第541話 暑苦しいのは嫌いだよ
ブエルは空から藍大達を見下ろして不敵な笑みを浮かべる。
「浩然とやらが言った強者とはお前等か?」
「浩然って誰?」
「サクラ、C国の麒麟僧正のことだよ」
サクラは浩然のことをすっかり忘れていたらしく、舞に指摘されて思い出した。
「ブエル、お前は麒麟僧正と話したのか?」
「拳で語ったぞ。なかなかにアツい戦いだった」
『拳ってどこにあるの?』
リルの純粋な疑問に藍大達は吹き出した。
それを不快に思ってブエルの表情が険しくなる。
「不愉快な奴等だ。浩然は日本に自分よりも強い魔王がいると言って死んだがそいつはこんな揚げ足取りではあるまい」
(麒麟僧正め、余計なことをしやがって)
浩然は死ぬ間際にC国からブエルの脅威を取り除くべく、ブエルが藍大に興味を持つように唆したらしい。
自分がこの後も生きていればC国に訪れるであろう不運に巻き込まれるかもしれないが、間違いなく死ぬ場面であれば死に逃げ出来ると思っての行動である。
「主、押し付けられたからにはC国に天罰が下るから安心して」
「そうだな。恨むなら麒麟僧正を恨んでもらおう」
今この時点で藍大達は知らないが、C国ではお馴染みのお仕置きタイムに突入している。
「おい、お前等は魔王を知ってるのか? 素直に話せば楽に死なせてやる」
「逢魔さん、ブエルの脚食べてみたいです。倒したら1本売ってもらえませんか?」
「俺の話を聞け! さっきから俺のことを軽んじやがって! いい加減にしろよ! もっと俺に興味持てよ! なんで興味持たねーんだ! 折角俺が熱い気持ちを伝えようって思ったってさ、俺の声が届かねえとかどういうことだよ!」
ゲテキングまで余計なことを言い出したものだから、ブエルの堪忍袋の緒が切れてしまった。
現在進行形で”大災厄”を調理しているにもかかわらず、新しい”大災厄”が雑食にぴったりと思えば手を伸ばす。
これこそがゲテキングなのだ。
藍大はゲテキングが相変わらずだと思いつつもブエルのステータスをモンスター図鑑で調べた。
-----------------------------------------
名前:なし 種族:ブエル
性別:雄 Lv:100
-----------------------------------------
HP:3,000/3,000
MP:3,500/3,500
STR:2,500
VIT:2,500
DEX:2,500
AGI:2,500
INT:3,000
LUK:2,500
-----------------------------------------
称号:邪神代行者
外道
到達者
アビリティ:<
<
<
装備:なし
備考:ぬるま湯なんかに浸かってんじゃねぇよお前!
-----------------------------------------
(”大災厄”にも上があったか)
藍大がブエルのステータスを見て真っ先に注目したのは”邪神代行者”だった。
この称号は”大災厄”保持者が”大災厄”を打ち負かして”到達者”を10人喰らい、世界を混乱に陥れることで手に入る。
その効果は対峙する自身よりも弱い者に全能力値20%カットのデバフを与え、状態異常が通りやすくなるというものである。
邪神の代行者を名乗るのに相応しい力を持っていると言えよう。
そして、備考欄にはメッセージが記されていたが藍大は無視した。
動画でブエルの応援を見ていたから目新しさを感じなかったようだ。
藍大がブエルの戦力を分析している間にゲテキングを調理を中断して荷物をまとめ終えた。
調理中のボティスは収納袋に入れておけば時間経過で腐ることはないので安全である。
「もっと熱くなれよ!」
ブエルが<
「隕石は俺が対処する」
対応しようとした舞達を手で制し、藍大はゲンの力を借りて<
燃え上がる隕石にかかる力全てを無効化してブエルに射出する。
「砕けろ!」
自分に戻って来る隕石に驚いたが、ブエルは<
そこで余裕ぶって動かずにいたのがブエルの失敗だ。
