第546話 これが強者同士の会話
翌日、藍大はメンバーを変えて八王子ダンジョンの4階にやって来た。
仲良しトリオの代わりにパーティーに加わったのは舞とサクラ、エルである。
ゲンとエルが揃えば、藍大はパワードスーツを着た戦う魔王様フォームだ。
最近では魔王様フォームになる機会が少なかったので、藍大も久し振りに変身したくなったようだ。
舞がリルの背に乗ることで藍大達の機動力が極めて高くなり、藍大達の移動速度は昨日の比ではない。
従来の4階にはインプ派生種が現れていたのだが、ダンジョンが変わってしまった今はトロールが出現するフロアになってしまった。
「トロールってダンジョンによっては”掃除屋”じゃなかった?」
「私もそうだったと思うよ~」
「何が敵でも倒せば良いの」
「それもそっか。倒しちゃえば一緒だよね」
(これが強者同士の会話)
”掃除屋”のトロールに悩まされた冒険者もいたため、もしも八王子ダンジョンの4階でトロールが
とりあえず、通路の奥からのっそのっそと前進するとトロール達を見て藍大は攻撃を始める。
エルの力を借りて<
トロールの素材は主に薬品に使われるため、余すところなく全て回収した。
藍大達の場合、持って帰れば奈美が薬にするだろうからだ。
シャングリラダンジョンにはトロールが出てこないので、トロールの素材は奈美に喜ばれるだろう。
「藍大、一撃だよ!」
「主はやっぱり強い」
『ご主人だもん』
「ありがとう。ってこれはエルの力だけどな」
エルの力も従魔士としてテイムしてこそのものだから、舞達に褒められて藍大も悪い気はしないらしい。
トロール達の死体を回収して進もうとした時、通路の奥から後続のトロールの集団が現れる。
「リル、風になろうぜぇ!」
『うん!』
次に戦うのは自分達だという意思を示し、舞はリルに乗ったままトロール達を殴り倒して回った。
リルの素早さで振るわれるのが舞の力とは相手にとって悪夢でしかない。
「この組み合わせって強いよなぁ」
「騎士らしい騎乗戦闘をしてるはずなのに蛮族に見える」
「ぶっ飛べオラァ!」
騎乗戦闘と言えば騎士らしく思うかもしれないが、トロール達を殴って回る舞はどう見ても蛮族だ。
剣を使わず盾を投げる時点で正統派の騎士ではないが、それは気にしたら負けだろう。
後続のトロール達も倒れれば今度こそ後から来るトロールはおらず、藍大達は戦利品回収に移った。
それが終わって先を急ぐ藍大達の前に待ち構えているのはオーガの群れだ。
「ここはトロールのフロアじゃないの?」
「サクラちゃんがさっき言ってたじゃん。倒しちゃえば一緒」
「今度は私の番」
サクラはオーガの群れを<
体の大きいオーガではサクラの攻撃を避け切れずに次々と倒れていった。
トロールの時のように後続が現れることはなく、藍大達は戦利品をテキパキと回収する。
「4階は亜人型モンスターのフロアって考えるか」
「次に現れたモンスターが亜人型だったらそうなるよね~」
「1階がスケルトン、2階がリザードマン、3階がゴーレム。4階はトロールとオーガ。共通点はなんだろう?」
『”ダンジョンマスター”が二足歩行のモンスターしか出ないダンジョンに改築したんだよ』
「「「それだ」」」
リルの意見を聞いて藍大と舞、サクラの声が重なる。
アンデッド型や無機型も混じるラインナップだが、リルの意見ならば全て網羅できる縛りになっている。
スッキリしたところで先を急ぐと、藍大達を邪魔するように立ちはだかる存在がいた。
「ミノタウロスLv55。シャングリラじゃ地下2階の”掃除屋”がここじゃ4階の掃除屋か」
「出世したね~」
「結局倒されるんだから無駄でしょ」
『お肉だ~!』
リルが<
食べられるモンスターが現れたのでリルはご機嫌である。
『ご主人、やっと食べられるモンスターが出たね!』
「よしよし。今日の昼はミノタウロスも使った料理にしような」
『うん!』
「ミノタウロス1体を切り分けて焼肉パーティーが良い!」
『それ賛成!』
