサイクロプスウォーリアーを倒した。


 強そうなのは見かけだけであり、リルに一撃で大きな音を立てて倒れた。


 藍大はサイクロプスウォーリアーが装備していた大剣を持ち上げてみた。


 普段の藍大なら絶対にびくともしないだろうけど、ゲンとエルの力があれば大剣だって持ち上げられる。


「大剣というよりも鉄塊みたいだな」


「藍大、ちょっと貸して」


「はい」


「ありがと~」


 舞は藍大から大剣を借りると片手でブンブン振り回す。


「それって簡単に振り回せる物なんだ・・・」


「主、舞だからできるの」


「そっか」


 藍大とサクラは大剣を振り回す舞を見て力では敵わないことを改めて思い知った。


 戦利品を回収して探索を再開したら、今度はサイクロプスウォーリアーしか出て来なくなった。


 それらを倒して回った所で新たなサイクロプスが藍大達の前に立ち塞がる。


 そのサイクロプスは角突きの兜と両手斧、動物の皮で作られた貫頭衣を装備していた。


「またワイルドな見た目に戻ったね~」


「あいつは”掃除屋”のサイクロプスバーバリアンLv70。見ての通り両手斧と殴る蹴るのみで戦う」


「本当に見たまんま」


『また食べられないモンスターだね』


「確かに」


 リルと舞は食べられないモンスターが”掃除屋”でしょんぼりしている。


 称号持ちのモンスターのお肉は美味しいから、食べられるモンスターが出て来ないかと願うリル達の期待が外れてがっかりな様子だ。


「俺のターンだ」


 藍大がそう言ってサイクロプスバーバリアンに接近すると、それが藍大を敵とみなして暴れ出す。


「ウォォォォォ!」


 力いっぱい吠えた直後にサイクロプスバーバリアンは両手斧を振り回し、藍大をはたき落そうとする。


 しかし、藍大はそれを避けるのではなくゲンの<自動氷楯オートイージス>で対処した。


 勿論、敵の周囲をスイスイ飛び回って避けることも簡単にできるが、藍大は久し振りに強者ムーブをしたいのか避けるつもりはなかった。


 氷の楯に己の攻撃全てが弾かれてしまえば、サイクロプスバーバリアンのフラストレーションだけがどんどん溜まっていく。


「グォォォォォ!」


「頭が高い」


 藍大は<強制眼フォースアイ>でサイクロプスバーバリアンを地面に押し付け、<魔攻城砲マジックキャノン>で敵のHPを削り切った。


 サイクロプスバーバリアンの体から力が抜けて動かなくなったのを確認し、藍大は舞達のいる場所に戻った。


「藍大が魔王様だったね」


「主、もっとやるべき!」


『強いご主人も良かったよ』


 出迎えた舞達の中でもサクラは特に熱が入っていた。


 藍大にもっと強者ムーブしてほしそうに目を輝かせている。


 サクラは藍大の従魔の中で最も過激だから、藍大が力でねじ伏せる戦闘シーンを喜んでいるのだ。


 サクラを落ち着かせた後、藍大達は戦利品回収を済ませて先を急いだ。


 ボス部屋までの道中に数回の戦闘を行ったが、藍大達は無事にボス部屋に辿り着けた。


 少しだけ休憩してから中に入ってみると、室内が霧に覆われていた。


『ご主人、気を付けて。霧の中に青白い巨人がいる』


「あぁ、あれか」


 リルのおかげでフロアボスの位置を把握した藍大はモンスター図鑑を開いた。



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名前:なし 種族:ヨトゥン

性別:雌 Lv:75

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HP:1,500/1,500

MP:2,000/2,000

STR:1,500

VIT:1,500

DEX:1,500

AGI:1,000

INT:1,500

LUK:1,500

-----------------------------------------

称号:5階フロアボス

アビリティ:<格闘術マーシャルアーツ><氷結雨フリーズレイン><大波タイダルウェーブ

      <闘気鎧オーラアーマー><無音移動サイレントムーブ

      <隠密霧ハイドミスト><全半減ディバインオール

装備:ミストマント

   ミストグローブ

備考:警戒

-----------------------------------------



 (霧に隠れて戦うのが得意か。かくれんぼならリルの得意分野だぞ)


 ヨトゥンは自分の位置が一発でバレたことに警戒していた。


 リルがいる以上ヨトゥンにかくれんぼで勝ち目はないのだが、ヨトゥンはそれを知らない。


 最初から勝ち目がないとわかっているよりも、それを知らずに倒された方が幸せなのかもしれない。


『僕とかくれんぼに挑むなんて100年早いよ』


 リルはヨトゥンに狙いを定めて<風精霊砲シルフキャノン>を放った。


「馬鹿な!?」


 それがヨトゥンの最後の言葉だった。


 そう言った時には既にリルの攻撃を受けていたからだ。


 ヨトゥンが力尽きたことにより、ボス部屋を覆っていた霧が消える。


『ご主人、倒したよ』


「よしよし。リルにかくれんぼで勝てる奴はこの世にいないもんな」


「クゥ~ン♪」


 藍大に撫でられてリルはもっと撫でてと甘える。


 リルが満足してからヨトゥンの解体を済ませ、魔石を与えるべくエルの<超級鎧化エクストラアーマーアウト>を解除させる。


「エル、この魔石をあげる」


『ボスに感謝を』


 エルが魔石を取り込んだことでその体の輝きが洗練されたものになる。


『エルのアビリティ:<全半減ディバインオール>がアビリティ:<全激減デシメーションオール>に上書きされました』


「エルの守りが堅くなったな」


『もっとボスが安全になりました』


「確かに」


 エルがダメージを負わなくなれば、エルに<超級鎧化エクストラアーマーアウト>を使ってもらう藍大もダメージを受ける可能性が減る。


 これはエルだけでなく他のメンバーにとっても嬉しいことだった。


 エルの強化をしている間にリルはヨトゥンの装備を調べていたらしく、藍大にその結果を報告する。


『ご主人、ヨトゥンのマントもグローブも面白い効果があったよ』


「教えてくれ」


『うん!』


 リルの報告ではミストマントに霧の中に限定して迷彩効果があり、ミストグローブはMPを消費することで霧を発生させられる効果があった。


 両方装備することで霧の中で優位に動ける代物だと言えよう。


『それでも僕の目は誤魔化せないけどね』


「リルは探し物の天才だもんな」


『ワッフン♪』


 得意気なリルを撫でた後、藍大はエルに<超級鎧化エクストラアーマーアウト>を使ってもらってから6階へと向かった。

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