第528話 HAHAHA! これがA国の力さ!

 昼休みが終わって国際会議参加者達は大会議室に集まっていた。


 今から行われるのはオークションである。


 前回同様に出品は参加国ならどこでも良いのだが、またしても日本以外に出品する国はなかった。


 相変わらず貴重なアイテムや武器、防具を出品する余裕がある国はないのだろう。


 継続して他国に余分な物を売れる日本に対し、プライドの高いA国がジェラっているけれど、自分達は出品できない上に文句を言って競りに参加できないのは困るから黙っている。


 午後のオークションの進行も模擬戦から続いて茂が担当する。


 茂は国際会議の参加者達から顔を覚えられているため、文句を言う者なんて1人もいない。


 志保は昼休みまでにCN国のDMU本部長と話を付けたため、この後はどの国が何を買うかオークションを見守る予定だ。


 C国とR国という問題ばかり起こす国が今回はいないので、できれば問題が起きないでほしいと思うのはこの場の総意である。


 日本のDMUの探索班のメンバーが出品された物を順番に運び込み、オークションの開始時刻になったので茂がマイクをオンにした。


「定刻になりましたので、ただいまよりオークションを開催します。私が本日のオークショニアを務める芹江茂です。どうぞよろしくお願いいたします」


 茂の挨拶に参加者達が拍手で応じた。


 茂がオークションのルール説明をしたが、特に場内外を問わず強奪の禁止の部分を強調したのは前回のことがあったからだ。


 何かあったら藍大達に協力してもらうと言えば、参加者達に妙な真似を起こそうと思う者は1人もいなかった。


「ここまでで質問のある方はいらっしゃいますか?」


 挙手する参加者はいないのを確認して茂は早速1つ目の商品を紹介することにした。


「最初に紹介するのは”雑食道”に所属するゲテキングが監修した栄養価満点雑食ギフト詰め合わせです。ダンジョン遠征で携帯食料に飽きた方向けの物で、使ったモンスター食材のビジュアルに目を瞑れば優秀な品です。こちらは30万円からスタートします」


『40万!』


『50万!』


『60万!』


『70万!』


『80万!』


 (雑食が人気とか夢でも見てるのか?)


 入札しているのはD国とF国、T島国である。


 藍大は家族が嫌がるから買うつもりはないけれど、最終的にゲテキングプレゼンツの品が120万円で落札されたことに驚きを隠せなかった。


「主はそのままで良いの。余計な文明開化なんていらないの」


『僕達が美味しい食材を手に入れるから変な物に手を出さないでね』


「よしよし。わかってるから安心してくれ」


 雑食に手を出さないでほしいと言うものだから、藍大はサクラとリルの頭を撫でて勿論だと頷く。


 藍大の反応を見てサクラもリルもホッとしたようだ。


「次の商品は日本のDMUが誇る職人班が作成したポーション風呂の素です。これさえあれば、自宅のお風呂に浸かるだけで4級ポーションの効果を得られます。開封して1日しか効果は持ちませんのでご注意下さい。特別価格500万円からスタートします」


『1,000万!』


 挙手して1,000万円と宣言したのはソフィアだった。


 前回も人工ライフケトルを競り落とした彼女は回復系アイテムの購入に拘りを持っているらしい。


 まだ2番目の商品でこの先もっと買いたくなる物が出品されるだろうこと、いきなり倍額を宣言されたことで他の参加者達はポーション風呂の素の購入を諦めた。


「おめでとうございます。I国が1,000万円で落札です」


 会場内でソフィアに向けて拍手が鳴り響く。


 ポーション風呂の素の後に来るのは何かと参加者達が期待する中、茂が瓢箪を手に持って紹介を始める。


「お次は”楽園の守り人”のゴッドハンドが作った神便祓魔酒です。神聖な称号を持たないモンスターや冒険者が飲むと一瞬で泥酔しますからうっかり飲まないように気を付けて下さい。こちらは試しに道場ダンジョンのワイバーンに飲ませた時の写真です」


 茂がスクリーンに写真を数枚映し出すと参加者達が唸る。


『うぅむ、これはすごい』


『ふむ、武器に振りかけて使うのも良さそうだ』


『ちょっと飲んでみたい気もするが』


 ちなみに、神便祓魔酒は神宮ダンジョンのシュテンオーガが持っていた濁酒瓢箪の中身を奈美が研究して加工した成果である。


 ゴルゴンの涙を1摘混ぜてからフィアの<讃美歌ヒム>で清めたことで完成した。


「こちらの商品は50万円からスタートします」


『100万!』


『150万!』


『200万!』


『250万!』


『300万!』


 300万円と挙手をしたのはキャサリンだった。


 (モンスターに使うんだよな?)


