第548話 リルが北欧神話の神々に愛されてる件について

 6階になった途端、ダンジョン内が暗くなった。


『どうやら6階はずっと僕のターンだね』


 リルが嬉しそうに言ったのはこのフロアの雑魚モブがデーモンジェネラルだったからだ。


「リル先生、いつものお願いします」


「アォォォォォン!」


 <神狼魂フェンリルソウル>を受けて藍大達に向かって飛んで来たデーモンジェネラルの集団は一気に地面に墜落した。


 デーモン系モンスターにとって四聖獣は天敵だから、リルの攻撃で瀕死の状態まで追い詰められれば後はとどめを刺すだけの簡単なお仕事をするだけだ。


『ワフン♪ まだまだこの後も頑張るよ!』


「リル君には負けない」


「主、<運命支配フェイトイズマイン>の制限解除して良い?」


 気づけば競争する雰囲気になり始め、サクラに至ってはダンジョンを破壊しかねないから藍大が待ったをかける。


「競争は止めとこう。デーモンジェネラルはLv80でこれが大安売りのフロアだ。明るさも急に暗くなったことだし慎重に進もう」


「「『は~い』」」


 舞達は藍大の言い分を聞いて素直に頷いた。


 競いたい気持ちはあっても藍大の指示の方が優先されるのだ。


 デーモンジェネラルの死体を回収して探索を再開したところで、リルがピタッと止まる。


「リル、何かあるのか?」


『ここから先は罠だらけだよ』


 リルがそう告げた直後、前方の両側の壁から無数の棘が飛び出した。


 視界が暗ければ手で壁に触れながら進む者が多く、その行動を利用した罠である。


 一般冒険者ならば見事にその罠に引っかかる者が続出するだろう。


「真ん中を進むと良いんだな?」


『急いで進まないと火柱が出るみたい』


 それが予言のように通路の中央の床から火柱が飛び出す。


 その間は両サイドの棘が元に戻るため、両側から急いで抜けるしかない。


 藍大達はリルに教えてもらったタイミングで罠を突破した。


 危なげなく罠を突破した藍大達を待ち受けるようにデスサイズを肩に担ぐデーモンの姿があった。


「デーモンリーパーLv80。見ての通りデスサイズでの攻撃を得意とする雑魚モブだ」


「狩るのは私達の方だぁぁぁ!」


 舞が雷光を纏わせたミョルニルを投擲したところ、デーモンリーパーはそれを受け止め切れずにHPが尽きた。


「舞に先を越された」


「ドヤァ」


 サクラが悔しそうなのを見て舞はドヤ顔で応じる。


 デーモンリーパーの戦利品を回収したタイミングでデーモンリーパーの集団がその場にやってくる。


「次こそわたしがやる」


 サクラは宣言して深淵の弾丸を連射し、デーモンリーパーの翼に穴を開けて次々に撃墜していく。


 倒したデーモンリーパーは<幾千透腕サウザンズアームズ>で回収するアフターフォローも忘れない。


 もしも藍大達以外のパーティーが今までの戦闘の様子を見ていたとしたら、間違いなく次元の違いを感じるだろう。


 罠を見極めつつ先に進み、途中で現れる雑魚モブモンスターの集団を何度か倒していくと長杖を持つデーモンが仁王立ちして待ち構えていた。


 そして、藍大達を視界に捉えた瞬間に<暗黒波ダークネスウェーブ>で先制攻撃を仕掛ける。


「やらせねえ!」


 舞が光のドームでデーモンの攻撃から藍大達を守った。


「デーモンネクロマンサーLv85。”掃除屋”だ」


「忌々しい光だ。甦れ、我が下僕達よ!」


 デーモンネクロマンサーが杖を掲げると、魂の渦がダンジョンの天井から降り注いでデーモンジェネラルゾンビとデーモンリーパーゾンビの軍団が形成される。


「ハッハッハ! どうだ! これが我が軍団だ! 恐怖の余り声も出ないだろう!」


 このデーモンネクロマンサーは一体何を言っているんだろうか。


 無知な敵に藍大達は哀れみを込めた視線を向ける。


「なんだその目は! 我が軍団に恐怖を感じないと言うのか!?」


「リル、やっちゃって」


「アォォォォォン!」


 舞がドームを解除した直後にリルが<神狼魂フェンリルソウル>を発動する。


 それにより、ゾンビ軍団は一瞬にして昇天させられてデーモンネクロマンサーも急激に力を失ってしまう。


『バイバイ』


 <神裂狼爪ラグナロク>で真っ二つにされてデーモンネクロマンサーは力尽きた。


「舞もリルもお疲れ様」


「自分が強いと勘違いしててかわいそうな敵だったね」


『ネクロマンサーを名乗るならマルオぐらいにならなきゃ駄目だよね』


 舞とリルの死体蹴りとも呼べる口撃に藍大は苦笑する。


 デーモンネクロマンサーの解体を済ませれば、魔石はリルに与えられた。


 その結果、リルから感じられる力が強まった。


『リルのアビリティ:<蒼雷審判ジャッジメント>がアビリティ:<雷神審判ジャッジオブトール>に上書きされました』


 (リルが北欧神話の神々に愛されてる件について)


