第540話 戦いは数だよ蛇さん!
翌日、山口県萩市の見島にあるダンジョンにゲテキングの姿があった。
「いやぁ、豊作だったねディアンヌ」
「豊作豊作」
豊作というのは見島ダンジョンで手に入れたモンスター食材のことに他ならない。
見島は魔熱病から復帰した冒険者達の間引きの優先度が低かったことから、中国地方のダンジョンを管轄する”ブルースカイ”の理人がテイマー系冒険者の伝手でゲテキングに一時的に間引きを頼んだ。
本拠地の八ヶ岳から見島に足を運んでもらうため、理人は見島ダンジョンの雑食に該当するモンスターの情報を流したところ、ゲテキングはその申し出を快諾した。
今は見島ダンジョンでの間引きを終えた帰りである。
目を付けていた海辺で早速雑食料理を楽しもうとしていたその時、<
「キィ!」
「カムカム? どうかした?」
「キィ!」
「カムカムが海から何か来るって言ってる」
「え?」
ディアンヌがカムカムの通訳をした直後、海から青緑色の鱗を持つ大蛇が現れた。
「こいつ、モンスター」
「天が食せと言うなら食べるしかないね!」
「周囲の人間を食い尽くしてやって来た私を食すと申すか? 不敬であるぞ小童」
大蛇が喋るとゲテキングはディアンヌにひそひそと話しかける。
「ディアンヌ、人語を喋る蛇だよ。美味しそうじゃない?」
「あれは人食べた。美味しくないかも」
「美味しいか不味いかは倒して食べればわかるさ」
「・・・わかった。まずは倒す」
ゲテキングが食べる気満々になっている以上、ディアンヌは今のゲテキングを止められないと判断して腹を括る。
ゲテキングを背中に乗せれば、ディアンヌは大蛇が猛毒の針を吐き出しても難なく躱す。
「随分と危ない攻撃をするじゃないか」
「私を単なる蛇扱いするからだ。私はダンジョンの外に出てからここに来るまで数多くの人間を平らげて来た。貴様とそこのモンスターも私の餌にしてやる」
「よろしい。ならば互いの食事をかけて勝負しよう」
「生意気な奴め。丸呑みにしてくれる」
ゲテキングが対峙している大蛇の正体は”大災厄”のボティスであり、東南アジアの島国から海を渡って来た。
ダンジョンのあった国で見つけた冒険者全てを喰らい、強い反応を感じ取って日本まで来たのだ。
そんな事情なんてゲテキングはしらないから、ボティスを海外のスタンピードの生き残り程度にしか考えていない。
茂や藍大がこの事態に遭遇すれば、全力かつ早急にボティスを排除しようとするだろう。
「ディアンヌ、蛇の動きを防げる?」
「やってみる」
ディアンヌは<
「むっ、速いな」
ボティスはディアンヌの攻撃を避けることに専念した。
尻尾で叩き落すことも考えたが、麻痺効果のある網にわざわざ触れることもないと判断して避けるだけにしたのだ。
ゲテキングはボティスが回避に集中している間に新たな従魔を召喚する。
「【
召喚されたのはアダマンタイトの鎧に覆われた二足歩行の甲虫と呼ぶべき見た目の虫型モンスターだ。
ビーゼフはアダマスビートファイターという種族であり、近接戦闘が得意なパワー系従魔である。
「ビーゼフ、ディアンヌが追い詰めるから回り込んで攻撃するんだ!」
「ビッ!」
「数で勝負とは小癪な!」
「戦いは数だよ蛇さん!」
ディアンヌの<
「ぐぬぅ、おのれ!」
殴ったタイミングでは近くにいるはずなので、ボティスがビーゼフに<
しかし、ボティスはビーゼフにAGIで負けているので攻撃が当たらない。
「プークスクス、蛇さん攻撃当たらないんだ」
「私を愚弄するとは許せん! 貴様から殺してくれるわ!」
ボティスはゲテキングに煽られて進路をディアンヌに乗るゲテキングへと変えた。
それがゲテキングの仕掛けた罠だったとも知らずに。
「かかった」
ゲテキングがニヤリと笑みを浮かべると、カムカムが<
