第544話 突撃! 八王子ダンジョンなのよっ!

 翌日、藍大はリルと仲良しトリオ、ゲンを連れて八王子ダンジョンにやって来た。


 八王子ダンジョンはDMU本部内にある日本初のダンジョンだ。


 普段は出張する予定のないDMUの探索班が探索しているのだが、昨日探索した者達は八王子ダンジョンが大きく変化したと報告してDMU内が騒がしくなった。


 今まで一度も内装や出現するモンスターが変わらないおとなしいダンジョンだったにもかかわらず、昨日は何もかもが違った。


 エイプリルフールではないかと疑う者もいたけれど、それならどうして昨日までに過ぎたエイプリルフールでは何も変化がなかったのかという反論で口を閉じた。


 職人班は三原色クランを上回る成果を叩き出しているが、探索班は日本のトップ10クランには入れるかギリギリの実力しかない。


 非常事態が起きた時に探索班を無駄に失いたくはないので、志保が最初から藍大の力を借りることを決断してそれを茂が藍大に頼んだ。


 以上の経緯があったため、藍大達はシャングリラダンジョンではなく八王子ダンジョンに来ている。


「突撃! 八王子ダンジョンなのよっ!」


『・ω・*)ノHello!』


「ゴルゴンもゼルもはしゃぎ過ぎて転んじゃ駄目ですよ」


 3人共一児の母なのだが、相変わらずゴルゴンとゼルは子供のようにはしゃいでいる。


 注意するメロも久し振りに藍大とダンジョン探索に来れてソワソワしていたりする。


「うーん、話に聞いてた八王子ダンジョンと確かに違うな」


『元々はどんなダンジョンだったのご主人?』


「茂の話によれば、元々はオーソドックスな迷宮の内装だったらしい」


『そうなんだ~。今はお城みたいだから全然想像つかないや』


 リルの言う通り、昨日から八王子ダンジョンは内装が西洋の城のようになっている。


 何故そうなっているのかはこのダンジョンの”ダンジョンマスター”に訊かなければわからない。


 実際、DMUの管理職会議では仮説を立てることができてもそれを証明できないのだから。


「1階じゃコボルド派生種しか出ないって話だったけど」


『ご主人、スケルトン派生種しかいないよ?』


「だよなぁ」


 藍大達の視界に映る敵はコボルドではなく各種スケルトン軍団だった。


「マスター、燃やしても良いのよねっ?」


「良いぞ」


「消し飛べば良いのよっ」


 ゴルゴンがノリノリで<爆轟眼デトネアイ>を発動すれば、前方にいる各種スケルトン軍団は爆発によって吹き飛ばされる。


 低レベルなスケルトンしかいなかったらしく、あっけなく最初の戦闘が終わってしまった。


「アタシ無双が始まるんだからねっ」


「待つです! 私だって戦うです!」


『オラオラオラァ(≡o・x・)σσσσ))´Д`*))』


 調子に乗るゴルゴンに対してメロもゼルも自分だって戦うんだと抗議する。


「不公平にならないように強敵以外は順番だぞ」


「わ、わかってるのよっ」


「フフン、マスターに注意されてるです」


『(o´艸`)プププ』


 仲良しトリオがじゃれているが、この後1階で現れる雑魚モブモンスターは交代で倒した。


 10回もスケルトン派生種を倒し続ければ、侵入者を排除しようと”掃除屋”が現れる。


『レッドスケルトンだね』


「そうだな。Lv10じゃ大したことないわ」


「次は私の番です。狙い撃つです」


 メロは<植物支配プラントイズマイン>で植物の種をレッドスケルトン目掛けて発射し、その頭蓋骨を砕いてみせた。


「流石はメロ。一発で終わったな」


「当然なのです。これぐらいワンショットで倒すのが作法です」


 メロは藍大に褒められてドヤ顔を披露した。


 1階のボス部屋ではブラックスケルトンLv15が現れたが、ゼルが<暗黒支配ダークネスイズマイン>で暗黒の弾丸を創り出してヘッドショットを決めた。


「ゼルが真似っ子するです」


『(・ω≦) テヘペロ』


「顔文字のチョイスが古いです」


『ΣΣヽ(・Д´・゚+。)ナン・・・ダト・・・』


 メロの指摘にゼルが衝撃を受けたことをアピールする。


「ほらほら、回収したら上の階に行くぞ」


「はいです」


『ヾ(・▽<)ノOK!』


 藍大はじゃれるメロとゼルの頭を撫でて2階へ進んだ。


 2階も内装は1階と同様に西洋風の城のままだ。


「元々は爬虫類型モンスターが出て来たらしいけど、昨日から各種リザードマンが出て来るんだってさ。探索班は昨日2階をサラッと確認しただけみたいだから、ここから先の情報はない」