 キャサリンなら気に食わない相手にしれっと神便祓魔酒を盛りそうだと思って藍大は心配になったが、これ以上の金額を提示する者はいなかった。


「おめでとうございます。E国が300万円で落札です」


 会場内でキャサリンに向けて拍手が鳴り響く。


 グレースは自分の飲み物にも盛られそうだと考えているらしい。


『あわわわわ。キャサリンがとんでもない物を手に入れてしまう・・・』


 キャサリンがニヤリと笑っている以上、当分グレースは自分の飲み物に気を付けねばなるまい。


 その後、三原色クランのグループ会社が作成した武器や防具が出品され、D国とF国、T島国が落札した。


「それでは本日の目玉商品の1つを紹介します。日本の冒険者はこれで強くなりました。覚醒の丸薬Ⅱ型です。500万円からお願いします」


『600万!』


『700万!』


『1,000万!』


『1,500万!』


『2,000万!』


『2,500万!』


『3,000万!』


 (覚醒の丸薬Ⅲ型よりも1,000万高いぞ)


 藍大は各国の提示する価格が覚醒の丸薬Ⅲ型の価格を超えたのを見て、よっぽどどの国も三次覚醒したい冒険者がいるのだろうと悟った。


 今500万ずつ上げているのはA国とCN国だ。


 どちらも引かずに5,000万円まで勝負が続いた。


 CN国のDMU本部長が5,000万円と宣言した後、パトリックはその後に続くことはできなかった。


 仮に続けても軽々と6,000万円と返されるとわかったからである。


 茂の口振りから目玉商品が他にもあるとわかっているため、パトリックは覚醒の丸薬Ⅱ型を諦めた。


「おめでとうございます。CN国が5,000万円で落札です」


 CN国のDMU本部長が飛びあがるぐらいのガッツポーズを披露する。


 リーアムがいなくなっても調教士は2人になり、三次覚醒者も増えるなら順風満帆と思っているのだろう。


 パトリックはの胸中は悔しさ一色だったが、どうにか気持ちを切り替える。


 茂は大会議室が静かになってから鞘に納刀された刀を指し示す。


「次が本日の最後にしてもう1つの目玉商品です。これは妖刀災厄殺しです。試験的な加工の影響で5回しか使えませんが、”大災厄”や”災厄”を斬る度に弱体化できることは保証します。2,000万円からお願いします」


『2,500万!』


『3,000万!』


『4,000万!』


『4,500万!』


『5,000万!』


『6,000万!』


『1億!』


 1億と宣言したのはパトリックだ。


 これが大国の力だと見せつけるために500万、1,000万とチマチマ上げるんじゃないと桁を1つ上げてみせた。


 なお、妖刀災厄殺しはシュテンオーガの妖刀飲兵衛を基にした武器である。


 日本が誇るDMU職人班と”楽園の守り人”のリルとフィアが協力して作成したところ、ベースの妖刀飲兵衛では耐久度に問題があって5回しか振れなくなってしまった。


 しかし、弱体化の割合は一撃につき3割と驚異的なので今までの戦闘が嘘のように変わることは間違いない。


 惜しむらくは妖刀災厄殺しの耐久度が低いことだがそれは仕方のないことだろう。


「おめでとうございます。A国が1億円で落札です」


「HAHAHA! これがA国の力さ!」


 会場内でパトリックに向けて妬ましさが込められた拍手が鳴り響く。


 (俺達からしたらネタ武器みたいな物が1億で売れるんだからすごいよな)


 舞のミョルニルやドライザーのラストリゾートと比べれば妖刀災厄殺しは確かにネタ武器だ。


 それでも需要があるのだから国外の冒険者の水準はまだまだ低いのだろう。


 以上でオークションは終了となり、会計を済ませてそれぞれの商品は落札した物に引き渡された。


 残るプログラムは懇親会のみなので、会場にいる参加者達はパーティー会場へと移動を始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る