第524話 我々はモフモフを要求する!

 藍大達がモフランドに到着した時には既に各国の参加者達が集まっていた。


 少しでも長くモフモフと過ごせるようにどの国も早めにやって来たらしい。


 今日のモフランドは国際会議の参加者達によって貸し切られているため、関係者以外のモフラーはいなかった。


 そんな中、モフランド訪問が何よりも楽しみだったと言わんばかりにモフランドの従魔達と戯れている冒険者もいる。


 ディオン姉弟を筆頭とするモフラー達だ。


『ここが楽園か!』


「僕も帰国したら絶対にモフモフカフェを開店する!」


「これは堪りませんね」


『モフモフに顔を埋めるのが癖になりそうだ』


『私も調教士になって毎日モフりたいわ』


 (すっかり虜になってるじゃないか)


 藍大がスリッパに履き替えながらそんなことを思っていると、各国の参加者達にモフモフされていた従魔達のほとんど全てが藍大に駆け寄った。


 自分のところにいたモフモフが駆け出せば、当然その者達は従魔達が走って行った先にいる藍大の方を見る。


「リル君じゃないか!」


「逢魔君、私からモフモフを奪わないでくれ!」


『東洋の魔王は全て掻っ攫うのか!』


『私のモフモフを返して下さい!』


 リーアムはリルを見てテンションが上がっており、美鈴と他の冒険者達は藍大に従魔を奪われたと抗議する。


 自分の従魔ではないとツッコみたいところだけれど、藍大はツッコめば美鈴達がヒートアップすると判断して困った表情をした。


「そう言われましても、私が呼んだのではなくこの子達からやって来たんですが」


 その言葉にそうだそうだと従魔達が藍大に甘える。


 そのせいで藍大は美鈴達からヘイトを稼いでしまう。


『妬むぐらいならこの子達に近寄られる努力をしなよ』


「『『・・・『『うっ』』・・・』』」


 リルに正論をぶつけられて美鈴達は何も言い返せなくなった。


 ちなみに、藍大に駆け寄らなかった従魔とはマイペースでお馴染みのコッコベビーのカームだ。


 カームはシンシアに抱き着かれているから動けなかったというのもあるが、そもそも動く気がない様子である。


 モフランド開店初日に舞に呼ばれて近づいたり、シンシアに抱き着かれても平然としていたりとカームは大物になる素質を秘めているようだ。


 そこに各国のDMU本部長との話から抜けて真奈がやって来る。


「逢魔さん、またみんなを集めちゃったんですか?」


「積極的にそうしたつもりはないです。この店に入ってスリッパを履いた時にはこの子達が駆け寄って来ました」


「モフラー垂涎の才能が元から備わってるなんておかしいです。天は逢魔さんに二物を与えてます」


 真奈が言う二物とはモフモフに好かれる才能と従魔士の職業技能ジョブスキルだ。


 真奈の場合、弓士から調教士に転職したから元々テイマー系冒険者だった訳ではない。


 モフ欲が強過ぎてモフモフに逃げられることもあるモフラーにとって、藍大がモフモフに好かれる才能は喉から手が出る程欲しいものだった。


 そんな真奈に対し、小さくなって藍大の頭の上に乗っかっているリルがストレートに思っていることを告げる。


『天敵ががっつくから駄目なんだよ』


「アォン」


『ガルフもそうだって言ってるよ』


「モフラーはそこにモフモフがいれば本能的にモフってしまう生き物なんです。モフるのは呼吸するのと同じなんですよ」


『処置なしだね』


「クゥ~ン」


 ガルフは駄目だこりゃと言わんばかりに鳴いた。


 だが、真奈には三次覚醒で手に入れたマッサージの力がある。


「マッサージを受けたい子は戻っておいで!」


 その瞬間、アルミラージのアルルとカーバンクルのジェイド、グレイウルフのネイルが真奈の前に戻って来た。


 この3体は真奈のマッサージが気に入っているらしく、マッサージと聞くとどこにいても必ず戻って来るのだ。


『ご主人、僕は夢を見てるのかな?』


「俺もそう思う」


 リルと藍大は真奈に近づく従魔がいるのを見て驚いた。


 本来、従魔が主人に呼ばれて戻るのは何もおかしくないことだが、真奈の許に戻るモフモフがいるのは違和感を覚える光景だからだ。


 ここまでのやり取りの間、黙っていたモフラー達がそろそろ我慢の限界に達してしまったらしい。


「そろそろ私達もモフモフを再開させて下さい」


『そうだそうだ! 東洋の魔王も向付後狼少佐もいつだってモフれるだろ!』