 <知略神祝ブレスオブロキ>に続いて<雷神審判ジャッジオブトール>も会得したとなれば、藍大がそのように思うのも当然だろう。


 そんなことを考えているとリルが褒めてほしそうな目で自分を見るから、藍大はリルの頭を優しく撫でる。


「リルは神様に愛されてるな。今度はトールだなんて」


『これは舞が影響してる気がするよ』


「私?」


 舞が首を傾げるけれど、藍大はリルの考えに納得した。


 ミョルニルを手に入れた舞がトールに興味を持たれた結果、トールが舞と仲の良いリルに高火力の雷系アビリティを上書きさせる形で与えたというのが藍大とリルの考えだ。


 北欧神話においてトールは大食漢と知られているため、舞と同様に食いしん坊なリルの食べっぷりをトールが気に入った可能性は高い。


 いずれロキやトールが夢に現れたらリルに力を貸してくれる理由を聞いてみることにして、藍大達はボス部屋へと進む。


 ボス部屋の中に玉座があり、悪魔の翼を生やした金髪ビキニアーマーの司が座っていた。


「あら? 良い男の匂いがするわね」


「こいつは主に近づけちゃ駄目」


 サクラが警戒する敵に着いて調べるために藍大はモンスター図鑑を開いた。



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名前:なし 種族:パイモン

性別:雄 Lv:90

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HP:2,000/2,000

MP:2,000/2,000

STR:2,400

VIT:1,800

DEX:2,500

AGI:2,500

INT:2,000

LUK:2,500

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称号:6階フロアボス

アビリティ:<槍術スピアアーツ><格闘術マーシャルアーツ><麻痺霧パラライズミスト

      <闘気鎧オーラアーマー><敵意押付ヘイトフォース

      <魅了舞踊チャームダンス><全半減ディバインオール

装備:チャームビキニアーマー

   フリージングスピア

備考:興味

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 (やだー、闇落ち開拓者じゃないですかー)


 藍大がパイモンのステータスで真っ先にチェックしたのは性別だった。


 それが雄なのであれば、パイモンが司よりも質の悪い開拓者であるのは間違いない。


「ねーねー、鎧なんて着てないでアタシとイイことしよ~」


「絶対に許さない!」


 サクラはパイモンを<幾千透腕サウザンズアームズ>で拘束する。


「えっ、何これ? 全然動けない!」


「主はストレートなの!」


 サクラは<運命支配フェイトイズマイン>でエネルギーを収束してレーザービームを放つ。


 それがパイモンの頭に直撃して消滅させると同時にそのHPを0まで削り取り、その場に残ったのはパイモンの胴体だけだった。


 戦闘が終わるとサクラは藍大に謝る。


「主、ごめんなさい。勝手に<運命支配フェイトイズマイン>を使っちゃった」


「あれはしょうがない。みんな、パイモンの外見を司に教えちゃ駄目だぞ」


「うん」


「了解」


『わかった』


 パイモンの存在を司が知れば、きっとショックで寝込んでしまうと思ったので藍大は舞達にパイモンの外見を司に教えないように注意した。


 掲示板に晒されてしまうのも困るので、藍大は八王子ダンジョンの”ダンジョンマスター”を倒したら6階のボスを必ず変えることに決めた。


 パイモンから取り出した魔石はサクラに渡され、それを飲み込んだサクラから感じられる色気が増した。


『サクラのアビリティ:<魅了眼チャームアイ>がアビリティ:<催眠眼ヒプノシスアイ>に上書きされました』


「サクラ、<催眠眼ヒプノシスアイ>は使いどころに注意しような」


「は~い」


 またしても危険なアビリティを会得したサクラに対し、藍大ができるのは使用制限ぐらいだ。


 サクラが素直に応じてくれて藍大はホッとした。


 もう1階探索するには厳しい時間だったので、藍大達はダンジョンを脱出して茂に報告と買い取りをしてもらった後帰宅した。


 舞とリルのリクエストに応じ、今日の昼食は焼肉パーティーだったと記しておこう。

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