隕石を砕いたブエルの目の前には既に雷光を纏ったミョルニルが迫っていたのだ。
「ゴファ!?」
「ストライク!」
投げたミョルニルを手元に戻して舞がガッツポーズをする。
「休みなんて与えない」
舞の攻撃で怯んだブエルにサクラが<
<
ブエルはここまで一方的にやられた経験がなかったので、<
「一番になるって言っただろ? ナンバーワンになるって言ったよな!? まずは形から入ってみろよ! 今日から俺が」
『暑苦しいのは嫌いだよ』
リルがブエルの応援を妨げるように<
無防備なブエルは下向きに強く吹いた冷気で凍えるのと同時に地面に叩きつけられた。
それでも、ブエルは<
しかし、完全に動けるようになる前に舞がブエルの前に迫っていた。
「ごちゃごちゃうるせえ!」
雷光を纏わせたミョルニルでフルスイングされれば、回復と耐久に長けたブエルも流石に敵わず力尽きてしまった。
『おめでとうございます。逢魔藍大は世界で初めて”邪神代行者”を討伐しました』
『初回特典として伊邪那岐の力が40%まで回復しました』
『報酬として逢魔藍大の収納リュックに
(いつか来ると思ってました)
神を関する食材の種が報酬として貰える流れが来た時から藍大は神米が手に入るだろうと予測していた。
それどころか、新米ならぬ神米が手に入ったら何を作ろうかとすら考えていたりする。
神米が手に入ってウキウキしている藍大だが、ブエルと戦ってくれた舞達を労うのは忘れない。
「みんなお疲れ様。”大災厄”より上でも問題なかったな」
「確かに殴り応えがあったね」
「少しは骨のある相手だった」
『それでも僕達がいれば安心だけどね』
藍大が舞達を労い終わったタイミングを見計らってゲテキングが話しかける。
「逢魔さん、お見事でした。さすまおです」
「いえいえ。それよりもどうして片付けたのにもう一度料理の準備をしてるんですか?」
「雑食は外で食べてこそ雑食感が増すものです。助けてもらったお礼にボティス料理をご馳走しますよ」
ゲテキングがご馳走すると言った瞬間、舞とリルから空腹を告げる音が鳴る。
今は昼食に丁度良い時間であり、食いしん坊達はゲテキングの言葉によってお腹を空かせてしまったようだ。
「ほら、舞さんもリルさんもお腹を空かせてるようですし、”大災厄”を使った雑食に見えない雑食レシピを味見してもらえれば私の布教活動も捗ります。みんなが幸せになるじゃないですか」
(マジでブレないなこの人)
ゲテキングの雑食ファーストな考え方に藍大は戦慄した。
サクラは虫型モンスターを使うようならば猛反対しただろうが、蛇肉だったらシャングリラダンジョン産のものを食べたことがあったので反対しなかった。
積極的に賛成するつもりはないけれど、既にご馳走になる気でいる舞とリルを見て反対とは言い出しにくいのだろう。
「わかりました。私も家で家族が私の作る昼食を待ってますから、少しだけであればお付き合いしましょう」
「ありがとうございます。全速力で作りますね」
ゲテキングが調理を再開すると、藍大は伊邪那美にテレパシーで昼食が遅くなる旨を家族に伝えるように依頼した。
また、報告が遅くなると茂が困ると思って電話を入れる。
『藍大、ボティスとブエルを倒せたのか?』
「倒した。今からゲテキングが倒した”大災厄”のボティス料理をいただくことになった」
『ちょっと待った。ボティス食べちゃうの?』
「俺達に所有権がないんだからしょうがない。俺達が着いた時にはゲテキングがボティスを倒して既に調理してたんだ」
『マジかよ』
基本的に倒したモンスターの所有権は倒した者に帰属するため、ゲテキングがボティスをどう扱おうが自由である。
文句があるなら自分で倒せと言われれば誰も文句は言えまい。
それから手短にブエルに関する報告を済ませて電話を切り、藍大は舞達と共に雑食の試食会に付き合った。
ゲテキングが作ったのはうな重ならぬボティ重であり、その完成度は藍大の予想を上回っていたと補足しておこう。
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