第535話 心の友よぉぉぉぉぉ!
吐血のバレンタインの2日後、真奈から藍大に電話がかかって来る。
『逢魔さん、助けて下さい! 私のモフモフ達が大変なんです!』
「何事ですか?」
『来店時に魔熱病陽性だったモフラー失格のせいで、モフモフ達が魔熱病に罹ってしまったんです!』
(人間失格みたいに言わないでくれ)
そう思っても藍大だって真奈の言いたいことは理解しているから茶化したりしない。
体調が悪いのに無理してモフランドに行ったモフラーが現れ、モフランドから帰って来て魔熱病に完全に負けて倒れたのだ。
そうなれば、そのモフラーがモフランドの従魔達に魔熱病を感染させたと考えるしかない。
「モフランドの被害状況を正確に教えて下さい」
『ネイルとカーム以外は全員魔熱病です。ネイルはモフラー失格が咳き込んでるのを見て一切近寄らず、カームはよくわかりませんがいつも通りです』
(カームはやっぱり大物だと思う)
舞に呼ばれて抱き着かれても全然平気なカームは非常事態においてもマイペースだった。
「真奈さんやガルフ達、モフランドのスタッフは平気なんですか?」
『スタッフは冒険者じゃありませんから問題ありません。私もガルフ達も魔熱病に罹るような鍛え方をしてませんから大丈夫です。ただ、モフランドはしばらく営業停止ですね』
「そうでしたか。”レッドスター”ではまだ魔熱病の特効薬は開発できてないんですか?」
『残念ながらまだ完成してないそうです。華も頑張って作ろうとしてるのですが、レシピがないので探り探りの調合で開発に難航してると聞きました。それで、逢魔さんの所のゴッドハンドならもしやと思ってお電話した次第です。お金ならいくらでも払うのでどうにかなりませんか?』
(やはりモフラーの嗅覚は鋭いな)
実は真奈から電話が入る前、奈美から魔熱病の特効薬ができたと連絡があったのだ。
素材さえ渡してしまえばすぐに完成させてしまうのが奈美クオリティである。
奈美が作った特効薬はまだ誰にも試したことのない薬だ。
リルが鑑定してばっちり効果があることはわかっていても、使ったことがないので藍大は丁度良いと考えた。
「わかりました。今からモフランドに行きます。特効薬も今朝完成しましたので」
『ありがとうございます! 逢魔さんはやっぱりモフ神様です!』
「そんな神様は知りません」
電話を切るとリルが真っ先に藍大に話しかける。
『ご主人、天敵のアジトに行くの?』
リルの認識ではモフランド=天敵のアジトらしい。
「真奈さんはともかく従魔達が魔熱病で苦しんでるのはかわいそうだ。それに、奈美さんが作った特効薬の効き目を確認するチャンスだから」
『そうだね。天敵はどうでもいいけど従魔の子達がかわいそうだよね。僕も通訳として同行するよ』
「私も元気が取り柄だから行く~」
「私も一緒に行く」
「わかった。じゃあ、このメンバーで行こう」
シャングリラにいれば絶対安全だが、外ではその限りではないのでモフランドに行くメンバーはできる限り少ない方が良い。
ということで、藍大と舞、サクラ、リルだけでモフランドに移動した。
モフランドの裏口に藍大達が現れると真奈が出迎えた。
「逢魔さん、舞さん、サクラさん、リル君、来て下さってありがとうございます。こっちです」
いつもならリルにモフらせてほしいと頼む真奈だが、今は一刻も早く魔熱病に苦しむ従魔達を救うためモフ欲を我慢している。
店内ではグレイウルフのネイルとコッコベビーのカーム以外の従魔達が熱で苦しんでいた。
「ガルゥ」
「Zzz・・・」
ネイルが仲間を心配しておろおろしている一方、カームはぐっすりと寝ている。
(カームはマジでブレないな)
『ご主人、みんな苦しいって言ってる』
「そうだろうな。早く薬を飲んでもらおう。舞とサクラは薬を嫌がる子がいたらおとなしくさせてくれ」
「「了解!」」
藍大が魔熱病の特効薬を取り出すと、真奈がそれを見て目を丸くする。
「飴玉ですか?」
「飴玉に見える薬です。ほら、見るからに薬だと飲むのを嫌がる人もいるじゃないですか。味も調整したと聞いてます」
「なるほど。この配慮こそゴッドハンドがゴッドハンドたる所以なんでしょうね」
「そういうことです。それじゃ、順番に投与します」
「おねがいします」
