第545話 私は不可能を可能にする女なの

 八王子ダンジョンの3階も内装は変わらない。


 元々はゴースト系モンスターが現れることで知られていたが、藍大達の前に現れたのはストーンゴーレムLv35の集団だった。


「爆裂なんだからねっ」


 ゴルゴンは嬉々として<爆轟眼デトネアイ>を発動してストーンゴーレムの集団を粉砕する。


「スカッとしたのよっ」


 石の破片になり果てたストーンゴーレム達を見てゴルゴンはすっかりドヤ顔である。


「ゴルゴン、お疲れ様。でも、レアな素材で構成されたゴーレムだったら勝手に爆発するなよ?」


「わかったのよっ」


 ゴーレムを構成する物質がレアな素材になら高く売れる可能性が高い。


 なんでもかんでも爆破してしまうと折角の素材が駄目になってしまうため、ゴルゴンは藍大の注意に頷く。


 戦利品回収を済ませて通路の先へと進むと、金属質なゴーレムが藍大達の行く手を阻む。


「アイアンゴーレムLv35。ストーンゴーレムよりも硬いけど、俺達の敵じゃない」


「次は私の番なのです!」


 メロは<植物支配プラントイズマイン>で硬い植物の種を射出してアイアンゴーレムの頭部を撃ち抜く。


「相変わらずメロの狙いは正確だな」


「狙った獲物は逃がさないです」


 メロはそう言いながら藍大に抱き着く。


 暗に藍大も自分のターゲットだとアピールしているらしい。


「抜け駆けは駄目なんだからねっ」


『(*´罒`*)セヤデ』


 メロだけ美味しい思いをさせてなるものかとゴルゴンとゼルも藍大に左右から抱き着いた。


 仲良しトリオが甘えていると、通路の奥からアイアンゴーレムの集団が軍隊のように規則正しいリズムでやって来る。


『ジャマスルナー( っ・∀・)≡⊃ ゚∀゚)・∵.』


 ゼルが<創氷武装アイスアームズ>で巨大な氷の刃を創り出し、それで進軍するアイアンゴーレムの集団をまとめて真っ二つにする。


『(´-∀-)=3ツマラヌモノヲキッタナ』


 ゼルはやれやれと言わんばかりの顔文字でアピールしてから再び藍大に抱き着いた。


 3階でもまだまだ藍大達が全力で戦わねばならない相手はいない。


 戦利品を回収して先に進むと、今までに現れた2種類のゴーレムとは違って銀色のゴーレムが現れた。


 その手には銀色の両手斧が握られている。


「シルバーゴーレムLv40。”掃除屋”だな。リル、手に持ってる銀の斧は壊さないでくれ」


『任せて!』


 藍大とリルが話している隙に力を溜めていたのか、シルバーゴーレムは銀の斧を山なりに投擲した。


 そして、藍大達がそれに目を奪われるだろうと考えて<怪力突撃パワーブリッツ>を発動する。


『無駄だよ』


 リルは<仙術ウィザードリィ>で銀の斧を回収した後、<蒼雷審判ジャッジメント>でシルバーゴーレムを倒した。


 ミスディレクションをしようにも、シルバーゴーレムのAGIではリルに通じるはずがない。


『勝ったよご主人!』


「よしよし。愛い奴め」


「クゥ~ン♪」


 これを待っていたんだとリルは藍大に撫でてもらって喜んだ。


「マスター、銀の斧には何か効果があるです?」


「いや、特に効果はない。金の斧も揃ったら地下神域の神社に美術品として奉納しようと思ったんだ」


「わかったのよっ。マスターはフロアボスがゴールドアックスを持ってると考えたのよっ」


「正解。多分、フロアボスはゴールドゴーレムだ。道場ダンジョンはフロアボスが”掃除屋”よりも少し強い程度だから、この予想は外れないと思うぞ」


 その予想は正しかった。


 ボス部屋に到着した藍大達を待ち受けていたのは金の斧を持ったゴールドゴーレムLv45だった。


「マスター、金の斧をゲットするわっ」


「頼むぞゴルゴン」


「ラジャーなのよっ」


 ゴルゴンは張り切って返事をしてから<幻影火炎ファントムフレイム>を発動する。


 ゴールドゴーレムは幻の炎に惑わされて倒すべき藍大達をその炎と騙されたまま金の斧を投げる。


 シルバーゴーレムと違ってゴールドゴーレムは全力で真っ直ぐ斧を投擲した。


 (ゴーレム界じゃ斧を投げるのがブームなのか?)


