第526話 君こそ僕の理想の花嫁だ。結婚してほしい

 情報交換が終わると次のプログラムである模擬戦のために訓練室に参加者全員が移動する。


 今日の模擬戦に藍大達は参加しない。


 その理由はどの国も藍大達と戦いたがらないからだ。


 第1回国際会議でE国のランスロットの伸び切った鼻をへし折り、第2回国際会議では司がA国とC国、R国の全てに余裕をもって勝利してみせた。


 今回も藍大達が戦えば戦った者も観戦していた者も心が折れるに違いない。


 そう判断した結果、”楽園の守り人”は模擬戦で戦わないでほしいと事前に各国のDMU本部長から頼まれるようになった。


 つまり、日本の模擬戦参加者は真奈になる訳だ。


 そんな真奈が最初に戦うことになったのだが、真奈の対戦相手に名乗りを上げたのはCN国のリーアムだった。


「真奈、勝負だ」


「よろしい。モフラー同士本気でやりましょう」


 真奈とリーアム以外が1階に降りてそれ以外は2階から見守る。


 調教士同士の戦いということで、訓練室に召喚できる従魔ならいくらでも呼び出して良いことになった。


「【召喚サモン:ガルフ】【召喚サモン:メルメ】【召喚サモン:ロック】【召喚サモン:ニャンシー】」


「【召喚サモン:ソード】【召喚サモン:ニンジャ】【召喚サモン:タンク】【召喚サモン:ヒーラー】」


 真奈とリーアムが1階にそれぞれの従魔を召喚すると2階が沸く。


『モフモフパラダイスじゃないか!』


『モフモフは良いぞぉ』


「私もモフモフが欲しいです!」


 藍大達は他の参加者達のようにはしゃぎこそしなかったが、両者の従魔が進化していることを知ってモンスター図鑑で調べていく。


 スイープシープのメルメはクリアシープに進化し、水魔法系アビリティと<浄化クリーン>を会得している。


 アームドディアーのロックはケリュネディアーに進化し、AGIを伸ばしつつ物理攻撃系アビリティと土魔法系アビリティを使い分けられるようになっている。


 バドブラックのニャンシーはアイトワラスに進化し、パンドラのように<形状変化シェイプシフト>を覚えた黒猫と赤ちゃんドラゴンを足したような見た目だった。


 ブレードタイガーのソードはアームドタイガーに進化し、<武器変化ウエポンシフト>を会得している。


 アシュラベアのタンクはセンジュベアに進化し、頭は1つに戻ったが左右両手が4本ずつになり、<魔力多腕マジックアームズ>を会得して一時的に腕を大量に増やせる。


 ブライトカーバンクルのヒーラーはシャインカーバンクルに進化し、額の赤い宝玉はそのままで金色の尻尾が長い猿に変わった。


 真奈とリーアムの従魔の中でも特にニャンシーの変化が気になったため、藍大は再度ステータスを確認した。



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名前:ニャンシー 種族:アイトワラス

性別:雌 Lv:100

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HP:2,500/2,500

MP:3,500/3,500

STR:2,500

VIT:2,000

DEX:3,500

AGI:3,000

INT:3,000

LUK:4,000

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称号:真奈の従魔

   ダンジョンの天敵

   到達者

二つ名:向付後狼少佐のサポーター

アビリティ:<暗黒支配ダークネスイズマイン><十字鋭爪クロスネイル><火炎尾鞭フレイムテイル

      <上級鎧化ハイアーマーアウト><敵意押付ヘイトフォース><幸運吸収ラックドレイン

      <形状変化シェイプシフト><全耐性レジストオール

装備:なし

備考:なし

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 (真奈さんが完全に向付後狼少佐と認められてる件について)