舞とリルの期待する目に藍大が逆らえるはずもなく、今日の昼食はミノタウロスの焼肉に決まった。
ミノタウロスを回収して先に進もうとした時、リルが壁際に近寄ってから振り返る。
『ご主人、この先に隠し通路があるよ』
「舞、頼んで良い?」
「は~い。ぶっ壊す!」
見事なモードチェンジを披露した舞がミョルニルで壁を殴った結果、壁が崩れて通路が露わになった。
ダンジョンの壁を壊す侵入者がやって来たとわかれば、八王子ダンジョンの”ダンジョンマスター”は声にならない悲鳴を上げていることだろう。
もっとも、いくら悲鳴を上げようと藍大達には聞こえないし、仮に聞こえたとしても藍大達が探索スタイルを変えるはずもないのだが。
隠し通路を進むと小部屋があり、その中心には宝箱が設置されていた。
『ミミックじゃなくて宝箱だよ』
「そうらしいな」
リルが鑑定するのと同時に藍大もモンスター図鑑で確認しているため、宝箱は見た目通り宝箱であることが証明された。
「主、今日は植物の種? それとも調理器具?」
「今日は調理器具が良いな。テレビでやってたチーズグレーターが欲しい」
「了解。昨日一緒に見てた番組の物だとロータリータイプだよね?」
「それそれ」
ロータリータイプのチーズグレーターとはシーザーサラダにチーズをかける時、グルグルとハンドルを回してブロック状のチーズを卸すものだ。
サクラが藍大と認識を一致させてから宝箱を開けば、その中にはお馴染みの光沢を放つロータリータイプのチーズグレーターが入っている。
『やったね! ミスリルチーズグレーターだよ!』
「サクラは百発百中だな。ありがとう」
「どういたしまして」
「これで本格的なシーザーサラダが食べられるね~」
『トロリサーモンのチーズを卸したら美味しそう』
舞とリルは遠回りに昼食のメニューとしてトロリサーモンのチーズを卸したシーザーサラダをリクエストしている。
藍大も意地悪ではないのでそれぐらいお安い御用だろう。
「ストレートに食べたいって言って良いんだからな? 食べたそうだから作るけど」
「『食べたい!』」
「よろしい」
昼食のメニューが一品追加されたところで、藍大達は隠し部屋を出てボス部屋へと進む。
ボス部屋の中で待機していたのは上裸の狼男だった。
「ワーウルフLv60。肉弾戦が得意だ」
「食べられないモンスターだね」
『がっかりモンスターだよ』
「俺を見てがっかりとはなんだ!」
ワーウルフは舞とリルの反応にキレた。
ようやく自分の出番が来たと思いきや、敵にやる気が感じられなければワーウルフだってキレたくもなる。
「悪かったなワーウルフ。代わりに俺が戦おう」
「なんだお前。すっとろいした見た目の癖に俺に勝てると思ってんのか?」
「問題ない」
藍大は<
突然周りの空気がなくなって水の牢獄にぶち込まれてしまえば、ワーウルフには藻掻くことしかできない。
『ご主人、こいつは僕を怒らせた。とどめは僕にやらせて』
「待ってよリル君。私だって怒ってるんだから」
「主を侮辱するなんて万死に値する」
「もう終わるからバトンタッチはしないよ」
怒れるリル達にそう言って藍大は<
ワーウルフは体の芯まで氷漬けにされてHPが尽きたのである。
アビリティを解除すれば、青白く冷え切ったワーウルフの死体だけがその場に残る。
(茂ならワーウルフの冷凍標本を買い取ってくれるだろうか?)
外傷のないモンスターの死体は貴重だ。
それもレベルが高ければ高い程その価値は高くなる。
加えて言うならば、ワーウルフは
武器や防具の素材にもなるモンスターだ。
このまま冷凍標本にするのか素材にするかはわからないが、藍大は茂に買い取ってもらうことにした。
「藍大お疲れ~」
「主、お疲れ様」
『ご主人、お疲れ様』
「ありがとう」
ワーウルフの死体を回収すればこれ以上4階に用はないので、藍大達は5階に続く階段を上った。
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