 斧は重さを利用して切るか平らな面で殴る使い方をするものだと思っていたが、どちらのゴーレムも斧をすぐに投げてしまうから藍大はそんな感想を抱いた。


 体の大きなゴーレムならば、そのサイズを活かした振り下ろしや振り払いは脅威になり得るにもかかわらず、使い捨ての道具のように斧を投げるのだからそう思うのも無理もない。


『金の斧回収!』


「それなら用済みなんだからねっ」


 リルが<仙術ウィザードリィ>で金の斧を回収したのを見て、ゴルゴンはゴールドゴーレムに<緋炎支配クリムゾンイズマイン>で緋炎の蛇を創り出す。


 その蛇がゴールドゴーレムを丸吞みにしてしばらくすれば、HPが尽きてゴールドゴーレムは金のオブジェに変わる。


「ゴルゴン、よくやった」


「ゴーレムなんてチョロいのよっ」


 そう言ってのけるゴルゴンもチョロかったりする。


 ステータスの面でチョロいのではなく、釣られやすいという意味でチョロいのだ。


 それはさておき、4階まで行くと食いしん坊ズがお腹を空かせてしまうので藍大達は八王子ダンジョンを脱出した。


 茂の部屋に直行して売るべきモンスター素材を取り出して茂に見せる。


「これが今日の成果物だ」


「確かに受け取った。出現するモンスターは大きく変わってるが、シャングリラダンジョンみたいなレアモンスターが出現した訳じゃないみたいだな」


「そうらしい。それと、2階でちょっと面白い物を見つけた」


 藍大が取り出したリドリザを見て茂の顔が引き攣る。


「何これ?」


「リドリザ(仮)だ。この絵が2階のボス部屋を隠してたから取り外して持って帰って来た」


「美術品としての価値しかなさそうだけど、なんでこんな物があるのか興味深くもある。調べてみるわ」


「頼む」


 報告を終えた藍大達は帰宅し、宝箱をサクラに渡した。


「サクラ先生、今日も出番です」


「やっと私のターン。今日は何が欲しい?」


「できることなら美味しい植物の種が良いな。偶には調理器具以外の物も欲しいからさ。できる?」


「私は不可能を可能にする女なの」


 サクラがそう言いながら宝箱を開けると、その中には植物の種が入っていた。


『ご主人、神梨しんりの種だって!』


「流石はサクラ。これで梨を使ったデザートも作れるぞ」


「えっへん」


『梨のデザート! メロ、美味しい梨を育ててね!』


「任せるです!」


 神梨の種はメロに預けられた。


 種を植えるついでに藍大達が地下神域に移動すると、伊邪那美と伊邪那岐が出迎えた。


「奉納に来たんじゃな?」


「待ってたよ」


「俺の行動がばっちり読まれてるじゃん」


「加護を与えたからじゃよ」


「加護のおかげだね」


「プライバシーって知ってる?」


「藍大にないものじゃろ?」


「藍大にないものだよね?」


 この回答には藍大がジト目になるのも無理もない。


『ご主人、僕をモフモフして元気出して』


「ありがとう」


 リルがここぞとばかりに自分をモフってもらうチャンスとアピールするので、藍大はありがたくリルをモフらせてもらった。


 リルをモフって気持ちを切り替えた後、藍大は伊邪那美達に金の斧と銀の斧を渡した。


「この2つの斧をあげる。いつも食事を奉納して食べちゃうだろ? 偶には残る物を奉納しようと思って」


「確かにそうじゃな。藍大の料理はおいしいのでうっかり食べてしまうからこういった物があっても良かろうて。ありがたくいただくのじゃ」


「中に何も奉納されてない神社って寂しいからね。ありがとう」


「どういたしまして」


『逢魔藍大が神社に美術品を奉納しました』


『初回特典として伊邪那岐の力が50%まで回復しました』


『報酬として逢魔藍大の収納リュックに神甘藍しんかんらんの種が贈られました』


 藍大は収納リュックから種を取り出してメロに渡す。


「メロ、これの世話も頼む」


「こ、これはキャベツの種です! 任せるです!」


 神甘藍の種を貰ったメロは喜びのままに神梨の種と併せて早速種を埋め始めた。


 その一方で伊邪那岐もニコニコしている。


「伊邪那岐よ、ご機嫌じゃな?」


「ついこの間まで体の構成ができない程弱ってたのに、もう力の半分まで取り戻せたことが嬉しくてね」


「これが藍大クオリティなのじゃ」


 伊邪那美がドヤ顔して仁王立ちする。


 その隣でゴルゴンとゼルも伊邪那美の真似をしているがツッコミは不在である。


『ご主人、お腹空いて来た』


「そうだな。今日は神米のおにぎりだ」


『おにぎり! 僕も握る!』


「妾もやってみるのじゃ」


 この後、逢魔家はおにぎりパーティーを楽しんだ。

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