 ざっとチェックした時は見落としていたが、藍大はニャンシーの二つ名が向付後狼さんのサポーターから向付後狼少佐のサポーターに変わっていることに気づいた。


『ご主人、天敵の二つ名が変わってる』


「変わっちゃったな」


『昨日の一件のせいだよ。ご主人の傍にいないと僕が危険なんだよ』


「よしよし。大丈夫だ。俺が守ってやるからな」


「クゥ~ン♪」


 自分にぴったりとくっつくリルを藍大は優しく撫でた。


 その一方で1階の真奈とリーアムは戦う準備を着々と進めている。


「ガルフは<人従一体アズワン>! ニャンシーは<上級鎧化ハイアーマーアウト>!」


「アォン!」


「ニャ!」


 真奈の指示を受けてガルフとニャンシーは一鳴きしてから指示通りに動く。


 その結果、黒い戦闘服を着た獣人形態の真奈の姿が各国の参加者にお披露目される。


『マナ! それは反則だろう!』


 シンシアはモフモフと一体化した真奈に羨ましいという思いを込めて叫ぶ。


 リーアムは真奈に見とれていたが、ブルブルと頭を横に振ってから真奈の前まで進んでから片膝立ちになって真奈を見上げた。


「君こそ僕の理想の花嫁だ。結婚してほしい」


「「『・・・『『プロポーズキタァァァァァァ!』』・・・』』」


 訓練室が一段と騒がしくなった。


 昨日の真奈のやらかしも相当だけれど、今のリーアムのやらかし具合も負けず劣らずである。


「私、モフランド経営してるし”レッドスター”のサブマスターだから日本から出られないの。ごめんなさい」


「だったら僕が日本に移住する! 真奈の断わる条件が国外で同棲できないことだけなら僕が日本に移住するからもう一考してほしい!」


 リーアムの真剣な眼差しに藍大の隣でサクラがうんうんと頷く。


「これが愛なんだよ」


「それにモフラーとモフラーなら一緒に生きてくのに不都合がないもんな」


『サクラもご主人もそんなこと言ってる場合じゃないよ! 天敵と天敵3号がくっついたら世にも恐ろしい夫婦が誕生しちゃうんだよ!』


 サクラと藍大の発言にリルが待ったをかける。


 とんでもないカップルが成立してしまうと大慌てなのだ。


 だがちょっと待ってほしい。


 リルよりも慌てている者が1人いた。


『ちょっと待てリーアム! それは困る! マジで困る! 本当に困る!』


 CN国のDMU本部長である。


 リーアムが日本に引き抜かれたらCN国のピンチに直結するので困るを3回繰り返している。


 彼はディオン姉弟によく振り回されており、胃を痛めながら2人の事後処理を行うことも少なくない。


 彼から滲み出る苦労人臭は茂が彼を一目見て同士と瞬時に判断する程だ。


 そんな苦労人のCN国のDMU本部長の胃のことなんて知らないとリーアムは抗議する。


「これは僕の人生の問題なんだ! 同じ趣味を持ってて獣人にもなれる真奈以外と結婚するビジョンは見えない!」


『別に向付後狼少佐と結婚するなとは言ってないから! 勝手に日本国に移住されたら困るって言ってるだけだから!』


「少し待てば日本に移住できるって訳じゃないだろ! だったら結婚するなと言ってるのと同義じゃないか!」


『あぁもう! 頼むからちょっと落ち着いてくれ! 考える時間が欲しい!』


 リーアムが一歩も引かない姿勢を見せると、CN国のDMU本部長はリーアムに対して自分が頭ごなしに真奈との結婚を認めないとは言っていないとアピールする。


 それを実現させるのにクリアしなければ問題を整理するには時間が必要であり、問題を洗い出すには落ち着く必要がある。


 熱くなってしまった今の状態じゃ難しいと主張する彼の意見はもっともである。


 志保がいつの間にか近づいて来て藍大に相談する。


「逢魔さん、この状況をなんとかできませんか? できればリーアムさんを日本に迎え入れる形で」


「いきなり難題持ち込んできますね」


「申し訳ございません。しかし、これは千載一遇のチャンスなんです。あれの在庫はありませんか? CN国と取引できる材料はあれしか考えられません」


 真奈の言うあれとは転職の丸薬(調教士)のことだ。


 リーアムという調教士を日本に貰い受けるならば、その補填として転職の丸薬を渡す必要があると志保は考えているらしい。


「2個ありますが、どうするにせよ真奈さんの意思を確認すべきでしょう」


「・・・そうでした」


「まったく。真奈さん、ちょっと良いですか?」


「なんですか?」


「リーアム君が日本に移住するなら結婚、あるいはそれを前提としてお付き合いしたいですか?」


「私が日本にいられるなら結婚を前提にお付き合いしても良いです」


「Yes! Yes! Yes!」


 真奈の回答にリーアムのテンションが上がるがそれは置いておこう。


 条件が揃ったことを確認すると、藍大は仕方ないと溜息をつきながらCN国のDMU本部長に向かって歩き出した。

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