第534話 私と目を合わせてもう一度言ってみるです

 舞がルナを抱き締めて離さないので、リュカにその場を任せて藍大とリルが101号室にいる奈美を訪ねた。


「奈美さん、こんにちは。素材揃えて来たよ」


『こんにちは』


「逢魔さんとリルさん、こんにちは。もう揃えて下さったんですね。ありがとうございます」


 藍大は収納リュックから奈美に頼まれた素材を取り出して机の上に並べた。


 各種グリモアの魔石とイビルアイオルタの涙腺、ピエロマジシャンの血を見て奈美が頷く。


「流石は逢魔さん、ばっちりですね。どの素材も品質が高くて助かります。ちなみに、”掃除屋”とフロアボスの素材はどんな物があるか見せてもらえませんか?」


「良いよ」


 藍大は追加でテラーポットとバトルグリモアの素材をテーブルに載せる。


「テラーポットの欠片は吸い込めば恐慌状態にさせる薬の材料になりそうですね」


『奈美、その薬は作っちゃ駄目だよ』


「リル?」


 リルが真剣な表情で言い出すので藍大はその理由を話すよう促す。


『天敵を幻視させるなんてとんでもない!』


「よしよし。怖くないからな」


「クゥ~ン」


 藍大に撫でられてリルは甘得るように頬擦りした。


「なるほど。リル君がこんなに怖がるような薬ができちゃうのは問題ですね。これは外に出さないようにしましょう」


「そうだな。バトルグリモアの方はどうだ?」


「こちらは私の管轄外です。DMUの職人班なら魔術士向けの魔導書に加工できるかもしれませんよ?」


「じゃあDMUに郵送よろしく。そうだ、これも忘れてた」


 そう言って藍大はピエロマジシャンのジャグリングしていたボールを取り出した。


 それを見た奈美が目を輝かせる。


「逢魔さん、これ全部下さい!」


「何か作れそうなの?」


「はい! これを属性付与の触媒となる薬に加工します!」


 奈美が興奮した口調でその薬について説明し始めた。


 端的に言うと、武器や防具に属性を付与できる触媒となって高値で売れるらしい。


 属性武器や属性防具は冒険者にとって憧れの的であることから、DMUの職人班が大喜びするだろう。


 奈美に素材を渡して102号室に戻ると、伊邪那美が藍大とリルを待っていた。


「藍大よ、伊邪那岐が加護を授けられる程度に回復したのじゃ。他の家族は先に行ってるので妾と一緒に地下神域に行くのじゃ」


「わかった」


 伊邪那美に連れられて地下神域に移動したら、伊邪那岐が笑顔で藍大を迎え入れる。


「藍大、待ってたよ。いや、僕の方が待たせちゃったのか。とにかく藍大に加護を授けるよ」


『逢魔藍大は称号”伊邪那岐の神子”を獲得しました』


『おめでとうございます。逢魔藍大は世界で初めて2柱の神子の称号を獲得しました』


『初回特典として逢魔藍大の収納リュックに神玉蜀黍しんとうもろこしの種が贈られました』


「伊邪那岐様、ありがとうございます。この加護で伊邪那岐様とテレパシーで話せるようになるんですよね?」


「正解。おまけで生命力を強化しといたよ。戦闘面ではかなり生き延びやすくなったし、夜の営みでも無尽蔵の体力を発揮できる」


「伊邪那岐様、ありがとう!」


「良い仕事してくれた」


「感謝するのよっ」


「ありがとです!」


『ヽ(≧▽≦)ノ"Thank you』


 生命力強化と聞いて藍大よりも舞達の方が嬉しそうである。


 気合十分な舞達を見て藍大が困っているのを見てリルが前脚でポンポンと慰める。


『ご主人、頑張ってね』


「リルだけが味方なのかもしれない」


 藍大はいざとなったらリル一家をベッドに招いて鉄壁の布陣を敷くことも検討している。


 伊邪那岐が加護を与え終えたため、藍大はメロに声をかける。


「そうだメロ、今日はこんな物を手に入れたぞ。神豆と神玉蜀黍の種だ。メロに任せて良いよな?」


「勿論です! 私にお任せなのです!」


 神豆の種を渡されてメロは大喜びだ。


『ご主人、神玉蜀黍の種はいつ手に入れたの?』


「伊邪那岐様の加護を授かった時だ。2柱の加護を授かった初回特典だってさ」


『やったね! 伊邪那美様と伊邪那岐様のおかげで美味しい焼き玉蜀黍が食べられる!』


「焼き玉蜀黍!」


「堪らんな。早く食べたいのである」


「聞いただけで涎が出そうニャ」


『フィアも食べるの楽しみ』


「待ちきれんのう」


「僕も楽しみだ」


 (伊邪那岐様もしれっと食いしん坊ズ入りしましたね)