「何ぃぃぃ!?」
カムカムは遠距離攻撃の手段こそ持たないが、すばしっこくて力持ちだ。
カムカムに締め上げられたボティスは動けなくなり、ビーゼフがボティスの露出した部分を狙って<
「ぐぅ、おのれ!」
「口を開けられるのは不味いな。ディアンヌ、蛇さんの口を塞いじゃって」
「了解」
ディアンヌがボティスの口に向かって<
それに加えて麻痺の効果でボティスの動きが鈍くなる。
カムカムは拘束を解いて<
だが、ボティスは<
「よくもやってくれたな貴様等ぁぁぁ!」
網を嚙み千切ったボティスは完全に冷静さを失っていた。
周囲がどうなろうと関係ないと<
数撃てば当たるという発想は見島に迷惑しかかからない。
「カムカム守って!」
「キィ!」
カムカムは<
ドームは3つとも壊されてしまったけれど、地形が変わるような事態には陥らずに済んだ。
「や~い、下手くそ! 射撃センスゼ~ロ~♪」
「シャアァァァァァ!」
完全に頭に血が上っているボティスはビーゼフの姿がないことに気づかず、<
「ビッ!」
ビーゼフは上空から<
「どこかの偉人がこう言った」
「ぐぬぅ」
「喰って良いのは喰われる覚悟がある者だけだ!」
そう言い切るのと同時にゲテキングは剣を振り下ろしてボティスの首を刎ねた。
蛇ならば再生するかもしれないと斬り上げで切断面近くを輪切りにしたが、ボティスは一向に再生する気配を見せなかった。
「討伐完了! お疲れ様!」
「勝利!」
「キィ!」
「ビッ!」
マルオの時は複数のクランが強力してガミジンを倒したため、1つのパーティーだけで”大災厄”を倒したのはゲテキングが藍大に続いて2番目だ。
もっとも、ガミジンも最初からマルオが戦っていればマルオのパーティーだけで倒せていたのだが。
「さて、写真を撮ったらこの蛇を解体して食べようじゃないか。雑食も鮮度が命だよ。ディアンヌ、写真よろしく」
「わかった」
ディアンヌにボティスの写真を撮らせている間に準備を済ませ、ゲテキングはサクサクとボティスを解体していく。
「魔石は順番で言うと留守番してるハニーの物だね」
「残念」
「まあまあ。次はディアンヌにあげるから」
その後もゲテキングとディアンヌは雑談しながら解体を進め、それが終わったら早速調理に移る。
ゲテキングは旅先でも料理が作れるように調理器具を携行している。
最近ではパッと見て雑食だとわからない料理を作っているので、ボティス料理も最初は素材の名前を隠して写真をアップするつもりだ。
料理がもうすぐ仕上げの段階まで来た時、ゲテキングにとって予想外の来客があった。
「あれ、逢魔さん。奇遇ですね」
「こんにちは。ちょっと用事があって来ました。お食事中だったんですね」
見島に現れたのは藍大だった。
舞とサクラ、リルという藍大のパーティーでも主力のメンバーが一緒にいれば、ゲテキングも何かあったのではと気になる。
「何事でしょうか?」
「この見島に”大災厄”が2体現れるって話を聞いて来たんですが、どうやら1体は絶賛料理中のようです」
『間違いないよご主人。ゲテキングが料理してるのは”大災厄”のボティスのお肉だもん』
「あぁ、よく考えたら海から来た時点で”大災厄”ですよね。うっかりしてました」
「わかってなかったんですか?」
「はい。雑食レシピが増えると喜んでたものですから」
「なるほど」
ゲテキングの言い分を聞いて藍大達は苦笑していた。
ゲテキングが相変わらずゲテキングだったからである。
『ご主人、来たみたい』
「そうらしいな」
リルが敵の接近を感じ取って上空を見上げると、そこには動画でお馴染みのブエルの姿があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます