第533話 僕達からは逃げられないよ

 イビルアイオルタを回収した後、藍大達は通路の先にカラフルなボールをジャグリングするピエロの集団を見つけた。


「ピエロマジシャンLv85。ジャグリングしてる球それぞれに魔法系アビリティが封じ込められてるらしい」


『笑顔が不気味だね』


「突然あの笑顔が現れたら怖い」


「クゥン」


 リル達が言う通り、ピエロマジシャンの笑顔は裏で何を考えているのか怪しいものであり、そのまま近づいてほしい感じはしない。


 射程距離になるとピエロマジシャン達はジャグリングしていた球を藍大達向かって投擲し始めた。


『便利そうだから回収するよ』


 リルはそう言って<仙術ウィザードリィ>でボールの勢いを殺して回収する。


「攻撃は私に任せて」


 リュカが攻撃こそ自分の出番だと張り切って駆け出し、<深淵鉤爪アビスクロー>と<剛脚月牙グレートクレセント>でピエロマジシャンを次々に倒した。


「良いチームワークだ。リルもリュカもお疲れ様」


『全然へっちゃらだよ。リュカは腕を上げたね』


「エヘヘ」


 リルに褒められてリュカはとても嬉しそうだ。


 藍大はその間にリルが回収したボールを収納リュックにしまい込む。


 使い捨てではあるが衝撃を与えることで封じ込められていた魔法系アビリティが発動するならば、遠距離攻撃ができない者や生産職の冒険者に需要があるだろう。


 ボールの回収が済んでからピエロマジシャンの死体も回収し、藍大達はその先へと進む。


 各種グリモアやイビルアイオルタ、ピエロマジシャンの素材だけで魔熱病に効く薬の素材は揃ったけれど、どうせ来たなら11階を踏破したいからである。


 残すところは”掃除屋”とフロアボスだが、開けた場所で藍大達を待ち構えていたのは壺だった。


「テラーポットLv90。壺が敵の怖がる生物の幻影を出現させる」


『「え?」』


 藍大の説明を聞いてリルとリュカの声が震えた。


 その直後、壺の中からリルとリュカが恐れる人物が現れた。


「リルくぅ~ん、リュカちゃ~ん! こ~んにちは~!」


「「「クゥ~ン・・・」」」


 (本物を知らないルナまで怖がってる。真奈さん恐るべし)


 テラーポットが出現させたのは真奈だった。


 しかも、軍服を着た少佐バージョンである。


 天敵の幻影の出現により、リル達は藍大の後ろに隠れる。


 幻影だとわかっていても本能的に近寄りたくないと思ってしまうのだからリル達の恐怖心は相当なものだ。


「ここは俺がやろう」


 いつも守ってもらっているから藍大がゲンの力を借りて戦うと宣言し、テラーポットが自分の恐れる生物の幻影を映し出す前に<強制眼フォースアイ>で本体の壺を攻撃する。


 ミシミシと罅が入ってから数秒後には壺が砕けてテラーポットが力尽きた。


『ルナがLv41になりました』


『ルナがLv42になりました』


『ルナがLv43になりました』


『ルナがLv44になりました』


『ルナがLv45になりました』


 伊邪那美の声が鳴り止んだ時には真奈の幻影はとっくに消えており、ホッとしたリル達が藍大に頬擦りした。


『ご主人、ありがとう!』


「あれだけは駄目なの!」


「クゥ~ン」


 偽者だとしても真奈には近づきたくないというのがリル達の総意らしい。


 自分達の代わりにテラーポットを倒してくれた藍大にリル達は本気で感謝していた。


「大丈夫だ。もう怖くないぞ」


 誰にだって怖いものはあるだろうと思って藍大はリル達を順番に抱き締めた。


 藍大に抱き締めてもらったおかげでリル達は落ち着くことができた。


 それから、テラーポットの破片は収納リュックにしまい込み、藍大はその魔石をリュカに差し出した。


「リュカ、魔石をあげよう」


「ありがとう!」


 魔石を飲み込んだ直後、リュカの耳と尻尾の毛並みが一段と美しくなった。


『リュカのアビリティ:<言霊パワーオブワーズ>がアビリティ:<強制行動フォースアクション>に上書きされました』


 <強制行動フォースアクション>は<言霊パワーオブワーズ>よりも従わせる力が強い。


 敵よりもINTが高ければ、動くなと言えば髪の毛1本動かせないし、○○しろと言えば必ずそのようにする。


 リュカも着実に強力なアビリティを手に入れているのは間違いない。


「また強くなれたな」


「うん!」


「クゥン?」


『そうだね。リュカがいれば天敵は近づけないよ。ルナは賢いね』


「ワフ♪」


 ルナはリュカの力があれば真奈と遭遇しても近寄られずに済むのではないかとリルに訊ねた。


 リルは真奈ならばリュカのアビリティをどうにか我慢して動くかもしれないと思ったけれど、ルナを不安がらせたくなかったのでルナの考えを肯定した。


 真奈に常識は通用しないという点でリルから彼女への信頼は厚いようだ。


 リュカのパワーアップを終えて藍大達は広間の先に見えたボス部屋へと向かった。


 扉を開けて中に入ると、11階にやって来て初めて遭遇した各種グリモアとよく似た姿の本が宙に浮かんでいた。


 しかし、その本の色は黒くて剣と杖を交差させたマークが特徴的だ。


 藍大はすぐにモンスター図鑑で鑑定を行った。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:バトルグリモア

性別:なし Lv:95

-----------------------------------------

HP:1,500/1,500

MP:2,500/2,500

STR:0

VIT:2,000

DEX:2,000

AGI:1,000

INT:2,500

LUK:1,500

-----------------------------------------

称号:11階フロアボス

アビリティ:<創魔武器マジックウエポン><武器精通ウエポンマスタリー><魔攻城砲マジックキャノン

      <体力吸収エナジードレイン><魔力吸収マナドレイン

      <自動再生オートリジェネ><全半減ディバインオール

装備:なし

備考:なし

-----------------------------------------



 (近接戦なら行けると高を括れば色々吸い取られるのか。油断ならないな)


 バトルグリモアのステータスから創り出した武器の射出や<魔攻城砲マジックキャノン>だけで戦うだけでなく、近寄った相手に<体力吸収エナジードレイン>と<魔力吸収マナドレイン>で攻撃できることがわかる。


 <自動再生オートリジェネ>と<全半減ディバインオール>があるから接近時に多少のダメージを負っても問題なく、一般的な冒険者が相手なら痛い目を見そうだと藍大は判断した。


 バトルグリモアは藍大達を脅威認定して<魔攻城砲マジックキャノン>を開戦の合図代わりに放つ。


『やらせないよ!』


 リルは<風精霊砲シルフキャノン>でバトルグリモアの砲撃を押し返した。


 バトルグリモアは自身の攻撃では推し負けると察した瞬間、<創魔武器マジックウエポン>で自身の前に壁代わりとして武器を大量に用意する。


 それでも、全ての武器が簡単に破壊されてダメージを受けてしまう。


 この時点でバトルグリモアは自分が敵わないことを悟って逃げようとするが、リュカがそれを許さない。


「動くな!」


 リュカの<強制行動フォースアクション>がバトルグリモアを拘束する。


『僕達からは逃げられないよ』


 リルが<蒼雷審判ジャッジメント>でバトルグリモアにとどめを刺した。


『ルナがLv46になりました』


『ルナがLv47になりました』


『ルナがLv48になりました』


『ルナがLv49になりました』


『ルナがLv50になりました』


『ルナのアビリティ:<闇爪ダークネイル>がアビリティ:<暗黒爪ダークネスネイル>に上書きされました』


「ワフン!」


 圧倒的じゃないかパパママはと言わんばかりにルナがドヤ顔である。


『ルナもいずれ僕達みたいに戦える力を秘めてるよ』


「今は実力をつける時だからね」


「ワフ!」


 リルとリュカの期待の込められたコメントを受けてルナはやる気十分だ。


 藍大はリルとリュカを労った後、バトルグリモアを回収してその魔石をリルに見せる。


「リル、この魔石をどうしたい?」


『ルナにあげて。折角連れて来たんだし、ここで手に入れた魔石をプレゼントするよ』


「クゥ~ン♪」


 ルナはリルにありがとうと頬擦りしてお礼を言う。


 藍大はリルの頼みに従ってバトルグリモアの魔石をルナに与えた。


 魔石を飲み込んだことでルナの毛並みが良くなった。

 

『ルナのアビリティ:<隠者ハーミット>がアビリティ:<賢者ワイズマン>に上書きされました』


『ルナも喋れるようになったよ!』


「これが魔導書効果か」


 バトルグリモアのINTは2,500もあったのだから、藍大の考えが違うとは言い切れない。


『ルナもご主人達とお話できるね』


『うん! お父さんのおかげ! 大好き♪』


『よしよし』


 ルナが自分に甘えるとリルは頬擦りして娘を撫でた。


 目的を果たしたので帰宅すると、ルナが喋れるようになったと舞が大喜びしてしばらくルナを離さなかったとだけ記しておこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る