『モフモフはみんなのものよ! 寡占反対!』


『我々はモフモフを要求する!』


「リル君、今日こそ撫でさせてくれまいか!」


『お断りだよ!』


 しれっと最後にリーアムがリルに撫でさせてほしいとリクエストするが、リルはきっぱりNOと返事をする。


 リーアムはどさくさに紛れたつもりだろうけど、リルの耳はリーアムの声をしっかりと捉えていたのだ。


 リルに拒否されたリーアムはその返答を予想していたらしく、めげることなく真奈に話しかけた。


「真奈、僕もマイモフ召喚して良いかい?」


「小さいサイズなら良いわ」


「OK。【召喚サモン:ニンジャ】」


 モフランドの従魔では物足りなくなったリーアムがニンジャを召喚した。


 以前見た時と姿が異なり、黒ベースの毛に赤いマフラーのようなラインがあるニンジャを見て藍大はそのステータスを確かめた。



-----------------------------------------

名前:ニンジャ 種族:バニンジャ

性別:雌 Lv:90

-----------------------------------------

HP:1,500/1,500

MP:2,100/2,100

STR:1,500

VIT:1,500

DEX:2,100(+525)

AGI:2,100(+525)

INT:1,800

LUK:1,500

-----------------------------------------

称号:リーアムの従魔

   暗殺者

   守護者

アビリティ:<霧支配ミストイズマイン><創闇武器ダークウエポン><剣術ソードアーツ

      <剛力斬撃メガトンスラッシュ><影沼シャドウスワンプ

      <敵意押付ヘイトフォース><無音移動サイレントムーブ

装備:なし

備考:なし

-----------------------------------------



 (速いけどリルには勝てないな)


 ニンジャのAGIの数値が思ったよりも高かったが、それでもリルには倍以上の差があったので藍大はリルを誇らしく思ってリルを抱っこして撫でる。


 リルも<知略神祝ブレスオブロキ>でニンジャのステータスを確認したのかドヤ顔になっている。


「なんだかわからないけどドヤ顔のリル君可愛いな」


 リーアムがそう言った瞬間、ニンジャが足ダンした。


「ニンジャ? どうしたんだい?」


 リーアムに話しかけられたニンジャは顎の下をリーアムの脚にすりすりした。


「ハハッ、大丈夫だよニンジャ。僕はちゃんと君を大事にしてるだろ?」


 ニンジャはリーアムがリルを褒めたことに嫉妬し、リルにリーアムを取られまいとマーキングしたのだ。


 それをわかっているからリーアムはニンジャを抱き上げて思う存分撫でている。


 撫でられたニンジャは耳をピンと高く立ててプウプウと鳴く。


 リーアムの言葉によろしいと気分を良くしたようだ。


 ニンジャが存在感をアピールしたことでミルルが激しく足ダンし始めた。


「リーアム、ちょっと離れてて。ミルルが怒ってるわ」


「ごめんよ」


 ミルルはアイドルでありたい子だったので、自分よりも目立つ同系統のニンジャを見て嫉妬している。


 その様子を見てモフラー達はこれが連続足ダンかと沸いたがそれは置いておこう。


「ミルル、大丈夫よ。モフランドのアイドルなら堂々としなさい。怒ったミルルよりも笑顔のミルルの方が可愛いわよ」


「・・・プゥ」


 ミルルも顎の下を真奈にすりすりして真奈がニンジャに目を向けないようマーキングした。


 (真奈さんもただの駄モフラーじゃないんだな)


 ミルルを宥めて機嫌を直させた真奈を見て藍大は感心した。


 そのタイミングでカームを抱いたシンシアが真奈に話しかける。


『真奈、カームがお腹を空かせてるみたいだ。餌やりをさせてほしい』


「ピヨ」


「わかったわ。今持って来るからちょっと待ってて」


「私もやりたいです!」


『餌やって仲良くなりたいわ!』


『俺ももっと好感度稼ぎたい!』


 従魔に餌やりができると聞いて他のモフラー達も真奈に餌やりさせてほしいと詰め寄る。


 この後も国際会議参加者達はモフランドを時間いっぱいに堪能して国際会議1日目は前の2回とは違った1日目を終えた。

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