藍大はグレイウルフのキバから特効薬を与えていく。
キバは好奇心旺盛なので特効薬に興味を示しており、藍大が掌の上に乗せて差し出した直後に口の中にそれを含んだ。
キバが特効薬を舐めていくにつれて顔色が良くなっていく。
『ご主人、これならみんな安心して飲むはずだよ』
「だな。最初にキバに舐めさせて良かった」
その他の従魔達も大半はおとなしく特効薬を舐めた。
しかし、アルミラージのアルルはいざ自分が特効薬を与えられる番になると怖くなったのか口を閉じる。
こんな時こそ舞の出番だ。
「アルルちゃんは良い子だからお薬飲めるよね~?」
アルルはその声に怯えて口を大きく開けた。
もしも自分が悪い子認定されたらどうなるかわからないと思ったのだ。
薬よりも舞の方が怖いからアルルは薬を飲む方を選んだ。
実際に特効薬を口に含んでみてアルルは過剰に怯えていたのだと知った。
特効薬がほんのり甘かったからである。
薬は苦いという知識があって苦手意識があったようだが、甘い薬ならばアルルが拒むことはない。
舐めていく内にアルルの顔色もどんどん良くなっていく。
5分もしないで魔熱病に罹患していた従魔全てが完治した。
『みんな元気になったよ』
「そうみたいだな。俺とリルがWチェックすれば間違いない」
「ありがとうございます! 本当に助かりました!」
頭を下げる真奈を無視して従魔達が藍大に駆け寄って甘える。
「よしよし。愛い奴等め」
「ちょっと待って! 私だって症状を和らげようと頑張ったのに逢魔さんにだけ甘えるの狡い!」
真奈が抗議する音で目を覚まし、カームがゆっくり歩いて真奈の隣に立つ。
「ピヨピヨ」
「心の友よぉぉぉぉぉ!」
カームは正確には白雪の従魔なのだが、今は真奈に抱き着かれている。
『僕、今度白雪に会ったらカームを育ててあげるように言うんだ。きっと強くなるもん』
「それな」
リルの言い分に間違いないと藍大は同意した。
その時、裏口から白雪が現れた。
「遅くなりましたって真奈さんって、カームに何やってるんですか!?」
「ピヨ」
「あっ」
カームは白雪を見つけて真奈のハグから抜け出し、そのまま白雪に抱き着いた。
「カーム、大丈夫だった?」
「ピヨ」
問題ないと一鳴きするカームを見て白雪はホッとする。
そこにファニーとミューもやって来て白雪の周辺がピヨピヨ騒がしくなる。
「良いなぁ」
「真奈さんには12体も従魔がいるじゃないですか」
「だって、この子達が逢魔さんに懐いてるんですもん」
真奈の言い分を聞いてネイル達が一斉に真奈から視線を逸らす。
「軍隊みたいだね」
「だって真奈は少佐だもん」
サクラは向付後狼少佐の二つ名をもって舞に応じる。
「最近、私のことを少佐って縮めて呼ぶ人が多いんですよね」
「それは自業自得でしょう。国際会議なんて二つ名が変わる機会でボケ倒したんですから」
「ムズムズしてやりました。後悔はしてません。それよりも逢魔さんに治療代をお支払いしないといけませんね」
「私もですね。ファニーとミューの治療をしていただいてるようですし」
真奈と白雪は藍大に薬代として130万円支払った。
まだ誰にも試していないということでお試し価格である。
それでも、真奈と白雪はこれではお礼にならないとそれぞれ追加でお礼の品を出した。
真奈はモフランドの永久フリーパスを取り出し、白雪は自身が出演したドラマ「本当にあった怖いダンジョン」のサイン入りのコンプリートボックスを差し出した。
「”楽園の守り人”は無料で入れますよ」
「ゴルゴンさんとメロさん、ゼルさんにどうぞ」
「ありがとうございます」
コンプリートボックスは仲良しトリオのお楽しみ用にするとして、司がモフランドに興味を示していたことを思い出し、藍大は永久フリーパスを司に預けておくことに決めた。
本調子になって来た真奈の前に長居するとリルが危険なので、藍大達はそれからすぐに帰宅した。
モフランドの永久フリーパスは司が喜んで預かり、家族3人で一緒に行って来ると言った。
コンプリートボックスはゴルゴン達が早速リビングを占拠して楽しんでいたため、真奈達のおまけは貰えて良かったと言えよう。
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