 伊邪那美がそうだったので伊邪那岐も同じだろうと思ってはいたが、やはり伊邪那岐も食いしん坊ズの仲間入りを果たしていた。


 食べ物の話をしていたせいか食いしん坊ズから空腹の合図が聞こえる。


「よし。地上に戻って昼食を準備しよう。ルナも喋れるようになったしお祝いだぞ」


『お祝いなの!』


 ルナもリルの血を引いているのでこのままいけば食いしん坊ズに加入するだろう。


 食いしん坊ズに急かされたため、藍大は地上に戻って昼食を作る。


 道場ダンジョン11階は食材となるモンスターが現れなかったので、昼食は今までに狩ったモンスター食材を使う。


 ルナがペガサスとピュートーンの合挽ハンバーグをリクエストしたので、家族全員が協力して作った。


「ルナ、今日のハンバーグのお味はどうかな?」


『とっても美味しいの!』


「それは良かった」


 ご機嫌な様子で答えるルナを見て藍大は満足した。


「ハンバーグには無限の可能性があるね~」


『今度ハンバーグの食べ比べしてみたいかも』


「それはやるべきである」


「お気に入りのハンバーグを挟んでバーガー作るのもありニャ」


『それ美味しそう!』


「ハンバーグは奥が深いのじゃ」


 伊邪那岐は地下神域でお供え物を味わっているからこの場にいないが、伊邪那美は自由なので一緒に食べている。


 食いしん坊ズはハンバーグの合挽は何と何がベストなのか食べ比べてみたいらしく、藍大に期待を込めた視線を向ける。


「わかった。今度食材を集めてハンバーグパーティーやろうか」


「やったね! 私、いっぱいミンサー回す!」


『僕もいっぱいお手伝いする!』


「吾輩はその間に優月達のお世話をするのだ」


「ミーも毛が入らないよう子供達と遊ぶニャ」


『フィアも』


「妾は伊邪那岐にハンバーグを作ってみようかの」


 (みんなハンバーグ大好きだよな)


 そんな感想を抱く藍大だってハンバーグが大好きである。


 余談だが、優月達も絵を描く時にハンバーグの絵は他の料理の絵よりも上手だったりするぐらいにはハンバーグが好きだ。


 食休みに移ってゴルゴンがテレビの電源を入れると、昼のニュースで魔熱病の報道がされていた。


『吐血のバレンタインによって倒れる冒険者は世界各国で続出しており、どの国でもDMUがブエルの動画を見ないように注意喚起しています』


「まったく馬鹿なのよっ。状態異常耐性がないなら動画を見ちゃ駄目なんだからねっ」


『それな( ´-ω-)σ』


「ゴルゴンとゼルなら<全半減オールディバイン>がなくても見てたに違いないです」


「そ、そんなことないわっ」


『。:゚(;;≡m≡;;)゚:。』


「私と目を合わせてもう一度言ってみるです」


 メロにジト目で追い詰められてゴルゴンもゼルも目を逸らす。


 (好奇心は猫を殺すってことか)


 ゴルゴンとゼルがそうであるように、魔熱病にかかった大半は危険だとわかってなおブエルの動画を見て魔熱病にかかっている。


 余計なことをしなければ良いのにやらかすのだから困ったものである。


 藍大がやれやれと思っている中、番組ではコメンテーター達が議論している。


『魔熱病の特効薬はまだないんですよね。DMUや大手クランも開発できてないんでしょうか?』


『”楽園の守り人”のゴッドハンドならそろそろ完成させるんじゃないですかね?』


『なんでもかんでも”楽園の守り人”に任せて良いんですか? 彼等に見捨てられた時、日本は好景気を維持できなくなりますよ?』


「あのコメンテーターはいつもアタシ達に寄り添った見解よねっ」


「それに比べて他は駄目です」


『┐(´∀`)┌ヤレヤレ』


 仲良しトリオもコメンテーターのようだ。


『そもそも冒険者に依存した社会が駄目なんです。困った時に冒険者に頼る癖ができてしまったら、冒険者が倒れた時に自力では解決不可能になるじゃないですか』


『というか今回の件も冒険者の自業自得ですよね。黒部ダンジョンの”ダンジョンマスター”の時もそうですけど。冒険者は厄介事ばっかり起こすじゃないですか』


「あいつは粗探しばっかしていけ好かないのよっ」


「日本全体がダンジョンの恩恵を受けてるのにあの言い草は良くないです」


『٩(๑òωó๑)۶ オコダヨ!』


 この後も仲良しトリオはニュース番組中ずっとコメンテーターの真似事を楽しんでおり、藍大はそれを温かい目で見守っていた。

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