『早速お出ましみたいだよ』


 リルが気づいた後、確かに通路の奥から槍や斧、杖を持った各種リザードマンが現れた。


「次はリルの番だ」


『任せて』


 リルは<風精霊砲シルフキャノン>でリザードマンの集団を一掃した。


 Lv20程度を倒したところで達成感はないようだが、リルが仕事をしたのは間違いないので藍大はその頭を撫でた。


「リルなら楽勝か」


『ワッフン♪』


 リルはドヤ顔で応じた。


 その後、通路を進んで行く途中で何度かリザードマンの集団とぶつかったけれど、藍大達にかかればどの戦闘も一撃で決まる。


 そろそろボス部屋が見えて来る頃合いだと思った時、棘付きメイスを握ったリザードマンが単体で現れた。


「リザードマンバーサーカーLv25。暴れるだけの”掃除屋”だな」


「アタシのターンだわっ」


 ゴルゴンは<緋炎支配クリムゾンイズマイン>で緋色の炎弾を創り出し、それをリザードマンバーサーカーに撃った。


 その攻撃がリザードマンバーサーカーでは躱せる速さではなかったため、首を撃ち抜かれて倒れた。


「バーサーカーを名乗るなら舞みたいなヒャッハーが足りないのよっ」


「ゴルゴン、そんなこと言って良いですか? 後で舞にハグされるですよ?」


「メロ、アタシ達友達よねっ? 黙っててくれるのよねっ?」


「どうしようか悩むです」


『イクラw(\v\)wクレル???』


 メロが悪戯っぽい笑みを浮かべればゼルがそれに悪ノリする。


 ゴルゴンは2人が自分を売る気だと確信した。


「こうなったら道連れなんだからねっ。メロとゼルもハグしてほしいみたいって言ってやるわっ」


「嘘は良くないです!」


『(;n;)カンガエナオシテヨ』


 そろそろ止めた方が良いだろうと藍大が割って入る。


「はい、そこまで。舞をお仕置き扱いしちゃ駄目だぞ」


「悪かったのよ」


「ごめんなさいです」


『m(__)m』


「わかればよろしい」


 藍大が素直に謝った仲良しトリオの頭を順番に撫でていると、リルが何かを見つけたらしく藍大に声をかける。


『ご主人、ちょっと来て』


「隠し部屋?」


『そうだと思うよ』


 リルに連れられて壁側に移動すると絵画が額に入れられて飾られていた。


「なんだこの絵? モ〇リザならぬリドリザ?」


「リザードマンの雌が微笑んでる絵なんて誰得です?」


「もっと他に描く対象があると思うのよっ」


『ヤレヤレ ┐(´ー`)┌ センスナイネ』


 飾られている絵は世界的に有名な女性の絵の構図そっくりだが、女性がリザードマンの雌に置き換えられていた。


 仲良しトリオの言う通り趣味が良いとは言えまい。


『ご主人、この額縁外せると思うよ』


「マジ? 持ち帰って茂に渡してみるか。どんな顔するか見たい」


『わかった。ちょっと待っててね』


 リルは<仙術ウィザードリィ>でリドリザ(仮)を取り外して収納リュックに格納した。


 すると、額縁にボタンが隠されていた。


「押してみるのよっ」


 ゴルゴンが止める前にボタンを押してしまい、ボタンを押すことで壁が地面にスライドして隠し通路が現れた。


「ゴルゴン、勝手なことしちゃ駄目です。ゼルだって押すのを我慢してたですよ」


『(σ゚∀゚)σそれな』


「ああいうのを押したくなるのが探偵の性分なのよっ」


 (探偵じゃないだろとツッコむにはゴルゴンの推理が当たる時あるからなぁ)


 ゴルゴンの言い分を聞いて藍大は苦笑するが、それでも注意しない訳にはいかない。


「ゴルゴン、もしも危険な罠の作動するスイッチだったらどうするんだ?」


「ごめんなさいなのよ。次はリルが鑑定してから押すわっ」


 謝っているけどボタンを押すのは譲れないらしい。


 仕方のない奴めとゴルゴンの頭をグリグリした後、藍大達はその通路を進んだ。


 通路の先にあったのは部屋であり、そこにはリザードマンソードダンサーLv30がいた。


 メロが<魔刃弩マジックバリスタ>で瞬殺した結果、宝箱だけでなく階段も現れた。


 それゆえ、この部屋が隠し部屋タイプのボス部屋であることが発覚した。


 時間にまだまだ余裕があるため、藍大達はフロアボスの死体と宝箱を回収して3階に上がった。

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